「じゃ、持ってくるから」と言い置き、海風は海風に姿を変えてどこかへ吹き去った。
クチダケ鳥と智庵が思い出話などしていると、やがて東の海の端に、なにか黒い物体が現れた。
つばの広い山の高いソンブレラ帽のような影形。みるみるこちらに近づいて来る。
ぐるりとそびえる高い壁、ツンと突き立つ物見櫓(やぐら)。櫓のてっぺんにはためくは、穴の空いた灰色旗。
あれが浮遊砦か。波立つ海面の十数メートル上を音も無く走る。
飛んで出迎えたクチダケ鳥に、砦を押してきた風がヒュウヒュウうなる。
「お待たせー。そこにある碇(いかり)、落としてくれない?」
クチダケ鳥は上空から砦を見下ろした。
敷地のすみに、人の体ほどある大きなドラム。長々と鎖が巻かれている。
舞い降りてみると、鎖の先端に銀碇が付いている。人の手のひらほどしかない。
「ひゃ、小さ! こんな軽い碇、利くんやろか」
クチダケ鳥の疑問に、海風が応えた。
「魔法の砦を留めるんだ、重量は関係ない。僕達が留まるべき場所なら、きっちり利くはずさ」
ほなええか、とクチダケ鳥は碇をクチバシにくわえた。あたりを見回す。
小さな井戸があった。のぞき込む。底が無い。穴の向こうに、騒ぎ立つ白波。
(なーる。ここやな)
碇を投げ落とす。鎖がスルスルと碇の後を追う。パシャンという音、小さな波飛沫。風向きがふっと変じた。
井戸を離れたクチダケ鳥の耳に、ギィギィギィ、という重い音が響いた。
人型に変じた海風が、砦の外周壁の横で、何かのハンドルを勢いよく回している。
と、壁の一端が切れ、向こう側へと橋を架けるように開き始めた。跳ね橋門だ。
橋が完全に架かかったところで、向こうから智庵が渡ってきた。
「おお、良い砦ですね。簡素で見たまま、わかりやすい」
「智庵はこういう造りがええもんな。うちも、あんまりややこしのは好かんけど」
魔法の砦にもいろいろある。
理論堅固砦、婉曲屈折砦、メタネタツリ砦、虚虚実実砦・・・人の好みの数だけある。攻撃力・防御力も万別だ。
「ここの防御は外壁一枚か。相手が壁を越えてきたら厄介やで。自分の力だけが頼りや」
「常に上空にいればいい。危険そうなヤツと接触したいなら、したい者だけが降りる。砦に招くのは僕らと同じタイプに絞ったほうがいいかも」
海風が言って、「お?」と首をかしげた。
門のかたわらに人影。諸刃(もろは)の荒太刀を引っ提げ、うら若き乙女が立っていた。
乙女の名は児兎(こと)。クチダケ鳥の知人である。
獣の毛皮を身にまとい、ほっそりとした肩腕と両脚を惜しげもなく風にさらしている。
「いらっさい、蛮族の嬢さん。ようここがわかったね」
「偏屈岩窟を訪ねたらお留守でしたから。誘結印をたどって来たの」
「そか。どしたん?・・・なんぞ、やらはったな」
「こちらを見下し哂う無礼な民と遭遇しまして。ちょっと吼えちゃいました。がおーっ!」
乙女の獅子吼に、櫓の木柱がビリビリ震えた。
「あ! あの雄叫び、嬢さんやったか。智庵と待ってるとき、ここまで聞こえてきたで」
児兎の紅潮する頬を、クチダケ鳥はにんまり笑う。
「んで、うちに援護を頼みに?・・・来たわけではなさそうやな」
児兎は朗らかに笑う。
「私は私で、手探りでフィールドワークしてみます。相手と戦いたいわけじゃないし。参考に、クチダケ氏の1年前のレポートをお借りしたいと伝えに来ました。それでは」
一礼し、児兎は荒太刀を振り振り、帰って行った。
見送るクチダケ鳥が、ぽつんと言った。
「身の軽い御人や。若いってええわ。せやけど、あの太刀は・・・まぁ、使うてみなわからんな」
夕闇が降りてきた。海風は夕凪を吹かせに出かけた。
智庵が、砦のあちこちに据えつけられた篝火台に火をともし歩く。
クチダケ鳥は櫓の先に飛んだ。気になっていたものがある。
「こんな旗、いやや。こっちにしよ」
ボロ旗をひっぱがし、暗闇に投げ捨てた。誘結印を取り出す。
呼び出した過去の空間から掴み出したのは、とっておきの旗。支柱の先端に結び付けた。
闇で色は見えない。しかし明日になれば、太陽が真の色を明かしてくれる。
