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2018年4月 4日 (水)

取引格差の是正を

 昨年は、アマゾンの「バックオーダー」発注停止問題が、大きな話題となった。

 昨年4月に突然、出版各社に通告があり、7月から実施されたこのアマゾンの施策は、ロングテールの商品を多く持つ出版協会員各社にとって大きい影響を及ぼす可能性があることから、出版協では日販との情報交換に務めた。

 アマゾンは「バックオーダー」発注停止について、流通上の問題の解決を掲げているが、アマゾンが唯一の解決法として示した直取引(e託取引)への勧誘こそが、アマゾンのねらいであることは明らかだろう。「バックオーダー」の発注を停止すれば、アマゾンにとって、当面、読者の注文に応えられない商品が増えることになる。それを押しても強行したことから、アマゾンの、ここで一気に直取引を増やすという強い意思が感じられる。

 取次店を経由しないアマゾンとのe託取引は、各出版社が取次店と結んでいる再販契約とは何ら関わりのない取り引きとなり、定価販売が守られる保証はない。また、当初示される取引条件が変更されない保証もない。出版協では、再販制擁護の点からも、取引条件面からも、会員各社には慎重な判断を呼びかけてきた。

 会員社に適切な判断材料を提供するために、日販との情報交換は不可欠だった。この問題は、日販側もネット営業部が出版社への情報公開に積極的だった。出版社側に不安が広がれば、アマゾンと出版社の直取引(取次はずし)が拡大する可能性があることもそうさせた理由のひとつだろう。アマゾンの通告以後、日販ネット営業部とは、日販の倉庫統合問題、統合後の王子在庫問題などについて、さまざまな形での情報の交換を行い、ロングテール商品の販売に関して、取次在庫の多品種化を図り、アマゾンのみならず他の書店からの注文に対しても対応できる(つまり「バックオーダー」にさせない)商品を増やす体制づくりを進めていることなどを、会員社に発信することができた。

 今後も取次各社とは、情報交換・意見交換の機会を増やしていきたい。特に、アマゾンとの直取引の問題は、既存の取次の版元ごとの取引格差の問題とも関わっている。新規版元、また低正味版元への取引格差を是正していかなければ、アマゾンとの直取引が見かけ上、魅力をもってしまうことになる。この点は引き続き取次各社に是正を求めていきたい。

 ——と、昨年の問題を振り返って、3月7日に開催した出版協の定時総会の報告にしようと考えていたのだが、総会直後、取次に大きな動きがあることを知った。

 取次4社が物流費高騰を理由に出版社への追加負担の要請を開始したことが報道されたのだ(3月9日付「日本経済新聞」)。すでに2月段階から、取引額の大きい大手・中堅版元から交渉が始まっているという。3月19日付「文化通信」は、トップで「出版社に条件変更求める」として日販・平林彰社長へのインタビュー記事を大きく掲載した。

 雑誌の落ち込みと輸送経費の高騰、書籍の構造的な赤字などが理由とされ、「書籍の流通モデルを確立し、そこに雑誌の流通が載る」(平岩社長)と、雑誌流通に依存してきた物流体制の転換を目指すことが示され、そのために出版社に、正味引き下げを含む負担を要請するとされている。

 出版をめぐる状況が引き続き厳しいことは言うまでもない。1996 年の2 兆6,564 億円をピークに、減少を続ける紙の書籍・雑誌の推定販売金額は2017年は1兆3,701億円にまで減少した(出版科学研究所の調べ)。特に雑誌は、1996年の1兆5,633億円から、2016年の7,339億円へと急速な落ち込みだ。こうした長期の落ち込みの中で、2015年には栗田出版販売の民事再生、2016年には太洋社の自己破産と中堅取次店の破綻が続いた。いうまでもなく出版社数、書店数の減少も歯止めがかかっていない。

 何らかの変化が求められていることは間違いない。しかし、正味問題に踏み込むという今回の取次の提起は、今後の出版界の構造の根幹にかかわる大きな問題だ。根本的なビジョンとして、全体の取引の格差を解消する方向が明確に示されなければ、もともと低正味や支払保留など条件面で不利な状態にある中小出版社の理解は得られるはずもない。条件変更は最終的に個別交渉であることは言うまでもないが、提案は業界全体に関わるものであり、まず出版各社が検討できる論拠と全体像を示して、広く納得を得る努力をすべきだ。取次には、提起の根拠について充分な説明を求めたい。一方的に期限を区切って、強引に交渉を進めるようなことがあってはならない。

 それにしても複数の取次と同時進行で交渉を行うのは、ただでさえ交渉力の乏しい中小出版社には負担が大きい。今回の取次の足並みをそろえた交渉開始は、独占禁止法上、問題はないのだろうか。

 取次の交渉は取引額の大きい大手・中堅出版各社から始まっているとのことで、出版協に加盟する中小出版社のほとんどには現在のところ取次からの連絡はないようだが、条件面で不利な中小出版社が、個別交渉の下で更なる過重な負担を強いられ、取引格差が拡大するようなことがないよう、状況を把握し、的確に情報発信していきたい。

出版協会長 水野 久(晩成書房

 

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