THE SUN ALSO RISES vol.162 - a flood of circle / cinema staff- @横浜F.A.D 10/26
- 2022/10/27
- 20:41
ビックリするくらいに頻繁に、バンド同士から弾き語りまであらゆる組み合わせで開催されている横浜F.A.D主催の対バンライブイベント。
もう162回という長寿企画であるが、今回はa flood of circleとcinema staffという組み合わせ。フラッドは前週に代々木公園でフリーライブを行い、cinema staffも日比谷野音でワンマンをやったばかりという、互いに新たなスタートを切ったバンド同士の対バンである。
・cinema staff
年始にこのF.A.Dを訪れた時にはあった客席足元の立ち位置指定がなくなったことによって、限りなくフルキャパになっているF.A.Dの客席。19時になるとそこに先に登場したのはcinema staff。アンプの上には岐阜のゆるキャラのぬいぐるみが置かれているなど、フェスを主催している自分たちの地元への愛情の深さがそうしたところからも感じられる。
グレーのセットアップというやたらとフォーマルな出で立ちの飯田瑞規(ボーカル&ギター)が
「cinema staffです。よろしくお願いします」
と挨拶すると、その飯田のギターが爽やかなサウンドを奏でる「奇跡」からスタート。その歌声も名前に瑞という文字が入っているにふさわしい瑞々しさを感じさせるものであり、そこはもうベテランと言えるような立ち位置になってきても変わることはないのであるが、その飯田のギターや歌声と対をなすように辻友貴は笑顔でステージ前に歩み出て轟音サウンドを鳴らす。この両極性はずっと変わらないcinema staffらしさだなと久しぶりにライブを見ても思う。
そんなcinema staffの名前を最も広く知らしめたのはかつて「進撃の巨人」のタイアップ曲となった「great escape」であり、まさに巨人が迫ってきているかのような切迫感を感じさせるロックサウンドは今でも本当にカッコいい曲だなと思うし、こうしてライブでやってくれているのが嬉しい曲でもある。今では都内の某所で店先に立つ姿を見る機会も個人的にたまにある辻はどこか永遠のぼっちゃん的な髪型をしながは、歯でギターを噛むかのような破天荒なギタープレイを見せてくれるのであるが、それもまた巨人の襲来に抗う人類の姿であるかのような。現在SiMが「進撃の巨人」のタイアップを担当し、アメリカツアーが決まるくらいに大ヒットしまくっているが、もしこの曲が今タイアップになっていたらこのバンドもそんな状況を生み出していたんだろうか…とも思ってしまう。
そんなバンドは昨年ニューアルバム「海底より愛を込めて」をリリースしているのであるが、その中から1曲目にしてリード曲的な「海底」が披露されると、
「気づけば俺は海の底にいた」
という歌い出しの通りに、髪を赤く染めた久野洋平(ドラム)と、金混じりの長いパーマというかつての石毛輝(the telephones)を彷彿とさせる出で立ちになった三島想平(ベース)のリズム隊が実に重厚感を感じるような、どっしりとしたリズムを刻む。そこには確かにもう15年に渡り変わらずに活動してきたバンドとしての説得力を感じさせてくれる。それが最後には
「いつか想像力で 地上へ」
と光を感じさせるように開けていく構成もそうであるが、そこには初期のバンドの名曲との繋がりも感じられるものになっている。
「初めて見るっていう人も多いだろうけど、cinema staffって言います。よろしくお願いします」
と改めて飯田が挨拶をすると、このバンドのメロディーのポップさ、ギターサウンドのキャッチーさを感じさせる、辻の演奏中の笑顔も眩しい「VOLKA」から久野がアウトロとイントロを繋げるように構築性を感じさせるリズムを刻んでそのまま「熱源」へ。タイトル通りにその音からはロックバンドとしての熱量が確かにこもっているのが伝わってくるのであるが、ポストロック的な構築性とエモーショナルなギターロックという相反するような要素をどちらもルーツに持っているこのバンドだから生まれている唯一無二の音楽だなということがライブを見ると実によくわかるし、デビュー時は9mm Parabellum BulletとPeople In The Boxに続く所属レコード会社の三男的なバンドという見られ方が強かったが、このバンドのような音楽性のバンドはあらゆる方法論が出尽くし、世界中のあらゆる時代にアクセスできる今の時代においても他にいないなと思う。
こちらも最新アルバム収録の「白夜」は一転して実にシャープなcinema staffのギターロックという形を見せてくれる。飯田の歌声もどこか瑞々しさだけではなく、
「俺は陽炎 君は残像」
というサビの歌い出しのフレーズの韻の踏み方などはそのスパッと歌い切る発音によって曲にさらにスピード感を与えている。声質自体はずっと変わらないけれども、技術と表現力がこうして進化しているのがわかるあたり、これから飯田がさらにベテランになってどんなボーカリストになるのか楽しみだ。
そんなバンドの最新曲が日比谷野音で披露され、2週間前に配信リリースされたばかりの「flugel」。
「今だけは、きみを、抱いていたいよ
かなしみが希望と踊った夜に」
