【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】「事故があっても原発再稼働を推進するのか?」総選挙受け各党に公開質問状 多くが〝無視〟し、答えたのは4党のみ 回答の中身は―
- 2024/10/22
- 17:29
福島第一原発の事故による放射能汚染で帰還困難区域の指定が続く福島県双葉郡浪江町津島地区。国や東電に原状回復と完全賠償を求めて住民たちが起こした「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」(仙台高裁で控訴審係争中)の原告団と弁護団が衆院解散・総選挙を受けて各党に公開質問状を送付。回答が21日、公表された。原発再稼働に対する考え方など3項目についた質したが、回答を寄せたのは立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社民党の4党だけだった。岸田政権下で「原発推進」に大きく舵を切った自民党。石破政権の考え方を示すことすらなく、原告団長は「回答して欲しかった」と語った。

【「事故を終わったことにするな」】
公開質問状の問いは次の3点。
①福島原発事故後、ふるさとへ帰還できない事態に対する政府、各党の認識
②津島地区をはじめ原発被災地の復興が実現できない状況のもとで原発再稼働政策を推進するか
③今後、他の原発過酷事故が発生した場合には、同様の政策を取るか
今月7日付で石破茂首相と11の政党に送付されたが肝心の政府与党は回答せず、野党も多くが無視。20日までに回答を寄せたのは立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社民党の4党だけだった(選挙前の議席数順)。
①について、各党は次のように答えている(要旨)。
立憲「皆様の願いを実現させるため、国が責任を持って事故からの復興、県外避難者を含めた避難者の最後の一人に至るまでの支援を進めるべき。立憲民主党は引き続き、原発事故で避難された方々に寄り添い続け、将来の帰還困難区域全ての避難指示の解除に向けて、除染、帰還に必要な生活環境の整備、福島県外避難者への支援の継続・拡充などに全力を挙げて取り組む」
共産「避難指示が解除されても、暮らしを支える商店や病院がなかなか整わないなど帰還と復興を進める上での課題は山積。ところが政府は、避難指示解除を口実に賠償を打ち切り、事故を終わったことにしようとしている。絶対に認めるわけにはいかない。全面的な賠償をはじめ暮らし・地域の再建まで、政府と東電が責任を果たすべき。賠償と除染、生活支援、復興支援で、不当な『線引き』をせずに、いわゆる『自主避難者』を含むすべての被災者・被害者を対象にすることを求める」
国民「福島の復興・再生は今後とも最重要課題であり、『復興と廃炉の両立』に向け、東京電力福島第一原子力発電所の着実な廃炉、風評被害対策、適切な賠償等を進めるため、あらゆる政策手段を投入する。また、ALPS処理水の海洋放出については、安全性確保や風評払拭に向け必要な対策を進める。こうした取り組みを通じ、被災地の復興と産業発展に向けて、東日本大震災によって残された多くの課題に全力で取り組む」
社民「事故によってふるさとでの生活、なりわい、コミュニティなどが奪われていることに対して深い悲しみを抱くとともに、事故を起こした東京電力と今なお原発を推進する政府・自民党政権へ強い憤りを覚える。ふるさとへ帰還できるように、一刻も早く除染を終わらせるべき。また、ふるさとへ帰還できないことへの慰謝料を支払うべき」


総選挙にあたり、「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の原告団と弁護団は政府と各党に公開質問状を送付。原発政策についての考え方などを質したが、回答を寄せたのは4党だけだった
【国民「原子力は重要な選択肢」】
2番目の問いへの回答では、原発再稼働に対する各党の違いが浮き彫りになった。
国民は「原子力は発電時にCO2を排出しない」などとして、再稼働に前向きな姿勢を示した。
「原子力は発電時にCO2を排出しないという観点から、カーボン・ニュートラルに大きく寄与する。加えて、エネルギー価格高騰が叫ばれる昨今において、原子力は資源価格の影響を受けにくく、出力が安定的であるという観点から、エネルギー安全保障にも大きく寄与する。以上のことから、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、安全確保を最優先としつつ、原子力を我が国の電力供給基盤における重要な選択肢と位置付け、当面の間は原子力エネルギーを利用する」
他の3党は、再稼働を明確に否定した。
立憲「原子力発電所の新設・増設は行わず、全ての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定を目指す。地域ごとの特性を生かした再生可能エネルギーを基本とする分散型エネルギー社会を構築し、あらゆる政策資源を投入して、原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現する」
社民「原発を即時停止し、原発並びに原子力関連施設の廃止に向けた『原発ゼロ基本法案』を早期に成立させ、具体的なロードマップを作成していく」
共産「世界有数の地震国・津波国・火山国である日本で、原発の最大限活用・新規建設という道は、無謀そのもの。日本共産党は、今稼働中の原発をただちに止め、原発は再稼働させず、すみやかに原発ゼロを実現するよう主張している。政府は東京電力と一体となって、『稼ぐことが福島事業への貢献』(経産省東電・1F委員会「東電改革提言」2016年12月)だとして東京電力・柏崎刈羽原発を再稼働させようとしている。事故被害者に対する賠償などの責任を原発再稼働の口実とするなど、事故被害者を愚弄する自民・公明政権を許すわけにはいかない」
なお、回答を寄せなかった自民党は、岸田政権下で「原発推進」に大きく舵を切った。総選挙にあたって公表した「政権公約」のなかでも「パリ協定の1・5℃目標を達成するため、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の確保の両立を目指し、徹底した省エネ・再エネの最大限の導入、原子力の活用など脱炭素効果の高い電源を最大限活用します」、「東京電力福島第一原子力発電所事故への真摯な反省を出発点に、国民の原子力発電に対する不安をしっかりと受け止め、二度と事故を起こさない取組みを続けます。原子力規制委員会により厳しい安全性基準への適合が認められた原子力発電所については、立地自治体等関係者の理解と協力のもと再稼働を進めます」と記している。


