テレビ朝日「みんながカメラマン」の利用規約はそんなに酷いのか?
火中の栗かしら……。
規約のうち問題にされてるのは概ね以下のようだ。
4.テレビ朝日は投稿データを、地域・期間・回数・利用目的・利用方法(放送、モバイルを含むインターネット配信、出版、ビデオグラム化、その他現存し、または将来開発されるあらゆる媒体による利用)・利用態様を問わず、自由に利用し、またテレビ朝日が指定する第三者に利用させることができるものとします。当該利用にかかる対価は無償とします。
5.テレビ朝日(テレビ朝日指定の第三者を含みます)は、前項記載の利用のために、投稿データを自由に編集・改変することができるものとします。投稿者はいかなる場合も、投稿者の有する著作者人格権を行使しません。
7.テレビ朝日は、投稿データの利用に関して投稿者に何らかの損害が生じた場合でも、一切の責任を負いません。また投稿者は、投稿データの利用に関して第三者からテレビ朝日に何らかの異議・請求等があった場合、テレビ朝日からの要求に従い、投稿者の責任と費用において解決します。また、投稿データの利用が第三者の権利を侵害したとして、テレビ朝日が損害を被った場合は、これを賠償します。
10.テレビ朝日は本規約を予告なく変更できるものとします。変更後の規約は本サイトに掲示した時点でその効力が生じるものとし、投稿者は変更後の本規約に同意したものとします。
炎上の流れとしては、ブログ記事を着火点にTwitterを経由して2ちゃんねるへ延焼、その後2ちゃんまとめ系サイトを経て再びTwitterという印象。じゃあそのTwitterの利用規約はどうなってるかって気になったので、Twitter利用規約とみんながカメラマンの利用規約を比較してみた*1。
1,ライセンスおよびサブライセンス
テレビ朝日
テレビ朝日は投稿データを、地域・期間・回数・利用目的・利用方法(放送、モバイルを含むインターネット配信、出版、ビデオグラム化、その他現存し、または将来開発されるあらゆる媒体による利用)・利用態様を問わず、自由に利用し、またテレビ朝日が指定する第三者に利用させることができるものとします。当該利用にかかる対価は無償とします。
ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介してコンテンツを送信、投稿、表示することをもって、媒体または配布方法(既知のまたは今後開発されるもの)を問わず、かかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、改変、修正、公表、送信、表示および配布するための、世界的な非排他的ライセンスを(サブライセンスを許諾する権利と共に)当社に対して無償で許諾するものとします。
ほとんど同じ*2。山本一郎氏が”光り輝いている”とおっしゃる「将来開発されるあらゆる媒体による利用」についてもTwitterに同趣旨のカッコ書きがあり、それほど特筆性あるような記述には思えません。
2,編集および改変
テレビ朝日
テレビ朝日(テレビ朝日指定の第三者を含みます)は、前項記載の利用のために、投稿データを自由に編集・改変することができるものとします。投稿者はいかなる場合も、投稿者の有する著作者人格権を行使しません。
当社は、ユーザーのコンテンツをコンピュータネットワーク上や様々な媒体において送信、表示、もしくは配布するために修正または改変できるものとし、さらに/またはネットワーク、デバイス、サービスまたは媒体の要件もしくは制限に適合させるために、必要に応じてユーザーのコンテンツに変更を加えることができるものとします。
編集と改変については概ね同じと言えますが、著作者人格権の不行使特約が付いている点でテレビ朝日は異なっているように見えます。この点は次のように推察できる。Twitterはアメリカ法を準拠法にしています*3が、アメリカはベルヌ条約に加盟しているにも関わらずアメリカ合衆国著作権法が一部の視覚芸術の著作物に関するもの以外には著作者人格権を扱う規定を設けていないためテキスト投稿サイトだったTwitterでは著作者人格権への手当が不要だったからなのではないかと*4。
3,責任
テレビ朝日
テレビ朝日は、投稿データの利用に関して投稿者に何らかの損害が生じた場合でも、一切の責任を負いません。また投稿者は、投稿データの利用に関して第三者からテレビ朝日に何らかの異議・請求等があった場合、テレビ朝日からの要求に従い、投稿者の責任と費用において解決します。また、投稿データの利用が第三者の権利を侵害したとして、テレビ朝日が損害を被った場合は、これを賠償します。
