コッペパンにバナナにラムネ・・・バック・トゥ・ザ・ 戦後グルメ 「おもひで飲食展」
一般のご家庭にはバナナなどないっ!
こんにちは、J君です。師走で仕事が忙しい合間をぬっての忘年会、ご苦労さまです。皆さん食べまくり飲みまくりでさぞや胃腸が弱っているのではないでしょうか。今日はそんな暴飲暴食な食生活を送る皆様に、疲れた胃腸がほっこりするようなグルメマンガをお届けしたいと思っております。
当サイトではこれまで地元グルメ、刑務所グルメ、食材限定グルメなどなど異色の切り口のグルメマンガをご紹介してまいりましたが、今回は「戦後グルメ」の世界をご紹介します。飽食の時代と呼ばれる現代ではなく、戦後まだ日本が豊かではなかった昭和30年代頃から40年代頃までの懐かしの味をマンガにした作品。その名も「おもひで飲食展」です。
「おもひで飲食展」は月刊ビッグゴールドに掲載されていた作品です。作者は釣りバカ日誌の作画でおなじみの北見けんいち先生。北見先生ならではの人情味あふれる作品となっております。
どんな内容かといいますと、バリバリ働き盛りの50代、でも最近ちょっと疲れ気味。そんなオヤジ達がふと少年時代、お母さんやお婆ちゃんに作ってもらった懐かしの味に思いを馳せる、そんな感じのテーマのグルメマンガです。なにしろテーマが戦後懐かしの味ですから、そんじょそこらのグルメマンガとは出てくるメニューの地味さが違います。逆にそこが今までありそうでなかったこのマンガの新しいところでもあります。
■コッペパン
地味すぎる佇まい
第一話のテーマはいきなりコッペパンです。まさにキングオブ地味。これ以上ないほどにソリッドに研ぎ澄まされた何の変哲もない普通なパン、それがコッペパンです。
最近コンピニとかスーパーで売ってるコッペパンははじめからパンの中にジャムやらチョコやらクリームやらが入っているゆとり仕様なのでとても美味しいですね。しかしJ君のようなアラフォー世代ですと、小学校給食に出てくるピュアな純度100%コッペは食パンと並ぶ給食界の2大ガッカリメニューでした。なにしろジャムとかマーガリンをつけるか牛乳で無理やり流しこむか・・・そうでもしないと味気なくて食べられなかったです。それに比べて単体で食事として完結する揚げパンや焼きそばパンの素晴らしさ・・・これはもうザクとゲルググぐらいの違いがありますよね!(逆に分かりにくい)
・・・とまあ、J君の子供の頃のトラウマはどうでもいいのですが、本作品の場合、戦後の傷跡が残る昭和30年代ということでガチな食糧難です。コッペパンに対する思い入れもハンパじゃありません。
会話がガチ
ジャムつきがレア
子供のおやつは5円10円が大きくランクを分ける時代です。10円のコッペパンがなんと5円でジャムつきにグレードアップ!でも10円しか持ってないから諦めるか・・・そんな世界観ですよ。
パン屋のコッペがジャスティス
そんな時代ですがやはり町のパン屋のコッペパンと給食のコッペパンでは雲泥の差があるようです。ミルクも砂糖も入っていないパッサパサの給食コッペパン、そして牛乳の代用品である脱脂粉乳・・・これがまたトラウマ級にまずい飲み物らしいのです。この時代に比べたらJ君の世代が食べるコッペパンなんか全然ゆとり仕様でした。ナマ言ってすんませんでした。
■バナナ
現在はスーパーでも一房100円以下で買えるコスパのいい庶民派フルーツであるバナナですが、実は戦後はバナナが高級食材だったというのは割と有名な話ですよね。入院のお見舞いでしか食べられないような高級フルーツです。今の価値に換算すると1本が500円~1000円、一房にすると5000円近くになるという・・・そう考えるといかにバナナが高級か分かりますね。そんな戦後を代表する高級食材バナナのエピソードも当然盛り込まれております。
バナナを食べさせたい親心
まだ戦後の瓦礫も生々しく残る中、母ちゃんが一生懸命物売りをしていると、友人からあの高級スイーツ「バナナ」を貰います。なにしろ激ウマ高級スイーツ「バナナ」ですから即パクつきたいところですが、家でお腹をすかせて待っている子供に食べさせたい・・・という泣ける親心。グッとこらえてバナナを我慢です。
バナナはご家庭にはない!
