Ciscoはシリコンバレーの会社。インターネット通信の要になるルーターなる機器を作って起業したのが1984年。今では、売上$36 billion(約3兆5千億円)なり。1990年代からは、「イノベーションは社外から買ってくる」というトレンドのさきがけとなって、ばしばしと買収を繰り返してどんどん成長した。
そもそも大企業からは、なかなか革新的なイノベーションは生まれない。
Lilacさんのイノベーションが部署単位でしか起こらないことについてより
「一般的には企業ではコンポーネントレベルのイノベーションしか起こらず、アーキテクチャを変えるようなイノベーションは難しい。
なぜなら、企業の組織体系は、通常製品のアーキテクチャに沿ってサブグループ化されており、イノベーションはそのサブグループの中でしか起こらないからだ」
じゃどうするの、というのひとつの解が
「じたばたせずに外から買ってきましょう。」
でも、実際やると難しく、数件(または1件)でへろへろになってしまう会社が多いわけだが、Ciscoは何十社も買う、買う、買う、買う。そして買った会社の従業員の定着率のほうが最初からCiscoに就職した人より良い、なんていう金字塔を打ち立てたりして、ひたすら「買うイノベーション」をいかに生かすかに注力した会社。
で、最近では、そのCiscoが通信機器からどんどん多角化してコンテンツとかコンシューマデバイスなどなど、ちょっとでも通信に関係ありそうなものをがつがつと取り入れているけど、本当に大丈夫なの?という話をまとめたのがこちらのEconomistの記事。なかなか良くまとまってますので、通信機器業界などに興味がない方も、イノベーションとか多角化、というキーワードにご興味があれば。
Reshaping Cisco:
The world according to Chambers
ちなみにこのCiscoを率いるJohn Chambersは、1995年に売上$1.2 billionのCiscoのCEOになり、現在の$36 billionまで、年平均30%成長を実現してきた人であるが、子供の頃は学習障害(dyslexia)であった。今でも字を読むのがあまり得意ではないらしい、とCiscoの人が言ってました。
(なお、90年代のCiscoの巨大M&A案件の多くを手がけたのがインベストバンカーの東恵美子さん。JTPAのセミナーで二度話していただいたのだが、そのメモはここ(写真入)とかここ(大変詳しい)に)。
>そもそも大企業からは、なかなか革新的なイノベーションは生まれない。
まさに、自分が前々から思っていたことです。新しいことはベンチャーや大学の研究室からの方が生まれるのでしょうか?
大企業は、その大量生産能力や、ブランド、ネームバリュー、拡販能力のみに注力し、新しいイノベーションを生み出すのは、外(ベンチャーや大学の研究室)に任せた方がいいのでしょうか?
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> 90年代のCiscoの巨大M&A案件の多くを手がけたのがインベストバンカーの東恵美子さん。
うーん、この紹介はリンク先にもある本人からのプロフィールの抜粋だと思うのですが、ちょっとこういうのを見ると疑ってしまいます。
シスコのM&Aの特徴は、大型買収をしないことです。理由はリスクが高く、会社をマージさせるのが大変だから。M&Aによるファイナンス効果とそれによる経営陣がストックオプションでの一時的なウハウハ狙いでなく、イノベーションの芽を買うことが目的、という考えなのでしょう。なので、買収先の選定ではシスコとのマージが可能な企業カルチャーか、というのも特に重要なポイントだそうです。大型買収をしないことの例外が二つあり、LinksysとScientific Atlantaですが、これらは2003年と2005年です。それ以外に行っている100件以上のM&Aでは、スタートアップの企業を買って育てて自社ブランドとして売りだします。そしてCiscoからのM&Aが(ご存知のように)スタートアップへのExitの一つにもなっています。
というわけで、「90年代のCisco巨大M&A案件って何よ!?という疑問になるのです。実際に東様がどういう方か存じ上げませんが、こういうプロフィールを見ると他の部分も疑ってしまいます。
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chikaです。
はいはい、シスコの90年代の$1B以上の案件ですヨ。
96 Stratacom $4 Billion
99 Geotel $2B
99 Monterey $3.7B
99 Cerent $3.7B
99 IBM Network Hardware $2.2B
99 Pirelli $2.15B
Scientific Atlanta は$6.9BですがLinksysは$500 million。$500Mを90年代の貨幣価値・M&Aサイズに差し戻して大雑把に$200Mくらいでいいなら、上記以外に8社くらいあります。(あと、最近のでは07年のWebExもお忘れなく。$3.2Bです。2000年Arrowpoint $5.7B、02年Andiamo $2.5Bてのもあります。あとLinksysの$500Mより大きい案件は2000年以降で上記以外にこれまた8件くらいあります。)
それ以外はこちらをご覧アレ。
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_acquisitions_by_Cisco_Systems
東さん的には、一番大きい案件は2兆円規模だったそうです。それに比べると大して大型じゃないですが。
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使いたいと思っていたサービスを、IBM に買われてしまったことがありました。No. 1 なものを買うと、それを競争者からアクセス不能にすることもできますからね。強いです。
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なるほど、ちか様ご指摘の通りですね。完敗です。(笑)
Cisco自身が既に巨大なため、独禁法の制約などなどで「でかい買物はしない」といってるのに惑わされました。たまに戦略的にやってはいると。勉強になりました、有難うございます。
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リンクありがとうございます。
