【総選挙2024】石破首相が〝海洋放出の最前線〟小名浜で第一声 原発事故にはほとんど触れず「新しい水産の姿をつくりたい」 急な解散総選挙に〝身内〟からは怒りの声も
- 2024/10/16
- 12:54
総選挙が公示された15日朝、石破茂首相が福島県いわき市の小名浜で第一声を行った。原発政策にも昨年8月に始まったALPS処理汚染水海洋放出にもほとんど触れず、「新しい水産の姿」、「スマート水産業」を中心に20分間にわたって演説。終了後には「いわきら・ら・ミュウ」2階で食事を取りご満悦の様子だったが、地元の自民党関係者からは「おかげで毎日バタバタ。余計な仕事が増えた」などと反発の声も聞かれた。なお2011年3月の震災・原発事故発生以降、今回を含めて総選挙は5回実施された。首相の第一声はすべて、福島県内(いわき駅前、相馬港、福島市の田んぼ、土湯温泉、小名浜)で行われている。

【「3・11は野党で申し訳なかった」】
「私は、多くの想いを持って第一声をこの場にさせていただきました」
しかしなぜ小名浜なのか、最後までよく分からなかった。
昨年8月に始まったALPS処理汚染水海洋放出の正当性・安全性を声高に強調するわけでもなく、安倍晋三元首相が好んでしたように、小名浜の海産物を食べるパフォーマンスをするわけでもない。口にしたのは2011年3月11日の発災以来、為政者が繰り返してきたフレーズだった。
「第一声をどこでやるか、ずいぶんと考えました。能登に行こうか、それとも福島に行こうか東北に行こうか。ずいぶん考えました。『福島の復興なくして東北の復興なし』、そして『東北の復興なくして日本の復興なし』。能登とともに、新しい日本の再生にかけるわれわれの想い、それは、この福島、いわき、小名浜からあげさせていただきたい。そのような想いでここに立たせていただいております」
発災当時は民主党政権だった。石破首相は「あのときほど、われわれが野党で本当に申し訳ないなと思ったことはありません。被災地の方々の想いに応えられない。そういう野党におること、あのときほど申し訳ないと思ったことはありません」と振り返った。そして、当時の菅直人首相を批判した。
「われわれは復興庁のような役所をつくりたいと思いました。何で被災者の方がいろんな役所を廻らなければ経産省に行ったら農水省に、農水省に行ったら厚労省に。『われわれは陳情するのが仕事じゃないぞ』。私はそのような罵声を何度も浴びました。そのときの総理大臣は菅直人さんという人でした。『阪神大震災のときも復興庁をつくらなかった。だから今回も要らないんだ』。そんなお話でした」
災害からも他国の脅威からも国民を守れるのは自公政権だという。「この国の独立と平和を必ず守り抜くことができるのは、他のどこでもない、われわれ自民党と公明党の政権であります」。ではなぜ、能登半島の被災者は苦しみ疲弊し続けているのか。その疑問に答えることなく、石破首相は「この日本を担えるのは、われわれ自民党・公明党の連立政権のほかにありません」とも強調した。
そして、サラッとこう述べた。
「能登の復興は予備費できちんとやります」
小名浜の港は、季節外れの暑さで包まれていた。