という句読点やひらがな表記を駆使した、三島の作詞家としての文学性の高さを特別な単語を用いることなく感じさせる歌詞からはどこか自分たちを見続けてきてくれた人たちへのメッセージであるかのようにも感じられる。こうした壮大なメロディーをも4人の鳴らす音だけで表現できるあたりはさすがだが、こうしてライブハウスで聴いていると野音ではどのようにして響いていたのだろうかと思ってしまう。それくらいのスケールを持った曲である。
さらに新作モードは続き、アルバムからは
「この3000マイルの道の途中で
僕ら今を分かち合う
2000年後もきっと同じ
若者が愛を語り合うよ」
というサビの歌詞が童話的というか、ファンタジー的な群像劇のナレーションのようにすら響く、タイトル通りに蒼さを感じさせるサウンドとメロディーによる「若者たち」が演奏される。そんな曲を笑顔で鳴らしているこのバンドは今でも本当に若者たちのままであるかのように見えるし、それはきっとこれからも変わることはないだろうと思う。
そんなcinema staffがフラッドと対バンするのは実に5年前の新代田FEVERぶりだというのだが、お互いに仲は良いし、新作が出たら必ずチェックするようなバンドだというのだけれど、ライブを観に行ったりすることもないだけに会うこと自体が5年ぶりなため、
飯田「佐々木君って呼んでたか佐々木さんって呼んでたかも忘れてしまった(笑)
今日は佐々木君って呼んでたんだけど」
久野「前から佐々木君って呼んでたよ(笑)」
飯田「渡邊さんのことをナベさんって呼んでたのも前からだっけ?」
久野「それは今日初めて聞いた(笑)」
という、演奏中の集中力とは全く異なる緩いMCで我々を笑わせてくれるのであるが、その口調からは隠しきれないメンバーの朗らかかつ愉快な人間性が滲み出ている。HISAYOのことも「姐さん」ではなく「お姉さん」って呼んじゃいそうで、それはさすがに違うとのこと。
そんなMCで意外なくらいの笑いを誘うと、三島が9mmの和彦を彷彿とさせるシャウトを連発し、ここまで最も自由にステージ上を動き回りながら演奏していた辻もコーラスを重ねる最新作収録の「I melted into the Void」が披露され、こうした小さいライブハウスで生きてきたバンドの鳴らす今も変わることのないロックサウンドを体感させてくれる。
「A か B か 生か死か 空想か 現実か
栄か美か 政か私か 天国か 地獄か」
など、言葉遊び感も強い歌詞がやはりスピード感をさらに感じさせてくれるのであるが、こうして全くタイプの異なる歌詞を書き分けている三島は本当に作家としても活躍できるんじゃないかと思うくらいに言葉の発想力、組み合わせとメロディーへの乗せ方は素晴らしいものがあると思う。
そうしてバンドのグルーヴがさらに極まっていくと「drama」で辻はさらにステージ前に出てきて、客席に身を乗り出すようにしてギターを弾きまくる。さすがにギターごと客席に突入するということは今はできないけれど、それくらいの圧を辻のマイクを通さずに歌詞を口ずさむ表情と姿勢からは感じる。規模が大きいとは言えないライブハウスだけれど、さらにバンドと我々との距離を近く感じさせてくれるような。
そんなライブの最後に演奏されたのは、飯田が
「フラッドとみんなに捧げます」
と前置きされた、やはり最新作収録の「3.28」なのであるが、
「赤い怒りをもっと 馳せる祈りをずっと
きみが望めばアンセムは続いていく
青い誇りをそっと 燃える想いをぎゅっと
これは僕らの戦争だ 未来の話だけしよう」
と歌うサビでは歌詞に合わせて照明が赤から青へと変化していくのであるが、佐々木亮介も
「別に昔話をしたいわけじゃない」
と言っていたように、かつての対バン時の愉快なエピソードを話すようなことはしなかったのは、この歌詞の通りにcinema staffが蒼さを抱えたままでひたすらに前だけを見て進み続けているからだ。結成から変わることなく、同じ景色を見続けてきたメンバーたちだからこそ、そこには無上の説得力が宿っている。このバンドがシーンに、ライブハウスにい続けてくれてくれて本当に頼もしく思えた。変わることなく、でも進化できるということをその姿で示していてくれるからだ。
cinema staffはコロナ禍になる前から観客のノリが決して激しいバンドじゃないし、体を揺らしまくる、動かしまくるというような曲が多いわけでもない。でも厚着をしていても寒さを感じるような冬の寒さになったこの日でも、ライブを見ていたら暑くなって上着を脱いだ。それはこうしてライブハウスに集まる人の圧ももちろんだが、このバンドの鳴らす音が何よりも熱さと圧を発していたから、こちらも暑くなってしまったのだ。
1.奇跡
2.great escape
3.海底
4.VOLKA
5.熱源
6.白夜
7.flugel
8.若者たち
9.I melted into the Void
10.drama
11.3.28
・a flood of circle
転換の後に、ちょうど1週間ぶりのライブとなる、a flood of circle。このF.A.Dはツアーでもたびたび訪れているだけにバンドにとってはおなじみの、神奈川のホームと言っていい場所だろう。だからかドリンクバーにはこの日ならではの「佐々木のお茶割り」という名の緑茶ハイもドリンクメニューに並んでいた。
おなじみのSEでメンバー4人がステージに現れると、佐々木亮介(ボーカル&ギター)は白い革ジャン姿で、青木テツ(ギター)が黒の革ジャンと、この日は代々木公園の時に着ていた新アー写の革ジャンではなかったのだが、亮介はその代々木公園時に復活したブラックファルコンのギターを持つと、2人の轟音ギターサウンドが響き渡る「ロックンロールバンド」からスタートするという、意外すぎる立ち上がり。いや、確かにこの曲が収録されているアルバム「I'M FREE」の再現ツアーを夏に回って演奏してきた曲であるが、それにしてもこれが1曲目というのは、
