fc2ブログ

ドラフト式ボードゲームのドラフトの仕組み(システム)について考えてみる

この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2014の23日分の記事として書かれました。

初めまして。Power9Gamesの坂下と申します。
2012年の秋からボードゲーム制作を始めて、これまで「Dragon's Stone」「Nyao!」「ひつじとどろぼう」という3つのゲームを制作しました。

この記事ではドラフト式のボードゲームのシステムについて考えをまとめてみたいと思います。
長文になりますがお付き合い下さいませ。

■ドラフト式ボードゲームのドラフトの仕組み(システム)について考えてみる
僕はマジックザギャザリング(MTG)のドラフトがとても好きです。もちろん、ドラフト式のルールを採用しているボードゲームもとても好きです。
その気持ちが高じて自分でもドラフト式のゲームをこれまで2つ制作しましたので、その過程で考えたドラフト形式の利点、欠点。ドラフトテクニックや製作時の留意点をまとめて、最後にドラフト式ゲームのルールに望まれる要素を挙げてみます。

「ドラフト形式」のゲームに興味がある・作ってみたい。という方以外にはピンと来ない記事になるとは思いますが、2年間ドラフトゲームを作った時に貯まったノウハウを丸ごと書くつもりでやってみます。
各パラグラフごとに細かく書くと、1記事に膨らませられるぐらいの内容があるのでかなり端折っている部分もありますが、お許しくださいませ。

■そもそもドラフトとは?
MTGのドラフトの歴史を考察している海外の記事(リンク先は英語 )によると、元々はベースボールのカードゲームで野球選手をチームがドラフトで獲得するのに模して、カードを1枚ずつ選んで行く遊び方から始まったようです。
そのルールをMTGのプレイヤーが取り込んで、最初はすべてのカードをテーブルに並べて、1枚ずつ取っていく形式から始まり、ブースターパックを開けて中のカードを全てテーブルに並べて取っていく形式(ロチェスタードラフト)、
パックを開けて、中から1枚取ったら隣にパックを渡す形式(ブースタードラフト)へと主流が移り変わっていったようです。
もちろん、MTGはTCGなので、パックを開ける。つまり購入して消費してもらうために環境が整備された側面もあり、ブースタードラフトはMTGのトーナメント形式のひとつとして定着しました。
比較的カジュアルなMTGの遊び方として、僕も含めてたくさんの人がドラフト形式でゲームを楽しんでいます。

ブースタードラフト以外にも、テーブルにカードを並べてから順番に獲得していくロチェスタードラフト形式や、ソロモンドラフト、ウインチェスタードラフト等いろいろあるので興味がある方は調べてみて下さい。
広義には、複数枚ある手札の中から1枚だけを隣りに渡す方法(『ボトルインプ』のカード配布時のルール)もドラフトと呼ばれる事もありますがココでは取り上げません。

「ドラフト」もしくは「カードドラフティング」は広い意味で使われていて、言葉の定義としては「欲しいカードを1枚ずつ取っていくカードの配布方法」になるのかな?と思っています。

■ドラフト式のボードゲームってどのゲーム?
ボードゲームでドラフト形式を利用しているゲームは多々ありますが、この記事ではブースタードラフト形式を取り上げます。
まずカードを全員に7枚配ります。そこから1枚取り、残りの6枚を隣のプレイヤーに渡します。
すると逆隣りのプレイヤーから、1枚減った6枚が渡されるのでそこからまた1枚を選ぶ。残った5枚を隣りに渡して…
これを繰り返して手札を作る形式です。

MTGではブースターパックを開いて、その中身を手渡していくのですが、ボードゲームにはブースターパックは無いので初期配布カードを1パックと見なしています。
『妖精奇譚』『世界の七不思議』『ヴォーパルス』『すしドラ!』『スシゴー』『十二季節の魔法使い』『アグリコラ』のオプションルールなど、他にもいろいろなゲームで採用されていますが、ドラフト部分も含めてルールは個々に違います。
他には、一人のプレイヤーだけがカードの束を持ち、それをプレイヤー間で渡していく形式(1パック型のブースタードラフト)である「操り人形」「ロストテンプル」についても多少触れたいと思います。

