地球温暖化とヴィンランド・サガ ~異常気象で始まるStory~

地球温暖化が無いと始まらない物語がある。
今日はそんな話をしてみたい。

ヴィンランド・サガとは、ヴァイキングの北米大陸への到達を記録した物語である。ヴィンランドは北米のことで、発見者が「ブドウが実る土地」と呼んだことからそう呼ばれるようになった、と説明されることが多い。ちなみにサガは「物語」の意味だ。この物語は何種類か伝えられているが、邦訳でも読むことは出来る。

アイスランドのサガ 中篇集
アイスランドのサガ 中篇集

サガ選集
サガ選集

グリーンランドへの移住が開始された10世紀頃、ヨーロッパは温暖化の時代にあった。
現在よりも気温が高いということは、牧草地に出来る面積も広く、農作物の育つ北限も北の方まで押しあがっている。冬の凍結期間も少なめで、それほど厳しくない。温暖な気候に後押しされてヴァイキングたちは新天地を目指すようになる。ノルウェーからアイスランドへ。アイスランドからグリーンランドへ。グリーンランドからヴィンランド(北米)へ。

温暖化が起きず、ヴァイキングがグリーンランドまで到達していなかったら、そもそもヴィンランド・サガは始まらなかったのだ。



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現在も気候が温暖化しつつあるため、グリーンランドは次々と氷が溶けて牧草地が作れるようになっているが、実はその温暖化はかつてヴァイキングがここに移住してきていた時代にも起きていた。ヴァイキングたちは基本的に牧場経営者だった。グリーンランドにも牛を持ち込み放牧していた跡があるが、それが可能だったのは、当時温暖だったから。

(ちなみにこの時代は世界的に温暖で、日本近辺でも現代より平均気温は数度高めだったと考えられている。東北アジアに渤海国が栄えた要因にはそれもある)



だが、温暖な時代は数百年しか続かなかった。
12世紀、急激な気候の寒冷化によって平均気温は現在より低いくらい(約4度!)になり、維持出来なくなったグリーンランド植民地は放棄される。最後まで現地に残った人々がどうなったのかは、断片的にしか分かっていない。
北米大陸を目指したヴァイキングたちの記憶は薄れ、次にその大陸を「発見」するのは15世紀のコロンブスを待たねばならない。

こうして、新天地を目指したヴァイキングたちの物語は、異常気象で始まり、異常気象によって終わりを告げた。

しかしこれは、唯一の事例ではないだろう。
人類は過去、気候変動によって居住地を増やし、また気候変動によって減らしてきた。おそらく特定の時期の特殊な海流に乗ってオーストラリアに辿りついただろう人々も、寒冷期、凍て付いたベーリング海峡を亙って東北アジアから北米へと渡って行った、最初の南北アメリカの住人たちもそうだった。そもそもを言えば、誕生地アフリカを旅立ったことからして、気候変動が原因だったとも推測されている。


地球がなぜ急激に温暖化したり寒冷化したりするのかは、まだ分からないところがたくさんある。現在の温暖化傾向は果たして本当に人間のせいなのか。議論も意見もあるだろう。しかし、確かに言えることは、「現在起きている気候現象は、過去に何度も起きてきた」「そして我々はそれらを全て乗り越え、生き残ったからここにいる」。
いま現在起きていることは、これが唯一の体験ではなく、特別なことでもない。

我々がご先祖様から学ぶべきことは、異常気象は悪だ! とヒステリックに叫ぶことでも、現実的な解決策も示さず誰かを糾弾して満足することでもなく、まずは「気候変動にどう対応し、どう生き残るか」を検討することではないかと思うのだ。

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