「歌ってくれ ロックンロールバンド 今日が最後かも知れない
聴かせてくれ ロックンロールバンド だから今日を生きていく」
というサビの歌詞が今日だけは、対バンをしない限りは会うこともないcinema staffというロックバンドに向けられたものだからだろう。きっと5年前に対バンした時だって今日が最後の対バンだと思ってフラッドはステージに立っていたはずだ。
そんな意外な1曲目から、渡邊一丘(ドラム)のドラムロールによるイントロとワルツ的なリズムに思わず一瞬「これってなんの曲だっけ?」と思ってしまったのは、シングルリリース曲であるにもかかわらず近年は全く演奏されていなかった「美しい悪夢」だったのだから致し方ないところだ。間奏ではメンバーそれぞれのソロ回しも展開されるのであるが、亮介がcinema staffのMCを受けて渡邊を「ナベさん」、HISAYO(ベース)を「お姉さん」と紹介していたのは笑わざるを得ないが、演奏のキレはため息が出るくらいのカッコよさ。それを何年ぶりかわからないくらいに久々の曲で感じさせてくれるのはさすがフラッドである。
ここで亮介がギターを下ろしてハンドマイクで歌うのは、本来ならば客席に突入して歌うタイプの曲であるが、曲がリリースされたのがコロナ禍に突入してからであるためにまだこの曲でその景色を見ることができていない「ヴァイタル・サインズ」なのだが、ドリンクバーで販売しているお茶割りを飲みながら歌う亮介はサビで一部分歌わずに酒を飲んでいるという状況になって、渡邊のコーラスのみが響くのも相まってついついその姿には笑ってしまう。この曲もまたこうして今になって演奏されるとは思っていなかった曲だけれど。
そんな意外なセトリの極みは、
「平日の夜にこんなところまで来ちゃう君たちはどうかしてるよ!狂ってる!人間なの?証明してみせろ!」
と亮介が熱く叫ぶようにして演奏した「Human License」。これもまたかつてはフラッドの代表曲と言える曲だったものの、近年はなかなか演奏されなくなった曲である。しかしやはりこの曲の渡邊のトライバルなビートとファルセットコーラス、サビでの爆発力はすでに温まりまくっている客席をさらに熱くしてくれる。アウトロのセッション的な演奏は今は「Dancing Zombiez」へと受け継がれただけに音源通りの尺になっているが、この曲がリリースされてからのduo music exchangeでのワンマンあたりからフラッドのライブの客席の激しさは間違いなく変わったということを思い出したりしていた。あの頃の熱さを全く忘れることはないし、それはきっと近い将来に戻ってくるものだとも思っている。
そのまま渡邊が繋げるように軽快なビートを刻むと亮介も
「忘れるな!何年会ってなくても友達だから!忘れるな!世界は君のもの!」
と「世界は君のもの」とキラーチューンを連発して客席は飛び跳ね、リズムに合わせて手拍子も起こるのだが、最後のサビ前の
「羽根を揺すって飛ぶだけ」
のフレーズでHISAYOも自身の右手の人差し指を高く突き上げる。その姿が、最後のフレーズでの亮介の思いっきり溜めたボーカルが、テツのそこに重ねる声量の大きなコーラスが、渡邊の刻むリズムが、つまりはこの曲を構成するフラッドの音の全てが、いつだってどんな時だって世界は我々のものだと思わせてくれる。
「circle staffは可愛く見えるけど、楽屋にクーラーボックスでビールを持ってるタイプです(笑)」
と昔からの仲だからこそのcinema staffの情報を口にすると、その亮介がアコギに持ち替えて歌うのは今年の夏にリリースされた「花火を見に行こう」。LINE CUBEや代々木公園という規模の場所で聴いてきたからこそのスケールがすでに宿っている感もあるけれど、だからこそこうした夏が過ぎた季節に聴いても夏の余韻を感じることができる。まだ夏が続いているかのような。
しかし亮介が言う「イカれてる人たち」という人はこうしていつどこであろうともフラッドのライブを見にきている人であるだけに、テツがギターを鳴らしただけでどの曲かわかるだけにその段階で腕が上がったりするのだが、亮介が
「2009年の曲!」
と言って演奏されたのは夏から春に季節を巻き戻すかのような「春の嵐」。ライブでは主にタイトルに合わせて春に演奏されることが多い曲であるだけに今こうして演奏されたことに驚いてしまうが、それはかつてここでcinema staffと対バンした時期の曲だからだったのだろうか。亮介は
「昔話がしたいわけじゃない。だって俺たちもcinema staffも生きてるから。生きてここにいるっていうそれだけが全て」
と言っていたが、かつてのこともちゃんと覚えていて、その頃の曲を今の最強のフラッドとして演奏している。曲後半での渡邊の激しいドラムの連打はそのバンドの進化を当時から在籍しているメンバーの音によって示している。
そんな亮介はcinema staffとのかつての対バン時の打ち上げで
「エリンギを焼くか自分のを…」
とわけがわからない話を始めたかと思いきや、
「これはmudy on the 昨晩の悪口だ(笑)」
と、当時一緒に対バンしていたmudy on the 昨晩の名前がふいに出てきたことには懐かしさもあってついつい笑ってしまうのだが、亮介の話の続きが気になったのか、テツがオフマイクで渡邊に話しかけていたのがこちらも気になってしまった。