この記事内では「ドラフト」部分を繰り返し楽しむ事を主眼としたゲームをドラフト式ボードゲームと呼んでいます。
それと分けて、『十二季節の魔法使い』『アグリコラ』のオプションルールは、ドラフトする部分もあるボードゲーム。と、この記事では位置づけています。

※代表的な5つのドラフト式ゲームについての分析はこの記事の前段となる記事に記載したので、お暇なら見て頂けると参考になるかもしれません。

■通常の「配りきり」と「ドラフト形式」の違い。利点と欠点。
配られたカードを使う「配りきり」と「ドラフト」では何が変わるのでしょうか。

1.カード配布をゲームの一部にできる
「配りきり」の場合はあくまでカード配布はゲームの準備であり、ランダムにカードが配られるだけです。
ドラフト形式の場合は自分でカードを選ぶため、カード配布自体をゲームの楽しみの一部にする事ができます。

2.カードの種類を揃える事が出来る
プレイヤーが自分で選択して取っていくので、「配りきり」よりもカードの色や属性、種類などを集める事が出来ます。
ゲームで使われるカード自体に、複数のカードの効果での組み合わせや補完関係。またはセットコレクションの要素がないとドラフトをする意味は薄れます。

3.渡すカードを介した推理、コミュニケーションができる
隣りのプレイヤーから渡されるカードは「相手が選ばなかったカード」ですから、残ったカードから前手番の人の思考を予想する事ができます。
また、自分が何を渡すかによって、自分の後手番のプレイヤーに対してもゆるやかな意思表示ができます。

4.運の要素が軽減される/熟練差が出る
「配りきり」では手札はランダムに与えられるだけですが、ドラフトでは自分で選択して獲得できるので運の要素が多少軽減されます。もちろんドラフトでも最初に配られたカード、回ってくるカードでの幸運や不運はありますが。
しかしドラフト時のカード選択はゲーム習熟度によって上手い、下手がありますから、ゲームが不慣れなプレイヤーにとっては「配りきり」の手札の方が良い手札になる可能性さえあります。

5.配られるカードについて適度な情報共有がされる
ドラフト形式でカードを配ると、自分で獲得しなかったカードも見る事ができます。例えば4人で5枚のカードをドラフトすると20枚中14枚のカードを見て、うち5枚が手札になります。
他のプレイヤーの手札、つまり自分が選択しなかったけれど見たカードは9(14-5)÷20で全体の45%。約半分のカードを見たことになります(全てを記憶しているかは別の問題です)。
これにより適度にゲームを「予測可能」にして、かつ「予測不可能な部分」も残された状態になります。

6.ドラフトに時間がかかる
「配りきり」ならばすぐに初期手札が決まりますが、ドラフト形式だと時間がかかるため、ゲームプレイ自体は複雑ではないルールが多い傾向があります。
逆にドラフトした後が長いゲーム(『十二季節の魔法使い』『アグリコラ』の選択ルール)では、ドラフトするのはゲーム開始時のみで、カードはゲーム全体の指標となったり段階的に使用する等の仕掛けがされています。


■ドラフトの楽しさとは?
では、ドラフト形式でカードを配る事の楽しさ、面白さはどこにあるんでしょうか?
個人の主観によっても変わってくる部分ですが、自分の考えとしていくつか挙げてみたいと思います。

・ウィンドウショッピング的な楽しさ
「品揃えが変わるお店から1つだけ買えるウインドウショッピングの繰り返し」と似た楽しさがブースタードラフトにはあります。
カードの種類が多様にあるなら尚更、渡されたカードからどれにしようか迷う事自体も面白さの一つです。
例えば『すしドラ!』は、お買い物の楽しさをそのまま「回転寿司の皿選びの楽しさ」というテーマに結びつけています。