「絵本で見たことあるけど、本物のバナナ見るの初めて!」
家にバナナを持って帰ると案の定、息子は大喜び!しかし・・・絵本でしか見たことないとか、もはや空想上のフルーツになりつつあります。もはやバナナが織りなすファンタジーですよ。どんだけ高級なんだよバナナ。
まるごとバナナ
興奮のあまりバナナを皮ごとかぶりつく少年。残念!それはバナナの一番美味しくない食べ方です。でも、絵本でしか見たことがないんだからどうやって皮をむくかなんて知らないですよね・・・。笑えるようで実はとても切ないシーンでもあります。
■すき焼き
マンガの時点ですでに美味そう
日本人のステータスシンボルたるメニュー「すき焼き」も紹介されています。今でこそ牛丼屋でもそれっぽいものが食べれる時代ですが、当時は戦後の食糧事情を考えるとすき焼きは超高級メニューのひとつであったことは言うまでもありません。当時の一般家庭では父ちゃんの給料日などのハレの日にすき焼きが登場していたようです。では、すき焼きデーの母ちゃんと子供たちのテンションの高さをご覧ください。
肉は豚コマ
すき焼きの肉は牛肉なんてとてもとても・・・庶民にとっては豚肉こそがすき焼きです。すき焼きは豚でいい・・・いや豚がいい。で、ここからが凄いです。
近所にアピール
「ねえねえ今晩うちは何にするんだっけ?」
子供は無邪気です
「スキヤキ!」 「ウヒョー!近所に聞こえたかしら?」
母ちゃん調子のりすぎ
「もう一回!!」 「スキヤキーッ。」
いくらなんでも母ちゃんしつこいよ・・・。
とまあそれぐらい、隣近所に自慢したいぐらいすき焼きは自慢だったわけです。すき焼きこそ誇り、すき焼き・イズ・プライドだったのです。そして一家の大黒柱、父ちゃん(=給料日)のご帰宅です。するとバッチリ化粧をキメた母ちゃんが・・・
父ちゃん動揺してる
「あなたお帰りなさいませ!!」
父の威厳ありまくり
「尊敬しちゃうな」 「ボク、お父さんみたいな大人になるんだ!」
見ましたか皆さん!?父に対するこの家族の尊敬の眼差し。これが給料袋とすき焼きの持つ本来の力ですよ!!尊敬される父親の姿・・・今の日本に最も失われつつあるものだと思いませんか?(給料日以外は知らないけど)
■アイスキャンデー
夏の風物詩
昔はアイスキャンデーといえば、アイスキャンデー売りのおじさんというのが夏の風物詩だったようですね。コンビニ・スーパーがこれだけ普及した現代では絶滅危惧種とも呼べる存在ですが、クーラーボックスから取り出すアイスキャンデーは風流なことこの上ないです。しかし、当時の手売りアイスキャンデーには衝撃の事実が。
きったねー言われてる
なんと割り箸が貴重な時代のため、食堂や蕎麦屋などで使われたものを洗って再利用していたようです。食品偽装やらでうるさい昨今、こんなことが発覚したら営業停止ものですが、当時はその辺についてはおおらかな時代です。
子供騙し感がすごい
「ちゃんと洗って使ってるからきれいなの!!」
疑問に思う子供たちが大人の理屈で無理やりねじ伏せられてます。J君が子供の頃はアイスキャンデー屋は見かけませんでしたが、今思うと駄菓子屋などで瓶やプラケースに入れっぱなしで売られているお菓子の衛生状態はかなりやばかったんだろうなあという気がします。ふ菓子とかまっ白になってたやつあったし。それは砂糖だよとか言って売りつけられてましたけど、今思うとあれはカビだった気が・・・。それでも腹ひとつ壊しませんでしたけど。
子供もドン引き
ていうか、子供たちがアイスキャンデーを食べた後の割り箸をさらに回収して使おうとするオヤジ。それはいくらなんでもやり過ぎだろ!エコすぎて犯罪です!!
