培養
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/29 00:37 UTC 版)
培養条件
培養に際して考慮すべき環境条件(培地以外)に以下のようなものがある。
これらの環境条件に関して、一般的な生物とはかけ離れた条件を要求する、あるいはそれに耐え得る生物を極限環境生物という(→極限環境微生物)。
もっとも、これを定義するには一般的な条件というものが存在することが前提である。これは一般には人間の居住する室内のそれを想定する。たとえば1気圧、日陰、25℃といったものである。これが生物にとって真に標準的なものであるかどうかには改めて検討が必要な面もある。たとえば森林土壌の菌類の研究で、実際の森林土壌の温度が多くの場合室温以下であることから、より低い温度で分離培養をし、それまでは得られなかったものが多数出現したことが報告された例もある。
培養に伴う操作
- 採集
- 培地の作成(→培地)
- 単離 (isolation)
- 分離とも言う。天然のサンプルから直接行う場合もあるが、主に粗培養を顕微鏡で観察しながらピペットで目的生物を吸い上げたり(マイクロピペット法)、コロニーを白金耳で掻き取ったりする。
- 希釈 (dilution)
- サンプルを一定の割合で希釈してゆき、希釈系列を作って確率的に細胞を株化する方法。脆弱で単離に耐えられない細胞や、一個体からでは増殖が望めない生物を株化する場合に行う。また、採取してきたサンプルの中ですでに優占状態にある生物を手軽に株化したい時にも用いる。簡便な方法であるが、培養の純度が分かりにくい上、株が確立できた場合でもクローン性は一切保証されない。
- 前培養 (preculture)
- 単離した生物をいきなり大容量の培地へ接種すると死滅する場合が多いため、最初は少量の培地へ入れて細胞数を増やし、段階的に培地容量を増やしていく作業が必要になる。単離直後の他、大量培養の前段階としても行われる。
- 植え継ぎ
- 培養時間が経過して細胞の密度が限界に達したり、培地内のリソースが食い潰されて細胞の増殖速度が頭打ちとなったとき、培養液を少量とって新たな培地へ移す作業。継代ともいう。これを行って培養を維持することを継代培養(passage culture、subculture)と呼ぶ。
- 滅菌
- 培養における課題の一つがコンタミネーション(汚染)対策である。通常身の回りにあるものにはさまざまな菌類や細菌類が付着しているため、これが培養に混入しないよう、培地に触れるすべてのものは滅菌処理を施しておく必要がある。加熱可能な器具はオートクレーブや乾熱滅菌処理、それができないものはエタノール噴霧やガンマ線の暴露を行う。培養用の実験器具はほとんどが滅菌の上密封されて販売されている。
- 滅菌以外にも、培養を維持する間の操作の際に、空気からの汚染を防ぐためには、HEPAフィルタを備えた無菌室やクリーンベンチが開発されている。また、密封できない培養系、例えば通気を要する光合成生物や好気性の生物の培養には、綿栓やシリコセン®などが用いられる。
難培養性生物
極限環境生物や寄生性の生物は、培養系を確立することが困難である。例えば節足動物の腸管内に生育する接合菌門トリコミケス綱の菌類や、同じく節足動物に外部寄生する子嚢菌門真正子嚢菌綱ラブルベニア科に属するものは、わずかに数種類を除いて培養の成功例がない。通常の環境に生息する生物でも、外洋性の放散虫類を初めとして、従属栄養性の原生生物の大部分は安定な培養手段が知られていない。
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