・組み合わせ(コンボ)の面白さや意外性
ドラフトするカードが多いゲームではカードの効果の組み合わせによって効果が強力になったり欠点が和らいだりといった、素敵な組み合わせ(コンボ)が発生する事が多いです。
これは先に挙げた「ウインドウショッピング」と関連しているのですが、自分が取ったカードとコンボになるカードを見つけることは、素敵なシャツを買った後にそれに合うズボンを見つけたような楽しさがあると思います(この例えが適切か微妙な所ですが)。

・成長・拡張する楽しさ
自分が使いたいカードを選択するのは、自分を(得点、盤面的に)強くする行動です。
手札をある戦術や方針に向けて整えていく面白さは、拡大再生産に似た「強くなっていく」感覚になります。
だんだんと自分の文明が発展する、街が大きくなる。そのためのカードを選択するのは根源的に楽しい事です。

・推理する面白さ
カード総枚数が少ないゲームで顕著ですが「操り人形」のような1ブースタードラフトのゲームの場合、自分の前手番のプレイヤーが何を取ったのか推理する面白さがあります。
ブースタードラフト形式であっても、配りきりよりも見えるカードの枚数が多いですから、自分に渡されるカードから前手番のプレイヤーの戦術を類推したり全体の傾向を考えてカードを選択します。
多くのドラフト式ゲームでは、ドラフトの合間などで各プレイヤーに「場のカード」が置かれるので、そこを推理の手がかりにするゲームが多いです。

ここまで読んで、もしかしたら「カード配布をドラフト形式にするだけでこんなに楽しくなるなんて!」と感じるかもしれませんが、これはあくまでドラフトするカードセットやルールがドラフトを楽しめるように調整された結果ですので、お間違えないよう。
例えば、ドラフト形式で手札を作ってから大富豪をすると革命や大きなペアが頻発する大味なゲーム感にはなりますが、ドラフト独特の面白さはそれほど感じる事はできません。

また、利点と欠点の中で挙げましたが、ドラフト形式は「配りきり」と違ってゲーム経験の差が大きく影響します。
ドラフト後のゲームプレイが全く予想できない、コツがつかめていない状況では「ウィンドウショッピング的な楽しさ」も雲を掴むようなあいまいな感覚になってしまいます。
特に初回のプレイ時はドラフト自体が「何かよく分からないものを選ばされている作業」になりかねません。
どのようにすれば、この問題をゲーム仕組みで構造的にカバーできるのでしょうか?


■複雑な「ドラフト」を楽しめるようにする解決策
プレイヤーがドラフトでカード選択するためには、それぞれのカードがどのような効果があるのか。
他のカードと比較して強力なカードなのか、それとも弱いけれど利点があるカードなのかを理解する必要があります。
あいまいな感覚としてでも構わないので、指標となる何かをプレイヤーがキャッチしないとドラフトはとても難しいゲームになります。
ドラフトを採用しているボードゲームでは、どのように解決策を模索しているのでしょうか。

解決策 1.カードやゲームをシンプルにする
カードの効果を極力シンプルにしたり、総枚数や種類を少な目にして、始めて遊ぶプレイヤーも悩む事なくゲームを楽しめるようにします。
これによってルールもシンプルになりますが、シンプルになりすぎるとドラフトのウィンドウショッピング的な楽しさが失われてしまうため、バランスが難しいところです。
『世界の七不思議』『スシゴー』ではカードジャンルごとに得点計算ルールが決まっているので、カードの表記はシンプルなまま効果を持たせています。
カードを使う時にもコストが必要なものを除けば、複数の手順が必要になるような難しいルールはあまり採用されていません。

解決策 2.短時間で何度も遊んでもらえるようにする
ドラフトで手札を作ってから使い切るまで10分程度にして、ドラフトを繰り返し遊ぶ構造にする。
繰り返し遊んでもらう事で、自然とドラフトのカードについて習熟してもらおう。というアプローチです。
この場合は『世界の七不思議』のように時代ごとに山札が変わる仕組みではなく、同じカードをドラフトしてもらうゲームの方が向いています。

