ブルーハーツから現代に至るまで脈々と続いてきた、日本のパンクロックの本道。それは時代によってサウンドやスタイルを変えながら、Hi-STANDARD、GOING STEADY(銀杏BOYZ)と受け継がれてきた。(MONGOL800やWANIMAはそこを超えるくらいの位置まで行ったと思っている)
そんな日本のパンクの本道を一本の線で繋いで可視化するようなイベントがぴあとtvkの共同企画によって開催。前日は神奈川にゆかりが深いアーティストたちによるイベントも開催されていたが、ぴあフェスを開催しているぴあと、ミュートマことミュージックトマトなどの音楽番組を放送してきたtvkだからこその出演者であり企画である。
開演前には屋外のグッズ売り場でイベントの公式グッズと銀杏BOYZのグッズに長蛇の列ができている。その様子からもこの日のライブを楽しみにしてきた人がたくさんいることがわかる。
14:30〜 銀杏BOYZ
時間になると特に前説やアナウンスなどなく場内が暗転。真っ暗なステージからは明らかにバンドが楽器を手にする音が聞こえてきて、ステージ両サイドのスクリーンには峯田和伸(ボーカル&ギター)がステージに歩いてくる姿がうっすらと見える。先月には中野サンプラザで3時間以上ものワンマンライブを行った銀杏BOYZがこの日のトップバッターである。
峯田の周りにはすでにおなじみのメンバーたちがスタンバイしており、加藤綾太と山本幹宗のギター2人が幽玄なサウンドを奏でる。中野サンプラザのライブではバンドとしては演奏されずに、アコースティックから通常の編成に切り替わる際のBGM的に流されていた「二回戦」からスタートするというのは実に意外であったが、おなじみのモッズコートを着た峯田は前髪を揃えるように髪を少しだけ切っており、服装だけではない部分もモッズになっている。
そんな峯田の歌唱がシューゲイザー的なギターサウンドに乗るこの曲では、急にライブが始まったということもあってか、まだスタンド席の観客には座ったままという人も多かったが、
「くそみたいに、くそみたいに君が好き」
というフレーズに思いっきり情念を込めて歌う峯田の姿に会場が引き込まれているのがはっきりとわかる。
峯田がギターを持つと、バンドのサウンドが一気にシューゲイザー的な轟音からパンク的な轟音になるのは「NO FUTURE NO CRY」。加藤と山本がイントロでギターを抱えて思いっきりジャンプする姿も、岡山健二(ドラム)と藤原寛(ベース)の元andymoriによる激しいリズムも紛れなくパンクなものであり、それまでは座っていた観客たちも一斉に立ち上がっていく。
銀杏BOYZはいつでもどんな時でもステージに上がりさえすれば銀杏BOYZでしかないというライブをやるバンドであるだけに、この日の対バン相手たちによってより気合いが入ったりライブが変わる…ということはあまりないと思われるけれど、それでもよだれを垂れ流しながら腕で観客を煽るような仕草を見せる峯田の姿からはどこか気合いの入りっぷりを感じざるを得ない。
さらにはそのまま峯田がギターを掻き鳴らしながら歌う「駆け抜けて性春」でも加藤と山本はギターを抱えてジャンプするという、もう完全に身も心も銀杏BOYZの一員になっているということを感じさせてくれるのであるが、とにかくハイカロリーというか、常に声を張り上げまくらないと歌えないこの曲はやはりコロナ禍で歌う機会が減ったこともあってか、やはり歌いきれているとは言い難い歌唱だった。それでも、コロナ禍になる前は観客が大合唱していた、音源ではYUKIが歌っている
「わたしはまぼろしなの
あなたの夢の中にいるの
触れれば消えてしまうの
それでもわたしを抱きしめてほしいの」
のフレーズまでも懸命に歌おうとする。結果的にステージに倒れ込んだりもしていたけれども、我々が歌えない状況になったからこそ、峯田が必死に我々に歌を届けようとしていることがより伝わってくるようにもなったと言えるかもしれない。
峯田がギターを置くと、
「この歌に心を込めて クズどもに歌ってみます」
という、まさにそんな我々が感じていることをそのまま歌詞にしたかのような「大人全滅」では岡山のドラムを軸にした削ぎ落としたアレンジによって演奏され、サビで一気にステージに光が射し込むとバンドのサウンドも一気にストレートなパンクになる。
「いつの日にか僕らが心から笑えるように 笑えますように」
というフレーズが、初めてこの曲を聴いてから20年近く(その時はGOING STEADYの「DON'T TRUST OVER THIRTY」という曲としてこの歌詞を聴いていた)経っても、今でもこのフレーズが響くというのは、それがそのまま今でもこうして銀杏BOYZのライブに来ている理由でもあり、自分が変わっていないということかもしれない。峯田は間奏ではおなじみの客席に向かって構えるようなポーズを取るのも昔から変わらないものだと言える。
「You Have Your Punk I Have Mine」
というこの曲の最後の叫び(銀杏BOYZバージョンだからこその)はこの日のパンクの本道が集ったライブだからこそより強く響く。それぞれの出演者にそれぞれのパンクがあり、我々観客一人一人にもそれぞれのパンクがあるからだ。
そんな峯田は
「普段完全に夜型なんですけど、14時30分からっていう時間にライブをやることになったんで、早起きしてきました。皆さん、早起きしてこんな横浜の端まで来てくれてありがとうございます」
と挨拶すると、