(上)応援演説の最後に「ガンバローコール」で拳を3回、突き上げた石破首相
(中)石破首相は演説で「この地域に新しい水産の姿をつくりたい」として「スマート水産業」の実現を訴えた(水産庁のホームページより)
(下)あまりに急な解散総選挙のため、坂本竜太郎候補の選挙事務所には石破首相の「為書き」がまだ届いていなかった
【「『スマート水産業』を実現したい」】
海洋放出に触れたのは「ALPS処理水の影響もあって、いま水揚げは25%、そして漁獲高は43%。これをもう一度復活させていかなければならない」だけ。そこから話は一気に「スマート水産業」に進んだ。
「この地域に新しい水産の姿をつくりたい。新しい魚種を捕っていくために新しい水産の姿、新しい船のあり方、新しい漁業のあり方。そしてまた『スマート水産業』って言いますね。これから先、『海の天気予報』というのがどんどん発達するようになる。何月何日のこの海域の水温はいくらで、どんな魚が捕れるかということが事前に分かるようなシステム。そうすると漁場に行くまでの時間、それまでの燃料、ものすごく節約になります。いろんな魚を取り分けるのも大変。それをスマホでパシャッと撮ると、機械が勝手に取り分けてくれる。そして、どこの料亭に行ったらどれだけ売れるのか、どこのお寿司屋さんに行ったらどれだけの価格で売れるのか、そういうことが一瞬にしてできるようになる。そういう『スマート水産業』を実現してまいりたい」
裏金問題に対する「反省」を口にしたのは1回だった。
「私たちはこの選挙に深い反省のもとに…〝政治とカネ〟、パーティー収入の不記載…そういうことが二度とないよう、深い反省のもとに臨みます。そして、この選挙を私は『日本創生』そのための選挙だというふうに位置づける。もう一度新しい日本をつくっていく。私たちは必ず、もう一度新しい日本をつくってまいります」
総裁選では否定していた政権発足直後の解散総選挙についても説明はなし。しかも総選挙で信任を得た後に「新しい経済対策」を発表するのだという。
「ご信任を賜って特別国会臨時国会において『新たな経済対策』をわれわれは世に問いたい。もちろん補正予算は、いろんな必要なものを積み上げてつくるものでありますが、プラスとして国費13兆円、そして事業総額37兆円、それが昨年の補正予算でありましたが、きちんとした積み上げのもとに、それを上回る大きな補正予算を国民の皆様方に問い、国会のご審議を賜り成立させたい」
そして、次のような言葉で20分ほどの演説を締めくくった。
「厳しい情勢のなか、何とか皆様方のご支援をいただき、公明党とともに過半数の議席を得たい。国民を信じ、嘘偽りなく真実を述べ、そしてあるべき日本の姿を語る。いま自民党ががんばらないでどうする、と思っております。この日本を担えるのは、われわれ自民党・公明党の連立政権のほかにありません」



(上)海洋放出に一貫して反対しているはずの福島県漁連・野崎哲会長も応援演説のマイクを握った
(中)演説会場には、「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんの姿もあった
(下)小名浜では海洋放出への反対・抗議行動が続けられている。昨夏には「海の日」に合わせてデモ行進も行われた
【陣営「余計な仕事増えた」】
第一声終了後には「いわきら・ら・ミュウ」2階で食事を取りご満悦の様子だった石破首相だが、身内からも厳しい声が聞かれた。
いわき市を含む福島4区に立候補した〝世襲新人〟坂本竜太郎候補の選挙事務所(いわき市平)では、古参幹部が苦笑しながら取材に応じた。
「小名浜で第一声をやるのは地元からの要請?違う違う違う違う違う。党本部から。今回は石破さんの意向として『海』ということがあったらしいですよ。海洋放出のこともあるから?多分ね。ウチは、来てくださいとお願いしてはいないんですよ。向こう(党本部)は福島県で第一声をやるということを決めていて、じゃあどこだとなったときに、浜通りか中通りでしょうから、で、ここになった。細かい経緯は、こっちは全然分からない」
警備の調整も含め、陣営は毎日バタバタだという。
「解散総選挙はどんなに早くても11月だと考えていましたから。石破さんだって予算委員会を開いて云々と言ってたのに………。こっちは準備がもうバタバタですよ。それに突然、第一声の話が来たので、もう大変ですよ。余計な仕事が増えた。総理自身の意向なのか、誰が決めたのか分かりませんけど。本当に急だったんですよ。動き出したのは10日の朝ですから」
福島県警からは「1000人もの聴衆を集められては困る」と釘を刺された。
「後援会の動員も200人に絞ってくれと。それに一般の聴衆を加えても300人程度に抑えてくれということは言われた。総理から最前列の聴衆までは20メートル開けてくれとも求められた」
自民党のある県議も「第一声は石川県でやると考えていたが、急に第一声を小名浜でやるという話が急に来た。坂本候補の出陣式を別の場所でやろうと予約していたくらいだから」と困惑気味に話した。
公示日を迎えても、坂本候補の選挙事務所には石破首相の為書きが貼られていなかった。党本部から届いたのは首相のポスター2枚だけ。「16日に到着すると言われました。党本部だってバタバタなんですよ」と関係者。
先の古参幹部は自嘲気味に笑った。
「野党の体制が整わないうちにやりたかったんだね。あと石破内閣のボロが出ないうちにね」
これがドタバタ総選挙の実情だ。そして今回もまた、為政者の「被災地のためにがんばりますアピール」のために福島は利用された。ALPS処理汚染水は海に流され続け、溶け落ちた高線量の燃料デブリなどいつになっても原発建屋から取り出せない。だが、石破首相はそれを直視しない。「今回も福島で第一声を行った」という事実だけが残った。