そんなフラッドもcinema staffと同様に新曲を制作しており、来年にはすでにアルバムの発売も発表されているのだが、そこに収録されるであろう新曲の「Party Monster Bop」が披露される。亮介の早口ボーカルによる、まさに平日にこんなところに来てライブを見るパーティーモンスターである我々のためのダンスチューンだ。「振らなきゃホームランも打てない」的な歌詞も気になるが、これからもライブでおなじみになるであろう曲である。
そのまま煌めくようなギターが鳴り響く「北極星のメロディー」と、最近やってなかった曲をやりまくる回みたいな前半から一転して後半は近年のライブ定番曲へと至るのであるが、そうした流れだからこそフラッドにはこんなにもたくさんの名曲があることが改めてわかるし、もっとライブを見てもっといろんな曲を聴きたくなる。それは持ち曲ほぼ全てを聴いたことがあってもなおそう思えるし、この曲が公開された時のファンの「またフラッドが凄い名曲を出してきた!」という感覚だってこれからも何度も味わいたいものである。
その「北極星のメロディー」のアウトロからメンバーは1人ずつドラムセットに向かい合う。代々木公園でも演奏された「プシケ」の始まりの合図はいつだって背筋を正される感覚になるのだが、この日は恒例の
「2022年10月26日。横浜F.A.D、THE SUN ALSO RISES…今日何回目?162回?めっちゃやってんじゃん!そんな日にお越しの親愛なる皆様に、俺の大事なメンバー紹介します!」
と長寿企画ならではの口上もあったのだが、メンバー紹介時に照明が一度消えて、紹介されたメンバーにピンスポットが当たるという演出も小さな規模のライブハウスだからこそ映えるカッコ良さだ。最後に
「a flood of circle!」
と亮介が叫んでテツ、HISAYOとともにステージ前に出てくる姿から感じられるカタルシスはやはりこの曲でないと得られないものだと何度見ても思う。なかなかこの曲が演奏できない持ち時間のライブも多いけれど、やはりこの曲はその日の記憶を脳裏に刻みつけるためにもこれからも出来る限りライブで聴きたい曲だと思う。
そのまま「シーガル」でクライマックスへと突入していくと、イントロで観客が思いっきり飛び上がる。そこにはライブハウスで音を鳴らすロックンロールバンドとしての衝動が確かに宿っている。今日が最後かもしれないけれど、それでもやってくる明日に手を伸ばす。そうやってフラッドはここまで続いてきた。我々もそうやって生きてきた。ライブに来続けてきた。それはこれから先もずっと変わることがないはずだ。というかそうであって欲しいと心から思う。
そんな「シーガル」で終わりなのかとも思ったけれども、最後に演奏されたのはHISAYOも手拍子をすることによって観客にそれが広がっていく「ベストライド」。テツが前に出てきてギターを弾きまくると、亮介はマイクスタンドを掴んでHISAYO側の前に出るようにしてそれを置いてその場で歌う。自分の場所に若干戻りづらそうなHISAYOが渡邊のドラムセットの前に行ってベースを弾くという、何も言わなくても全てが伝わるフォーメーション。それは紛れもなく、
「俺たちのベストはいつも今なんだよ」
という言葉に集約されている。それはフラッドだけではなくてcinema staffも、ここにいる観客もそうであり、そう思える日を一緒に作っているということ。心からそう思えるフラッドのライブはこの日もやはり圧勝だったのだ。
それでもアンコールを求める手拍子に応えてメンバーが再びステージに現れると、何も言葉を発することなく亮介がギターを鳴らし始めるとそのまま「The Beautiful Monkeys」が演奏される。これまた少し久しぶりの曲であるが、この曲をこうして最後に演奏するということはバンドはこれで燃え尽きる覚悟であるということであり、それは観客もそうなるということだ。モッシュが起こったりすることがないのは衝動を体に出すことなくグッと堪えることができるフラッドファンの民度と意識の高さによるものであるが、それでもやはりそうなりたいと思う衝動の突き動かされようが素直に反映させられるようになるまであと少しのような。この日のF.A.Dを見ていたらそんな感じがしていたし、演奏後も何も言葉にせずにステージから去っていくフラッドの姿はこれぞロックンロールバンド、というくらいにたまらなくカッコよかったのであった。
割と頻繁に同じアーティストのライブを見て、そのセトリが変わらなくても楽しめるタイプだと思っている。それは鳴っている曲自体は同じでも、鳴らし方や表情などはその日によって全く違うものになるからだ。
でもフラッドがこうして1週間の間にほぼ同じくらいの持ち時間でガラッとセトリを変え、あまつさえ「これライブで聴いたの何年ぶりだっけな…」と思うような曲までも演奏してくれる。そうするとまた次のライブではどんな曲を演奏してくれるんだろうかと楽しみになる。今よりももっとライブに行きたくなる。そんなライブへの熱量と意欲をさらに高めてくれたフラッドのライブであり、F.A.D主催の「THE SUN ALSO RISES vol.162」だった。
1.ロックンロールバンド
2.美しい悪夢
3.ヴァイタル・サインズ
4.Human License
5.世界は君のもの
6.花火を見に行こう
7.春の嵐
8.Party Monster Bop
9.北極星のメロディー