「今でも良く覚えてる。ギターを持ってバンドを始めた1996年の4月。周りの同級生たちに
「俺はいつかヒロト&マーシーやハイスタと対バンするから!」
って言ったらみんなに笑われて。その後にその同級生のホソガイタカシと一緒にコンビニに行ったら、
「さっきは笑っちゃったけど、俺は君なら絶対にそれが叶うって思ってるよ」
って言ってくれた。ホソガイ君、今日だよ。ついにその日が来たんだよ。イノマー、見てっか?俺は今日、ヒロト&マーシーと、ハイスタのメンバーと対バンするんだよ。ちゃんと見ていてくれよ」
と空に向かって語りかけた。その同級生の今は自分にはわからないが、この日の対バンを見てもらいたかったからこそ名前を出したであろうイノマーはもうこの世にいない。
だから峯田がタンバリンを持って歌った「漂流教室」は峯田が口にした、自分のことを信じてくれた2人に向けて
「はやく はやく こっちにおいでよ
君と僕は一生の友達なのさ」
と空に向けて歌ったように見えた。それは自分の夢が叶った瞬間をちゃんと2人に見せるように。ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトとは雑誌で対談しているし、Ken Yokoyamaとも番組出演時に少し絡んだこともある。でもやっぱりこうして同じステージに立って対バンするということこそが、峯田にとっての夢だったのだ。自分の人生を変えてくれた人の夢が叶った瞬間に居合わせることができた。それは自分の夢が叶ったことのように幸せな瞬間だった。
すると峯田はアコギに持ち替えて、
「普段ずっと家で寝転がってスマホ見て、オナニーして。腹減ったら飯食ってまたスマホ見て。そんな怠惰な生活をしている奴がここにさ俺以外にもきっといると思う。そんなあんたに言いたい。
「あんたは最高です!」
って。そんな俺たちに、ロックの神様よ今日だけは光を照らしてくれ!」
と、いつも以上に感情を込めるようにして「BABY BABY」を歌い始めた。サビではたくさんの人が立ち上がって腕を上げて飛び跳ねている。もしかしたら今日は銀杏は少しアウェーかもしれないな、と思いもしたけど、そんなことはなかった。こんなに広いアリーナでたくさんの人が銀杏BOYZの音楽に反応して楽しんでいる。峯田和伸本人があまり口にしないタイプだということもあるから、自分は銀杏BOYZに大きな会場でワンマンをやって欲しい的なことはあまり思っていなかったりするのだけれど、それでも銀杏BOYZが好きでライブが見たい人全員がチケットを取れるくらいの場所ではライブが見たいと思う。そんな人たちみんなでこういう場所に集まって想いを分け合うことができたら、と最後には峯田がステージ前に出てきて座ってアコギを弾きながら歌うこの日の「BABY BABY」を聴いてそんなことを思っていた。
峯田が普段アコギからタンバリンに持ち替えると、
「普段、愛してるなんて言ったことない。でも歌にすれば言える」
と言って、山本のギターが唸りをあげながらもとびきりキャッチーなメロディの「ぽあだむ」へ。アコギに持ち替えた加藤もその場でぴょんぴょんと飛び跳ねながらギターを弾いていたのだが、この曲でもたくさんの人が腕を上げて体を揺らしていた。銀杏BOYZの音楽が確かに届いていたと感じるとともに、決してパンクというサウンドではないこの曲も銀杏BOYZの代表曲と言っていいものになっているんだな、とワンマンではないライブで聴くとより実感することができる。
そして峯田が再びエレキを手にすると、
「少年は少女に出会う」
というサビの歌詞を口にしてから演奏されたのは最新シングル曲であり、先日のワンマンでも最後にアンコールとして演奏されていた「少年少女」。そのワンマンの時に峯田は
「もうバンドを始めた時の気持ちで曲を作ることはできない」
と言っていた。でもこの曲を聴いていると、かつての自分のようなやつのことを思って曲を作ることはできるんだろうなと思う。だから少年でも少女でもないけれど、今でも失われることのない衝動がこの曲からは鳴っている。もしかしたらそれはこの日の峯田の夢が叶ったライブだからこそ、より強く表出したものなのかもしれないと思ったし、それはきっとこれから先も銀杏BOYZの音楽として鳴らされていく。
子供の頃にドラマやCMでブルーハーツの曲が使われて聴いていた。音楽のランキング番組ではハイスタのアルバムがずっとランクインしていてしょっちゅう流れていた。でも自分はその頃に良い曲だなという子供でしかない感想しか抱かず、その曲たちを聴いてもパンクやロックに目覚めたりすることはなかった。
でも高校生の時に聴いたGOING STEADYは一瞬にして自分の人生を変えた。何も持ってない身になったタイミングの自分が聴いた峯田和伸の作った音楽が、その時の自分のための音楽になった。それは銀杏BOYZになっても、銀杏BOYZがあの4人じゃなくなっても変わることはない。このパンクの系譜の中でライブを見るからこそ、自分にとってのパンクはそれすなわち銀杏BOYZなんだと思う。その体験があったからこそ、こうして毎週のようにライブ会場に足を運ぶ人生になったのだ。
1.二回戦
2.NO FUTURE NO CRY
3.駆け抜けて性春
4.大人全滅
5.漂流教室
6.BABY BABY
7.ぽあだむ
8.少年少女