Ciscoって、「破壊的イノベーションはスピンオフして別組織で行え」っていうクリステンセンのイノベーションのジレンマの鉄則の逆を行ってるんですよね。
(通常、破壊的イノベーションは顧客層も売り方も違う上、市場が小さいので、既存組織では経営上の優先順位を落とされ、うまく育たないから。)
これが何でうまく行ってるのか、昔から不思議なんですよね。
またはうまく行ってないのか。
例えばLinksysなんかは確実に自社製品を破壊するイノベーションだと思うのですが、自社に取り込んで、それなりに成長させている。
もともとCiscoがこのような企業の買収を始めたのって、「自社製品をつぶすようなイノベーションの芽を早めに摘む」ためだって聞いたことがあったのですが、実際にはその多くが、自社の重要な商品ラインへと育ってるのを見るにつけ、いったいどうやってるのだろうと思います。
世の中のいろんなイノベーション事例を研究すると、自社組織でうまく行った例は皆無じゃないか、と思えるほど少ないですからね。
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私も大企業、もしくは政府系研究機関(JAXAやNASA、DARPAなど)はできる限り製造請負と部材開発に注力し、設計、構想を中小企業や大学、ベンチャー企業に任せるべきだと考えています。一方で動力分割式ハイブリッドエンジンやリチウムイオン二次電池、ネオジム磁石モーターのような巨額の研究開発費を必要とする基幹技術は継続的な研究開発活動を行う大企業グループや政府系研究機関でしか生まれないので、企業と政府機関の継続的なR&Dもおろそかにすべきではないと考えています。
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とはいってもシスコみたいなことが日本の会社に出来そうもないので、日本の社内から革命的なの起こせる方法ないかなーというのが潜伏中の私のテーマの一つだったんですが、その一貫として、自分の「個人の人生コンサルティング事業」のクライアントのオジさんをけしかけてちょっとした”革命的”新規事業を立ち上げたことがあるんですけれどね(まだ小さいですけどちょっとずつ大きくなってます)。
その場合、直属の上司に否決され、その上の上司に否決され、役員会でも否決され、社長に直談判してやっとGOサイン(ただし空き時間に)という「裏技的直訴の連続」を経て動く許可が出て、その後色んな大学とかとの連携を経てやっと初受注に至った時には、役員会で否決した役員が飲み会の時に「すまんかった」と言いに来たりしたそうです。
このプロセスを見る限り、
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一般的には企業ではコンポーネントレベルのイノベーションしか起こらず、アーキテクチャを変えるようなイノベーションは難しい。 なぜなら、企業の組織体系は、通常製品のアーキテクチャに沿ってサブグループ化されており、イノベーションはそのサブグループの中でしか起こらないからだ
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というのは「まさにその通り」でありまして、本当に「枠を外した動き」をしようと思うと、その「サブグループの代表」さんたちに毎度毎度否決され、否決されつつ一つ上のグループと掛け合い、また否決され……ながら上がって行く儀式を経ることが、『必要』なんだなあと思いました。
ただ、そういう「組織がキッチリある」ことが運営上の「キッチリさ」にとって必要という側面は消せずにあるので、まあ、「キッチリやることがその企業の長所にとって有望な会社(日本の会社って比較的そういうのであることが多いと思うわけですが)」の場合には、その「鈍重な組織」自体をゴッソリいじるのは現実的ではないと思うわけですよね。
だからこそ”基本方針としては”、「無茶苦茶カッチリした制度があるけど、建前の裏には裏道も用意されていて現実に対応する江戸時代方式」みたいな感じで、組織自体は鈍重なんだけど、無茶苦茶やる気があれば「裏道的に突破できる”文化”を用意する」というあたりが、日本における落としどころかなあと思っています。そういうのを「焚き付ける文化」は無茶真剣に用意するが、「組織」自体は旧時代方式のままであえて放っておくみたいな。「やる気があるならへこたれず直訴しろ」みたいなのが。
否決されまくりながら上って行って、最後に実現すると、そのプロセス自体が「根回しプロセス」も兼ねているので、無理矢理トップダウンに始めちゃった時みたいな「なんだよあいつら的反発」が少ない感じがあったんですよね。「あの時はそんなの絶対仕事にならんと思って俺否決してんけどな。コイツしつこくてさー」的なツナガリが各方面に行き渡るので。
と、言うわけで、「日本は個人が動きづらくてやだねー」と「思ってないでやっちゃえば結構自由度広いぜ」っていうのは身を以て示したいメッセージの一つでありますね。アメリカの方が不自由な側面だって結構あると思いますし。日本のちょっと「なあなあ的な部分」はうまいこと使うと相当な自由度がある文化が潜んでいると思います。うまいこと使えばですけど。
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>そもそも大企業からは、なかなか革新的なイノベーションは生まれない。
に関して、その後の、Lilacさんの引用を踏まえれば、
大企業はイノベーションを「販売」するまでに時間がかかり、中小企業はイノベーションを「販売」するのが早い。と言い換えられるとおもいます。
ですから、決して大企業でイノベーションが生まれないわけではないんですよね。
個人的には大企業のほうが労働者の所得・労働対比が低いですから、イノベーションを生み出す時間が存分にあるように感じています。
エネルギッシュな人は別として、食うや食わずではなかなかイノベーションには行き着かないですし。
イノベーションを生む(無料有料を問わず販売も含め)には、そのイノベーションに対して適切なフィールドを用意することが重要かと思います。
フィールドとは実証実験の場かもしれないし、予算かもしれない、はたまた優秀な技術者のコネかもしれない。
そういったフィールド探しも営業のうちだと認識すれば、大企業も中小企業もイノベーションを生み出すことは可能だと考えています。
なので、イノベーションに必要なのはブローカー(欧米的なニュアンスでの)ではないかと思ったりします。
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