10.プシケ
11.シーガル
12.ベストライド
encore
13.The Beautiful Monkeys
もう162回という長寿企画であるが、今回はa flood of circleとcinema staffという組み合わせ。フラッドは前週に代々木公園でフリーライブを行い、cinema staffも日比谷野音でワンマンをやったばかりという、互いに新たなスタートを切ったバンド同士の対バンである。
・cinema staff
年始にこのF.A.Dを訪れた時にはあった客席足元の立ち位置指定がなくなったことによって、限りなくフルキャパになっているF.A.Dの客席。19時になるとそこに先に登場したのはcinema staff。アンプの上には岐阜のゆるキャラのぬいぐるみが置かれているなど、フェスを主催している自分たちの地元への愛情の深さがそうしたところからも感じられる。
グレーのセットアップというやたらとフォーマルな出で立ちの飯田瑞規(ボーカル&ギター)が
「cinema staffです。よろしくお願いします」
と挨拶すると、その飯田のギターが爽やかなサウンドを奏でる「奇跡」からスタート。その歌声も名前に瑞という文字が入っているにふさわしい瑞々しさを感じさせるものであり、そこはもうベテランと言えるような立ち位置になってきても変わることはないのであるが、その飯田のギターや歌声と対をなすように辻友貴は笑顔でステージ前に歩み出て轟音サウンドを鳴らす。この両極性はずっと変わらないcinema staffらしさだなと久しぶりにライブを見ても思う。
そんなcinema staffの名前を最も広く知らしめたのはかつて「進撃の巨人」のタイアップ曲となった「great escape」であり、まさに巨人が迫ってきているかのような切迫感を感じさせるロックサウンドは今でも本当にカッコいい曲だなと思うし、こうしてライブでやってくれているのが嬉しい曲でもある。今では都内の某所で店先に立つ姿を見る機会も個人的にたまにある辻はどこか永遠のぼっちゃん的な髪型をしながは、歯でギターを噛むかのような破天荒なギタープレイを見せてくれるのであるが、それもまた巨人の襲来に抗う人類の姿であるかのような。現在SiMが「進撃の巨人」のタイアップを担当し、アメリカツアーが決まるくらいに大ヒットしまくっているが、もしこの曲が今タイアップになっていたらこのバンドもそんな状況を生み出していたんだろうか…とも思ってしまう。
そんなバンドは昨年ニューアルバム「海底より愛を込めて」をリリースしているのであるが、その中から1曲目にしてリード曲的な「海底」が披露されると、
「気づけば俺は海の底にいた」
という歌い出しの通りに、髪を赤く染めた久野洋平(ドラム)と、金混じりの長いパーマというかつての石毛輝(the telephones)を彷彿とさせる出で立ちになった三島想平(ベース)のリズム隊が実に重厚感を感じるような、どっしりとしたリズムを刻む。そこには確かにもう15年に渡り変わらずに活動してきたバンドとしての説得力を感じさせてくれる。それが最後には
「いつか想像力で 地上へ」
と光を感じさせるように開けていく構成もそうであるが、そこには初期のバンドの名曲との繋がりも感じられるものになっている。
「初めて見るっていう人も多いだろうけど、cinema staffって言います。よろしくお願いします」
と改めて飯田が挨拶をすると、このバンドのメロディーのポップさ、ギターサウンドのキャッチーさを感じさせる、辻の演奏中の笑顔も眩しい「VOLKA」から久野がアウトロとイントロを繋げるように構築性を感じさせるリズムを刻んでそのまま「熱源」へ。タイトル通りにその音からはロックバンドとしての熱量が確かにこもっているのが伝わってくるのであるが、ポストロック的な構築性とエモーショナルなギターロックという相反するような要素をどちらもルーツに持っているこのバンドだから生まれている唯一無二の音楽だなということがライブを見ると実によくわかるし、デビュー時は9mm Parabellum BulletとPeople In The Boxに続く所属レコード会社の三男的なバンドという見られ方が強かったが、このバンドのような音楽性のバンドはあらゆる方法論が出尽くし、世界中のあらゆる時代にアクセスできる今の時代においても他にいないなと思う。
こちらも最新アルバム収録の「白夜」は一転して実にシャープなcinema staffのギターロックという形を見せてくれる。飯田の歌声もどこか瑞々しさだけではなく、
「俺は陽炎 君は残像」
というサビの歌い出しのフレーズの韻の踏み方などはそのスパッと歌い切る発音によって曲にさらにスピード感を与えている。声質自体はずっと変わらないけれども、技術と表現力がこうして進化しているのがわかるあたり、これから飯田がさらにベテランになってどんなボーカリストになるのか楽しみだ。
そんなバンドの最新曲が日比谷野音で披露され、2週間前に配信リリースされたばかりの「flugel」。
「今だけは、きみを、抱いていたいよ
かなしみが希望と踊った夜に」
という句読点やひらがな表記を駆使した、三島の作詞家としての文学性の高さを特別な単語を用いることなく感じさせる歌詞からはどこか自分たちを見続けてきてくれた人たちへのメッセージであるかのようにも感じられる。こうした壮大なメロディーをも4人の鳴らす音だけで表現できるあたりはさすがだが、こうしてライブハウスで聴いていると野音ではどのようにして響いていたのだろうかと思ってしまう。それくらいのスケールを持った曲である。