前例を踏襲し、福島県いわき市小名浜で〝第一声〟を行った石破首相。自民党が公表した「政権公約」では、「原子力の活用」が明記されている
【原告団長「国の政策見直せ」】
「この機会に、各政党の原発事故に対する基本的な認識を問うべきだろうということで行ったが、やはり自民党には回答して欲しかった」
電話取材に応じた原告団長の今野秀則さんは残念そうに話した。
原発事故発生から13年半余。2015年9月の提訴から数えても9年以上の月日が流れた。高濃度の放射能汚染のため、津島地区は全域が帰還困難区域に指定された。ごくごく一部を除き、現在も解除されていない。地域も住まいもコミュニティも伝統芸能も壊された。今野さんは法廷の内外で、次のように訴え続けている。
「ふるさとは代替え不可能な場所」
「このまま除染せずに放置されれば私たちは廃村・棄民を強いられ、ふるさとを失いかねない」
「私たちは地域で生きる喜びや生きがいの一切を奪われ、いつ帰れるとも分からない苦境に追い込まれている」
「決して金目が目当てではない。ふるさとが汚されたままに放置されず以前の環境を取り戻したい、ふるさとでの平穏な生活を取り戻したい。その一念だけ」
「国土の一部を失うような原発事故が現実に起きて、いつ帰れるのかさえ分からない。国の政策を根本から見直さないと再び、同じような事故を起こすのは間違いないと思う」
しかし、自公政権は脱原発どころか逆に、原発推進にまい進している。公開質問状には「政府はなぜ、失われたふるさと、失われた国土を取り返すこともしないまま、再び危険な原発推進政策を取り続けるのでしょうか」との一文が添えられた。しかし、それに対する自公からの回答はなかった。
弁護団共同代表の原和良弁護士は「総選挙に向けて、有権者の選択の資料として活用いただければ幸い。総選挙後の国会においても、浪江町津島地区の除染・復興政策(原状回復)について政府や各党に対して働きかけを継続していく」とのコメントを寄せた。
なお、公開質問状はこちら、4党の回答はこちらをクリックすると、全文を読むことができる。
(了)

【「事故を終わったことにするな」】
公開質問状の問いは次の3点。
①福島原発事故後、ふるさとへ帰還できない事態に対する政府、各党の認識
②津島地区をはじめ原発被災地の復興が実現できない状況のもとで原発再稼働政策を推進するか
③今後、他の原発過酷事故が発生した場合には、同様の政策を取るか
今月7日付で石破茂首相と11の政党に送付されたが肝心の政府与党は回答せず、野党も多くが無視。20日までに回答を寄せたのは立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社民党の4党だけだった(選挙前の議席数順)。
①について、各党は次のように答えている(要旨)。
立憲「皆様の願いを実現させるため、国が責任を持って事故からの復興、県外避難者を含めた避難者の最後の一人に至るまでの支援を進めるべき。立憲民主党は引き続き、原発事故で避難された方々に寄り添い続け、将来の帰還困難区域全ての避難指示の解除に向けて、除染、帰還に必要な生活環境の整備、福島県外避難者への支援の継続・拡充などに全力を挙げて取り組む」
共産「避難指示が解除されても、暮らしを支える商店や病院がなかなか整わないなど帰還と復興を進める上での課題は山積。ところが政府は、避難指示解除を口実に賠償を打ち切り、事故を終わったことにしようとしている。絶対に認めるわけにはいかない。全面的な賠償をはじめ暮らし・地域の再建まで、政府と東電が責任を果たすべき。賠償と除染、生活支援、復興支援で、不当な『線引き』をせずに、いわゆる『自主避難者』を含むすべての被災者・被害者を対象にすることを求める」
国民「福島の復興・再生は今後とも最重要課題であり、『復興と廃炉の両立』に向け、東京電力福島第一原子力発電所の着実な廃炉、風評被害対策、適切な賠償等を進めるため、あらゆる政策手段を投入する。また、ALPS処理水の海洋放出については、安全性確保や風評払拭に向け必要な対策を進める。こうした取り組みを通じ、被災地の復興と産業発展に向けて、東日本大震災によって残された多くの課題に全力で取り組む」
社民「事故によってふるさとでの生活、なりわい、コミュニティなどが奪われていることに対して深い悲しみを抱くとともに、事故を起こした東京電力と今なお原発を推進する政府・自民党政権へ強い憤りを覚える。ふるさとへ帰還できるように、一刻も早く除染を終わらせるべき。また、ふるさとへ帰還できないことへの慰謝料を支払うべき」


