睡眠薬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/09 02:14 UTC 版)
副作用
非ベンゾジアゼピン系の処方は増えたが、実際に必要な注意はベンゾジアゼピン系と同じである[33]。
高齢者は、転倒、骨折、認知症と誤診の可能性がある認知や記憶の障害、奇異反応といった、ベンゾジアゼピン系の危険性に対して、より脆弱である[54]。肝機能障害がある場合には、長時間作用型のものでは、排出されず体内に蓄積し有毒な域に達する場合がある[60]。短期間作用型は離脱症状が深刻化しやすい[61][62]。
ベンゾジアゼピン系などのGABA受容体に作用する薬物は、常用により効果が弱くなる耐性が生じるため、睡眠作用への効果は数週間で薬の服用前にまで弱まる[63]。このため薬剤を追加することで多剤処方となり、高用量の服用が継続された場合の突然の断薬は、激しい離脱症状のため危険となる[64]。
日本の睡眠薬の添付文書にて、アルコールやバルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系、またほかの個々の薬剤と一緒に服用すると効果が増強する旨、事故のおそれがあるため自動車や機械を運転しないことを注意する旨、副作用が発現しやすい高齢者には少量から慎重投与する旨、催奇形性や新生児の離脱症状の旨が喚起されている。
認知機能や事故
2007年3月14日にアメリカ食品医薬品局(FDA)は、非ベンゾジアゼピン系やメラトニン作動薬を含む13種の承認されているすべての睡眠薬のラベルに、これまでのアルコールやほかの中枢神経抑制剤との併用を避ける旨に加えて、睡眠時に自動車の運転を行う(夢遊行動)といった旨を記載し、注意喚起を促している[66]。
2013年1月10日にFDAは、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムの翌朝に持ち越す影響に対して、自動車の運転を含めた覚醒が必要な行動のために、最低用量で用いるよう注意喚起を促した[67]。
1か月以内にベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を摂取していた場合、自動車事故の危険性の有意な増加との関連が見出された[68]。
ベンゾジアゼピン系の長時間作用型でも[69]、短時間作用型でも[70]高齢者の転倒の頻度を増加させる。
また睡眠薬の使用は、高齢者の認知症の危険性を増加させる[71]。
がん
2年半の追跡で、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系)を使用していた群は、そうでないよりがんの危険性を35%増加させる[12]。台湾の国民保険システムのデータを解析し、ベンゾジアゼピン系ががんの危険性を19%を増加させることを見出した[72]。
うつ病リスクの増加
バルビツール酸系の使用は、てんかん患者が抗てんかん薬として使用した場合に、10%までに抑うつ症状を発症させる[6]。
ベンゾジアゼピン系の慢性使用も抑うつを悪化させ[7][73]、うつ症状は遷延性離脱症候群のひとつである可能性がある[8][74][75][76]。
アメリカ食品医薬品局(FDA)が公開した限られた臨床試験データを後から再度分析したひとつの研究において、非ベンゾジアゼピン系(ゾルピデム、ザレプロン、ゾピクロン)睡眠薬と、メラトニン作動薬(ラメルテオン)の4種類の睡眠薬は、偽薬に比較して、うつ病の危険性を平均して2倍に高める可能性が示唆された。ただし、この結果は偽薬群からは被験者の離脱が多いなどの効果によって結果がゆがめられている可能性がある。また本研究の著者であるKripkeは、睡眠薬の利用に反対するウェブサイトの運営者であるというバイアスを持っている[9]。
急性毒性
バルビツール酸系の薬は治療指数が低く、現在では過量服薬の危険性を考慮すると使用は推奨されない[77]。
ベンゾジアゼピンと、アルコール、バルビツール酸系、三環系抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン剤を併用した過量服薬は、薬剤相互作用で危険である[78]。
アルコール(エタノール)などが死亡に寄与した例を除外し、毒性により死亡したと思われる例は、ベンゾジアゼピン系ではフルニトラゼパムが多かった[79]。
日本では、2010年にも、日本うつ病学会、日本臨床精神神経薬理学会、日本生物学的精神医学会、日本総合病院精神医学会の合同で、多くの種類の薬剤を大量に処方する多剤大量処方に注意喚起を行っている[19]。
死亡リスクの増加
2年半の追跡で、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系)を使用し、死亡率は睡眠薬を服用しない対照群と比べ、年間18回分未満の服用で3.5倍、18回 - 132回分で4.6倍、それ以上では5.3倍であった[12]。20年間の追跡で、睡眠薬の使用および不眠は全死因の増加に関連し、男性では冠動脈疾患、がん、自殺の危険因子であり、女性では自殺の危険因子であった[13][80][81]。約1万5,000人の18年の追跡調査では、使用頻度の増加および不眠症に伴って死亡率が高まることが見出され、抗不安薬・睡眠薬の服用群は、男性3.1倍、女性2.7倍、交絡因子を調整して、それぞれ1.7倍と1.5倍であった[14]。13年間の追跡で、抗不安薬・睡眠薬の服用群は3.22倍で、調整後1.36倍であった[15]。
他害行為
