漢字

「やまいちおんな」現る

ちょっと漢字に詳しい人なら、いわゆるJIS漢字の中の、典拠の分からない幽霊文字の代表格の一つに、「やまいちおんな」があることはご存知だろう。要は「妛」の字のことなのだが、上から「山」「一」「女」となっているので「やまいちおんな」。しかし、…

尤をめぐる謎

先日ゼミで統計の教科書を学生に読ませていて、「最尤値」「尤度関数」の「尤」の字が読めないのにショックを受けたが、考えてみればこの字はほぼ統計学の教科書以外ではお目にかからないのだから、まあ仕方ないかと思い直した。 この「尤」の字の字源につい…

「のごめ」について

釆は「のごめ」と呼ばれる部首です。米の上にカタカナの「ノ」が付いた形だから「のごめ」。これを部分に含む代表的な漢字は「番」ですが、部首としては「田」に属するため、「のごめ」に属する字は多くありません。まあ「釈」と「釉」くらい。 しかしこの2…

豆をめぐる謎 

「豆」という漢字をめぐっては、謎が多いと私は感じています。そのいくつかをご紹介します。ナゾ1:なぜ、「豆」は「マメ」の意味になったのか? 「豆」という字体が、「脚の高い食器の象形」からできた象形文字であるということは、通説となっています。で…

缶の話

「欠」が、「缺」の略字という話は先日しましたが、この左の部分の「缶」もまた、「罐」の略字であり、もともとの「缶」は読み方は「フ」で「カン」とは別字です。腹の膨らんだ土器を描いた象形文字ですね。「缶」を含む字はさほど多くはありませんが、よく…

「欠」を「ケツ」と読みたくなる理由

「欠」を「ケツ」と思うのは、当たり前と思われるかもしれません。確かに今は、「欠」は「ケツ」ですが、もとは「欠」は「ケン・あくび」という字で、「ケツ」というのは「缺」の略字ということにされたからです(法律用語の「欠缺」は今でも「ケンケツ」で…

二つの「かたへん」

「ひへん」が「日へん」と「火へん」の二つあるように(私の名前にはこの二つの「ひへん」が一つずつ含まれていますが、二つとも「火へん」と間違えて「焼生」と書く人もたまにいる)、「かたへん」と呼ばれる部首は二つあります。「方へん」と「片へん」で…

福と復

「福」のつくりと、「復」のつくりは、音が同じ「フク」で、似ているといえば似ているし、違うといえば違う。これまでの定説では、「福」のつくりに、昨日挙げた「なつあし」をつけたものが、「復」のつくり、ということになっていました。説文以来、加藤説…

「ふゆがしら」と「なつあし」

「ふゆがしら」と「なつあし」は、よく似た部首です。「ふゆがしら」は「冬」の上部、「なつあし」は「夏」の下部から命名されたものですが、「ふゆがしら」は「夂」で「なつあし」は「夊」、両者とも足の形状が元になっている。ただし奇妙なことに、冬の字…

「売」と「読」のあいだ

「読売新聞」の題字を見るまでもなく、「売」という字と「読」という字は似ています。ほかにも「続」「涜」などもぱっと見には同系統に見える。しかし、「売」だけは別系統なのです。「売」の旧字体は「賣」、それに対して、「読」や「続」などの旧字体は、…

鼠について

鼠の上部は臼のような形をしていますが、臼を使った字ではなく、これ全体でネズミの象形文字です。鼠を使った字は、あまり使う機会はないですが、鼢(モグラネズミ)、鼪(たいりくいたち)鼬(いたち)、鼯(むささび)、鼱(トガリネズミ)、鼹(もぐら)…

かわいそうな牛たちと、獰猛な虎たち

「牛」のつく字を見ると、そのかわいそうな運命に思いを致さざるを得ません。古代から牛たちは、人に対して反抗もせず、唯々諾々と殺されて来た、ということでしょうか。いけにえを表す「犠牲」が二つとも牛ヘンであるのみならず、例えば「解」という字は、…

まぎらわしい「夫夫」

「夫夫」という部分を含む字がいくつかありますが、元を辿ってみると、これがどうにも紛らわしい。 この下に「曰」が付いた字に「替」があり、さらにサンズイをつけた字に「潜」がある、ように見える。しかしどうも、「替」と「潜」とは、字源的には無関係の…

※に似た部首

※(こめじるし)に似た漢字の部首が二つあります。どちらも、あまり多くの字には使われていませんが。 一つは「鬯」(チョウ)で、酒壺に香草をひたしている形に由来する象形文字です。これを使った字は、まあ「鬱」くらいしかありません。そういえば、鬱の…

官のナゾ

昨日取り上げた「宮」とよく似た字に「官」があります。館、菅、管、棺といった字が、「官」を音符にしてできていることは間違いないでしょう。しかし、この「官」という字自体のなりたちについてはナゾが多く、論者の間で見解が分かれています。「宀」の下…

呂と宮は関係があるのか?