解決策 3.カードをドラフトしたら即時に1枚ずつ使っていく
『世界の七不思議』『すしドラ!』『スシゴー』などで採用されているルールですが、ドラフトで1枚を選んだら即座にそのカードをプレイします。
他のプレイヤーが使ったカードが見えるので、自分の選択を他のプレイヤーと比較しながらドラフトを進行できます。
周囲の状況がとてもよく見えるようになるため、自分のカードの選択も明確に行う事ができます。
一方で次の手番のプレイヤーの場を把握できるため、自分の欲しいカードを取らずに次のプレイヤーの得点が伸びるカードを奪ってしまう「カット」というテクニックが使われやすくなる側面もあります。

解決策 4.チュートリアルラウンドを設定する
これは『Dragon's Stone』で自分が試した手法ですね。始めてゲームを遊ぶ人のためのセットアップを用意してゲームとカードの概要を遊びながら説明する試みです。
今回詳しい説明は割愛します(笑)

これらの解決方法で課題を完全にクリアにした。とは言い難いかもしれませんが、どのゲームもこの問題を放置してはおらず、何らかのアプローチで解決方法を模索してると感じます。
難しい問題ですが、ドラフトの楽しさの本質に「たくさんの効果のカードを選び、組み合わせを楽しむ」という要素があるのであれば、ある程度の複雑さは残ってしまうのかもしれません。
僕自身も複雑なものはダメ。とは思っていませんし、ゲームを初めて遊ぶ人向けのゲームの楽しさもあれば、ゲームをやり込む人に向けた楽しさもあるわけで、そこはゲームデザイナーの調整の結果だと感じます。

■ブースタードラフトから引き継がれているドラフトテクニック
MTGのブースタードラフトは長い間公式な大会等で遊ばれているので、定番ともいえるテクニックが多数あります。
下記に思いつくままに挙げてみますが、あわせてドラフト式ボードゲームでのみ使えるテクニックも一部挙げてみます。これらの用語名は自分が適当に書いているので、一般的な名前ではありませんのでご注意を。

1.染め手
ドラフトの中で、特定の効果や特定の色のカードを狙って集めていくテクニックです。
テクニックとさえ言えない当たり前の事なのですが、染め手に全く意味が発生しないカードセットではドラフトの意義はとても薄くなります。
集める、組み合わせる事で意味が出てくるカードセットを使用する事が、ドラフト式ゲームの大前提とも言えます。

2.カット
特に「カードをドラフトしたら即時に1枚ずつ使っていく」のゲームでは、次のプレイヤーがどんなカードが欲しいか明確に分かってしまいます。
その為、自分の使いたいカードを選ばずに他のプレイヤーが有利になるカードをあえて取る事が出来ます。これを「カット」と呼びます。
「全てのカードをドラフト後にプレイ形式」でも、自分は不必要だけど効果が強力なカードをあえて取る事があります。
例えば「世界の七不思議」ではカードを裏向きにカードを使う方法がありますが、これはカットしたカードを自分で有効に使える仕組みになっています。
ちなみに、カットをとても重視するプレイングをヘイトドラフトと呼ぶ事もあります。

3.協調
カットの逆で、自分には不要な強力なカードを取らずに次のプレイヤーに渡します。そうする事で次のプレイヤーが使用するカードや戦術を予想する事ができます。
多くのブースタードラフトゲームでは、ラウンドごとにカードを回す方向が逆順になるので、前のラウンドに自分とは違う戦略のカードを流しておくことで、ドラフトが逆順になった時に自分の戦略のカードが流れて来やすくなるというメリットもあります。
これが協調とか、協調ドラフトと呼ばれるテクニックです。
協調ドラフトが発生する為には、カードに複数の得点戦略がある必要があります。

4.シグナル
協調ドラフトのテクニックの一つで、ある戦略にとってキーになるカードを次のプレイヤーに渡す事で
「自分はこの戦略をやっていませんよ。やってみたらどうですか?」という意思表示を次のプレイヤーにアピールします。
シグナルのつもりで強力なカードを渡しても、受け手側が気づかなかったり。その逆で受け手が勝手にシグナルを誤解するシチュエーションも良く見かけます。
これも、カードセットの中に特定戦略で強いカードなど明確な意図が伝わるカードが無いと成立しないテクニックです。

