現状行われている検査方法では,全く混入していないものでも5%以下程度混入していると誤認識する可能性が否定できないのです。
これに関して,以下のようなご質問をいただきました。
この検査方法とはどのようなものなのでしょうか?
DNAを調べる方法でしょうか?
気になった背景として、一月くらい前、「新潟県産コシヒカリ」に異種が混入していたというニュースがあったのですが、その混入率が5%程度だったので、同じような誤認識をしてしまっているのではないかとふと疑問に思い質問しました。
東京神奈川埼玉千葉で流通していた新潟産コシヒカリ25点からそれぞれ20粒ずつ米を抜き取りDNA検査を行ったところ、2点で20粒中1粒別の品種と思われる米が混じっていたそうです。
従来のコシヒカリと違ったDNAを持つ新潟県内でしか生産されていない品種コシヒカリBLというものがあり、このコシヒカリBLのDNAを持っているか否かで新潟産か否か特定できるそうです。
この「異種混入」は検査法の問題だったのでしょうか?
というわけで,早速いろいろ調べてみたところ,わたしが大きな勘違いをしていたことに気がつきました。
「遺伝子組換えでない」と表示可能である基準となっている「意図しない5%以下の混入」における5%という値は,IPハンドリング=分別生産流通管理(Identity Preserved Handling )と呼ばれる分別過程において,除去しきれないと考えられている数値がその根拠となっていました。
遺伝子組換え植物を考えるQ&A 7.遺伝子組換え食品の表示制度について
Q4.IPハンドリングとは何ですか?
栽培農家や流通にかかわる人は、厳密な管理の下で細心の注意を払ってIPハンドリングを行っていますが、現実には遺伝子組換えのものがわずかに混ざってしまうこともあります。種子を運ぶコンベアーなどは、ある時は遺伝子組換え農作物を流し、ある時は非遺伝子組換えのものを流すことが多くあります。非遺伝子組換えのものを流すときは、コンベアーや倉庫内を掃除してから作業を行いますが、いくら清掃してもラインに数粒、遺伝子組換えのものが残っていたりすることもあり、現状では絶対に混ざらないようにすることは困難です。
このため日本では、遺伝子組換え農作物の混入率5%未満なら、適正なIPハンドリングが行われたとして認めています。
よくよく思い出してみたところ,その昔(10年以上前(^^;)この手の仕事をしていた友人から,「混入割合が5%以下であることを証明するには,0.5%以下の精度で分析できないとダメなんだが,それが結構難しくてねぇ」という話を聞いたのが,どこかで記憶が入れ違ってしまっていたことに気がつきました。誠に申し訳ありません。深くお詫びして,昨日の記事を訂正させていただきたいと思います。
確かに,いろいろと調べてみると現在使われている手法を使うと,分析対象や用いるキットによって違いはあるものの,十分に高い確度で分析を行えるようです。かなり情報が古かった上に,ねじ曲がって覚えていたことを繰り返しお詫びいたします。
さて,現在の分析手法ですが,調べてみたところやはりPCR法と呼ばれる手法を主軸に置いて,二段階の検査が行われることになっており,検査方法についての細かい手順もしっかりと決められています。
厚生労働省:遺伝子組換え食品の安全性審査の法的義務化について
(別添)組換えDNA技術応用食品の検査方法(PDF 369KB)
PCR法というのは,DNA中に含まれるある特定の遺伝子だけを増幅する手法で,正しい手順を踏めば目的の遺伝子だけを特異的に増やして検出することが出来ます。
実際には,まず第一段階のスクリーニングとして,GMOが含まれているかどうかが不明な試料からDNAを抽出し,検出したい遺伝子(この場合GMOに特異的な遺伝子)だけを増幅させるような手順でPCR増幅を行います。これにより,最終的にどのくらい目的の遺伝子が検出されたかを見ます。もし,GMO由来の遺伝子が検出されれば,次の段階に進みます。検出されなければ,この試料はGMOが含まれていないと判断されます。
さて,GMO由来の遺伝子が検出された試料について,次はどのくらい含まれているかを見なければいけません。そこで今度は定量PCRという手法を使います。中で起こす反応は,第一段階で行った実験と全く同じものなのですが,今度はPCR増幅によりどのくらい目的の遺伝子が増加しているかをリアルタイムで観察します。すると,PCR増幅法の原理から理想的な増幅が行われている場合には,最初に含まれている目的遺伝子の量により増幅するスピードが違うことが期待できますので,横軸を時間,縦軸を遺伝子の増幅量としてグラフを書くと,最初どのくらい目的遺伝子が含まれているかがわかります。そのため,この方法を「リアルタイム定量PCR法」と呼ぶことも多いです。また,第一段階の実験で行ったような「目的遺伝子があるか無いか」だけを見る手法を「定性PCR」と区別して呼ぶこともあります。
PCR法というのは,非常に単純な原理を元にした手法であるため,ただ遺伝子を増幅させるだけ(定性PCR法)であれば,適切な試薬を混合し,適切な条件下で温度を変えてあげるだけで反応を起こすことが出来ます。もっとも,その適切な試薬と適切な温度条件を見つけるのがなかなか大変だったりするわけ何ですが(^^;;;; 装置としては非常に単純なもので実験が可能となります。
しかし,定量PCRの場合はリアルタイムで変化する様子を観察する必要があるので,検出用の装置を内蔵している必要があります。また,通常は検出用の蛍光ラベルと呼ばれる試薬も必要とされるため,装置や試薬は定性PCRよりも高価ですし,実験技術も少々煩雑で高度なものが要求されます。そのため,簡便で安価に行える定性PCRで第一段階目の試験を行っているんですね。
というわけで,最初の質問にやっと戻りますが,このコシヒカリに用いられたのもおそらく「PCR法」であることは間違いないと思います。また,今回の場合は新潟産コシヒカリ特有の遺伝子を「検出できなかった」と言うケースになりますので,より確かなのではないかと思います。なぜならこのケースで用いられたと考えられる定性PCR法では,非常に高い増幅倍率で増幅させた状態で,目的遺伝子の有無を判別しますので,もし少しでもその遺伝子が入っていたのであれば,ほぼ確実に検出することが可能であったと考えられるからです。
こちらは民間の検査会社のWebページですが,こちらでは混合比率確認として「検体を均分器にかけ、縮分後の検体から20粒を取り出し、一粒ずつ品種鑑定を行い、20粒中に占める混合割合を分析」してくれます。おそらく,問題のニュースの場合でも同様の検査が行われたのではないかと思いますので,ほぼ確実に5%程度の混入があったと考えて良いと思います。
以上,ご質問の回答になりましたでしょうか。他にも何かありましたら,よろしくお願いいたします。