さらに新作モードは続き、アルバムからは
「この3000マイルの道の途中で
僕ら今を分かち合う
2000年後もきっと同じ
若者が愛を語り合うよ」
というサビの歌詞が童話的というか、ファンタジー的な群像劇のナレーションのようにすら響く、タイトル通りに蒼さを感じさせるサウンドとメロディーによる「若者たち」が演奏される。そんな曲を笑顔で鳴らしているこのバンドは今でも本当に若者たちのままであるかのように見えるし、それはきっとこれからも変わることはないだろうと思う。
そんなcinema staffがフラッドと対バンするのは実に5年前の新代田FEVERぶりだというのだが、お互いに仲は良いし、新作が出たら必ずチェックするようなバンドだというのだけれど、ライブを観に行ったりすることもないだけに会うこと自体が5年ぶりなため、
飯田「佐々木君って呼んでたか佐々木さんって呼んでたかも忘れてしまった(笑)
今日は佐々木君って呼んでたんだけど」
久野「前から佐々木君って呼んでたよ(笑)」
飯田「渡邊さんのことをナベさんって呼んでたのも前からだっけ?」
久野「それは今日初めて聞いた(笑)」
という、演奏中の集中力とは全く異なる緩いMCで我々を笑わせてくれるのであるが、その口調からは隠しきれないメンバーの朗らかかつ愉快な人間性が滲み出ている。HISAYOのことも「姐さん」ではなく「お姉さん」って呼んじゃいそうで、それはさすがに違うとのこと。
そんなMCで意外なくらいの笑いを誘うと、三島が9mmの和彦を彷彿とさせるシャウトを連発し、ここまで最も自由にステージ上を動き回りながら演奏していた辻もコーラスを重ねる最新作収録の「I melted into the Void」が披露され、こうした小さいライブハウスで生きてきたバンドの鳴らす今も変わることのないロックサウンドを体感させてくれる。
「A か B か 生か死か 空想か 現実か
栄か美か 政か私か 天国か 地獄か」
など、言葉遊び感も強い歌詞がやはりスピード感をさらに感じさせてくれるのであるが、こうして全くタイプの異なる歌詞を書き分けている三島は本当に作家としても活躍できるんじゃないかと思うくらいに言葉の発想力、組み合わせとメロディーへの乗せ方は素晴らしいものがあると思う。
そうしてバンドのグルーヴがさらに極まっていくと「drama」で辻はさらにステージ前に出てきて、客席に身を乗り出すようにしてギターを弾きまくる。さすがにギターごと客席に突入するということは今はできないけれど、それくらいの圧を辻のマイクを通さずに歌詞を口ずさむ表情と姿勢からは感じる。規模が大きいとは言えないライブハウスだけれど、さらにバンドと我々との距離を近く感じさせてくれるような。
そんなライブの最後に演奏されたのは、飯田が
「フラッドとみんなに捧げます」
と前置きされた、やはり最新作収録の「3.28」なのであるが、
「赤い怒りをもっと 馳せる祈りをずっと
きみが望めばアンセムは続いていく
青い誇りをそっと 燃える想いをぎゅっと
これは僕らの戦争だ 未来の話だけしよう」
と歌うサビでは歌詞に合わせて照明が赤から青へと変化していくのであるが、佐々木亮介も
「別に昔話をしたいわけじゃない」
と言っていたように、かつての対バン時の愉快なエピソードを話すようなことはしなかったのは、この歌詞の通りにcinema staffが蒼さを抱えたままでひたすらに前だけを見て進み続けているからだ。結成から変わることなく、同じ景色を見続けてきたメンバーたちだからこそ、そこには無上の説得力が宿っている。このバンドがシーンに、ライブハウスにい続けてくれてくれて本当に頼もしく思えた。変わることなく、でも進化できるということをその姿で示していてくれるからだ。
cinema staffはコロナ禍になる前から観客のノリが決して激しいバンドじゃないし、体を揺らしまくる、動かしまくるというような曲が多いわけでもない。でも厚着をしていても寒さを感じるような冬の寒さになったこの日でも、ライブを見ていたら暑くなって上着を脱いだ。それはこうしてライブハウスに集まる人の圧ももちろんだが、このバンドの鳴らす音が何よりも熱さと圧を発していたから、こちらも暑くなってしまったのだ。
1.奇跡
2.great escape
3.海底
4.VOLKA
5.熱源
6.白夜
7.flugel
8.若者たち
9.I melted into the Void
10.drama
11.3.28
・a flood of circle
転換の後に、ちょうど1週間ぶりのライブとなる、a flood of circle。このF.A.Dはツアーでもたびたび訪れているだけにバンドにとってはおなじみの、神奈川のホームと言っていい場所だろう。だからかドリンクバーにはこの日ならではの「佐々木のお茶割り」という名の緑茶ハイもドリンクメニューに並んでいた。
おなじみのSEでメンバー4人がステージに現れると、佐々木亮介(ボーカル&ギター)は白い革ジャン姿で、青木テツ(ギター)が黒の革ジャンと、この日は代々木公園の時に着ていた新アー写の革ジャンではなかったのだが、亮介はその代々木公園時に復活したブラックファルコンのギターを持つと、2人の轟音ギターサウンドが響き渡る「ロックンロールバンド」からスタートするという、意外すぎる立ち上がり。いや、確かにこの曲が収録されているアルバム「I'M FREE」の再現ツアーを夏に回って演奏してきた曲であるが、それにしてもこれが1曲目というのは、