転換中にはキングオブコント2021チャンピオンの空気階段のコント。イノマーロックフェスでも同じように転換中にコントをやっていたが、かつて銀杏BOYZの追っかけと言っていいくらいにファンの間でも有名な存在だったもぐらが銀杏BOYZのライブの後にやるネタが「EXILEのオーディション」というのが実にシュールだったが、ネタ終わりの「これで終わり?」みたいな空気が1番ウケていた気もする。
16:10〜 ハルカミライ
歴順で並べるのならば、銀杏BOYZよりも先にハルカミライがトップバッターであるべきだが、この順番になった理由はわからない。わからないけれど、この日ハルカミライがこうして出演しているというのは、銀杏BOYZの先にいる存在のバンドがハルカミライだということだ。橋本学(ボーカル)も前日のライブで銀杏BOYZと対バンできることを喜んでいたという。毎日どこかでライブをやっているバンドだし、このぴあアリーナでも過去にライブをやっているけれど、間違いなく特別なライブなるこの日のハルカミライ。
予定時間の5分前から関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がステージに登場してサウンドチェックを兼ねたリハの演奏を始める。アキレス腱を断裂したことによって月初のぴあフェスの時には椅子に座り、メンバーに支えられながら歩いていた須藤は1人で歩き、立って演奏できるようになっているが、普通に歩き回りながら、時には飛び跳ねながら演奏しているのを見ると再発しないか心配になってしまうが、そんな須藤も
「今日出れて本当に嬉しいです!」
と口にするあたりは、メンバー全員がこの日のラインナップに入ることができたことを心から喜んでいることが伝わってくる。
「この曲だけでも覚えて帰ってください〜」
と言っていた「ファイト!!」を連発すると、本番では橋本が巨大な旗を持ってステージに登場し、「君にしか」から始まって「カントリーロード」へという必殺のオープニングコンボであるが、橋本の声は本当にこのアリーナ規模でも伸びやかに響く。ツービートの爆音のパンクサウンドではあるけれど、その音に甘えることなく自身の歌唱を研ぎ澄ませ続けていることがハッキリとわかる。間奏では関が上手の通路に出て行ってギターを弾きまくると、オープニングで持参した旗をステージ前に落としてしまい、それを拾ってもらった橋本も最後のサビに入る前には珍しくメンバーの名前だけではなくて年齢も紹介する。それはこのメンツであるだけに自分たちのことを初めて見るという人への配慮でもあったのだろう。そんな状況でも緊張したり縮こまったりしているところは全くなく、むしろ堂々としているようにしか見えないあたりはさすがだ。
リハとは異なって橋本も歌唱に参加する「ファイト!!」を関がステージ上をスライディングしたり、須藤がほぼ全快のように見えるけれども片足で飛び跳ねしたりしているうちにあっという間に終えると、「俺達が呼んでいる」では橋本もステージ横の通路を歩きながら歌う。逆光で明滅するステージはよく見えなかったりもするのであるが、曲のツービートに合わせたかのようなその明滅っぷりがバンドのカッコ良さを引き立てているし、一瞬の曲間もなくショートチューンの「フルアイビール」へと自然に繋がっていくのも、ファンでもさすがに全部は行けないどころか把握することすら困難なくらいに日頃からライブハウスを回りまくっているライブバンドだからこそのアレンジである。
「ここが世界の真ん中!」
と橋本が強く言い切るのもこの日ばかりは深く頷かざるを得ない「春のテーマ」では全く激しい曲ではないのにもかかわらず、関が小松のドラムセットにダイブする。それでも何も影響がないかのようにドラムを叩き続ける小松は髪が金髪になってどこか体もシュッとしたことからどことなくイケメンっぽくなってきたように感じてしまう。昔まだパンクに振り切る前に高田馬場の小さなライブハウスで見た時の「この子はこんな都会に出てきて大丈夫だろうか?」と思ったくらいの純朴さからしたらもはや別人レベルになりつつある。
そんな「春のテーマ」をメンバー全員の大合唱で高らかに響かせると橋本は
「初めましての人もたくさんいるだろうけど、自由に、適当にやればいいから。ロックなんて適当なもんだ」
と言って須藤の実家の犬の曲である「Tough to be a Hugh」で再びツービートで突っ走るのであるが、適当ではないとしてもハルカミライのメンバーがステージ上を駆け回ったり飛び跳ねたりと、1番自由に楽しんでいる。というか自分たちがそうした姿を見せないと、初めて見る人にとって自分の言葉が説得力を持たないのがわかっているかのように。
そんなハルカミライの自由さや激しさ、ひいてはパンクさだけではないメロディの力の強さを感じさせてくれるのは「Predawn」から「ウルトラマリン」という流れ。「Predawn」では橋本がそれまで以上にしっかりと客席の1人1人を見据えるように目線を向けながら歌い、「ウルトラマリン」では
「1番綺麗な君を見てた」
というサビのフレーズで、それまでの拳ではなく人差し指を突き上げる観客の姿が目に入ってくる。その人たちをよく見るとハルカミライのTシャツを着たりタオルを持ったりしている。もしかしたらハルカミライしか知らないかもしれないくらいに若い人たちが、安くはないチケット代を払ってこのライブにたくさん来ていることがよくわかる。その人たちの存在がハルカミライのライブをアウェーなものにならない理由になっているし、ハルカミライが憧れてきたバンドたちがこの日同じステージに立っているということだって、曲は知らなくても少しはわかっているんじゃないかと思う。そういうハルカミライのファンがこの日足を運んでいたことが個人的には凄く嬉しかった。