呂という字と宮という字には関係があるのか?これは微妙な問題です。 「呂」という字は、説文では「背骨の連なった形」と説明されている。呂を含む字は少なからずあり、例えば「伴侶」の「侶」は、人と人とが連なること、「梠」は柱と軒の間をつなぐ木のこと…

静のナゾ

「静」がなぜ「しずか」という意味なのか、結構私はナゾに思っています。なにせ右側は「争う」という字ですから。 この字は説文解字では、「青」を意符、「争」を声符としているようですが、「セイ」という音は「争」より「青」に近い。では「青」が音符で「…

鬲と鼎

鬲と鼎はいずれも訓読みは「かなえ」と読み、中国古代で使われていた、3本足の器を模した象形文字です。この両者とも、大きな漢和辞典では部首に立てられていますが、その属する字はあまり多くはありません。 鬲では、かゆを意味する「鬻」(ひさぐ、と読む…

早と草

早についても、字源説は分かれています。 説文では、日(太陽)が甲の上に乗った字体が源とし、そこから「早い」という意味になったとしている。加藤説はこれを踏襲しながら、+は甲であるとし、「甲」の音がソウに変化したとしている。 藤堂説は全く違い、…

岡について

昨日取り上げた「罔」によく似た字に「岡」(おか)があります。この字は、説文解字では、「山」が意符、「网」が声符で、「コウ」の音は「ボウ」から変わったものとしており、加藤常賢もこの説を踏襲している。しかし藤堂説では、「山」と「网」の会意であ…

どちらでもいい形声

漢字の字源において、2つ以上の形態素(象形字や指事字)が合わさった場合の成り立ちを、いわゆる六書では「会意」や「形声」などと称するが、この2つは必ずしも排反概念ではない。「会意」は字の義に関することであり、「形声」は字の音に関することだか…

挿と捜

挿と捜は、意味は違いますが、音は同じ「ソウ」で、形も紛らわしく、うっかりすると混同しやすい字の一つだと思います。 前者の「挿」は、昨日述べたように、臼に杵を入れた形である「臿」が元ですが、「捜」のつくりの「叟」は、臼とは関係なく、元の字は「…

臼について

漢和辞典にはたいてい「臼」という部首が立っていますが、そこに収められている字は必ずしも「臼」(うす)の象形を含んだものとは限りません。結果として似た形となった、違う期限の字が含まれています。 ます、「臼」(うす)の象形を含むものとしては、臼…

互と牙

2日前に「亙」と「亘」を取り上げた。「亙」と似た字に「互」がある。点対称だが線対称ではない、何やら幾何学的な字だ。「互」の字源は、説文解字では「縄を巻くための器」を表した象形字とされ、そこから「交互に」という意味が生じたとしており、白川静…

亙と亘

亙と亘は通用するけれど、もともとは別字で、亙が「わたる」の原字であり、「恒」は「亙」系の字、それ以外の「宣」や「垣」などは「亘」系の字、ということだろうと思っていた。音も「亙」や「恒」はコウであるのに対して、「宣」はセン、「垣」はエンだか…

常用漢字の改訂

常用漢字の改訂が閣議決定された。 http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_soc_kyoiku-jyoyokanji20101123j-04-w530&rel=y&g=thaさて、新たに追加された字の「読み方」を眺めてみると、やはりまだまだ足りないところが多いように思う。「苛」は、いじめる、とか、さ…

使わない部首

たいていの漢和辞典は、康煕事典にならって、部首で漢字を検索する。部首はいわば、漢字のグループ分けだ。「くさかんむり」とか「さんずい」とか「にんべん」といった代表的な部首には、数百の漢字(諸橋なら数千だろうか)が属している。 しかし、中にはほ…

隶をめぐって

「隶」を含む字はあまり多くないが、それでも漢和辞典の部首に立っている。しかし、そこに収められているのは、「隶」自身と「奴隷」の「隷」くらいです。 「隶」という字はもともと「尾」+「又」(ここでは手の意味)の変形で、動物の尾っぽを手でつかまえ…

扁の仲間

九鬼周造の偶然を論じた文章の中に、偶は遇なりといった表現があった。偶然とは、遇うことだというわけである。この場合には、部首がにんべんの場合としんにょうの場合で、意味が類似している。 しかし、にんべんとしんにょうで意味がほぼ逆になる漢字がある…

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朝日新聞ニュースより 「柿」など9字追加、「鷹」は選外 新常用漢字の修正案 2009年10月23日19時32分 「新常用漢字表(仮称)」に関する試案を審議している文化審議会国語分科会の漢字小委員会は23日、試案の修正案を承認した。191字の追加字種候補は…