5.ホールド
ドラフト後カードを使用する際にカードを保持しておけるゲームにおいて、自分の今回の戦略には不要だが強い効果のカードを保持しておく。等のテクニックです。
次のラウンドのドラフト開始時には、このホールドしたカードを上手く使えるようにドラフト戦略を練る事ができます。
カットしたカードを捨て札にする以外の選択肢を与える事ができるので、ドラフト戦略が広がります。獲得したカードを全て使い切ってしまう形式のゲームでは行う事ができません。

6.ブースター戻り
ブースタードラフト形式で、カードの配布枚数がプレイ人数を超える時のテクニックです。
例えば4人プレイで7枚ずつ配られるドラフト形式の時は、最初に配られた7枚の束はそこから4枚が取られた後、3枚の束になって自分の所に戻ってきます。
これを7枚配られた時点で考慮し「一周したらこの3枚が戻ってきそうだから、1枚目はそれらに影響があるカードを取っておこう」といったテクニックです。
相関関係が強いカードを使ったドラフトであれば、単体で強力なカードよりもブースター戻りを意識した選択の方が良い事もあり得ます。
同時にこの1巡でどのカードが取られたのかという情報も分かるので、推理を巡らせられるポイントでもあります。

7.カウンティング
配られたり、場に出たカードを覚える事で、どのカードがまだ山札にあるかを計算する事をカウンティングと呼びます。
ドラフト形式では「配りきり」よりも見る事ができるカード枚数が多いので、より広い範囲でカウンティングする事も可能です。
カード全てのカウンティングは無理でも、ドラフト中に特定の効果のカードを何枚見た。というカウンティングが有効な事もあります。

上で挙げたテクニックはドラフトゲームのルールによって使えたり、使えなかったりします。
しかしドラフトに慣れ親しんだプレイヤーにとっては、これらのテクニックこそドラフト中のプレイヤー間のインタラクションであり、カードを選択する手がかりとなるポイントです。
全てのテクニックが使えるゲームである必要はありませんが、ドラフトゲームを作る際には極力意識したい部分です。


■ドラフトを楽しむ為の「場のカード」のシステムは?
上で紹介したドラフトテクニックを頭の片隅に置いた上で、ドラフトゲームで使われる「場のカード」についても考えてみましょう。
ドラフトで獲得したカードを場に置いていくゲームでは置いたカードは自分の「発展」や「得点源」となり、自分の国や都市(ストーリーによって違います)が成長する楽しみを感じられます。
さらに、置かれたカードの効果が見えているので、他のプレイヤーに対する推理のヒントになります。

『操り人形』ならば黄色の建物をたくさん建てているプレイヤーは「王様」を使おうとするだろう。とか(ブースタードラフト形式ではありませんが)、
『世界の七不思議』なら隣りとの盾シンボルの差は2だから、この盾3つのカードは渡せない。とか。
「場のカード」が無いゲームと比較して、協調も、カットも、カウンティングもとても考えやすくなります。

「場のカード」はドラフトしたカードを配置する方法が一般的ですが『ヴォーパルス』では獲得した街カードによってその後のドラフト戦略自体が変化します。
隣りのプレイヤーと違う街カードを選んだならば、自然と協調ドラフトが発生するようになります。
同じカードセットで繰り返しドラフトするゲームなので「場のカード」でドラフトに変化を起こして繰り返し遊べるのは素晴らしい仕組みです。


■ドラフト式ゲームに望まれる要素
これまでのまとめから逆算して、ドラフト式ゲームに望まれるカードセットとゲームルールの要素について考えてみましょう。

※これはあくまでこの記事内で名前を挙げたような、既存のタイプのドラフト式ゲームについての考察です。
最近の小枚数ブースタードラフト形式『姫騎士逃ゲテ~』や『5C16』等は別の考察が必要でしょう。