「歌ってくれ ロックンロールバンド 今日が最後かも知れない
聴かせてくれ ロックンロールバンド だから今日を生きていく」
というサビの歌詞が今日だけは、対バンをしない限りは会うこともないcinema staffというロックバンドに向けられたものだからだろう。きっと5年前に対バンした時だって今日が最後の対バンだと思ってフラッドはステージに立っていたはずだ。
そんな意外な1曲目から、渡邊一丘(ドラム)のドラムロールによるイントロとワルツ的なリズムに思わず一瞬「これってなんの曲だっけ?」と思ってしまったのは、シングルリリース曲であるにもかかわらず近年は全く演奏されていなかった「美しい悪夢」だったのだから致し方ないところだ。間奏ではメンバーそれぞれのソロ回しも展開されるのであるが、亮介がcinema staffのMCを受けて渡邊を「ナベさん」、HISAYO(ベース)を「お姉さん」と紹介していたのは笑わざるを得ないが、演奏のキレはため息が出るくらいのカッコよさ。それを何年ぶりかわからないくらいに久々の曲で感じさせてくれるのはさすがフラッドである。
ここで亮介がギターを下ろしてハンドマイクで歌うのは、本来ならば客席に突入して歌うタイプの曲であるが、曲がリリースされたのがコロナ禍に突入してからであるためにまだこの曲でその景色を見ることができていない「ヴァイタル・サインズ」なのだが、ドリンクバーで販売しているお茶割りを飲みながら歌う亮介はサビで一部分歌わずに酒を飲んでいるという状況になって、渡邊のコーラスのみが響くのも相まってついついその姿には笑ってしまう。この曲もまたこうして今になって演奏されるとは思っていなかった曲だけれど。
そんな意外なセトリの極みは、
「平日の夜にこんなところまで来ちゃう君たちはどうかしてるよ!狂ってる!人間なの?証明してみせろ!」
と亮介が熱く叫ぶようにして演奏した「Human License」。これもまたかつてはフラッドの代表曲と言える曲だったものの、近年はなかなか演奏されなくなった曲である。しかしやはりこの曲の渡邊のトライバルなビートとファルセットコーラス、サビでの爆発力はすでに温まりまくっている客席をさらに熱くしてくれる。アウトロのセッション的な演奏は今は「Dancing Zombiez」へと受け継がれただけに音源通りの尺になっているが、この曲がリリースされてからのduo music exchangeでのワンマンあたりからフラッドのライブの客席の激しさは間違いなく変わったということを思い出したりしていた。あの頃の熱さを全く忘れることはないし、それはきっと近い将来に戻ってくるものだとも思っている。
そのまま渡邊が繋げるように軽快なビートを刻むと亮介も
「忘れるな!何年会ってなくても友達だから!忘れるな!世界は君のもの!」
と「世界は君のもの」とキラーチューンを連発して客席は飛び跳ね、リズムに合わせて手拍子も起こるのだが、最後のサビ前の
「羽根を揺すって飛ぶだけ」
のフレーズでHISAYOも自身の右手の人差し指を高く突き上げる。その姿が、最後のフレーズでの亮介の思いっきり溜めたボーカルが、テツのそこに重ねる声量の大きなコーラスが、渡邊の刻むリズムが、つまりはこの曲を構成するフラッドの音の全てが、いつだってどんな時だって世界は我々のものだと思わせてくれる。
「circle staffは可愛く見えるけど、楽屋にクーラーボックスでビールを持ってるタイプです(笑)」
と昔からの仲だからこそのcinema staffの情報を口にすると、その亮介がアコギに持ち替えて歌うのは今年の夏にリリースされた「花火を見に行こう」。LINE CUBEや代々木公園という規模の場所で聴いてきたからこそのスケールがすでに宿っている感もあるけれど、だからこそこうした夏が過ぎた季節に聴いても夏の余韻を感じることができる。まだ夏が続いているかのような。
しかし亮介が言う「イカれてる人たち」という人はこうしていつどこであろうともフラッドのライブを見にきている人であるだけに、テツがギターを鳴らしただけでどの曲かわかるだけにその段階で腕が上がったりするのだが、亮介が
「2009年の曲!」
と言って演奏されたのは夏から春に季節を巻き戻すかのような「春の嵐」。ライブでは主にタイトルに合わせて春に演奏されることが多い曲であるだけに今こうして演奏されたことに驚いてしまうが、それはかつてここでcinema staffと対バンした時期の曲だからだったのだろうか。亮介は
「昔話がしたいわけじゃない。だって俺たちもcinema staffも生きてるから。生きてここにいるっていうそれだけが全て」
と言っていたが、かつてのこともちゃんと覚えていて、その頃の曲を今の最強のフラッドとして演奏している。曲後半での渡邊の激しいドラムの連打はそのバンドの進化を当時から在籍しているメンバーの音によって示している。
そんな亮介はcinema staffとのかつての対バン時の打ち上げで
「エリンギを焼くか自分のを…」
とわけがわからない話を始めたかと思いきや、
「これはmudy on the 昨晩の悪口だ(笑)」
と、当時一緒に対バンしていたmudy on the 昨晩の名前がふいに出てきたことには懐かしさもあってついつい笑ってしまうのだが、亮介の話の続きが気になったのか、テツがオフマイクで渡邊に話しかけていたのがこちらも気になってしまった。
