断捨離ということばもすっかり定着しましたが、『ぼくたちに、もうモノは必要ない。-断捨離からミニマリストへ』(佐々木典士著、ワニブックス)の著者も、「捨てる」ことによって価値観を変えることができたのだそうです。
持ちモノを自分に必要な最小限にする、ミニマリスト(最小限主義者)という生き方。その生き方を通して見えてきたのは、単に部屋がスッキリして気持ちがいいとか、掃除がしやすいとか表面的なメリットだけじゃなく、もっと本質について。つまりどう生きるか、誰もが求めてやまない「幸せ」を、自分の頭で考えなおしていくことだった。(「はじめに」より)
とはいっても、筆者自身もともとはモノを溜め込み、それが自分の価値や幸せにつながると感じていたのだそうです。が、振り返ってみれば、人とくらべてばかりいて、自分がすべきことがわからず混乱ばかりしていたのだとか。でも、モノをたくさん捨てた結果、毎日幸せを噛みしめながら生きられるようになったのだといいます。
そんな実体験があるからこそ、本書では「モノから一度離れてみること」を勧めているわけです。でも、モノを減らすためにはどうすればいいのでしょうか? 第3章「捨てる方法最終リスト55!!」から、いくつかを引き出してみたいと思います。
「捨てられない」という思い込みを「捨てる」
捨てられない「性格」は存在しないのだそうです。つまり、ただ自分で「捨てられない」と思い込んでいるだけだということ。ここで著者が引き合いに出しているのが、「学習性無力感」という心理学用語。実際には自分で改善できる状況で、その能力もあるのに、「捨てられない」という失敗を何度も味わうと、状況を改善しようという気持ちすらなくなっていってしまうということ。
でも、どうして捨てられないかを明確に意識できれば、そのうち捨てられるようになるもの。そして「捨てられないタイプ」も「捨てられない性格」も存在せず、自分が悪いわけでもなく、単に「捨てる技術」が未熟なだけ。だからこそ、「捨てられない」という思い込みを排除すべきだという考え方です。
僕は汚部屋に住んでいたが、今はミニマリスト部屋に住んでいる。ぼくが変わったのは、性格ではない。捨てるための技術と習慣を身につけたのだと思っている。(100ページより)
捨てることは「技術」
練習してもいないフランス語を、突然しゃべれるようになるなどということはありません。同じように、いきなり断捨離マスターになることも不可能。結果的にたくさんのモノを捨てた著者も、モノを減らし始めてから現在までに5年以上かかっているそうです。
ただし、捨てること自体には、時間はかからないものなのだといいます。1日目はまずゴミを捨てる。2日目は本やCDの買い取り。3日目は家電の買い取り。4日目は大きな家具を粗大ゴミに出す。というように、どれだけモノが大量にあっても、1週間あれば捨てきることが可能。そして忘れるべきでないのは、捨てる実作業ではなく、モノに対して見切りをつけるための時間が膨大にかかるだけだということ。
話せば話すほど外国語が上達するように、捨てれば捨てるほど、捨てることは上手になっていく。(中略)捨てることは、正しく「技術」である。(101ページより)
捨てられない理由を明確に感じ取る
「よし、モノを減らそう」と思い立ったとたんに、一晩でミニマリストへと生まれ変われる人は少ないもの。なぜなら先に触れたとおり、捨てるのは技術なので、最初はなかなか捨てられなくて当然だからです。つまり、「捨てられない」のは恥ずかしいことではないと著者。たとえ最初は捨てられなかったとしても、「なぜ、それが捨てられないのか」、その理由を明確に感じとっていくことが必要だといいます。
いきなり捨てられなくてもいい。まずは、捨てられない理由を明らかにすることだ。(103ページより)
「捨てて」後悔するモノはひとつもない
著者はモノであふれた汚部屋に住んでいたころからすると、持ちモノを5%くらいまで減らしたのだそうです。つまりモノが1000個あったとしたら、950個は捨てたということ。しかし、そのなかで捨てて後悔したモノはひとつもないそうです。あるいは、あったとしても全然思い出せないのだとか。心の底から「捨てなきゃよかった!」と後悔するモノは少なく、つまり所有物の価値とは、その程度の小さなモノだということ。
捨てる気持ちを邪魔するのは、「捨てた後に必要になったらどうしよう」「いつか『捨てなければよかった』と思う日が来るのでは?」という不安。しかし、そんな不安に対しては次のようにいい聞かせるべきだといいます。
「捨てて」後悔するモノはひとつもない。後悔しないばかりか、「捨ててよかった」とすべての捨てたモノに対してきっといえる。(107ページより)
複数あるモノは捨てる
簡単に捨てやすいのは複数あるモノ。ハサミや使っていないボールペンがたくさんあっても、それは意味のないこと。モノは用途ごとに1つあればいいというのが著者の考え方。そして、モノがどこにあるかわからなくなるのも、同じ用途のモノが複数あり、なおかつモノの住所が決まっていないので、複数の場所に散らばるから。複数あると、ストックの量も把握できなくなってしまうわけです。
ハサミを3つ持っているなら、いきなり1つに絞らなくてもいい。3つの中から1つを捨てることでもいい。選び方は簡単。お気に入りでないモノ、使ってないモノ、機能が劣っているモノを捨てよう。(中略)複数あるモノはなるべく数を減らし、最終的には1つにしていこう。(109ページより)
1年使わなかったモノは捨てる
使っていないモノは捨てる。これが、モノを減らすための鉄則。そして、「使う予定のないモノも捨てよう」と著者は提案しています。重要なのは、1年を通して使わなかったモノは、今後も必要がないモノだということ。だとすれば、来年もそれなしでなんの問題もなく過ごせるはず。だから、(災害に備える非常用の装備は別としても)、1年に1回も出番がないモノを手元に置く必要はないといいます。
ホコリが溜まっているモノは、必ず使っていない。1年使っていないモノは、来年も、再来年も、ずっと必要がない。3年に一度使うモノなどレンタルしよう。使っていないモノの維持・管理にお金もエネルギーもムダにするのはやめよう。(110ページより)
人の目線のためにあるモノは捨てる
ある水準以上に豊かになった人は、「自分の価値」をモノを通じて伝えようとするもの。だからこそ、「これは本当に自分が好きで使っているモノだろうか?」というように内省してみることが大切。他人からどう見られているかは、誰もが気になること。でも、人の目を意識して自分が消耗してしまうなら、それは無意味なこと。そこで、人の目線のためにあるモノは、いっそ手放してしまった方がいいと著者は主張しています。
モノの維持・管理に消耗せず、きちんと使っていて、使うことで喜びを感じさせてくれるモノが自分の好きなモノだ。ただ人の目線を気にしたモノは手放そう。(111ページより)
他にも、捨てるための方法が数多く紹介されています。また、モノを捨てることによって得たものを紹介する第4章「モノを捨て、ぼくが変わった12のこと」も説得力抜群。増え続けるモノに悩まされている人、少しでも快適に暮らしたいと願っている人には、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。
(印南敦史)