fc2ブログ

記事一覧

【原発避難者から住まいを奪うな】「子を守るための避難。なぜ故郷から訴えられなければならないのか」女性原告が意見陳述~東京地裁で「住まいの権利裁判」第11回口頭弁論

一昨年3月、国家公務員宿舎に入居する区域外避難者11人が福島県知事を相手取って起こした損害賠償請求訴訟(「住まいの権利裁判」)の第11回口頭弁論が10月21日午後、東京地裁103号法廷(小池あゆみ裁判長)で行われた。40代の女性原告が意見陳述。「お腹の子どもの命を守るために避難した」、「未来ある子どもの命を守るために起こした行動で、なぜ訴えられなければならないのか」などと訴えた。福島県の代理人を務める湯浅亮弁護士はオンライン出廷。改めて「法の欠缺状態にはない」、「本件福島県知事決定に違法な点はない」などの主張をくり返した。次回期日は1月27日14時。
2024110321371003b.jpg


【「お腹の子を守らなきゃ…」】
 福島第一原発の爆発事故で60㎞離れた中通りにも放射性物質が飛散し、汚染が拡がった。女性の妊娠が分かったのは、事故発生から4カ月後の2011年7月だった。
 「結婚12年目にして待望の第一子でした。自宅は福島市のなかでも放射線量の高い地域にあったため、まず西に5㎞ほどのところに転居しました。さらに、放射能による健康被害を心配する夫や両親の強い勧めもあり、不安な気持ちと酷いつわりのなか、お腹の子どもの命を守るために福島市から埼玉県に避難。国家公務員宿舎に入りました」
 身重での原発避難は、どれほど大変だったか。心身への負担は大きく、妊娠9カ月目には切迫早産で緊急入院したという。
 あれから13年。女性は福島県による反訴(追い出し訴訟)で「被告」になった。
 「いま想うことは、『未来ある子どもの命を守るために起こした行動で、なぜ訴えられなければならないのか』ということです。生まれも育ちも福島県です。きっと福島で子育てをして人生を送っていくだろうと想っていました。夫は仕事があり、福島で生活していますが、子どものためにがんばってくれています。でも私はワンオペ育児です。頼れる親族や友だちが近くにいないため、1人で子育てをしなければなりませんでした。まさか、母子避難で家族がバラバラに生活しなければならないことになるとは、想像もしていませんでした」
 当然だが、何も好き好んで埼玉県で暮らしているわけではない。原発事故さえなければ、被曝リスクのある放射性物質拡散さえなければ、福島市で夫や子どもと楽しく暮らしていたはずだ。政府の避難指示が出されなかったというだけで、なぜ住まいを追われなければならないのか。
 「いまの生活は、決して自ら選んだわけではありません。避難という形で福島を離れなければならなかったからです。福島第一原発の事故がなければ、家族がバラバラに生活するなど決してなかったのです」
「二重生活で大変ななかで、私たち夫婦は仕事と両立しながら一生懸命がんばってきました。私は知らない土地でたった独りでの子育てを、夫は仕事が休みの日は埼玉に駆けつけてくれました。なぜ福島に戻らないのか。子どもの健康や命を大事に考えたからです」
 女性は緊張気味に、しかしはっきりと言った。
 「まさか自分が訴えられ、意見陳述をすることになるとは思ってもみませんでした。この状況が本当にストレスです。こうして、自分の想いを訴えることは、本当に勇気が要ることでした。なぜ生まれ育った故郷から訴えられなければならないのか。賃料2倍の『損害金』を求められなければならないのか。考えれば考えるほど、とても哀しい気持ちになってしまいます」
 そして、3人の裁判官にこう訴えた。
 「子どもの未来のために起こした行動であること、なぜ母子避難をすることになったのか、なぜ家族がバラバラに生きていかなければならなくなったのかを踏まえた判決をお願いしたいです」

202411032142030b8.jpg

20241110160419e51.jpg
(上)法廷で「未来ある子どもの命を守るために起こした行動で、なぜ訴えられなければならないのか」などと意見陳述した女性
(下)東京地裁前で行われた開廷前集会


【存在感増す「争点整理案」】
 期日が進むごとに存在感が増しているのが、避難者側弁護団が裁判所に提出した「争点整理案」だ。
 作成した柳原敏夫弁護士は、6つの争点ごとに避難者側の主張を整理、福島県の主張は空欄にした。それを、7月の前回期日で小池裁判長が「意義がある」と採用。福島県側に空欄を埋めるよう指示していた。
 この日の期日までに福島県側は空欄を埋めたが、改めて全面的に争う姿勢を示した。
 【原発事故の救済に関し災害救助法等は「法の欠缺」状態にあったか】では、避難者側は「わが国は原発事故という大災害の発生を想定していなかった」、「原発事故直後の時点の救助のみならず、低線量・内部被曝を想定したその後の長期の期間にわたる救助においても、災害救助法をはじめとする日本の法体系は原発事故に対応した具体的な救助の定めは何も法定していなかった」などとして「法の欠缺状態にあった」などと主張。
 一方、福島県は「『法の欠缺』状態にはない。本件でも災害救助法4条や同法施行令3条が適用される」と主張した。
 【国際人権法による法の欠缺の補充】でも、「社会権規約の直接適用は肯定できる」などとする避難者側の主張に対し、福島県は「社会権規約は、個人に対して即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではなく、同規約11条1項の規定も、締約国が同項所定の権利の実現に向けて積極的に社会政策を推進すべき政治的責任を負うことを述べるにすぎない」、「原告らが主張する社会権規約委員会の一般的意見や国連人権委員会作成の『国内避難民の指導原則』等が法的拘束力を持つものでもない」などと従来からの主張をくり返した。
 社会権規約は第九条で「この規約の締約国は、社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める」と明記している。
 これについて最高裁第一小法廷は35年前の1989年3月、「 国民年金裁定却下処分取消請求事件」(いわゆる塩見訴訟)で、「締約国において、社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し、右権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであつて、個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない」との判断を下し、上告を棄却している。

★241022争点整理案一覧表

20241110132941492.jpg

20241110153423702.jpg
(上)避難者代理人の柳原敏夫弁護士が作成した争点整理案の一部。今回、福島県側が主張を記入して表が完成した
(中)柳原弁護士は報告集会で「争点一覧表を裁判所に読み込んでもらいたい。これにどっぷり浸かってもらいたい」と述べた
(下)井戸弁護士は「争点整理案で争点として確認されたことについては、判決で判断を示さざるを得ない。逃げられないことを分かっていながら小池裁判長は争点整理に前向きだ」と評価した


【ガラパゴス化する司法】
 これまでの〝追い出し訴訟〟判決でも引用された最高裁判決。井戸健一弁護士は報告集会で「発想が非常に古い」と指摘した。
 「社会権を実現しようとしたらお金がかかる。そのため、すぐに法的効力を持たせてしまうと貧しい国は実現できない。だから『政府は実現する義務を負う』などの表現で辻褄を合わせようとしてきた。それを最高裁は塩見訴訟で明文化したが、日本はそこから進歩していない。国際的には35年前からどんどん進歩していて、ひとつひとつの権利についてもっと具体的に見ていこうという動きになっている。実現できるものには、ただちに法的効力を与えようと。原発避難者に対して住まいの権利を保障するというのは日本の経済力からしたら全然大した問題ではない。除染費用にどれだけ使ったか(筆者注:経産省の試算では少なくとも4兆円)。住宅問題は、それのごくごく一部のお金で済むはずだ。そうやって具体的に見ていけば、ただちに法的効力を与えていい話だが、昔からのドグマがずっと生きていて、最高裁の判決があると裁判官はそこからなかなか踏み出せない。非常に保守的な発想が強い。日本の司法が世界のなかでガラパゴス化している」
 しかし今回、小池裁判長は柳原弁護士の作成した争点整理案を基に訴訟を進行させている。福島地裁の小川理佳裁判長など、これまでの〝追い出し訴訟〟を担当した裁判官はすべて、争点整理案すら無視してきただけに注目して良い。井戸弁護士も「期待できるのではないか」と語る。
 「裁判所は形式論で済ませたい。なぜ避難したのか、なぜ国家公務員宿舎から退去できないのか。裁判所には、そこに着目させなければならない。そこを踏まえなければ正当な判決は出ない。そこを書いた第14準備書面に対する反論を福島県に命じたあたり、小池裁判長が形式論で済ませようとは考えていないということだろう」
 「争点整理案にしても、裁判所からすれば非常に面倒くさい。裁判所は、あまり触れずに判決を言い渡したい。ここで争点として確認されたことについては、判決で判断を示さざるを得ない。逃げられないことを分かっていながら小池裁判長は争点整理に前向きだ」
 一方、小池裁判長は和解による解決も模索しているという。
 「福島県が『2倍家賃を請求する』と言っている限り、話し合いでの解決は難しいと裁判所には伝えている」と光前弁護士。いまのところ、福島県は2倍家賃請求は取り下げてはいない。

(了)


【住まいの権利裁判】
2022年3月11日提訴。国家公務員宿舎から退去できずにいる11人が福島県の内堀雅雄知事を相手取り、住宅提供打ち切りや家賃2倍請求など福島県の施策で精神的苦痛を受けたとして、1人100万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こした(本訴)。これに対し、福島県は明渡しなどを求めて〝追い出し訴訟〟を起こしている(反訴)。
本訴の原告は福島県の避難指示区域外から原発避難し、都内や埼玉県内の国家公務員宿舎に入居し退去できないでいる(1世帯は退去済み)11人。
①福島県知事が応急仮設住宅としての住宅無償提供を2017年3月31日で打ち切った
②福島県が避難先で復興公営住宅を建設しなかった
③2019年4月1日以降、福島県が原告らを不法占拠者として扱い、親族訪問などの嫌がらせをした
この3つの違法事由によって精神的苦痛を味わったと主張している。

プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
https://www.facebook.com/taminokoe/


福島取材への御支援をお願い致します。

・auじぶん銀行 あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
 (銀行コード0039 支店番号106)

・ゆうちょ銀行 普通 店番098 口座番号0537346

最新記事

最新コメント

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
63位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
33位
アクセスランキングを見る>>

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
63位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
33位
アクセスランキングを見る>>