八元数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/11 18:40 UTC 版)
数学における八元数(はちげんすう、英: octonion; オクトニオン)の全体は実数体上のノルム多元体で、ふつう大文字アルファベットの O を使って、太字の O(あるいは黒板太字の 𝕆)で表される。実数体上のノルム多元体はたった四種類であり、O のほかは、実数の全体 R, 複素数の全体 C, 四元数の全体 H しかない。O はこれらノルム多元体の中で最大のもので、実八次元、これは H の次元の二倍である(O は H を拡大して得られる)。八元数の全体 O における乗法は非可換かつ非結合的だが、弱い形の結合性である冪結合律は満足する。
より広く調べられ利用されている四元数や複素数に比べれば、八元数についてはそれほどよく知られているわけではない。にもかかわらず、八元数にはいくつも興味深い性質があり、それに関連して(例外型リー群が持つような)例外的な構造もいくつも備えている。加えて、八元数は弦理論などといった分野に応用を持っている。
八元数は、ハミルトンの四元数の発見に刺激を受けたジョン・グレイヴスによって1843年に発見され、グレイヴスはこれを octaves と呼んだ。それとは独立にケイリーも八元数を発見しており[1]、八元数のことをケイリー数、その全体をケイリー代数と呼ぶことがある。
定義
八元数は実数の八つ組と見做すことができる。任意の八元数 x は、e0 をスカラー元あるいは実元(実数 1 と同一視される)とする単位八元数
単位八元数の積の簡単な記憶法 図に示した単位八元数の積を記憶する便利な記憶術がある。これはケイリーとグレイブスの乗積表を表すものである[2][6] 七つの点と七つの直線(1,2,3 を通る円も直線のひとつ)を持つこの図はファノ平面と呼ばれる。直線には向きがつけられており、また七つの点は純虚八元数の空間 Im(O) の標準基底に対応する。相異なる点の対ごとにそれらを通る直線が一意的に定まり、また各直線にはちょうど三つの点が載っている。
点の順序三つ組 (a, b, c) が図の中の与えられた直線にその向きに沿ってこの順番で載っているとすると、これらの乗法は
- ab = c, ba = −c
およびこれに三点の巡回置換を行って得られる関係式で与えられる。この規則に
- 1 は乗法単位元である
- 図の各点に対して ei2 = −1 が成り立つ
を加えたものから八元数の乗法構造は完全に決定される。また、七つの直線のそれぞれから生成される O の部分多元環は、四元数体 H に同型になる。
共軛、ノルムおよび逆元
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