■夜鳴きソバ
いわゆるチャルメラ
つつきまして夜鳴きソバ・・・いわゆるチャルメラ屋台ラーメンの話です。これが本作品で一番切なくて泣けるエピソードかもしれません。今で言う会社をリストラされてしまったお父ちゃんが一念発起して開業したチャルメラ屋台。もちろんド素人からの開業ですからチャルメラのラッパもうまく吹けません。
肩身狭すぎる
家でチャルメラを練習すれば母ちゃんに怒られます・・・。
内職で必死に家計を支える母ちゃんに、無職同然の父ちゃんは逆らえないですもんね。しかたありません。
身につまされます
しようがないので寒空の下、孤独にチャルメラを練習するのですが・・・売上も決して芳しくなく、家族には迷惑をかけ・・・思わず死にたくなる父ちゃん。うぅ・・・せ、切ない。
娘がいてもたってもいられず
いい子すぎて泣ける
そんな父ちゃんのピンチを心配したのか、なんと娘が・・・迷子になりながらも父ちゃんのド下手なチャルメラの音を頼りに屋台にかけつけます。そして娘が呼び込みの手伝いを開始。こんな小さな子が、ええ子や・・・。なんかこんな人生模様があると思うと屋台のラーメンひとつ食べただけでも泣いちゃいそうです。特にJ君なんか歳のせいで涙腺弱いからね。
■ラムネ
昭和を代表する清涼飲料水、ラムネも登場します。
金ダライに入ってます
この器具なんて言うんだろ
こういうラムネ独自仕様のフタを開けるやつでビー玉のフタを開けるのがお約束ですよね。
ビー玉出したいよなあ・・・
で、ラムネの瓶をちゃんと返却しろとか、ビー玉出そうとするなとか駄菓子屋のバアちゃんに釘を刺されるところまでが様式美なわけです。最近のスーパーとかで売っているラムネはフタが外れるようになっていてビー玉が簡単に取り出せるようになっているゆとり仕様なのでなんか粋じゃないんですよね。ビー玉が簡単に取りだせるラムネなんてラムネじゃないよ!!
■チョコレート
さて、本レビューで最後にご紹介するのはチョコレート。戦後のチョコレートといえばもちろんアレ。ギブミー・チョコレートでお馴染み、進駐軍が配るチョコレートやチューインガムです。戦後はバナナはもちろん甘いもの全般が貴重だったので・・・
家族で砂糖の奪い合い
子供が砂糖を勝手に持ちだしたらオタマを持った母ちゃんが泣きながら追いかけてくるとか・・・まさに修羅場。
使用済みガムも再利用
一度かんだガムを捨てずにとっておき、また別の日にかむなんてことも日常茶飯事のようです。ただ、友達の使用済みガムを奪って食べるのはいくら何でもアレですね。
スニッカーズってこの頃からあるんだ
そんな感じなので進駐軍が配るチョコレートは子供にとってはまさに奪い合い。ひとつのチョコを何日もかけて少しずつ食べ、食べ終わったら包み紙を大事にとっておき香りを楽しむ・・・。飽食の時代の今では考えられないことですがそんな時代が確実にあったのですね。
というわけで戦後グルメマンガ「おもひで飲食展」をご紹介しましたがいかがだったでしょうか?グルメマンガなのになぜかお腹が満たされない人ばかりが出てきますが、過激なグルメマンガが増えている昨今、たまにはこういうほんのり哀愁が漂う感じのマンガもいいものですよね。とりあえずあの憧れ高級スイーツバナナを毎日食べれるセレブな自分に感謝したいです。
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出典)
「おもひで飲食展 」 北見けんいち/小学館
◆WEBで「おもひで飲食展」を立読み ⇒ ebookjapan
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