溶媒効果とは? わかりやすく解説

溶媒効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/28 01:08 UTC 版)

化学において、溶媒効果(ようばいこうか、: Solvent effects)とは反応性もしくは分子の会合に対して溶媒が及ぼす影響を指す。溶媒は溶解度、安定性、反応速度に影響を及ぼすため、適切な溶媒を選択することにより化学反応を熱力学的・速度論的に制御英語版できる。

安定性に対する影響

溶媒は反応物や生成物の安定性に影響を与え、平衡定数を変化させる。平衡はより安定化される物質の側に偏る。反応物および生成物の安定化は溶媒との、水素結合双極子-双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用を始めとする、分子間相互作用により起こる。

酸塩基平衡

塩基電離平衡は溶媒変化の影響を受ける。溶媒の影響はその酸性もしくは塩基性によるものだけではなく、比誘電率や溶解度の選好からくる酸塩基平衡に関わる特定の化学種の安定化などによる影響がありうる。したがって、溶解度や比誘電率の変化は酸性および塩基性に影響を与える。

25 °C における溶媒物性
溶媒 比誘電率[1]
アセトニトリル 37
ジメチルスルホキシド 47
78

上表から、極性の最も強い溶媒はであり、次がジメチルスルホキシド (DMSO)、そしてアセトニトリルの順であることがわかる。次の酸解離平衡について考える。

HA A + H+,

水は上に挙げたうちで最も極性の強い溶媒であるため、DMSOやアセトニトリルよりも強くイオン性化学種を安定化する。イオン化、そして酸性は水中で最も大きく、DMSO、アセトニトリルでより弱い。25 °C のアセトニトリル (ACN) [2][3][4]、DMSO[5]、水中における pKa の値を下表に挙げる。

pKa
HA A + H+ ACN DMSO
p-トルエンスルホン酸 8.5 0.9
2,4-ジニトロフェノール 16.66 5.1 3.9
安息香酸 21.51 11.1 4.2
酢酸 23.51 12.6 4.756
フェノール 29.14 18.0 9.99

ケト・エノール平衡

様々な 1,3-ジカルボニル化合物は下式で表されるケト-エノール互変異性を示す。

この互変異性は環状エノール型(シス型)とジケト型との間の平衡となることが最も多い。互変異性の平衡定数は次のように表式化される。

Solvent effects on SN1 and SN2 reactions

遷移金属触媒反応

正負問わず電荷を帯びた遷移金属錯体の関わる反応は溶媒和により、特に極性媒質の溶媒和により劇的な影響を受ける。金属種の電荷が化学的変形中に変化する場合、ポテンシャルエネルギー面の 30–50 kcal/mol もの変化が計算されている[13]

フリーラジカル合成

多くのフリーラジカルに基づく合成が大きな速度論的溶媒効果を示し、反応速度が低下したり計画された反応が非選好経路となったりする[14]

出典

  1. ^ Loudon, G. Marc (2005), Organic Chemistry (4th ed.), New York: Oxford University Press, pp. 317–318, ISBN 0-19-511999-1 
  2. ^ “Pentakis(trifluoromethyl)phenyl, a Sterically Crowded and Electron-withdrawing Group: Synthesis and Acidity of Pentakis(trifluoromethyl)benzene, -toluene, -phenol, and -aniline”. J. Org. Chem. 73 (7): 2607–2620. (2008). doi:10.1021/jo702513w. PMID 18324831. 
  3. ^ Kütt, A.; Leito, I.; Kaljurand, I.; Sooväli, L.; Vlasov, V.M.; Yagupolskii, L.M.; Koppel, I.A. (2006). “A Comprehensive Self-Consistent Spectrophotometric Acidity Scale of Neutral Brønsted Acids in Acetonitrile”. J. Org. Chem. 71 (7): 2829–2838. doi:10.1021/jo060031y. PMID 16555839. 
  4. ^ “Extension of the Self-Consistent Spectrophotometric Basicity Scale in Acetonitrile to a Full Span of 28 pKa Units: Unification of Different Basicity Scales”. J. Org. Chem. 70 (3): 1019–1028. (2005). doi:10.1021/jo048252w. PMID 15675863. 
  5. ^ Bordwell pKa Table (Acidity in DMSO)”. 2008年11月2日閲覧。
  6. ^ Reichardt, Christian (1990). Solvent Effects in Organic Chemistry. Marburg, Germany: Wiley-VCH. pp. 147–181. ISBN 0-89573-684-5 
  7. ^ Jones, Richard (1984). Physical and Mechanistic Organic Chemistry. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 94–114. ISBN 0-521-22642-2 
  8. ^ James T. Hynes (1985). “Chemical Reaction Dynamics in Solution”. Annu. Rev. Phys. Chem. 36 (1): 573–597. Bibcode1985ARPC...36..573H. doi:10.1146/annurev.pc.36.100185.003041. 
  9. ^ Sundberg, Richard J.; Carey, Francis A. (2007). Advanced Organic Chemistry: Structure and Mechanisms. New York: Springer. pp. 359–376. ISBN 978-0-387-44897-8 
  10. ^ Hughes, Edward D.; Ingold, Christopher K. (1935). “Mechanism of substitution at a saturated carbon atom. Part IV. A discussion of constitutional and solvent effects on the mechanism, kinetics, velocity, and orientation of substitution”. J. Chem. Soc.: 244–255. doi:10.1039/JR9350000244. https://doi.org/10.1039/JR9350000244. 
  11. ^ Eğe, Seyhan (2008). Organic Chemistry Structure and Reactivity. Houghton Mifflin Harcourt. ISBN 0-618-31809-7 
  12. ^ Yongho, Kim.; Cramer, Christopher J.; Truhlar, Donald G. (2009). “Steric Effects and Solvent Effects on SN2 Reactions”. J. Phys. Chem. A 113 (32): 9109–9114. doi:10.1021/jp905429p. PMID 19719294. 
  13. ^ V. P. Ananikov; D. G. Musaev; K. Morokuma (2001). “Catalytic Triple Bond Activation and Vinyl−Vinyl Reductive Coupling by Pt(IV) Complexes. A Density Functional Study”. Organometallics 20 (8): 1652–1667. doi:10.1021/om001073u. 
  14. ^ Grzegorz Litwinienko; A. L. J. Beckwith; K. U. Ingold (2011). “The frequently overlooked importance of solvent in free radical syntheses”. Chem. Soc. Rev. 40 (5): 2157. doi:10.1039/C1CS15007C. 

溶媒効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/04/14 04:23 UTC 版)

アノマー効果」の記事における「溶媒効果」の解説

超共役理論対す一般的な反論一つは、置換テトラヒドロピラン分子極性溶媒中に置かれ時になぜアノマー効果観測されないかを説明できないという点である。しかしながら超共役は系の溶媒依存することが明らかにされている。上述したどちらの置換系も気相(すなわち無溶媒)と水溶液(すなわち極性溶媒)で試験されている。XがFの時、どちらの媒質においてもアノマー効果観測される。これは超共役起因する。XがOHあるいはCNの時は、気相においてアノマー効果見られるしかしながら水溶液中では、どちらの置換基もエクアトリアル位を好む。これはアキシアル位の置換基極性溶媒とより静電反発を起こるためである。XがNH2の時は、アノマー効果観測されず、置換基は常にエクアトリアル位を好む。

※この「溶媒効果」の解説は、「アノマー効果」の解説の一部です。
「溶媒効果」を含む「アノマー効果」の記事については、「アノマー効果」の概要を参照ください。

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