「へいへいほー」
のという字面にすると全くそうは感じないけれど、そのコーラスが力強く響く「PEAK'D YELLOW」がまさにここからピークを到来させるかのようにさらにバンドにオーラを与え、曲の最後には手拍子も起きると小松は手拍子をしながらステージ前に出てきてメンバー全員が横一列に並ぶ。
その状態で曲に入るよりも前に橋本は
「俺たちが今日出てるバンドに憧れてバンドを始めたように、俺たちを見てバンドを始めてくれる奴だってきっといる。俺はタトゥーも入ってるし髪も赤いけど、バンド始める前からそれなりに生きてきた。そりゃあ毎日が花丸や二重丸をつけられるような日ばっかりじゃないけど、でも今日だけは仲間たちのところや先輩のところや育ったライブハウスに胸を張って帰れる!」
と、この日のラインナップの中に自分たちがいることの喜びと誇りを自分たちの言葉で口にして
「ああ僕のこと 君のこと 話は尽きないほど」
と「世界を終わらせて」を歌い始め、小松もドラムセットに戻るとそれまでよりもさらに爆音が鳴り響く。そこには橋本の言葉通りの感情が間違いなく乗っていたからだ。
「世界を変えて 君の僕になって」
と橋本が高らかに歌い上げた瞬間、きっとこのメンバーたちもこの日の出演者たちの音楽を聴いて自分の世界が変わったんだろうなと思った。
そしてクライマックスへと突入していくことを感じさせるのは「僕らは街を光らせた」で、橋本は
「STAY HOMEもなんかもう懐かしく感じる STAY YOUNGもいいけど大人になるのも悪くないって感じるからやっぱりSTAY ROCK」
と歌詞を変えて歌う。それは今の状況とこの日のライブタイトルだからこその、この日でしかない歌詞。そう歌えるような日々を超えてきたからこそ、
「希望の果てを
音楽の果てを
この歌の果てを
歓声の果てを」
というフレーズがより力強く聞こえ、見ていて上がる拳を握る力も強くなる。
「汗にまみれ、泥にまみれても
俺たち強く生きてかなきゃね」
というフレーズが我々にくれるのはやはり音楽の力による希望だ。これさえあれば生きていけると思うような。
「なんつーか、新参者を品定めするように見るんじゃなくて、ちゃんと対等に見てくれてるのがわかる。それが伝わってきて本当に嬉しいっす!」
と橋本は自分たちが憧れたバンドのファンが自分たちを認めてくれている喜びを口にしていたが、それはハルカミライのライブの力によってそうすることができたのだ。それくらいにどんどん会場を引き込み、支配しているのがわかる。個人的にも銀杏BOYZのライブ後というのはどこか一つ「終わった…」という燃え尽きた感じになってしまいがちなのだが、ハルカミライがその後に出てきてくれたからこの日は全くそうは思わない。むしろさらに自分の心や魂が熱く燃えているのが自分でもわかるのだ。
さらに橋本は
「空気階段にも後で会うことができたら、遅くなってしまったけど、キングオブコント優勝おめでとうって伝えたい」
と言った。憧れの人たちはもちろん、自分たちと同じようにその人たちに憧れていた空気階段にもちゃんと言葉を送ることができるというのが実に橋本らしくて素晴らしい配慮だと思うし、きっとメンバーも空気階段のことが好きなんだろうなと思う。
そしてこの日のハルカミライのライブで1番やって欲しかった、1番楽しみにしていた曲が「アストロビスタ」だ。橋本はやはり
「眠れない夜に私 ザ・クロマニヨンズを聴くのさ」
と歌詞を変えて歌う。そこには歌詞にするくらいに自分たちが強い影響を受けたヒロト&マーシーが今でもクロマニヨンズとして活動していることへのリスペクトを感じさせるのだが、橋本はさらに曲中に
「今日出れて本当に嬉しい!このバンドを組んで本当に良かった!」
と実に素直に、というかもうそうとしか言えないというくらいの思いをストレートに叫ぶ。そこまで橋本が言う日はなかなかないからこそ、それを聞いていて涙が出てきてしまった。今でも自分に「パンクって最高にカッコいいな」って思わせてくれるバンドが、この日の出演者と対バンできたことの喜びを爆発させている。この日、出てくれて本当に良かった!と口に出して叫びたいくらいだった。橋本は恒例の「宇宙飛行士」のフレーズを曲中に入れ込みながら最後には
「さあ写真を撮ろう この日のことを忘れないように」
と歌った。それはどうしたって忘れることはできないこの日を少しでも強く記憶に残しておきたいという思いによる言葉だったはずだ。我々は写真を撮ることはできないけれど、それでもこの日のハルカミライの姿は一生忘れることはないと思う。
そんなクライマックスはまだ続く。「僕らは街を光らせた」も「アストロビスタ」も何度もライブの最後を担ってきた曲だが、そんな曲たちの後にさらにトドメとばかりに演奏されたのは「ヨーロービル、朝」。その歌詞がこの日は銀杏BOYZやブルーハーツに憧れてバンドを始めて八王子のライブハウスに立っていた頃のハルカミライの姿を想起させる。そんなバンドがこうして憧れたバンドたちと同じステージに立っている。オープニングアクトとかではなくて、同じ地平に立つことができている。そんな思いが全て音に込められている。向かい合って呼吸を確かめ合いながら、合わせるようにしながら爆音を鳴らす関、須藤、小松。ハイトーンボイスにありったけの力を込める橋本。今までも何度もライブで聴いては魂を揺さぶられてきたこの曲の中でもこの日はトップクラスだったかもしれない。それくらいにハルカミライの鳴らしている音がこの会場を、このイベントを飲み込んでいた。動員とか人気じゃなくて、そのライブの力によってこの日の出演者と同じ地平に到達した。それを自分たちの音で示していた。やっぱりハルカミライは化け物、いや、本物だった。数多出現しては消えていってしまうパンクバンドの中の、現代の本物。この4人はこの日そこに到達したのだった。
