日本企業がアメリカ企業を買収する方法:企業買収チームをつくる

アメリカで事業を始めるシリーズ、前回は「アメリカ進出にあたってM&Aを活用すべき理由」であった。要約すると「ゼロから組織を立ち上げる」のはとても難しい。その点、既に存在するビジネスを買うのはトータルで見るとリスクが低いし、最初に「会社を買う」という大きな決断を迫られることで、正しい決意レベルに達することができる(本当はゼロから組織立ち上げでも同じくらいの決断がいるのだが)。

さて、では、企業買収を成功させるには何が必要なのか。

  • 企業買収チームをつくる

買う側の会社の規模にもよるが、最低1人は専任・常任にすること。この人の仕事は

– 関心ある領域の会社を洗い出し、その動向をウォッチする

– その会社の事業・ビジネスと、自社の既存の事業・ビジネス、またはこれからやろうとしていることを比較して競合分析する

– 業界内の会社の「相場」を知る

となります。どうやってそれをするか、というと例えばこんなこと。

– 業界関連情報を紙・インターネット等々で、常に収集

– 関連する業界の、ありとあらゆる展示会、コンファレンス等に世界各国で出る

– 面白そうな会社には、片っ端から会ってみて、その動向を理解する

– 業界内の投資・M&A情報を常に分析、「相場」を知る

特に大企業の場合は、こういうことを常にし続け、世の中がどうなっているかを、社内でかなり共有しておかないと、「すわ買収」という時になかなか動かず、「頭で考えても体がついてこない」状態になりやすい。

・・・・本当のことを言えば、こういうファンクションは実は買収なんかしない会社でも必要。グローバルに打って出ようとするなら、世界の競合状態がどうなっているかを知らずに自社事業を企画なんかできないですよね?

「競合を見ていない」「見ていても、日本の中しか見ていない」「世界の競合を見てはいるが、製品性能しか比較していない」といった問題を抱える会社も多いと思うが、「そうではない見方をするチーム」を作ることで改善できる。そして、そうして真の世界観を理解することが「正しいお買い物」につながる。

  • 企業買収チームの人員構成

さて、で、どういう人にこれをやらせるかなのだが、技術畑ひとすじの技術者に任せてはいけない。そういう人にこの仕事を渡すと、技術しか見ないから。もちろん技術は大事なのだが、それ以外にも、どんな提携をしているか、とか、どんな増資をしたか、といったことも、会社のモメンタムを理解するのに欠かせない。さらには

「根本的にすばらしい技術だし市場の可能性も大きい。しかし、たまたま特殊事情で株価が落ち込んでいる」

とか

「大株主のベンチャーキャピタルのお家事情でたたき売りされかねない状況」

みたいな、その会社の外側の要因もある。「本人(社)はスバラシイのに、外的環境でお安い」という、まさに「買い」状態なのだが、技術だけ見ていると、そうした「お値ごろ感」の相場が理解できない。

また、「情報収集」の要となる人なので、コミュニケーション能力は重要。英語ができるのは必要要件となります。

というわけで、ここは投資銀行・コンサル出身者的、MBA的な人がいいでしょう。とはいえ、技術的側面はもちろん重要なので、

「その人+パートタイムの技術者」

という感じがいいかと思います。

(以上、技術系企業であることを前提に書いていますが、そうでなくとも、「資本市場的感覚が分かる人フルタイム」+「ビジネスの中身が分かる人パートタイム」という感じが最低限のペアだと思います)。

なお、アメリカの会社で外部企業の買収を専門に見ている部門を

Corporate Development

という。M&Aが日常茶飯事のアメリカであっても、買う側が売る側に歩み寄るときは、最初は

「事業で何か提携できないかと思いまして、一度お話しませんか」

みたいに話を持ちかけたりするわけだが、いざミーティングとなると、Corporate Developmentという文字が入った名刺の人も一緒に参加しちゃったりするのでした。そうすると相手は

「おおー、買ってもらえるかも!」

と気合が入ってしまうのである・・・というか、Corporate Developmentって隠密行動を取るには不適切な部署名だと思うのだが、「買収のプロセスをこなす」という「非」隠密行動もあり、そちらが主流のことも多いのでまぁよいのでしょうか。

なお、日本の会社で、「社長室」みたいな部門を「Corporate Development」と訳しているのをたまに見かけるが、ちょっと違う。この名刺で登場したら「スワ買収」と思われてます。・・・相手をビビらせる、または喜ばせるには良いかもしれませんが。

ちなみに、たとえば、Ciscoでは、

「ベンチャー投資をする人」

「企業買収をする人」

「社内の事業企画をする人」

は同じ人。分野ごとのチームが、この3つを全て包括して、社内と社外を同時に天秤にかけて分析しながら、買収を最大限に活用した成長を続けています。

まだいろいろありますが、長くなったので、今日はここまで。

<参考>

イノベーションは外から買ってくるCisco

Ciscoのお買い物一覧グラフ

日本企業がアメリカ企業を買収する方法:企業買収チームをつくる」への1件のフィードバック

  1. いつも勉強になります。毎日ブログ更新ですごいですね。
    日本企業が米国企業をM&Aする際に、日米の文化の壁をどのようにするとうまく超えられるのか、という点に興味があります。
    Cisco等では、スタートアップを買収するとその会社をCisco色に染めてしまうようですが、そういったことは日本企業の場合はできないですよね。(グローバルで通用する社内文化をお持ちの企業もあると思いますが恐らく少数派ですよね)
    だとすると、ある程度独立に運営してもらうべきと思うのですが、その場合、どのように制御していくべきなのかなあ…と。

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