総選挙にあたり、「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の原告団と弁護団は政府と各党に公開質問状を送付。原発政策についての考え方などを質したが、回答を寄せたのは4党だけだった
【国民「原子力は重要な選択肢」】
2番目の問いへの回答では、原発再稼働に対する各党の違いが浮き彫りになった。
国民は「原子力は発電時にCO2を排出しない」などとして、再稼働に前向きな姿勢を示した。
「原子力は発電時にCO2を排出しないという観点から、カーボン・ニュートラルに大きく寄与する。加えて、エネルギー価格高騰が叫ばれる昨今において、原子力は資源価格の影響を受けにくく、出力が安定的であるという観点から、エネルギー安全保障にも大きく寄与する。以上のことから、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、安全確保を最優先としつつ、原子力を我が国の電力供給基盤における重要な選択肢と位置付け、当面の間は原子力エネルギーを利用する」
他の3党は、再稼働を明確に否定した。
立憲「原子力発電所の新設・増設は行わず、全ての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定を目指す。地域ごとの特性を生かした再生可能エネルギーを基本とする分散型エネルギー社会を構築し、あらゆる政策資源を投入して、原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現する」
社民「原発を即時停止し、原発並びに原子力関連施設の廃止に向けた『原発ゼロ基本法案』を早期に成立させ、具体的なロードマップを作成していく」
共産「世界有数の地震国・津波国・火山国である日本で、原発の最大限活用・新規建設という道は、無謀そのもの。日本共産党は、今稼働中の原発をただちに止め、原発は再稼働させず、すみやかに原発ゼロを実現するよう主張している。政府は東京電力と一体となって、『稼ぐことが福島事業への貢献』(経産省東電・1F委員会「東電改革提言」2016年12月)だとして東京電力・柏崎刈羽原発を再稼働させようとしている。事故被害者に対する賠償などの責任を原発再稼働の口実とするなど、事故被害者を愚弄する自民・公明政権を許すわけにはいかない」
なお、回答を寄せなかった自民党は、岸田政権下で「原発推進」に大きく舵を切った。総選挙にあたって公表した「政権公約」のなかでも「パリ協定の1・5℃目標を達成するため、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の確保の両立を目指し、徹底した省エネ・再エネの最大限の導入、原子力の活用など脱炭素効果の高い電源を最大限活用します」、「東京電力福島第一原子力発電所事故への真摯な反省を出発点に、国民の原子力発電に対する不安をしっかりと受け止め、二度と事故を起こさない取組みを続けます。原子力規制委員会により厳しい安全性基準への適合が認められた原子力発電所については、立地自治体等関係者の理解と協力のもと再稼働を進めます」と記している。


前例を踏襲し、福島県いわき市小名浜で〝第一声〟を行った石破首相。自民党が公表した「政権公約」では、「原子力の活用」が明記されている
【原告団長「国の政策見直せ」】
「この機会に、各政党の原発事故に対する基本的な認識を問うべきだろうということで行ったが、やはり自民党には回答して欲しかった」
電話取材に応じた原告団長の今野秀則さんは残念そうに話した。
原発事故発生から13年半余。2015年9月の提訴から数えても9年以上の月日が流れた。高濃度の放射能汚染のため、津島地区は全域が帰還困難区域に指定された。ごくごく一部を除き、現在も解除されていない。地域も住まいもコミュニティも伝統芸能も壊された。今野さんは法廷の内外で、次のように訴え続けている。
「ふるさとは代替え不可能な場所」
「このまま除染せずに放置されれば私たちは廃村・棄民を強いられ、ふるさとを失いかねない」
「私たちは地域で生きる喜びや生きがいの一切を奪われ、いつ帰れるとも分からない苦境に追い込まれている」
「決して金目が目当てではない。ふるさとが汚されたままに放置されず以前の環境を取り戻したい、ふるさとでの平穏な生活を取り戻したい。その一念だけ」
「国土の一部を失うような原発事故が現実に起きて、いつ帰れるのかさえ分からない。国の政策を根本から見直さないと再び、同じような事故を起こすのは間違いないと思う」
しかし、自公政権は脱原発どころか逆に、原発推進にまい進している。公開質問状には「政府はなぜ、失われたふるさと、失われた国土を取り返すこともしないまま、再び危険な原発推進政策を取り続けるのでしょうか」との一文が添えられた。しかし、それに対する自公からの回答はなかった。
弁護団共同代表の原和良弁護士は「総選挙に向けて、有権者の選択の資料として活用いただければ幸い。総選挙後の国会においても、浪江町津島地区の除染・復興政策(原状回復)について政府や各党に対して働きかけを継続していく」とのコメントを寄せた。
なお、公開質問状はこちら、4党の回答はこちらをクリックすると、全文を読むことができる。
(了)