そんなフラッドもcinema staffと同様に新曲を制作しており、来年にはすでにアルバムの発売も発表されているのだが、そこに収録されるであろう新曲の「Party Monster Bop」が披露される。亮介の早口ボーカルによる、まさに平日にこんなところに来てライブを見るパーティーモンスターである我々のためのダンスチューンだ。「振らなきゃホームランも打てない」的な歌詞も気になるが、これからもライブでおなじみになるであろう曲である。
そのまま煌めくようなギターが鳴り響く「北極星のメロディー」と、最近やってなかった曲をやりまくる回みたいな前半から一転して後半は近年のライブ定番曲へと至るのであるが、そうした流れだからこそフラッドにはこんなにもたくさんの名曲があることが改めてわかるし、もっとライブを見てもっといろんな曲を聴きたくなる。それは持ち曲ほぼ全てを聴いたことがあってもなおそう思えるし、この曲が公開された時のファンの「またフラッドが凄い名曲を出してきた!」という感覚だってこれからも何度も味わいたいものである。
その「北極星のメロディー」のアウトロからメンバーは1人ずつドラムセットに向かい合う。代々木公園でも演奏された「プシケ」の始まりの合図はいつだって背筋を正される感覚になるのだが、この日は恒例の
「2022年10月26日。横浜F.A.D、THE SUN ALSO RISES…今日何回目?162回?めっちゃやってんじゃん!そんな日にお越しの親愛なる皆様に、俺の大事なメンバー紹介します!」
と長寿企画ならではの口上もあったのだが、メンバー紹介時に照明が一度消えて、紹介されたメンバーにピンスポットが当たるという演出も小さな規模のライブハウスだからこそ映えるカッコ良さだ。最後に
「a flood of circle!」
と亮介が叫んでテツ、HISAYOとともにステージ前に出てくる姿から感じられるカタルシスはやはりこの曲でないと得られないものだと何度見ても思う。なかなかこの曲が演奏できない持ち時間のライブも多いけれど、やはりこの曲はその日の記憶を脳裏に刻みつけるためにもこれからも出来る限りライブで聴きたい曲だと思う。
そのまま「シーガル」でクライマックスへと突入していくと、イントロで観客が思いっきり飛び上がる。そこにはライブハウスで音を鳴らすロックンロールバンドとしての衝動が確かに宿っている。今日が最後かもしれないけれど、それでもやってくる明日に手を伸ばす。そうやってフラッドはここまで続いてきた。我々もそうやって生きてきた。ライブに来続けてきた。それはこれから先もずっと変わることがないはずだ。というかそうであって欲しいと心から思う。
そんな「シーガル」で終わりなのかとも思ったけれども、最後に演奏されたのはHISAYOも手拍子をすることによって観客にそれが広がっていく「ベストライド」。テツが前に出てきてギターを弾きまくると、亮介はマイクスタンドを掴んでHISAYO側の前に出るようにしてそれを置いてその場で歌う。自分の場所に若干戻りづらそうなHISAYOが渡邊のドラムセットの前に行ってベースを弾くという、何も言わなくても全てが伝わるフォーメーション。それは紛れもなく、
「俺たちのベストはいつも今なんだよ」
という言葉に集約されている。それはフラッドだけではなくてcinema staffも、ここにいる観客もそうであり、そう思える日を一緒に作っているということ。心からそう思えるフラッドのライブはこの日もやはり圧勝だったのだ。
それでもアンコールを求める手拍子に応えてメンバーが再びステージに現れると、何も言葉を発することなく亮介がギターを鳴らし始めるとそのまま「The Beautiful Monkeys」が演奏される。これまた少し久しぶりの曲であるが、この曲をこうして最後に演奏するということはバンドはこれで燃え尽きる覚悟であるということであり、それは観客もそうなるということだ。モッシュが起こったりすることがないのは衝動を体に出すことなくグッと堪えることができるフラッドファンの民度と意識の高さによるものであるが、それでもやはりそうなりたいと思う衝動の突き動かされようが素直に反映させられるようになるまであと少しのような。この日のF.A.Dを見ていたらそんな感じがしていたし、演奏後も何も言葉にせずにステージから去っていくフラッドの姿はこれぞロックンロールバンド、というくらいにたまらなくカッコよかったのであった。
割と頻繁に同じアーティストのライブを見て、そのセトリが変わらなくても楽しめるタイプだと思っている。それは鳴っている曲自体は同じでも、鳴らし方や表情などはその日によって全く違うものになるからだ。
でもフラッドがこうして1週間の間にほぼ同じくらいの持ち時間でガラッとセトリを変え、あまつさえ「これライブで聴いたの何年ぶりだっけな…」と思うような曲までも演奏してくれる。そうするとまた次のライブではどんな曲を演奏してくれるんだろうかと楽しみになる。今よりももっとライブに行きたくなる。そんなライブへの熱量と意欲をさらに高めてくれたフラッドのライブであり、F.A.D主催の「THE SUN ALSO RISES vol.162」だった。
1.ロックンロールバンド
2.美しい悪夢
3.ヴァイタル・サインズ
4.Human License
5.世界は君のもの
6.花火を見に行こう
7.春の嵐
8.Party Monster Bop
9.北極星のメロディー
10.プシケ
11.シーガル
12.ベストライド
encore
13.The Beautiful Monkeys
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