「よっしゃ。さ! まずは、どこ行こや?」
2006年12月に始まった異文化交流議論は、「はてなサービス(はてなダイアリー・はてなブックマーク)」と「Yahoo!ブログサービス」のユーザーが衝突した形で幕を切って落としました。
このきっかけとなった事件そのものを客観的・中立的に評するならば、「衝突」という言葉は不穏当かもしれません。ごく一部のユーザーどうしの話であり、互いの嗜好・ブログに見出している価値観の違いが生んだ一瞬の摩擦熱のようなものであったからです。
しかし、その後の経緯を見ると、「衝突」という表現もあながち不適切ではない、と私は考えます。
◆辺境の民が歯をむき出して下品にわめいてみた
◆konichanさんへの返信
一方が他方を「○○ユーザーだから▲▲なのだ(かなり侮蔑的な表現)」と根拠無く規程する発言をし、さらに発言者と同じサービスのユーザー群(非常に議論好きなユーザー群)がその点について全く自己検証しなかった。だからこそ「▲▲である」と不当に決め付けられた側が「その発言に異議あり」と反論し、問題提起した。
これは、対等と互いが認識している者どうしの議論ではなく、一方が他方に(もしかしたら双方が双方に)偏見をもっているという土壌のうえで発生した「異文化衝突」と見たほうが、その構造をよく捉えています。
問題提起したトンコ氏の記事に対し、はてなサービスユーザーから、問題の本質に迫る応答はありませんでした。それはまあ、期待はずれではあったが、どうということはありません。
異文化交流議論チームのメンバーは、もともと、他者の記事を批評・批判するかたちでテーマを掘り下げてゆくというスタイルを好まないブロガーです。議論はすぐに、きっかけとなった特定の事件を論じることから離れました。
テーマは、ブログ論でも、コミュニケーション論でもない。
自分達の日常にある「異文化」とどう向き合うか。どう関わってゆくか。それを自ら考え答えを探ることこそが、異文化交流議論チームの真のテーマとなっています。
クチダケ鳥と智庵が思い出話などしていると、やがて東の海の端に、なにか黒い物体が現れた。
つばの広い山の高いソンブレラ帽のような影形。みるみるこちらに近づいて来る。
ぐるりとそびえる高い壁、ツンと突き立つ物見櫓(やぐら)。櫓のてっぺんにはためくは、穴の空いた灰色旗。
あれが浮遊砦か。波立つ海面の十数メートル上を音も無く走る。
飛んで出迎えたクチダケ鳥に、砦を押してきた風がヒュウヒュウうなる。
「お待たせー。そこにある碇(いかり)、落としてくれない?」
クチダケ鳥は上空から砦を見下ろした。
敷地のすみに、人の体ほどある大きなドラム。長々と鎖が巻かれている。
舞い降りてみると、鎖の先端に銀碇が付いている。人の手のひらほどしかない。
「ひゃ、小さ! こんな軽い碇、利くんやろか」
クチダケ鳥の疑問に、海風が応えた。
「魔法の砦を留めるんだ、重量は関係ない。僕達が留まるべき場所なら、きっちり利くはずさ」
ほなええか、とクチダケ鳥は碇をクチバシにくわえた。あたりを見回す。
小さな井戸があった。のぞき込む。底が無い。穴の向こうに、騒ぎ立つ白波。
(なーる。ここやな)
碇を投げ落とす。鎖がスルスルと碇の後を追う。パシャンという音、小さな波飛沫。風向きがふっと変じた。
井戸を離れたクチダケ鳥の耳に、ギィギィギィ、という重い音が響いた。
人型に変じた海風が、砦の外周壁の横で、何かのハンドルを勢いよく回している。
と、壁の一端が切れ、向こう側へと橋を架けるように開き始めた。跳ね橋門だ。
橋が完全に架かかったところで、向こうから智庵が渡ってきた。
「おお、良い砦ですね。簡素で見たまま、わかりやすい」
「智庵はこういう造りがええもんな。うちも、あんまりややこしのは好かんけど」
魔法の砦にもいろいろある。
理論堅固砦、婉曲屈折砦、メタネタツリ砦、虚虚実実砦・・・人の好みの数だけある。攻撃力・防御力も万別だ。
「ここの防御は外壁一枚か。相手が壁を越えてきたら厄介やで。自分の力だけが頼りや」