アメリカ食品医薬品局(FDA)の有害事象報告システム(AERS)のデータを解析し、殺人や傷害などの他害行為のリスクは、トリアゾラム8.7倍(ハルシオン、ベンゾジアゼピン系)、ゾルピデム6.7倍(マイスリー、非ベンゾジアゼピン系)、エスゾピクロン4.9倍(ルネスタ、非ベンゾジアゼピン系)、ジアゼパム3.1倍(セルシン、ベンゾジアゼピン系)、アルプラゾラム3.0倍(ソラナックス、ベンゾジアゼピン系)、クロナゼパム2.8倍(リボトリール、ベンゾジアゼピン系)であった[16]。他害行為の副作用は、短時間作用型のものの傾向がみられる。アメリカと日本での承認状況が異なる。アメリカでは、フルニトラゼパムは医療用に承認されていないが[82]、ほかの国の調査で健忘を伴う暴力行為との関連が見られている[83]。
奇異反応
奇異反応は予想された作用と反対の作用が生じることである。深刻なものに、飛び降りや首にひも状のものを巻きつけるなどの自殺企図を行ったあとに助かったが、そのときの記憶は健忘しているというものがある[5]。市販される睡眠薬の抗ヒスタミン剤(商品名ドリエルなど)でも、幻覚、妄想、せん妄、不安、焦燥に陥る危険性がある[5]。
依存症
薬物 | 平均 | 快感 | 精神的依存 | 身体的依存 |
---|---|---|---|---|
ヘロイン | 3.00 | 3.0 | 3.0 | 3.0 |
コカイン | 2.37 | 3.0 | 2.8 | 1.3 |
アルコール | 1.93 | 2.3 | 1.9 | 1.6 |
たばこ | 2.21 | 2.3 | 2.6 | 1.8 |
バルビツール酸 | 2.01 | 2.0 | 2.2 | 1.8 |
ベンゾジアゼピン | 1.83 | 1.7 | 2.1 | 1.8 |
アンフェタミン | 1.67 | 2.0 | 1.9 | 1.1 |
大麻 | 1.51 | 1.9 | 1.7 | 0.8 |
LSD | 1.23 | 2.2 | 1.1 | 0.3 |
エクスタシー | 1.13 | 1.5 | 1.2 | 0.7 |
薬物依存症のリスクが存在する[84]。ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系の、依存症は、長期間、高用量、短期作用型、また力価が強い場合に起こりやすくなる[54]。
2007年『ランセット』誌の「潜在的な乱用のための薬物の有害性を評価する合理的な尺度の開発」(Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse) という論文において、20の乱用薬物に関する身体依存性、精神依存性、快感が評価された[65]。右である。
離脱症状
バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系は、服薬を中止すると、離脱症状を生じる可能性がある。
医師に離脱のための知識がない可能性がある[85]。そのため、離脱の説明がなかったり、急速な断薬や力価の違う薬剤への切り替えにより離脱症状が強く生じたりする可能性がある[86]。
ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系の離脱症状は、不安がもっとも一般的で[60]、一般的なものは不眠症、易刺激性、興奮、抑うつ、振戦、目まい、パニック発作、身体や視覚や聴覚に対する過敏症といった知覚障害であり、高用量のベンゾジアゼピンを中止する場合には、発作、せん妄、精神病が起きる場合がある[54]。離脱時の発作は致命的となる可能性があるため、入院デトックスを要するような危険な発作や振戦せん妄(DT)の兆候である頻脈、発汗、手の震えや不安の増加、精神運動性激越、吐き気や嘔吐、一過性の知覚障害の評価が必要である[41]。また離脱症状の特徴として遷延性離脱症候群が生じる。
またベンゾジアゼピン系薬、バルビツール酸系薬(またアルコールも)の離脱に抗精神病薬の使用は推奨できずアリピプラゾール、クエチアピン、リスペンドン、ジプラシドンのような非定型抗精神病薬あるいは、クロルプロマジンのような効果の弱いフェノチアジンは、発作閾値を低下させ離脱症状を悪化させる[87]。
アシュトンにより、これらの離脱症状は長期間にわたる傾向があるため、激しい離脱症状を避けるために、ジアゼパムのような低力価で長時間作用型の薬剤に等価換算で置換し、個々の状態に対応しながら1 - 2週間ごとに、あるいはそれよりも遅く、以前より10%減らすといった、長ければ半年以上かけて徐々に漸減する方法が推奨されている[10][8]。とりわけ高用量の場合、そうでなくとも、置換は一方を漸減し、もう一方を漸増する方法(クロステーパー[88]という方法)が推奨される[89]。
突然の断薬により激しい離脱症状が生じた場合、以前より増量することで効果が出る可能性がある[90]。
ベンゾジアゼピン離脱症状と、抗うつ薬のSSRIにおける離脱症状は酷似している[91]。
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- ^ 福西勇夫『詳しくわかる 睡眠薬と精神安定剤』(法研、2003年3月23日)ISBN 978-4879544629 p67-68。
- ^ “Lazy GPs keep on doling out powerful sleeping pills to the elderly when they should only be used as short term treatment”. デイリー・メール. (2013年4月3日)
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