精油 概説

精油

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 04:53 UTC 版)

概説

おおむね液状でより軽く、水に溶けず(疎水性)、アルコール二硫化炭素石油エーテル脂肪油などに溶ける(親油性[1]。普通の油脂のようにアシルグリセロール英語: Acylglycerol)、いわゆるグリセリド(英語:Glyceride、グリセリン脂肪酸エステルの総称)ではなく、植物の「精、精髄」(ラテン語: essentia)という意味で精油と呼ばれ[3]、油脂とは区別されている[4]

現在知られている精油は1500種類に及ぶが、香料または合成香料原料として利用されるのは約100種類ほどである[4]

大量の植物からわずかしか採れないため、バラ精油のようにかなり高額なものもある。材料によって収油率が大幅に異なり、バラの場合約5tの花から精油1kgが採取され、収油率は0.02%。柑橘類は、果実に対して収油率は0.2 - 0.5%程度である[5]。精油の値段は手間賃ではなく、主として市場の需要に左右される[6]

アロマオイルなどと混同されることもままあるが、合成香料を使用して大量生産されるそれらとは区別される。商品としての精油は100%植物由来であり、合成物質の添加、成分調整、アルコール希釈などの加工は行なわれていないと思われがちだが、必ずしもそうではなく、脱テルペン処理やブレンディングなど、何らかの処理がされているものも少なくない[2]。アロマテラピーという言葉を作った調香師ガットフォセは、香水用に脱テルペン処理などがされた精油を使用していた[2]

揮発性溶剤を用いて抽出された香気成分を含む物質を、コンクリート: Concrète、コンクレット)[6]という。このコンクリートの溶解性部分を抽出したアブソリュート: Absolue、アプソリュ)[6]や、超臨界二酸化炭素英語版で抽出したアブソリュート[6]、柑橘類から圧搾法で得られたエッセンス[6]は、揮発しない成分や水溶性タンパク質を含み、精油とは異なる物質と考えられているが、精油と呼ばれる場合もある[2]

ナノテクノロジーの進化で、精油のマイクロカプセル化の技術が確立し、様々なものに添加され活用されている。その一方、香害(香料を含む製品を過剰に使用することで、周囲に不快感や害を与えること)[7][8]が問題となっている。岐阜市では、精油などの香料がアレルギー体質や化学物質過敏症の人のアレルギー、喘息などを誘発する[9]として、自粛を呼びかけるポスターを掲示している[10][11]。多様な問題が起こっているが、特に感作作用(ある抗原に対し生体をアレルギー反応をおこしうる状態にする作用)が問題視されている[2][12][13][14]


  1. ^ a b c 久保亮五 他 編集 『岩波理化学辞典第4版』 岩波書店、1987年
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年
  3. ^ 現在では「精油」という名称に化学的な意味はない。
  4. ^ a b c d 化学大辞典編集委員会 編集 『化学大辞典』 共立出版、1977年
  5. ^ 長谷川香料株式会社 著 『香料の科学』 講談社、2013年
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m ジャン=クロード・エレナ 『香水-香りの秘密と調香師の技』 芳野まい 訳、白水社、2010年
  7. ^ 香り付きの柔軟剤 過度な使用に注意 NHKニュース おはよう日本
  8. ^ 「香りブーム」に潜む危機!? ~香料の有毒性と「香害」について~ かずのすけの化粧品評論と美容化学についてのぼやき
  9. ^ 接触皮膚炎診療ガイドライン 日皮会誌:119(9), 1757―1793, 2009(平21)
  10. ^ 岐阜市の香料自粛のポスター
  11. ^ 「香料自粛のお願い」~近くの公共施設、病院にお願いをしてみませんか。
  12. ^ 感作物質 sensitizer 日本化粧品技術者会
  13. ^ 香料の健康 渡部和男
  14. ^ 芳香・消臭・脱臭・防臭剤 安全確保マニュアル作成の手引き 厚生省生活衛生局企画課 生活化学安全対策室
  15. ^ 品質ポリシーと製造管理 クラシエ
  16. ^ 漢方エキス製剤 温心堂薬局
  17. ^ Houtsma, M.Th. (1993). E. J. Brill's First Encyclopaedia of Islam, 1913–1936. 4. Brill. pp. 1011–. ISBN 9004097902 
  18. ^ ヒロ・ヒライ 著 『エリクシルから第五精髄、そしてアルカナへ: 蒸留術とルネサンス錬金術』 Kindle、2014年(初出:「アロマトピア 第53号」 2002年)
  19. ^ らんびき -陶製の蒸留器- 内藤記念くすり博物館
  20. ^ a b 吉武利文 著 『香料植物 ものと人間の文化史 159』 法政大学出版局、2012年
  21. ^ トヨタコレクション企画展 江戸の医術のことはじめ ~ 漢方と蘭方の出会い ~
  22. ^ 北見ハッカ記念館
  23. ^ ハッカの歴史 世界一のハッカ工場 北見ハッカ通商
  24. ^ クスノキの周辺 郷愁の樟脳の現在 そしてクスノキのよろず情報 木のメモ帳 廣野郁夫
  25. ^ ラベンダーキャンパス化計画 東海大学
  26. ^ 「アロマスーツ」新発売 株式会社アオキ
  27. ^ マイクロカプセル化した精油の応用 ekouhou.net
  28. ^ Micro Encapsulation of EOs (精油のマイクロカプセル化;パウダー化) 動物のアロマセラピー
  29. ^ Micro-Encapsulation of Essential Oils Introduced by Blue California November 7, 2006
  30. ^ a b c d 今西二郎 著 『補完・代替医療 メディカル・アロマセラピー』 金芳堂、2006年
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  37. ^ a b 減圧蒸留型抽出装置 兼松エンジニアリング株式会社
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  40. ^ a b c d 高山林太郎 著 『ルーツ of アロマテラピー』 現代書林、2002年
  41. ^ Eau de ToiletteとShampoo用の調香・開発・商品化 2010年度 東京バイオテクノロジー専門学校
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  58. ^ Aniba rosaeodora The IUCN Red List of Threatened Species
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  60. ^ 天然香料について ステラ・ラボラトリー株式会社
  61. ^ 香りのミニ知識 植物 長谷川香料株式会社
  62. ^ 精油の由来とその行方 ティートゥリーオイルの変遷と将来 山本芳邦 山本香料株式会社






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