マツダのモータースポーツサブブランド「MAZDA SPIRIT RACING」に期待する理由
2025.01.16 デイリーコラム200台の限定販売で価格は700万円台後半
マツダは千葉・幕張メッセで開催された「東京オートサロン2025」にて、同社のモータースポーツサブブランド「MAZDA SPIRIT RACING(マツダ スピリット レーシング)」が手がけた限定200台のスペシャルモデル「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」を発表するとともに、その量産バージョンである「マツダ スピリット レーシング・ロードスター」を出展した。本稿ではそれら特別なロードスターの詳細をご報告するとともに、「マツダ スピリット レーシングとはそもそも何なのか?」ということについて考えていく。
まずはマツダ スピリット レーシング・ロードスター12Rである。マツダ スピリット レーシングは、マツダのモータースポーツ活動のシンボルとして2021年に発足したサブブランド名だ。そのレーシングチームが「Team MAZDA SPIRIT RACING(チーム マツダ スピリット レーシング)」で、同チームは現在、スーパー耐久レースに参戦している。
そんなマツダ スピリット レーシングがレース参戦で得た技術やノウハウを市販車にアウトプットしたのが、今回のマツダ スピリット レーシング・ロードスター12Rだ。
パワーユニットは「現在の市販ロードスター用2リッター直4エンジンで絞り出せるMAX値」だという最高出力200PSの「SKYACTIV-G 2.0」で、専用のカムシャフトとシリンダーヘッド、ピストン、エキゾーストマニホールドを装備。足まわりにもレースで鍛えた技術を投入し、S耐マシンに近いセッティングを実施しているという。そしていわゆるばらつきをなくし精度を向上させるため、一台一台が人の手によって丁寧に組み上げられるというのも12Rの大きな特徴だ。その車両価格は700万円台後半を予定しているとのこと。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
キーワードはモータースポーツ
一方の量産バージョンであるマツダ スピリット レーシング・ロードスターのパワーユニットは「ロードスターRF」のものがベースで、最高出力はノーマルのRFと同じ184PS。しかしラジエーターの仕様変更により、エンジンの冷却性能が向上しているという。
フロントブレーキシステムはブレンボ製ベンチレーテッドディスク+4ピストンキャリパーで、サスペンションには専用セッティングのビルシュタイン製車高調整式ダンパーが採用されている。ホイールはレイズ製鍛造ホイールの専用開発品を装着する。またエクステリアでは、S耐での参戦を通じて得た知見を生かした新開発のエアロパーツが目を引く。こちらの車両価格は500万円台の予定で、12Rとあわせて2025年秋に予約の受け付けを開始し、同年中の発売を目指しているとのことだ。
さて、そういったスペシャルモデルを東京オートサロン2025に発表したマツダ スピリット レーシングとは、そもそもどのような活動を行う組織なのか。
ひとことで言えば、冒頭でも申し上げたとおり、2021年に発足したマツダのモータースポーツに軸足を置いたサブブランドである。具体的にはチーム マツダ スピリット レーシングとしてモータースポーツに参戦するほか、いわゆるeスポーツや草の根レースからS耐へのステップアップを目指せる「マツダ スピリット レーシング チャレンジプログラム」も展開。さらには今回発表されたロードスターのような「モータースポーツ参戦を通じて得た知見に基づくスペシャルモデルを開発し、リリースする」ことも、マツダ スピリット レーシングの注目すべきミッションだ。
しかしそういった表層の奥にあるのは、マツダのブランドとしての決意表明というか、「テスラ的なるもの」に対するアンチテーゼの表明ではないかと、筆者には思える。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
マツダは「走る歓び」を伝え続ける
ご承知のとおりマツダは「走る歓び」をスローガンに掲げているブランドだ。そのスローガンの下でブランドポートフォリオを完成させるにあたり、モータースポーツは絶対に欠かすことのできない最後のピースだった。
いかに鼓動デザインが人々の心をとらえようとも、いかにロードスターの走りがドライバーのハートを熱くさせようとも、「でもマツダってもう30年ぐらい、オフィシャルではあんまりモータースポーツやってないじゃん」という軽い指摘だけで、「走る歓び」を中心としたポートフォリオは瓦解(がかい)する。いや瓦解するは大げさかもしれないが、説得力に欠けてしまうことは間違いないだろう。
だからこそ、マツダが「走る歓び」をブランドポートフォリオの中心に置き続けたいのであれば、マツダ スピリット レーシング的なサブブランドのスタートと、それが実行するモータースポーツ参戦およびモータースポーツ由来の市販車リリースは、明らかに必須だったのだ。
しかしここで浮かぶのは、「とはいえ自動車の未来に、モータースポーツ由来のサムシングは必要なのか?」。つまりクルマを操ることに、今後もわざわざ注力する必要はあるのだろうか? という疑問だ。海の向こうのアメリカでは、やり手実業家であり天才エンジニアでもあるイーロン・マスク氏が、人々からクルマを操ることの意味と価値を奪うべく鋭意努力しており、その試みは、ある部分ですでに成功しているようにも思える。
けれどもマツダは──もちろんイーロン・マスク氏のことを名指ししているわけでは決してないが──マツダ スピリット レーシングを立ち上げることによって、イーロン的なる未来像に「No!」と言ったのではないか。「未来のモビリティーのメインストリームがどうなるかはさておき、人は少なくともクルマを操る歓びを完全に捨て去るべきではない」というのが──筆者の勝手な筋読みではあるが──、マツダがマツダ スピリット レーシングを通じて伝えたいことなのだろう。
今後イーロン的なるものが勝利するのか、それともマツダ スピリット レーシング的なるものが勝利するのか、筆者にはわからない。だが心情的に筆者は、マツダ スピリット レーシングの熱心なサポーターである。
(文=玉川ニコ/写真=マツダ、webCG/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
-
新ブランドの参入も!? 2025年に国内デビューするニューモデル【輸入車編】NEW 2025.1.29 2025年に国内導入が見込まれる、または導入が実現してほしい新型の輸入車を紹介。ドイツ車やフランス車などももちろん楽しみだが、2025年はBYDに続く中国ブランドの国内参入があるかもしれない!?