ユーザーは、本サービスの利用、投稿したコンテンツのすべておよびこれらによって引き起こされる結果のすべてについて責任を負います。
公的な投稿であるか私的な通信であるかを問わずすべてのコンテンツは、そのコンテンツの作成者が単独で責任を負うものとします。当社は、本サービスを介して投稿されるコンテンツを監視または管理しない場合があり、そのようなコンテンツについて責任を負うことはできません。本サービスを介して投稿されたか、またはユーザーが取得したコンテンツやマテリアルへの依拠またはこれらの使用は、ご自身の責任において行ってください。
Twitter関係者は、(中略)本サービス上の第三者の行為またはコンテンツ(他の利用者や第三者の名誉毀損行為、侮辱的な行為あるいは違法な行為を含みますが、これらに限定されません)(中略)に起因する間接的損害、付随的損害、特別損害、派生的損害、もしくは懲罰的賠償または逸失利益(それが直接的に発生するか間接的に発生するかを問わず)、あるいはデータ、利用可能性もしくはのれんの喪失またはその他の無形的な損害については、適用される法令が認める最大限の範囲で、責任を負わないものとします。
ここが一番紛糾しそうな箇所かなと。特に『投稿者は、投稿データの利用に関して第三者からテレビ朝日に何らかの異議・請求等があった場合、テレビ朝日からの要求に従い、投稿者の責任と費用において解決します』という項目はTwitterや他の規約でもあまり見かけない。これを、テレビ朝日の責任を回避して投稿者に全責任を押し付けているように読む人もいるみたいだけど、第三者とテレビ朝日との法的関係を契約によって投稿者に転嫁することなどできず、これは投稿者が投稿の責任として「解決協力義務」を負う旨を示しただけなのではないかと。
つまりテレビ朝日は投稿者の投稿データをYoutubeのようにそのまま公開するのではなく、取捨選択し、編集し、それを放送するため第一次的にはテレビ朝日がその責任において矢面に立つことを自覚しているからこそ出てくる記述と思う。逆に、取捨選択や編集を介さず主体性を欠くTwitterでは、コンテンツの責任は直接にユーザーであり、ユーザーが全責任を負うからこそこういった項目が必要ないのではないか。
4,規約変更
テレビ朝日
テレビ朝日は本規約を予告なく変更できるものとします。変更後の規約は本サイトに掲示した時点でその効力が生じるものとし、投稿者は変更後の本規約に同意したものとします。
当社は、必要に応じて本規約を改定することがありますが、最新版は常にtwitter.com/tosでご覧になれます。実施される改定が、当社の独自の判断において重大であるとされた場合、@Twitter のツイート、またはユーザーのアカウントで登録されたメールアドレス宛てのメールでお知らせします。本規約の改定が発効した後に本サービスへのアクセスまたは本サービスの利用を継続した場合には、改定された本規約に拘束されることに同意したことになります。
Twitterと並べるとTwitterが非常に真っ当な内容ですね。利用の継続が規約変更への同意と擬制される、と。とはいえ、この部分は日本のどのサービスのどの規約を見ても概ね同様なので、切り取って責める場所ではないかと思います。ちなみに、こう書かれてるからといってどのような規約変更をも規約同意者に強いるものではないことは当然です*5。
5,ちなみに・・・
はてなの利用規約は?
https://www.hatena.ne.jp/rule/rule
本サービスの提供、利用促進及び本サービスの広告・宣伝の目的のために、当社はユーザーが著作権を保有する本サービスへ送信された情報を無償かつ非独占的に以下のような形式で掲載、配布することができ、ユーザーはこれを許諾するものとします。
ユーザーが他人の名誉を毀損した場合、プライバシー権を侵害した場合、著作権法に違反する行為を行った場合その他他人の権利を侵害した場合、当該ユーザーは自身の責任と費用において解決しなければならず、当社は一切の責任を負いません。
ユーザーが開示した情報が原因となって迷惑を受けたとする者が現れた場合には、当該ユーザーは自身の責任と費用において解決しなければならず、当社は一切の責任を負いません。
NHKは?
NHKスクープBOXの利用規約
https://scoopbox.nhk.or.jp/before_upload.html
投稿DO画の利用規約
https://doga2.nhk.or.jp/preupload.jspx?keyword=%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%81%BE%E6%92%AE%E5%BD%B1%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%9F%E2%80%9D%E3%83%97%E3%83%81%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%97%E2%80%9D%EF%BC%81
6,なぜ炎上したのか考えてみる
炎上したポイントは2つあって、どちらも単体ではおかしくないはずなのにそれが合わさって複合的になったことで人間の感情を煽ってしまったのかなと想像する。2つのポイントとは
・無償提供と広汎な許諾
・放送局の責任転嫁(に見える文言)
特に2つ目が厄介。例えばTwitterならコンテンツの責任は投稿者にあるというスタンスになっている。そこでは、仮に第三者にTwitter社が訴えられたとしても訴えるべきは投稿者だという建前が強く意識されている。ただ、全責任が投稿者にある場合、責任は投稿者が負う旨のみを書けば足りてそれ以上は必要ない。一方で、テレビ朝日の規約では『投稿データの利用に関して第三者からテレビ朝日に何らかの異議・請求等があった場合』を想定しており、それはつまり責任の名宛人になり得ることを前提にしている点に於いて、自社の責任を自覚していることを意味していると読める。文言上は投稿者がテレビ朝日に代わって第三者との争訟を解決しなければならないとは書いていない。あたかもそうであるがごとく読んでしまったとすれば、それは恐らく誤読だ。誤読だと指摘することでこのブログも延焼してしまうかもしれないけど、怒るほどおかしい項目ではないと思う*6。
この誤読によって、テレビ朝日が全ての責任を投稿者に押し付けて自分たちはノーリスクだと勘違いした結果、嫌儲の感情も発露してしまったのかなと。
例えば、フジテレビが開設している「FNNビデオPost」の利用規約が参考になる。
http://www.videopost.jp/sp/essential.html
内容は非常に端的で分かりやすい。書いてある内容はほとんどテレビ朝日のそれと変わらないはずだけど、これで炎上することはまずないだろう。端的で単純ゆえに細かいところは曖昧だけど、その内容は
・他人の著作権を侵害するな
・無償
・利用するし再利用する
・権利侵害した投稿の責任は負え
でしかないし、リスクとして一番大きいのは剽窃したコンテンツを投稿すること。テレビ朝日は剽窃されたコンテンツが投稿されるリスクについて適切に対応しようとしたが結果、あのようなことになってしまったように思えるのが、どうだろうか。
【追記】
追記するということは、自分の文章力のなさを認めちゃうので恥ずかしい限りなのですが、いくつかのブコメに反応しておきたいと思います。
id:QJV97FCr 編集を経て放送されるテレビとユーザの投稿がそのまま流通するwebサービスを比較する意味がわからない
http://b.hatena.ne.jp/entry/217817521/comment/QJV97FCr
id:megazalrock Twitterは自分で削除できるけど、TVで放送されたら自分で削除できない。その違いはかなり大きいと思うが。
http://b.hatena.ne.jp/entry/217817521/comment/megazalrock
Twitterとみんながカメラマンでは
・ユーザーが投稿する
ところが類似しており
・編集を入れることを当初から予定しているか否か
というところが異なっていると理解しています。そもそもとして、同種のサービスを比較しているつもりはありませんが、異同がある場合にその異同が規約上どのように反映されるかを見るのに意味を見出しています。後半にリンクを置いてある投稿DO画やFNNビデオPostとの比較でも構いませんが、対比が明確なためTwitterを選んでいることもあります。
さて、以上の異同を念頭に置いて、ユーザーが投稿したコンテンツを利用する点で同じであることから、ライセンスやサブライセンスの項目に違いはほとんどないことが確認できるかと思います。一方、異論の多い「責任」の項目でも、あの条項は投稿者に「解決協力義務」を負わせているとの理解を書きました。解決協力義務を投稿者が負う前提は、法的争訟の当事者がテレビ朝日にあることです。Twitterは投稿したものについて責任は投稿者が全て負いTwitter社は関与しない書き方に対して、テレビ朝日は放送内容について責任を負う立場にあることを認める前提で投稿者に解決に協力してる義務を求めてるとの理解が正しければ、より責任が過重なのはTwitterの利用規約だということが分かります。つまり編集を入れることを当初から予定しているか否かという部分に関して、テレビ朝日は自己に責任があることを自認していると読み取れることを意味します。
