ちなみに第三弾の「米農家」は「米(こめ)農家」ではなく「米(アメリカ)農家」です。
正直ここまで偏向的な連載記事になることは予想していなかったので,かなりあきれています。第二弾はまるでイオンの宣伝広告です。遺伝子組換えの影響があるはずもない植物油などの加工品について,
というコメントを紹介していますが,この書き方ではまるで「官僚が言い訳をしている」かのようにしか見えません。当然,先日私がしたような「科学的に考えて品質に違いが出るわけがない」などという解説が,記事中に欠片も存在しないのは言うまでももありません。一方、消費者庁食品表示課は「表示は品質の違いを示し、選択の幅を広げるのが目的」としながらも「遺伝子が残っていない食用油などでは品質上の差があるとはいえない」と慎重な姿勢を示している
実際EUがここまで強い規制を行っている背景には,GMOの栽培を「環境への放出」と認識している部分があり,従来種と異なる遺伝子配列を持った別種の新種が蔓延することを危惧しているということも見過ごせません。毎日新聞が訴えているような健康被害への懸念だけを考えてEUがGMOを規制しているわけではない,という視点を紹介しないというのは,明らかなミスリードの誘発です。EUが強く規制を行っている背景については,生物の安全性に関するカルタヘナ議定書などについての考え方と共に触れなければ,片手落ちもいいところです。万が一カルタヘナ議定書について何も知らずにこんな記事を書いているとしたら,勉強不足もいいところです。とてもじゃないですが,このような記事を書く資格はありません。
また,「組み換えでない」と表示できるラインである5%の部分についてもごちゃごちゃかいてますが,製品として考えた時に遺伝子の数ではなくて大豆などの粒の数で考えるのは,より筋が通っているように思います。というか,なぜこんな批判的な文章の書き方になっているのか全く理解できません。
第三弾でアメリカ農家による
と言うコメントや,畑はセントルイス市から車で西に1時間ほどに位置し、広さは東京ドーム260個分もある。トウモロコシは日本で食べる品種と違って硬い。栽培面積の7割がGMだという。当初は1~3割だったが、栽培を重ねるうち実感した。「害虫にほとんど食べられず、品質が良く収量も増える」。農薬散布量も減った。
ノンGMの実は先端が虫に食われて黒ずんでいた。「害虫が実を食べて、そこからカビが生え、品質ランクが落ちがちだ」。日本ではGM作物に不安を持つ人が少なくないが「どんな点が不安なのか。人に影響はなく、品質が良くなることを情報提供しなければ……」とけげんな顔をする。
ミズーリ州の西隣のネブラスカ州で、アラン・ティーマンさん(49)は親子3代でトウモロコシと大豆を栽培している。ノンGMトウモロコシ栽培を3年前にやめ、すべてGMにした。2種類の害虫と除草剤1種に強い計三つの遺伝子を組み換えた種を使い、「ほとんど虫の害がない」と満足している。作業効率も上がったという。「ノンGMの栽培では何度も畑に出ていたが、今は3回ぐらいで済むようになった」。アランさんは強調する。「この地域の農家でGMの安全性に疑問を持つ人はいない」
というコメントが紹介されたので,さすがにそこまで偏向した記事は書かないのかな?と一瞬安心しかけたのですが,最後の締めが
「スマートスタックス」は害虫防除の6個と、除草剤に強い2個の計8遺伝子が入る。現状は最大3個だが、一挙に2倍以上だ。
「従来種より5%から10%の収量増をもたらす」とモンサント社のロブ・フレーリー上級副社長は言う。来年には、米国内で東京23区の広さの26個分の畑に植えられる予定だ。すでに日本の厚生労働省などは安全性確認のうえ輸入を認可した。
そのトウモロコシが来年日本にもやってくる。目に見えないGMが黒船のように日本の食卓に押し寄せているかのようだ。
と来たのでは,読者を誘導したい方向性があまりにも明らかすぎて苦笑いしか出てきません。
第二弾の記事中で,
つまり、大量に輸入されるGM作物は表示のいらない食用油などに化けていた。イオンなどの不分別表示はあくまで自発的な取り組みで、あえてGMを表示するメーカー、小売りはほとんどない。
さらにやっかいな規定がある。誤ってGM作物を混入したケースでは、混入率5%以下なら「ノンGM」と表示できる。農林水産省などの調査で「国産大豆」「非組み換え」をうたった豆腐や納豆などにGM原料が混じっていたこともあった。
などと感情丸出しの表現が相次いでいるのに対し,アメリカの農家が述べたコメントには,記者のコメントはおろか,解説も何もありません。ただ淡々と「アメリカ農家の言い分」を伝えているだけであり,彼らの発言の背後に存在する科学的な根拠など何一つ説明していません。
本当は,この記事で一番考えなければ行けないのは,この部分です。