話題になっては数年後にはもういない、みたいなパンクバンドもたくさん見てきたからこそ、パンクバンドが続いていくのは本当に難しいと思っている。ブルーハーツも活動期間は長くはなかったし、ハイスタも長い時間活動休止をした。GOING STEADYもあっという間に解散し、銀杏BOYZもあの4人では続かなかった。この日のハルカミライ以外の3組のレジェンドもそうした経験をした上でこのステージに立っている。
でもハルカミライにはそんなパンクの歴史を覆して欲しい。変わらないまま、今のハルカミライのままで何十年か後に最前線で生きるレジェンドでいて欲しい。それはこうして系譜の最新系にいることを選ばれたハルカミライにしかできない。それを背負ったりするのではなくて、あくまで今の自分たちのままで成し遂げて欲しい。その時にはさらに若いバンドがハルカミライの系譜の先にいるようになっているはずだ。
リハ.ファイト!!
リハ.エース
リハ.ファイト!!
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.フルアイビール
6.春のテーマ
7.Tough to be a Hugh
8.Predawn
9.ウルトラマリン
10.PEAK'D YELLOW
11.世界を終わらせて
12.僕らは街を光らせた
13.アストロビスタ
14.ヨーロービル、朝
転換中にはこの日2本目の空気階段のコント。ここでのネタはキングオブコントなどでも披露していた、水川かたまりが同級生の女子のストーカーをしている高校生のネタ。1本目がそうだったように、とかくもぐらがヤバい奴の役をやるみたいなコントが多いけれど、実は2人ともその役ができて、かつ見た目的にかたまりがその役を担うともぐらとは違う狂気を感じさせるというのがこの2人のネタの面白さだと思っている。
17:50〜 Ken Yokoyama
サウンドチェック時にギターがHUSKING BEEの「Walk」のカバーを鳴らしていて観客のテンションを上げてくれた、Ken Yokoyama。自身の設立した会社であるPIZZA OF DEATHが主催するSATANIC CARNIVALや京都大作戦など、今でもパンク要素が強いフェスによく出演しているが、Hi-STANDARDとして日本のパンクの歴史を作った男として、この系譜でのトリ前に出演。
おなじみのJun Gray(ベース)、Minami(ギター)、Eiji(ドラム)の3人に続いて観客に会釈しながらKen Yokoyama(ボーカル&ギター)がステージに現れると、
「今日はいろんなバンドのライブ見て楽しかったでしょ?俺たち、東京から来ましたKen Yokoyamaって言います。久しぶりの曲から始めます!」
と言ってJun Grayがベースを抱えて高くジャンプするようにして始まったのは「We Are Fuckin' One」で、パンクでありながらも銀杏BOYZともハルカミライとも違うメロコアの爽快なメロディとファストなビートが鳴らされる。かつてこの曲を演奏していた時のようにKenは日本国旗を纏ったりすることはないけれど、この曲が持つ「連帯」というメッセージは今になってより強く響くようになっている。それは世界の情勢がそう感じざるを得ないようなものになっているからであるが、Ken Yokoyamaのパンクはいつだってそんな社会へのメッセージなりカウンターであり続けている。
一転してMinamiとJun Grayがモータウン的なリズムを刻む「Woh Oh」はそのタイトル通りにサビでは歌詞ならぬ合唱するためのコーラスが響く曲。もちろんそれは今はメンバーのものしか響くことはないし、Ken自身も
「Singing in your heart!」
と心の中での合唱を促していたのだが、それが客席から響くようになるまでもう少しだということをきっとメンバーも感じているんじゃないかと思う。
Kenがギターのチューニングをしながらイントロに繋がる音を鳴らすと、演奏されたのは「君の瞳に恋してる」の邦題でも知られ、この日の会場内BGMでも流されていた「Can't Take My Eyes Off Of You」のパンクカバーなのだが、ハイスタ時代からこうした誰もが知るような曲を自分たちなりのメロコアサウンドでアレンジしてきたカバー巧者っぷりは今聞いても変わることはないし、パンクバンドがヒット曲のパンクカバーをすることで注目を集めるという手法を確立したのもこの男だと言えるかもしれないが、メロコアというジャンルはメロディック・ハードコアの略であり、メロディックという単語を冠しているということはメロディが際立つ音楽であるということをギターのリフなどで改めて示してくれるような名カバーである。
そんなKenはハルカミライを
「うちが主催しているフェスによく出てもらってるんだけど、こうやって同じステージでガッツリ一緒にやるのは初めて」
と紹介すると、