繰り返しになりますが、
・ユーザーが投稿する
ことについて両者は類似しており、それは投稿コンテンツの著作権、ライセンス、サブライセンスの扱いに於いても規定上類似していることが読み取れます。一方、
・編集を入れることを当初から予定しているか否か
について両者は事情を異にしていますが、それは放送/表示に対する責任についてTwitterが投稿者の全責任と規定しているのに対し、テレビ朝日版ではテレビ朝日が異議・請求等の当事者になりうることがある場合を前提に投稿者に解決協力義務を求めている、という規定上の相違点を見出だせます。そして、投稿者の責任が比較的過重なのはテレビ朝日ではなくTwitterだ、すなわち「テレビ局は好き勝手編集するんだから責任あるだろ」という指摘に対しては「もちろんその通り、それが規定上反映されているではないか」と言えるだろう、ということです。
id:MERCY やるかどうかはともかく、好き勝手編集した結果が他人の権利を侵害した場合でも、この規約では投稿者の責任で賠償する必要が有るだろ?編集で意図と逆の心証を持たすなんて簡単だし
id:nakex1 気になるのは賠償の負担を全て投稿者に帰していること。トラブルは著作権だけでなく名誉毀損等でも起こりうる。動画の選定,編集,放送など複数のステップで判断を行いながら全てを求償するのは虫がよすぎるかと。
まず、私がここで言っているのは『賠償の全ての責任を投稿者に負わせているのではない』ということです。想定される具体例を出さなかったのが悪かったのだと思います。では”投稿者は、投稿データの利用に関して第三者からテレビ朝日に何らかの異議・請求等があった場合、テレビ朝日からの要求に従い、投稿者の責任と費用において解決します”とはどういう意味か、それは前述の通り解決協力義務だと私は考えます。そしてどういう場合を想定しているか、有り体に言えば第三者とテレビ朝日の裁判沙汰に投稿者を関与させるためのものだと考えます。最も強い関与としては第三者とテレビ朝日の訴訟に訴訟参加させ三面訴訟を成立させる(1対1ではなく1対1対1の特殊な訴訟形態)パターンから、テレビ朝日側の証人として裁判に出廷するパターンまで関与のパターンはいくつか考えられると思います。そして「責任と費用」が意味するところは、即ち訴訟参加時に必要な裁判費用や弁護士費用、出廷時に出捐される滞在費や交通費などを想定しているのだろうと私は考えました。
第三者とテレビ朝日との争訟上の関係を投稿者がテレビ朝日に代わって受けることなどできない(第三者の不利益でしかなく、そのような不利益をテレビ朝日と投稿者の私的契約で負わせることもできない)ので、ここにあるテレビ朝日の要求に従って解決とはテレビ朝日に立ち代わって解決することを求めるものではないと読むのが合理的でしょう。とはいえ、
id:lastline 誤読だとは思うのだが、それなら最初からFNNのように書いた方が分かりやすいわけで、テレ朝の文言は良くないと思うのだ
という見解については、まぁ否定し得ないかなと思います。
*1:なぜTwitter利用規約を選んだかというと、単に私が一番馴染みのあるよく読んだことのある規約がTwitterのそれだったから、ただそれだけです
*2:無償に反感むき出しにしてるコメントもあるようですが、なんかよくわかんないですね。コンテンツに対するリスペクトが足りないとか、当事者でもないのにJASRACもビックリなコメントもあっておもしろい
*3:本規約およびそれに関連して行われる法的行為は、米国カリフォルニア州法の抵触法に関する規定またはご自身の居住している州もしくは国にかかわらず、米国カリフォルニア州の法に準拠するものとします。本サービスに関連する一切の請求、法的手続または訴訟は、米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州裁判所においてのみ提起されるものとし、ユーザーはこれらの裁判所の管轄権に同意し、不便宜法廷地に関する一切の異議を放棄するものとします。
*4:ただしTwitterが画像投稿をサービスに含み、最近は動画もポストできるようになったのに著作者人格権への手当がないのはどうなの???
*5:当初の規約から大きく外れる内容の変更は再度の同意が必要
*6:一般の投稿者を第三者との争訟に法的に巻き込むことを規約で明らかにしているのは法的リスクの回避としてうまいけど曖昧が好きな人にとってはびっくりするかも