☆カードの枚数や構成
・絵柄や効果の種類が十分に豊富にある
・1種類の枚数が不均等である方がバラエティー感が出る
⇒ウインドウショッピング的な楽しさにつながる

☆カードの効果や得点方法
・カード効果はできるかぎりシンプル(複雑すぎない)
・いくつかの方法で得点を獲得できる、またはいくつかの戦術が成り立つ。
・組み合わさる事で効果が高くなる(カードコンボ)がある
 +コンボはできれば単純なAとBの組み合わせではないほうが広がりが出る(『世界の七不思議』の建築コスト等)
⇒ドラフト中の悩みが深まり、複数の戦術の違いが取れる事で協調ドラフトしやすくなる。

☆ドラフトのルール
・プレイ人数を超える枚数を配る(ブースター戻り)
・最後の1枚を確保できるようにする(ホールド、カット)
・ドラフトでカードを渡す方向を毎回変える(協調)
・使わないカードを別の方法で消費できるようにする(カット)
⇒各種テクニックが使えるルールにすることで、ドラフト中のインタラクションが向上する

☆「場のカード」やスコアの表示
・だんだんと発展していく楽しさを表現する
・ゲームの目標や指標となるガイドの機能を持たせる(『ヴォーパルス』でどの街カードを取るか等)
・ドラフト時のカード選択の予想や検討に役立つ機能を持たせる(『世界の七不思議』の盾アイコン数等)
⇒「場のカード」がドラフト時の指標やガイドとなることで、カード選択基準が明確になる。

これらをカンタンに言い換えると…
☆カードは楽しく選べる豊富さがありつつも、分かりやすく
☆得点獲得の方法はいくつか戦術が選べて、相互関係があると良い
☆「場のカード」等の要素で拡大発展の楽しさや他のプレイヤーの動向が見える


こんなところでしょうか。
結構、普通な内容に落ち着いたようにも見えますが、実際にこれらを満たすゲームを制作しようとするとなかなかに難しい課題のように思えます。


■さぁ、ドラフト式ゲームを作ろう!
ここまで書いた長ーいまとめをひっくり返してしまうのですが、もしあなたがドラフトゲームを作ろうと考えていても、上の要素を全て満たさなくても構わないと思います。

例えば、あなたが作ろうと考えているのが
小枚数でのドラフトのゲームだったら?
ドラフト+タイル配置のゲームだったら?
ドラフト+トリックテイクのゲームだったら?
ドラフト+ワーカープレースメントのゲームだったら?
望まれる機能も構造もやはり変化するので、新たに考えてみる必要がありますよね。

自分もゲームを制作している時には、もやもやとしたアイデアを盛り込んだり削ったりを繰り返して形を整えています。制作が終わってから振り返っているので、こんなに考えがまとまっている風になっています(笑)
この記事で書かれているのはあくまで「考察」であり「ガイド」ですから、是非この記事の範疇から飛び出して新たなゲームを制作してみて下さい。


■あとがき
こんなに長い長い記事にお付き合い頂きありがとうございました。
『Dragon's Stone』『ひつじとどろぼう』を制作するにあたって、カードドラフトについて考えていたモヤモヤした事を文字にまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。
自分が制作している時には不明瞭な感覚として思っていたことをまとめる事ができたので、ちょっとすっきりしました(笑)
これを読んだ後に『ひつじとどろぼう』のマニュアルを見て頂くと、この記事内容を前提とした上で、どういう選択をしてゲームルールをまとめたのか見えてしまうかもしれませんね。

これからカードドラフト式のゲームを作ろうと考えている方や、ドラフトゲームの仕組みの裏側が気になる方が、この記事を楽しんで頂けたら幸いです。

ドラフト式ボードゲームを分析してみる

この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2014の23日の記事を書くための前段として書かれました。

■ドラフト式ボードゲームを分析してみる

続きを読む

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
プロフィール

u_1

Author:u_1
坂下裕一
ボードゲーム制作サークルPower Nine代表。
海外ボードゲームが(一部売却後も)300個以上保有し続けてしまっているボードゲーム好き。
いつも「シンプルでままならない」ゲームをデザインする傾向があります。

公式Twitter:Power_nine

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR