ラグビー日本代表、できることやった 知将の采配ずばり
野沢武史の目
必要なこと。できること。やりたいこと。「need、can、want」はそれぞれ違う。南アフリカは自分たちのやりたいプレーを選択した。日本は必要なこと、できることをやり切った。
南アは序盤から球を動かした。彼らにとって、強豪の少ない1次リーグB組で楽に1位通過し、決勝ラウンドまでにチームを仕上げる算段だったはず。日本にとっては、パワーでゴリゴリと近場を攻められたり、高さを生かすハイパントを徹底されたりした方が嫌だった。
逆に日本は陣地を取るため、リアリズムに徹した。キック数は28本。これは一般的なチームとしても多い数字で、ボールを保持するラグビーを掲げるエディジャパンにとっては、この4年間で最もキックを蹴った試合だったのではないだろうか。
選手たちの我慢も素晴らしかった。CTB立川(クボタ)は球を持ち込んだ時、苦しい局面でも倒れず、「1秒」立って味方のサポートを待った。アタッキングエリアでのラインアウトでも、獲得を最優先し球を前に集めた。これまでの試合では見られなかった我慢だった。4年間鍛え抜いたフィジカルが、こうした「強い選択肢」につながった。体の我慢が、心の我慢を生み出していた。
戦術面に目を向けると、セットプレーからの1次の攻防で、ゲインラインに勝ったことが大きかった。攻撃では相手に食い込み、トライを奪った。ラインアウトからの防御でも、日本の上がりは極端なくらい速かった。戦いの常道で、先に殴った方が勝てる。そこで、日本が上をいった。
エディさんの勝負勘も光った。決勝トライを決めたWTBヘスケス(サニックス)を投入したのは後半38分。あの時間帯に、この日好調だった山田(パナソニック)から、人に強いヘスケスに代えた采配はずばり的中した。「ゲームは終わるまで終わらない」ことを知り尽くした知将の英断だった。ナンバー8マフィ(NTTコム)も、持ち味の突破力で南アの防御を何度も崩し、相手に傾きかけた流れを変えてみせた。
南アという大きな目標をしっかり定め、日本は組織、システム、戦略を超えて、「ゲインラインの奪い合い」というラグビーの本質的な部分で相手を上回った。さあ、W杯が面白くなってきた。
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のざわ・たけし 元日本代表フランカー。慶大―神戸製鋼。2008年度に引退後は慶大ヘッドコーチなどを歴任。現在は日本協会リソースコーチ。テレビ解説者としても活躍している。36歳。
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18日に開幕したラグビーW杯イングランド大会。世界的名将のエディ・ジョーンズ氏率いる日本代表を複数の識者が語り、ラグビーの多様な見方を紹介します。
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