(了)

【「3・11は野党で申し訳なかった」】
「私は、多くの想いを持って第一声をこの場にさせていただきました」
しかしなぜ小名浜なのか、最後までよく分からなかった。
昨年8月に始まったALPS処理汚染水海洋放出の正当性・安全性を声高に強調するわけでもなく、安倍晋三元首相が好んでしたように、小名浜の海産物を食べるパフォーマンスをするわけでもない。口にしたのは2011年3月11日の発災以来、為政者が繰り返してきたフレーズだった。
「第一声をどこでやるか、ずいぶんと考えました。能登に行こうか、それとも福島に行こうか東北に行こうか。ずいぶん考えました。『福島の復興なくして東北の復興なし』、そして『東北の復興なくして日本の復興なし』。能登とともに、新しい日本の再生にかけるわれわれの想い、それは、この福島、いわき、小名浜からあげさせていただきたい。そのような想いでここに立たせていただいております」
発災当時は民主党政権だった。石破首相は「あのときほど、われわれが野党で本当に申し訳ないなと思ったことはありません。被災地の方々の想いに応えられない。そういう野党におること、あのときほど申し訳ないと思ったことはありません」と振り返った。そして、当時の菅直人首相を批判した。
「われわれは復興庁のような役所をつくりたいと思いました。何で被災者の方がいろんな役所を廻らなければ経産省に行ったら農水省に、農水省に行ったら厚労省に。『われわれは陳情するのが仕事じゃないぞ』。私はそのような罵声を何度も浴びました。そのときの総理大臣は菅直人さんという人でした。『阪神大震災のときも復興庁をつくらなかった。だから今回も要らないんだ』。そんなお話でした」
災害からも他国の脅威からも国民を守れるのは自公政権だという。「この国の独立と平和を必ず守り抜くことができるのは、他のどこでもない、われわれ自民党と公明党の政権であります」。ではなぜ、能登半島の被災者は苦しみ疲弊し続けているのか。その疑問に答えることなく、石破首相は「この日本を担えるのは、われわれ自民党・公明党の連立政権のほかにありません」とも強調した。
そして、サラッとこう述べた。
「能登の復興は予備費できちんとやります」
小名浜の港は、季節外れの暑さで包まれていた。



(上)応援演説の最後に「ガンバローコール」で拳を3回、突き上げた石破首相
(中)石破首相は演説で「この地域に新しい水産の姿をつくりたい」として「スマート水産業」の実現を訴えた(水産庁のホームページより)
(下)あまりに急な解散総選挙のため、坂本竜太郎候補の選挙事務所には石破首相の「為書き」がまだ届いていなかった
【「『スマート水産業』を実現したい」】
海洋放出に触れたのは「ALPS処理水の影響もあって、いま水揚げは25%、そして漁獲高は43%。これをもう一度復活させていかなければならない」だけ。そこから話は一気に「スマート水産業」に進んだ。
「この地域に新しい水産の姿をつくりたい。新しい魚種を捕っていくために新しい水産の姿、新しい船のあり方、新しい漁業のあり方。そしてまた『スマート水産業』って言いますね。これから先、『海の天気予報』というのがどんどん発達するようになる。何月何日のこの海域の水温はいくらで、どんな魚が捕れるかということが事前に分かるようなシステム。そうすると漁場に行くまでの時間、それまでの燃料、ものすごく節約になります。いろんな魚を取り分けるのも大変。それをスマホでパシャッと撮ると、機械が勝手に取り分けてくれる。そして、どこの料亭に行ったらどれだけ売れるのか、どこのお寿司屋さんに行ったらどれだけの価格で売れるのか、そういうことが一瞬にしてできるようになる。そういう『スマート水産業』を実現してまいりたい」
裏金問題に対する「反省」を口にしたのは1回だった。
「私たちはこの選挙に深い反省のもとに…〝政治とカネ〟、パーティー収入の不記載…そういうことが二度とないよう、深い反省のもとに臨みます。そして、この選挙を私は『日本創生』そのための選挙だというふうに位置づける。もう一度新しい日本をつくっていく。私たちは必ず、もう一度新しい日本をつくってまいります」
総裁選では否定していた政権発足直後の解散総選挙についても説明はなし。しかも総選挙で信任を得た後に「新しい経済対策」を発表するのだという。
「ご信任を賜って特別国会臨時国会において『新たな経済対策』をわれわれは世に問いたい。もちろん補正予算は、いろんな必要なものを積み上げてつくるものでありますが、プラスとして国費13兆円、そして事業総額37兆円、それが昨年の補正予算でありましたが、きちんとした積み上げのもとに、それを上回る大きな補正予算を国民の皆様方に問い、国会のご審議を賜り成立させたい」
そして、次のような言葉で20分ほどの演説を締めくくった。
「厳しい情勢のなか、何とか皆様方のご支援をいただき、公明党とともに過半数の議席を得たい。国民を信じ、嘘偽りなく真実を述べ、そしてあるべき日本の姿を語る。いま自民党ががんばらないでどうする、と思っております。この日本を担えるのは、われわれ自民党・公明党の連立政権のほかにありません」



(上)海洋放出に一貫して反対しているはずの福島県漁連・野崎哲会長も応援演説のマイクを握った
(中)演説会場には、「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんの姿もあった
(下)小名浜では海洋放出への反対・抗議行動が続けられている。昨夏には「海の日」に合わせてデモ行進も行われた
【陣営「余計な仕事増えた」】
第一声終了後には「いわきら・ら・ミュウ」2階で食事を取りご満悦の様子だった石破首相だが、身内からも厳しい声が聞かれた。
いわき市を含む福島4区に立候補した〝世襲新人〟坂本竜太郎候補の選挙事務所(いわき市平)では、古参幹部が苦笑しながら取材に応じた。
「小名浜で第一声をやるのは地元からの要請?違う違う違う違う違う。党本部から。今回は石破さんの意向として『海』ということがあったらしいですよ。海洋放出のこともあるから?多分ね。ウチは、来てくださいとお願いしてはいないんですよ。向こう(党本部)は福島県で第一声をやるということを決めていて、じゃあどこだとなったときに、浜通りか中通りでしょうから、で、ここになった。細かい経緯は、こっちは全然分からない」
警備の調整も含め、陣営は毎日バタバタだという。
「解散総選挙はどんなに早くても11月だと考えていましたから。石破さんだって予算委員会を開いて云々と言ってたのに………。こっちは準備がもうバタバタですよ。それに突然、第一声の話が来たので、もう大変ですよ。余計な仕事が増えた。総理自身の意向なのか、誰が決めたのか分かりませんけど。本当に急だったんですよ。動き出したのは10日の朝ですから」
福島県警からは「1000人もの聴衆を集められては困る」と釘を刺された。
「後援会の動員も200人に絞ってくれと。それに一般の聴衆を加えても300人程度に抑えてくれということは言われた。総理から最前列の聴衆までは20メートル開けてくれとも求められた」
自民党のある県議も「第一声は石川県でやると考えていたが、急に第一声を小名浜でやるという話が急に来た。坂本候補の出陣式を別の場所でやろうと予約していたくらいだから」と困惑気味に話した。
公示日を迎えても、坂本候補の選挙事務所には石破首相の為書きが貼られていなかった。党本部から届いたのは首相のポスター2枚だけ。「16日に到着すると言われました。党本部だってバタバタなんですよ」と関係者。
先の古参幹部は自嘲気味に笑った。
「野党の体制が整わないうちにやりたかったんだね。あと石破内閣のボロが出ないうちにね」
これがドタバタ総選挙の実情だ。そして今回もまた、為政者の「被災地のためにがんばりますアピール」のために福島は利用された。ALPS処理汚染水は海に流され続け、溶け落ちた高線量の燃料デブリなどいつになっても原発建屋から取り出せない。だが、石破首相はそれを直視しない。「今回も福島で第一声を行った」という事実だけが残った。

(了)