同位体
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同位体比
自然界における同位体の存在比を同位体比(天然存在比)という。太陽系内の物質の同位体比は、放射性物質の影響および同位体効果を除くと、極めて一様である。これは太陽系誕生時に、物質が高温で熱せられ拡散したことにより、それ以前に各物質が保有していた固有の同位体比が平均化されたためと考えられている。
原子量が整数からかけ離れている元素は複数の同位体(核種)からなり、その比率もまばらであることが多い。例えば塩素の原子量は約35.5であるが、これは塩素の同位体である塩素35と塩素37の存在比がおよそ3:1なためである[6]。これを一般化するとn個の同位体Iiからなる元素の原子量Awは
で与えられる。
ただし例外的に、太陽系物質ではありえない同位体比をもった粒子が、原始的な隕石から発見されており[7]、それらは、超新星爆発や赤色巨星星周など太陽系外に起源を持ち、原始太陽系の高温時代を生き残った粒子だと考えられている。
また太陽系内の物質であっても、同位体効果などにより、パーミルのオーダー (0.1%=1‰) では同位体比にも差がある。その差異を分析することにより、試料の起源、変遷を探ることができるため、後述する地球惑星科学の分野などで同位体比の測定が活用されている。例えば、はやぶさが持ち帰った試料も、希ガスの同位体測定により、その起源が解析されている[8]。
地球上においても、閉じた系の内部では放射性同位体の崩壊などにより年月を経て同位体比は変化する。これを利用したのが放射性炭素年代測定である。
同位体比の測定には、主に質量分析法が用いられ、NMRや赤外分光法が活用されることもある。星雲などの宇宙空間の物質の同位体比を測定するには、電波観測や赤外線観測が利用される。
- ^ すなわち同じ元素である。
- ^ 放射性同位体は時間とともに放射性崩壊を起こすが、安定同位体は自然界で一定の割合をもって安定に存在する。
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