「銀杏BOYZの峯田くんにも久しぶりに会ったけど、全然久しぶりって感じしないね。会場着いてからずっと峯田くんに喫煙所に監禁されてた(笑)向こうは出番終わったからもういいだろうけど、俺はずっと喫煙所にいたらゴホゴホしちゃう(笑)
この後はザ・クロマニヨンズが出てきて締めてくれるから!」
と旧知の中である先輩と後輩にも触れるのだが、かつてハイスタのライブ映像の客席に映り込んでおり、「好きすぎて会いたくない存在」とKenのことを評していた峯田は普通に話せるくらいの関係になったということだろうか。
「銀杏BOYZもハルカミライも日本語だったから君たちには俺が何を歌ってるかわからないだろうけど、教えてあげよう。英語で歌ってます!」
と言ってから「I Love」を演奏するのだが、その言葉を聞いて今英語で歌う若手アーティストやバンドはだいぶ減ったなと思った。ましてやハイスタやELLEGARDENのように英語歌詞で大ヒットするようなバンドは皆無と言っていい。もちろんメロコアシーンにはSHANKやDizzy SunfistやKUZIRAやTruck'sのようなカッコいい英語歌詞のバンドもいるけれど、オーバーグラウンドなシーンまで浸透しているというわけではないし、日本語が強いアーティストがその歌詞の表現によってより話題になりやすくなってきている。それでも日本語にした方が売れるからなんていう理由でこの人は日本語歌詞にすることは絶対にないだろう。このポップなバンドサウンドの「I Love」も英語だから歌えるところもあるのかもしれないが、そんなKen Yokoyamaのスタンスはこれからも変わることはないはずだ。
それはミュージックステーション出演時に披露された「I Won't Turn Off My Radio」のメッセージにも共通している。Kenは間奏でラジオの周波数を合わせるかのような動きをしていたが、そうした自分が音楽を聴いてきた、育ったものへの愛はずっと変わらないというような。
そんなKenの最新作となっているのが昨年リリースのアルバム「4Wheels 9Lives」であり、そのタイトル曲からもKenの変わらぬ生き様が鳴っている。それはパンクでありバンドであるということなのだが、Eijiが加入したのは最近であったりと、様々な変化もありながらもこの4人で音を鳴らしてきた歩みがそのまま曲になっている。サビの言葉にならないようなKenの叫びは言葉にすることができないコロナ禍への怒りややるせなさそのものであるかのようだ。
そんなKenはやはりこうしてライブで聴いていても決して歌が上手いというボーカリストではないのだが、それでも「A Beautiful Song」の歌唱などはパンクをやるために生きてきたこの人だからこそ、いわゆるJ-POPのラブソング的なバラードではなくてあくまでパンクのバラードとして響く。少しドスの効いた荒々しい歌声はなかなか今の若手バンドにはいないタイプだ。(あえて言うならSHANKの庵原将平がそのタイプだろうか)
するとこの全席指定の客席を見渡したKenは
「少しずつ戻ってきてると思う。またここでもオールスタンディングでぐちゃぐちゃになりながらやりたいね。
でもなんでもOKになっても今のこういう全席指定の形でもライブを続けていこうって思ってる。オールスタンディングだと最後に最前にいるのは元気なおっさんだけだけど、こういう指定席なら小さい子供や女性の方でも前の方で見れるから。まだ決まってないけど、来年にホールツアーとかやるかもしれないし」
と口にすると、スクリーンには運良く最前を引き当てた女性や、親と来たであろう小学生くらいの子供の姿も映る。
コロナ禍になった時にはむしろ今まで通りにできないならライブ自体をやらない的なことすら言っていたし、そこには日本にモッシュやダイブの楽しみ方を定着させたバンドのメンバーとしての矜持を感じさせたのであるが、そんなKenもこのコロナ禍の中でライブをやってきたことによって、自分のライブを近くで見たいと思っている人が思った以上に幅広い世代にいるということに気付いたんじゃないだろうか。インタビューでは
「もう俺たちが見てきた景色は俺が生きてるうちは戻ってこないと思ってる」
とすら言っていたKen Yokoyamaはコロナ禍のライブからポジティブなものを見つけて、それを活かして進んでいこうとしている。その柔軟性と、何よりもいろんな人を思いやることができるというのが自分がこの人から感じ続けているパンクさだ。そうしてモッシュピットにいれない人もパンクバンドのライブを観に行くようになったら最高だな、と自分もKenの発言をポジティブに捉えることができている。
そんなこれから先の日々やこれまでの日々がまだまだ険しい道のりであるけれど、それをパンクに走り続けていくということを感じさせるような「Running On The Winding Road」で再びパンクのビートが疾走すると、Jun Grayはキメでベースを抱えてジャンプしたり、キックを繰り出すようにジャンプしたりする。そこからはパンクであるということはキッズのままであるということを実践してくれているように見えるし、だからもうベテランもベテラン(Jun Grayはメンバーの中でもキャリアがより長い)であるこのバンドのメンバーを見ていても常に若々しさ、瑞々しさを感じる。そんなメンバーをまとめあげるEijiのドラムはやはりFACT時代の凄まじさから全く変わっていない。
そして
「横浜、ぴあアリーナ、喰らってくれ!」
と言って最後に演奏されたのはもちろん「Punk Rock Dream」。サビでMinamiがコーラスを重ね、Jun Grayがジャンプするとたくさんの観客が腕を上げる。
