このコラムを読んでくださっている方は、少なからず本が好きなのではないかと思います。しかし購入に際しては、時代の変化とともにアマゾンなどのネット書店や電子書籍に移行している人も増えているはず。それはそれでまったく否定的なことではないのですが、「考えてみれば、リアル書店にはあまり足を運ばなくなった」という方にあえて読んでいただきたいのが、『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』(嶋浩一郎著、祥伝社新書)。
「本屋大賞」の立ち上げにも関わったクリエイティブ・ディレクターであり、下北沢で「B&B」という書店を経営する著者が、「本屋に行く」ことの価値を説いた書籍。第1章「なぜ本屋に行くのか ──情報との出会いを増やす歩き方」の、「本屋の歩き方・5カ条」を引き出してみます。
(1)本屋に行くのに目的はいらない(22ページより)
本屋に行く際、「なにかを探しに行く」という目的がなくても問題なし。「5分でも時間があったら本屋に行くことです」と著者は言っています。また、人と待ち合わせをするとしたら、書店の中がベスト。相手が遅れたとしても、「贅沢な情報収集の時間」になるからです。さらに、そこで「買うつもりはなかったのに、買ってしまった」となれば最高だとか。
(2)自分の持っている本を探してみる(22ページより)
初めての本屋に行ったら、まず自分のお気に入りの本がどこに置かれているか探してみるといいといいます。理由は、その本の周りにどんな本が置かれているかを見れば、本屋さんの個性や得意分野が一目瞭然だから。さらにおすすめできるのは、ワンフロアで回れるところだそうです。
(3)普段行かないコーナーに行ってみる(23ページより)
ふだん自分が行かないコーナーにあえて足を踏み入れてみると、そこには驚きの発見が。たとえば文系の人が理系のコーナーに行ってみたりすれば、「いままで目にもとめなかったけれど、ちょっとおもしろそうだな」というような、未知の関心事と出会えるかもしれないわけです。
(4)レジ横は見逃さない(23ページより)
本屋さんの意外な穴場が「レジ横」。なぜなら、その時々でのお店の一押しや「ついで買い」を狙ったものが置いてあるから。つまり、書店員さんの個性がそこに発揮されているのです。
(5)迷ったら買え(24ページより)
「迷ったらすべて買ってしまえ!」というのが著者の主張。大雑把にも思えますがこれは大切なことで、その理由は第3章「本は読むな! 捨てるな!」に書かれています。
いくらいい本でも売れなければ増刷されませんから、誰かが買ってしまったらもうその本屋に入ることはないかもしれません。ベストセラーであっても数年後にはもう手に入るかどうかわからないくらい、実は商品の入れ替わりが激しい業界なのです。(69ページより)
だからこそ、「少しでもピンときた本があれば、買う」が基本だとか。高い学術書などは別としても、1000円程度であれば、目についたものは片っ端から買ってしまうのがいいといいます。
なお「片っ端から買っても読み切れないし、もったいない」と思う人もいるでしょうが、その点についても著者は言及しています。
本は読まなくていい(70ページより)
買った本を読まずに積んでおく「積ん読(つんどく)」に罪悪感を覚える人は少なくありませんが、「罪の意識を感じる必要なんてまったくない」と著者は言い切ります。
買った本が積まれた状況は、自分が知りたいことや欲求の鏡だといえます。それが目に入るところにあって、日常的にざっと眺めるだけでも、相当な知的刺激になります。(71ページより)
だからこそ、積ん読しておくことは、「ほうっておいているように見えて、実はすごく意味のあること」だというわけです。
このように「本屋に行く楽しみ」はもちろんのこと、本との向き合い方までが書かれているため、本が好きな人ならきっと「ひさしぶりに本屋に行ってみようかな」という気分になれるはず。巻末には個性的な経営方針を持つ書店を66店もリストアップした「名書店リスト」もついていますので、好みに見合った書店と巡り会うためのきっかけになるかもしれません。
ぜひ手にとってみてください。同じ本好きとして、自信を持っておすすめします。
(印南敦史)