「質量に起源は必要か」 - 記者会見を控えた今、ヒッグス粒子を理解する

【告知】2012年7月4日16時(JST)に、欧州原子核研究機構CERNがヒッグス粒子探索の最新結果について記者会見をするそうです。2011年末の発表では、”大変興味をそそる示唆”がみられたため、はるかに統計を増した今回の記者会見は期待が高まります。【ヤッター】

単純に「物には質量という生来のパラメタがある」で終わらせずに、複雑怪奇な「質量の起源」を外から持ってくるのはなぜだろう。

「前者のほうがはるかにシンプルな説明だ。何のために?」そう思うかもしれない。

ところで、わかりやすい説明は難しい?

A. たぶん難しい。

何かの拍子に、質量の起源やヒッグス粒子に興味をいだいて検索すると、原子炉に穴を開けてしまったかのように、よくわからないものが次から次へと吹き出してきて困惑することになる。

式で書けば数行で正確に表現できても、式を解説するには何冊も必要になる。自然言語で手短に話せばポエティックな模造品で、伝達には困難が伴う。

話題の発散を防ぐため、素粒子、力の粒子、あたりの単語は説明なしに扱うけど、一応解説リンク 
素粒子とは何か ACTIVE GALACTIC

さて本題、素粒子が質量を持っているのはまったく自明じゃない。

問題:対称性は質量のハードコーディングを許さない

素粒子の世界ではたくさんの法(則)が発見されてきた。それらが「素粒子は法のもとに平等であるべきだ」という基本理念(対称性)から導かれる様子をイメージしてみよう。*1

ただ、平等理念をそのまま適用すると、素粒子に資産(質量)を与えることが禁止される。例えば、会計法に「ただし、オリンパスの資産は常に173.5兆円とする。」という条文を明示的に書いてしまうと、理念に反する上に、無限大の取引が行われるバグの温床になる*2。

解決案:人間集団の自然発生的な格差を使う

そこで、人間の対称性を破ることで、法や平等理念の対称性を隠してしまうモデルを考えよう。人間は「平等な教育」という理念を形式的に維持しつつ、数学得意と数学苦手のように自発的に平等性が破れることがある。*3

さて、非零な格差期待値を持った社会が適当に選ばれた。

非対称や格差があると.....

法律の質量:力の粒子の質量

大きな格差が生じた社会では、それを補償する法体系が重厚長大なものになってしまう。法をすこし軌道修正するにも、あらゆる立場に対する調整コストが必要になる。*4

法人の質量:物質粒子の質量

物質粒子は法人になぞらえることができる。法人それ自体に本来質量はないが、人間の非対称によって自由に労働市場を動きまわることはできない。おなじ社会情勢でも、ペーパーカンパニーのようにほとんど無抵抗で動ける粒子もあれば、何十万という従業員が関連して身軽に動けない粒子もある。*5

まとめ

ざっくりとこん感じ

  1. 憲法・理念=対称性
  2. 法律=力の粒子(格差を呑みこんで重くなる)
  3. 法人=物質粒子(沢山の人間が関わるほど腰が重い)
  4. 人間=ヒッグス場・真空

実験:真空にエネルギーを注ぎこんで大事件を起こす

ただ想像するだけならミクロ世界のお伽話だ。実験で人間に相当するものの存在を確認したい。

ヒッグス粒子の生成

そこでビックバン直後に匹敵するエネルギー密度を社会に叩き込んで興奮状態を作り出し、革命や大規模な抗議運動を生成することを考えてみよう。温度に換算して数京ケルビンの一撃だ。場の励起状態として粒子が生成される。

ヒッグス粒子の崩壊シグナル

大規模な社会運動がすべての人間を目的にした重い組織を生成するように、ヒッグス粒子は重たい粒子に変化する。その特徴出来な信号を捉えるのだ。夢のあとに残るものは様々で、各々のシナリオで、それぞれヒッグス粒子の崩壊信号を捉えることで確度を高める。

測定時間は数年

放射線検出器でそこそこのCs-137を検出するには1時間程度の測定時間でいいが、ヒッグス粒子の検出は人類の限界に挑む行為であり、世界最高の設備で数年の測定時間が必要だ。スペクトルピークの位置すら未知なのだ。莫大な時間をかけてデータを蓄積し、様々な系統誤差を確実に絞め、ゆっくりと確度が増して行く。0か1かの1bit思考だと、フラストレーションがたまるので灰色がどんどん濃くなっていくのを楽しもう。

今回の記者会見で何が発表されるか全くわからないが、今年の中程から終わりにかけて、そろそろ人類が発見を宣言するのに十分なデータが貯まっていても可笑しくない。

さあ、答えはもうすぐやってくる。



公式URL等 (随時更新)

2012年7月4日 日本時間16時00分

  1. http://webcast.web.cern.ch/webcast/ Webcast ここで放送
  2. CERN to give update on Higgs search as curtain raiser to ICHEP conference CERNによるプレスリリース
  3. ICHEP 2012 Melbourne 素粒子物理学の国際会議

蛇足

極めて現実的道筋に欠ける話を加えるのは微妙だが、工学的な話が好きな方の為にすこし言及すると。万が一、ヒッグス場のパラメタを決めるメカニズムを制御することができるなら、W/Z-massをいじって放射性核種の半減期を操作したり、電子質量・原子半径を変更して果てしなく軽くてCNTを超える切断長の物質を作ることは、強ち不可能とも。

*1:マクスウェル方程式がU(1)対称性から導かれるように、自然界の相互作用は基本的な対称性に起因する。

*2:たとえば、粒子の散乱確率が無限大に発散

*3:説明に使った社会は、あくまでも解説のためのメタファーであって、現実社会とは違うし、ヒッグス機構と正確に対応している訳でもない。

*4:真空の対称性が破れることにより、今まで真空が持っていた4つ成分のうち3つを、力の粒子が吸収

*5:ヒッグス場と関わる程度の違いが、質量の違いに対応する