米国を中心に種子開発会社がGM種子の研究開発にしのぎを削っている。特定の除草剤や害虫に強いGM種子が中心だったが、近年は雨や水が少ない乾燥地域でも育つ品種の開発が進み、数社が12年の商品化を目指す。
これは何を意味しているのか。
これは,このままでは高効率な生産を可能とするGMO市場を完全にアメリカに握られてしまう,と言うことです。
実際,もはや手遅れかもしれません。
現状日本では研究レベルの組換えを行うことは可能ですが,圃場における試験など市場に流通させるために必要な試験を行うことすら極めて困難な状況にあり,とても新たなGMO品種を生み出せるような環境にありません。はっきり言って,勝負になるとかならないとか言う以前の問題です。
GMOについて考える時,見逃せないポイントがもう一つあります。
昨夜のニュース番組で,元サッカー日本代表の中田英寿さんが日本の農村を訪問し,無農薬栽培・有機農業を推進している人たちに率直な疑問を問いかけるという特集をやっていたのをたまたま見ました。
番組中では,「無農薬・非化学肥料を実行すると,見た目も悪く収率も安定しない。」ために,収入が安定せず非常に苦しい。という農家の訴えに,安全な食物を生産するこのような農家をもっと助けるべきだ,という論調で話が進んでいました。
しかし,ここでは一番大切なポイントが論議されていません。彼らの作る無農薬・非化学肥料使用の有機野菜が高付加価値を持つものであるためには,現在用いられている農薬や化学肥料を使って作られた農作物が危険で美味しくないものであることが大前提である,という点です。
実際そうですか?家庭菜園などで無農薬栽培をしている方々,本当に美味しい野菜がたくさん取れていますか?「有機野菜だから美味しいはず」と思い込んでいませんか?
農薬を使っていようが,化学肥料を使おうが,採れたての野菜は非常に美味しいものです。というか,野菜のおいしさを決める最大のポイントは鮮度にあると言っても過言ではないでしょう。普段スーパーの棚に並んでいる野菜しか食べたことのない人が,畑で収穫したばかりの野菜を食べれば,当然別物に感じるでしょう。でも,それは有機野菜であろうが無かろうが同じです。もし,有機野菜と非有機野菜の両者を比較するのであれば鮮度が同等の品を比較しなければ意味がないわけですが,果たしてそのような比較はされてきたでしょうか。
同様に,非GMOが大切であることを証明するためには,GMOが危険であることが大前提,です。ですが,現在までのところ,植物油などの加工油はもちろんのこと(というか,品質に違いを出せるようなロジックがあればぜひ教えてください)一般に流通されているGMOそのものですら,そのような事実はありません。それどころか,アメリカ農家のコメントにもあったとおり,農薬の使用量を削減できるという事実すらあります。これは,農薬による万が一の事故(主に使用中の事故)をさらに減らすことが出来るため,より安全な農作物を手に入れられる可能性が大きくなり(個人的には,製品に関する安全性についてはすでにオーバースペックだと思いますが)ます。
しかし,それ以上に最も大きいのは生産コストの削減です。農薬代はもちろんのこと,散布に関わる人件費の削減も大きな効果を産むでしょう。値段だけの問題ではありません。純粋にかける必要のある労力の減少は,減少する農業従事者数の問題を解決できます。また,枯れた土地や塩害が起きている土地でも生育しやすいGMOが作られれば,世界的に耕作可能な土地が飛躍的に増加することも期待され,飢餓や貧困の問題を解消することすら期待できます。
日本の農業の現状は非常に厳しいものがあります。
耕作可能地も少なく,農業従事者そのものも減少しています。
このような現状が自給率の低下を招いているわけですが,これらの対策として効果的な施策として取るべきものはどんな手段でしょうか。
非常に大きな労働力が必要で単位面積当たりの収量も期待できないが,その筋からは好評な有機作物ですか?
労働力を始めとする生産コストを低く抑えることが可能であり,かつ単位面積当たりの収量増大も期待できるGMOですか?
科学的な根拠を元にして安心できる消費者の育成は,急務であると思います。
フォームに入力すると,訂正用のシールがいただけるという非常に簡単な仕組みになっているようですが,同時にイラストレータ用のファイルも公開されています。
「使用はお奨めしません。」との事ですが,手元にあるMac版のIllustratorCS3では,問題なく開けました。
というわけで,勝手ながら私のブログでも宣伝させていただこうかと思います。
未購入の方にも,さらに手が加えられている第3刷を購入することをお勧め(よろしければ,サイドバーのお勧め品リンクからどうぞ)します。
ちなみに私が書いた簡単なレビューはこちらです。ご興味をもたれた方は,ぜひ。