「But I still believe, that my punk rock dream was totally fuckin real」
という歌詞のように、今もKen Yokoyamaはパンクロックに夢を見ている。それはこうしてパンクのライブに来続けている我々もそうであるし、この男がステージに立ってくれていれば、AIR JAM全盛期から今でもライブに足を運んでいるパンクな先輩方がこれからもPIZZA OF DEATHのTシャツを着てライブハウスに行く理由ができる。そんな自分より上の世代の人たちがパンクのライブで熱狂している姿をまだまだ見ていたい。自分がその年齢になってもパンクのライブに行き続けられるように。
1.We Are Fuckin' One
2.Woh Oh
3.Can't Take My Eyes Off Of You
4.I Love
5.I Won't Turn Off My Radio
6.4Wheels 9 Lives
7.A Beautiful Song
8.Running On The Winding Road
9.Punk Rock Dream
転換中には最後の空気階段のコント。最後は浮気男をクローゼットの妖精が懲らしめるネタであり、もぐらのキャラやセリフも1本目よりウケていた感があるが、このネタを今やるのはそうした問題があらゆる方面から次々に出てくるこの時勢への警鐘だと思うのは考えすぎだろうか。
ネタ後には観客に挨拶もするのだが、かたまりのギャグはスベりまくり、もぐらはひたすら自身が出演しているカレーメシのキャラを演じ続けていたのだが、このメンツの中でネタをやる意味をわかっているもぐらだからこそ、平静ではいられないというか、普通に喋ることが難しかったんだろうかとも思う。
19:30〜 ザ・クロマニヨンズ
そしてこの日のトリはザ・クロマニヨンズ。この日前に出た3組からもリスペクトを向けられていたバンドがこの日を締めるというのはある意味当然の流れだ。個人的には8月のサマソニ、9月の中津川と3ヶ月連続でのクロマニヨンズのライブとなるが、それはそれくらいにこのバンドが今でもライブをやって生きているということである。
場内が暗転するとおなじみの原人のうめき声のような音が響く中でメンバーがステージに現れる。歌う前から「シェー」みたいなポーズを取りまくる甲本ヒロト(ボーカル)はその坊主っぽい髪型も含めてとても50歳を超えているとは思えないくらいに、もう10年以上前になるクロマニヨンズ結成時から全く変わっていないように見えるが、「クロマニヨン・ストンプ」での歌いながらの飛び跳ね方からもそう感じざるを得ない。それはマーシーこと真島真利(ギター)のしゃがれ声によるコーラスと軽快なギターの弾き方からも感じられるし、何よりも2人とも全く体型が変わることがないというあたりが生きるレジェンドでありロックスターそのものの姿である。
「タリホー」でやはりヒロトが飛び跳ね方ながら歌うとたくさんの腕が上がり、そのまま「生きる」へと続いていくというのは最近の定番の流れであるが、やはりこの日1日の流れの果てでクロマニヨンズのライブを観るといつも以上にそのメンバーたちの生命力の強さに感動してしまう。自分が憧れている人たちが憧れている人たちがこうやって現役で、かつ最前線に立ち続けている姿を見ることができているのだから。
「見えるものだけ それさえあれば
たどり着けない答えは ないぜ」
というサビのフレーズはそれだけを念頭に入れて生きてきたこのバンドの現在地のようにすら響く。
桐田勝治(ドラム)がイントロで立ち上がって腕を上げ、さらにはスティックを振るうようにして観客を煽り、小林勝(ベース)も力強く右腕を伸ばす姿がこの4人だからこその変わらぬロックンロールっぷりを感じさせる「雷雨決行」が、実際に土砂降りの中津川の時でも変わらぬロックンロールを鳴らしてきたこのバンドの生き様のように響くとヒロトは客席を見渡して、
「もう言えることはありません!最高です!」
とだけ言って自身のブルースハープを響かせる「ドライブ GO!」へ。ハルカミライの橋本もライブではブルースハープを吹く曲があるが、そうした姿は間違いなくこのヒロトの影響によるものだろう。
マーシーだけではなくて小林のコーラスも、マイクをヘッドセットにしている桐田のコーラスまでも重なる「光の魔人」など、少しは(基準が曖昧すぎてどうすればいいのかと思うけれど)声が出せるようになってきたとはいえ、それでもクロマニヨンズのシンプルなロックンロールは観客も含めて一緒に歌うものだよなぁとこの状況下でライブを見るたびに思う。
そんなどん底のような状況を経験してきたからこそ、ヒロトがステージ中央で仁王立ちするようにしながら歌う
「どん底だから あがるだけ」
という「どん底」のフレーズが我々に希望を与えてくれる。それがただ無責任なものに感じないのはヒロトとマーシーが経てきた人生経験や、かつて書いてきた社会的だったり文学的だったりする歌詞を経てこうしたシンプルな表現にたどり着いているからであるが、ただクロマニヨンズがライブをしているだけですら希望を感じられるだけに、この曲が持つ力の凄さを改めて実感させられる。もちろん曲自体はコロナ禍になるはるか前に書かれたものであるからこそ、きっとこれから先の社会や聞き手一人一人の人生がどんなにキツいものになろうと、その時にも全く同じようにこの曲が響くはずだ。