-
2025年は50周年! フォルクスワーゲンの小さな巨人「ポロ」の半世紀を振り返る 2025.1.27 2025年3月に生誕50周年を迎える「フォルクスワーゲン・ポロ」。日本でも広く親しまれてきたコンパクトなドイツ車は、この半世紀をどのように歩んできたのか? ここで、その歴史を振り返ってみよう。
-
アフィーラに宿るソニーの魂! ソニー・ホンダモビリティが提供する新しい移動体験の真価 2025.1.24 ソニー・ホンダモビリティが市販1号車「アフィーラ1」を世界初公開。同時に多数のコンテンツサプライヤーとのパートナーシップを発表した。彼らが提案する「新しい移動の喜び」とは? それを実現する仲間づくりは進んでいるのか? 発表の中身を深掘りする。
-
モデルもお店もイメージチェンジ! ロータスの大変革を新しいショールームから俯瞰する 2025.1.23 電動サルーン/SUVに代表される新世代商品群の投入に、新CIに基づいたショールームの展開……。ラグジュアリーブランドへの脱皮をもくろむロータスは、何を考え、どのような展望を見据えているのか? 来日したディーラー戦略のキーマンに聞いた。
-
「スズキ・スイフトスポーツ」の特別なファイナルモデルか、新型を待つか マニアはこう考える 2025.1.23 スズキは「スイフトスポーツ」の生産を2025年2月に終了し、入れ替わりに最終特別仕様車「ZC33Sファイナルエディション」のみを同年11月まで生産すると発表した。ZC33S型の最終モデルを狙うか、新型を待つか。マニアはこう考える。
-
NEW
“出たばかりのクルマ”は買わないほうがいいか?
2025.1.28あの多田哲哉のクルマQ&A「新車として出たばかりのクルマを買うと、初期トラブルに遭う可能性が高い」というのは本当なのか? そうであれば、われわれはどんな選択をすべきなのか。トヨタでさまざまなクルマの開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
メルセデスAMG A45 S 4MATIC+ファイナルエディション(4WD/8AT)【試乗記】
2025.1.28試乗記「メルセデスAMG A45 S 4MATIC+」に最後の限定車「ファイナルエディション」が登場。まずはそのいでたちに目を引かれるが、真に注目すべきはライバルの追随を許さない走りのパフォーマンスである。名残惜しいのは間違いないが、王者の引き際をこの目で見届けた。 -
2025年は50周年! フォルクスワーゲンの小さな巨人「ポロ」の半世紀を振り返る
2025.1.27デイリーコラム2025年3月に生誕50周年を迎える「フォルクスワーゲン・ポロ」。日本でも広く親しまれてきたコンパクトなドイツ車は、この半世紀をどのように歩んできたのか? ここで、その歴史を振り返ってみよう。 -
第302回:私は完全に間違っていた
2025.1.27カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。「XC40リチャージ」から「EX40」に名称が変更されたボルボの最新電気自動車で夜の首都高に出撃した。カーマニアの聖地、首都高・辰巳PAにいた外国人観光客とおぼしきギャラリーの反応を見て感じたこととは? -
ファンティック・キャバレロ スクランブラー700(6MT)【レビュー】
2025.1.27試乗記伊ファンティックのスクランブラーのなかでも、最大排気量を誇る「キャバレロ スクランブラー700」。デザインからして個性的なこのマシンは、見た目にたがわず“走り”も攻めたものだった。優等生なよそのバイクとは一味違う、その魅力をリポートする。 -
アストンマーティンDBX707(4WD/9AT)【試乗記】
2025.1.25試乗記最高出力707PS、最大トルク900N・mのメルセデスAMG製4リッターV8ツインターボを搭載する、アストンマーティンのハイパフォーマンスSUV「DBX707」がマイナーチェンジ。最新のインフォテインメントシステムを組み込み大きくリニューアルされたインテリアと、熟成した走りのハーモニーを味わった。