この研究者はサル(monkeys)を使って、記憶を使う時の海馬(hippocampus)の反応を調べた。海馬は記憶を形成するのに使われる部分として知られているが、この研究によると記憶を思い起こす(retrieve)時にも海馬は同様の反応をした。このため、海馬は記憶を形成する時のみならず、記憶を思い起こすのにも使われているようだ。
うーん、わからない。こういった新しい研究(この研究は2004年)でも海馬は記憶の形成に使われるって解釈だよな。じゃあ先月紹介した海馬を除去しても学習できる人は何なんだろう?今回の研究を素直に信じれば、海馬を取っ払ったら新しいことの学習や昔の記憶の再生に支障が出ることになるんじゃないのか?
ちなみに僕のこの解釈は、脳の局在化(localization, phrenology)という考え方で、脳の部分部分は特定の機能を持っている、という考え方。しかしこの脳の局在化という考え方は最近は否定され始めてきている。この件に関してはとても面白い本(下記)をいま読んでいるので、近いうちに紹介予定。今年読んだ数百冊の本の中でも一番か二番に面白い本。関連する記事(しんりの手アメブロ)
ところで今回の研究者はNYU(ニューヨーク大学)の人なんだけど、NYUとかのしっかりした心理学部の研究者ならきっちり最新の動向(海馬は無くても記憶ができるかもしれないということ)を抑えて言及しておいて欲しいな、というのが個人的な気持ちだ。
ユータル「新・脳の局在化」
さて、今は学期末で本当に忙しいんで、もうへろへろです。僕が学部にいた時は学期末は授業に追われている感じだった。あの頃は英語もろくに分かんなかったんで授業に付いていくのが精一杯って感じだった。
それに比べて院生になると学期末は楽しみが増えて困るんだよね。この2週間くらいで10頁くらいのペーパーを6個ほど書くんだけれど、ペーパーの内容(=授業で習った内容)が興味深すぎて、つい関連のある論文を読み込んでしまう。授業から少し脱線したそういう心理学の読み物の方が自分の研究に関わりが深くて面白いんで、時間を奪われまくってます。
他の留学生の人たちはどうなんだろう。僕は学問を楽しむまでには語学的に何年も掛かったけれど、それでも心理学はやはり英語の文献が最先端だと思うんで、英語で学んできて良かったなぁと最近しみじみと感じているよ。
今は記事を書くのに手一杯ですが、コメントには時間ができた時に答えさせていただきます。皆さんいろいろなコメントをありがとうございます。
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関連する過去の記事:
「加齢と記憶」ラーズ・バックマン(2001年)
記憶の種類とその衰え方の差について。
海馬を切除しててんかんも直って、学習もできる
新しい記憶を覚えられなくても習慣は覚えられる
海馬はすべて除去されたのでしょうか?てんかんの手術では,通常,一部だけ除去すると思います.一部除去では大きな障害はほとんど起こりません.詳細が分からないのにコメントするのも気が引けるのですが,部位の詳細な対応付けが議論には必要かなと思います.
>しかしこの脳の局在化という考え方は最近は否定され始めてきている。
最近のイメージング研究の隆盛をみると局在論が廃れてるとは思えないですけどねー.
まあ,ただ「どこが光った」だけじゃあ心の理論的理解にほとんど貢献しないですし,現象から推測される心の機能が,脳と一対一対応しているという極端な局在論には無茶がありますよね.脳はわれわれの記述や理論に従って出来ているわけではないですから.
脳の局在化については近いうちに別項を書きますが、局在論が廃れてる訳ではないです。イメージングは今最も発展している分野だと思います。ただし、局在化絶対という風潮が出始めていて、自分も今回は海馬の切除イコール記憶の損傷と思っていました。こういった流れをけん制する動きで、局在化が完全な理論ではないという本が、自分が読んだだけでも数冊出ているので、それを紹介していこうと思っていますよ。
貴重なコメントありがとうございます。
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