そして最近映画が上映された(映画のタイトルは「エルヴィス」らしいが)ことによって、まるでこの曲に合わせたようなタイミングのようですらあるクロマニヨンズの引力を感じさせる「エルビス」を演奏するとヒロトはあらゆる方向の観客に
「ありがとう〜。この言葉しか知らないみたいな感じだけど〜」
と感謝を告げ、さらにはこの日の出演者全組(空気階段も含めて)の名前それぞれに「ロックンロール!」と付けて叫ぶ。ヒロトに自分たちのグループの名前を呼んでもらえる、しかもそこに「ロックンロール!」とすら称してもらえるというのはどんな感覚なんだろうか。それはきっとこの日の出演者たちだからこそ得るものができたことである。
そんな場面もありながら、メンバーの勇壮なコーラスが響き、ヒロトもマイクを握りしめて思いっきり歌うような「グリセリン・クイーン」でクライマックスに突入すると、マーシーは赤のバンドTシャツを脱ぐと黒いTシャツに着替えるのだが、その着替えているマーシーの真横でちょっかいを出すかのようにヒロトが再びブルースハープを吹き鳴らすのは、歌詞通りにジャングルビートな「暴動チャイル (BO CHILE)」なのだが、ヒロトのブルースハープを聴いていると、この楽器はこんなに豊かな音色を響かせられるんだなと思う。それはもちろんヒロトがそれくらいに吹きこなすことができているからだが、ギターが一本だけのバンドだけどメロディを鳴らす楽器はギターだけではないということを示してくれている。
そしてヒロトはこの肌寒くもある季節(会場も広いから待ち時間は少し寒くもあった)にもかかわらずTシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になる。その際のスタッフのTシャツの見事なキャッチっぷりも素晴らしいコンビネーションであるが、橋本学が毎回上半身裸になるのも、峯田和伸が上半身だけではない部分まで裸になってしまったのも源流にはヒロトのこの姿があるんじゃないかと思う。
そんな上半身裸になったヒロトが手をゆらゆらと揺らしながら歌う「紙飛行機」では観客が同じように頭の上で手をゆらゆらと揺らす。その何も言わずともお互いがわかり合っているかのような光景にも心が揺さぶられるが、何よりも「ギリギリガガンガン」「エイトビート」と終盤に来てさらにロックンロールのビートが強くなっているというあたりにこそクロマニヨンズのライブの凄まじさを感じる。特別な演出はおろか、心境を吐露するようなMCすらも全くない。ただひたすらにロックンロールを鳴らして歌っているだけ。それだけに宿る魔法のような力。結局、ライブに1番必要なのはこれであり、これさえあれば他に何もいらないということをこのバンドは自らの姿とパフォーマンスで示している。もちろんそれはヒロトとマーシーだからこそ、クロマニヨンズだからこそ成り立つものであるが、そんな姿を見ると
「今日は最高の気分だ」
「ただ生きる 生きてやる 呼吸を止めてなるものか」
という歌詞が、まるでこの日のテーマであるかのように胸に強く響いてくる。やはりこのバンドはあまりに最強過ぎる。
そしてラストの「ナンバーワン野郎!」では歌い出しからヒロトが音程を無視するかのように思いっきり力を込めて歌い、マーシーのコーラスももはやシャウトというレベルに激しくなる。何十年ライブをやってきても、今でも衝動が溢れて止まない。それこそがロックンロールの力である。そんなことをこのバンドは我々に示してくれている。
演奏が終わるとヒロトはベルトを首に巻き、マーシーはTシャツを観客に見せつけて、最後に投げキスまでしてから去っていった。もしかしたらこの日の出演者たちのライブを見て燃えたぎるものがあったり、そんなバンドたちが自分たちをリスペクトしていることの喜びを言葉には出さずとも感じていたのかもしれない。つまりはやっぱりクロマニヨンズはこの日もナンバーワン野郎だったのである。
クロマニヨンズの曲はもう本当にシンプルなロックンロールでしかない。なんなら楽器さえ演奏できれば、自分でもできるんじゃね?とすら思ってしまうような。その思いがたくさんの人をロックバンドに誘ってきたものであるけれど、それでもただこの曲たちを演奏してもクロマニヨンズにはならない。ヒロトとマーシーが、この4人が鳴らすからこそクロマニヨンズになる。その人でしか鳴らせない音が鳴っている。
それこそがこのバンドたちの系譜なんじゃないだろうか。峯田和伸でなければ、橋本学でなければ、横山健でなければ歌っても成立しない、銀杏BOYZでなければ、ハルカミライでなければ、Ken Yokoyamaでなければ鳴らしても成立しない。その人間力こそがヒロトとマーシーがブルーハーツだった頃から脈々とこのバンドたちに受け継がれてきた力だったんじゃないだろうか。
1.クロマニヨン・ストンプ
2.タリホー
3.生きる
4.雷雨決行
5.ドライブ GO!
6.光の魔人
7.どん底
8.エルビス
9.グリセリン・クイーン
10.暴動チャイル (BO CHILE)
11.紙飛行機
12.ギリギリガガンガン
13.エイトビート
14.ナンバーワン野郎!
冒頭にも書いた通りに、こんなラインナップのライブを見れる日が来るなんて思わなかった。自分の頭の中で並んでいた歴史がちゃんと一本の線で繋がったような、そんな日だった。だからこそこれはもはやラインナップではなくて系譜だ。そしてこんな日があると、やっぱりパンクロックが好きだと思う。それは、優しいから好きなんだ。