「常に上空にいればいい。危険そうなヤツと接触したいなら、したい者だけが降りる。砦に招くのは僕らと同じタイプに絞ったほうがいいかも」
海風が言って、「お?」と首をかしげた。
門のかたわらに人影。諸刃(もろは)の荒太刀を引っ提げ、うら若き乙女が立っていた。
乙女の名は児兎(こと)。クチダケ鳥の知人である。
獣の毛皮を身にまとい、ほっそりとした肩腕と両脚を惜しげもなく風にさらしている。
「いらっさい、蛮族の嬢さん。ようここがわかったね」
「偏屈岩窟を訪ねたらお留守でしたから。誘結印をたどって来たの」
「そか。どしたん?・・・なんぞ、やらはったな」
「こちらを見下し哂う無礼な民と遭遇しまして。ちょっと吼えちゃいました。がおーっ!」
乙女の獅子吼に、櫓の木柱がビリビリ震えた。
「あ! あの雄叫び、嬢さんやったか。智庵と待ってるとき、ここまで聞こえてきたで」
児兎の紅潮する頬を、クチダケ鳥はにんまり笑う。
「んで、うちに援護を頼みに?・・・来たわけではなさそうやな」
児兎は朗らかに笑う。
「私は私で、手探りでフィールドワークしてみます。相手と戦いたいわけじゃないし。参考に、クチダケ氏の1年前のレポートをお借りしたいと伝えに来ました。それでは」
一礼し、児兎は荒太刀を振り振り、帰って行った。
見送るクチダケ鳥が、ぽつんと言った。
「身の軽い御人や。若いってええわ。せやけど、あの太刀は・・・まぁ、使うてみなわからんな」
夕闇が降りてきた。海風は夕凪を吹かせに出かけた。
智庵が、砦のあちこちに据えつけられた篝火台に火をともし歩く。
クチダケ鳥は櫓の先に飛んだ。気になっていたものがある。
「こんな旗、いやや。こっちにしよ」
ボロ旗をひっぱがし、暗闇に投げ捨てた。誘結印を取り出す。
呼び出した過去の空間から掴み出したのは、とっておきの旗。支柱の先端に結び付けた。
闇で色は見えない。しかし明日になれば、太陽が真の色を明かしてくれる。
「よっしゃ。さ! まずは、どこ行こや?」
2006年12月に始まった異文化交流議論は、「はてなサービス(はてなダイアリー・はてなブックマーク)」と「Yahoo!ブログサービス」のユーザーが衝突した形で幕を切って落としました。
このきっかけとなった事件そのものを客観的・中立的に評するならば、「衝突」という言葉は不穏当かもしれません。ごく一部のユーザーどうしの話であり、互いの嗜好・ブログに見出している価値観の違いが生んだ一瞬の摩擦熱のようなものであったからです。
しかし、その後の経緯を見ると、「衝突」という表現もあながち不適切ではない、と私は考えます。
◆辺境の民が歯をむき出して下品にわめいてみた
◆konichanさんへの返信
一方が他方を「○○ユーザーだから▲▲なのだ(かなり侮蔑的な表現)」と根拠無く規程する発言をし、さらに発言者と同じサービスのユーザー群(非常に議論好きなユーザー群)がその点について全く自己検証しなかった。だからこそ「▲▲である」と不当に決め付けられた側が「その発言に異議あり」と反論し、問題提起した。
これは、対等と互いが認識している者どうしの議論ではなく、一方が他方に(もしかしたら双方が双方に)偏見をもっているという土壌のうえで発生した「異文化衝突」と見たほうが、その構造をよく捉えています。
問題提起したトンコ氏の記事に対し、はてなサービスユーザーから、問題の本質に迫る応答はありませんでした。それはまあ、期待はずれではあったが、どうということはありません。
異文化交流議論チームのメンバーは、もともと、他者の記事を批評・批判するかたちでテーマを掘り下げてゆくというスタイルを好まないブロガーです。議論はすぐに、きっかけとなった特定の事件を論じることから離れました。
テーマは、ブログ論でも、コミュニケーション論でもない。
自分達の日常にある「異文化」とどう向き合うか。どう関わってゆくか。それを自ら考え答えを探ることこそが、異文化交流議論チームの真のテーマとなっています。