しみじみと心動かされる
「私の勘違いだったかもしれないけれど、撥は月にも縁がないわけではないもの。ここを隠月(いんげつ)と言うでしょう」と、琵琶の、撥をおさめるところを指して、くつろいで言い合っている二人は、まるで今まで想像していたのとは違い、じつに親しみやすそうで魅力的である。昔の物語などで語り継がれていて、若い女房たちが読んでいるものを聞くと、かならずこんな山里に思いがけない姫君がいて……、などと言っているけれど、まさかそんなことがあるはずないと腹立たしくも思えるのだが、なるほどこうも心惹かれることが隠れたところにはある世の中なのか、と姫君たちに思いが移りそうである。霧が深いので、姫君たちの姿ははっきりとは見えそうもない。また月がさし出(い)でてくれないものかと思っていると、奥のほうから女房が「どなたかお越しです」と知らせたのか、簾を下ろしてみな奥へ入ってしまった。それでも慌てた様子はなく、穏やかな物腰でそっと身を隠す二人の様子は、衣擦(きぬず)れの音もせず、じつにやわらかでいたわしくもあり、さらにたいそう気高く優美なので、中将はしみじみと心動かされる。
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