この記事はBoardGame Design Advent Calendar 2023 の7日目の記事として書かれました。
どうも。アドベントカレンダーから読まれている方も多いと思います。
当サークルはPower9Gamesと言いまして、2012年のゲムマから参加している、気づけば長いことゲーム制作をしているサークルです。
代表作としては「ドラゴンズストーン」とか「ひつじとどろぼう」といったカードドラフトゲーム。
最近は小規模でチャレンジなゲーム制作が多く、どうぶつフィギュアが36種入った「アニマルビンゴ」とか
ビーチボールの地球儀上にマステで航路を描いて地球一周する「ワールドバケーション」とかを制作していました。
今回はゲームマーケット2023秋の12/9(土)にチャック横丁10にて、新作「春待ち村」をリリースしますので、
この「春待ち村」の制作ノートをまとめたいと思います。なんかめっちゃ長いテキストになったので、お暇な時にでも。
それでは早速。
「春待ち村」制作ノート
◆棚に眠り続けていた「オートチェス」のモック
まだ「春待ち村」の影も形もない2年前くらい、
オートチェスをアナログ化したゲームを作りモックまで進行して停滞していました。
※オートチェスはPCで流行したゲームデザインで、キャラを集めてコロシアムで殴り合う感じのゲームです。
ゲームシステムはかなり直球なオートチェス。バトルロイヤルでだんだんと脱落していくゲームでした。
オリジナル性が強い部分としては、キャラ購入がリアルタイムに早い人がメリットタイルが先に取れる点。
(ウボンゴのパズルクリア後にポーン取るみたいなもの)
※ちゃんと遊べるモックになっているが、停滞中。
このモックは遊んでもらって「楽しい」と感想ももらえていて、デベロップを進めればゲームになる感触はあったんですが、
なんというか「足らない」感があり、手が止まっていました。そこから長年放置・・・
そして今年、オートチェスを落とし込んだと言われる大ヒットゲーム「チャレンジャーズ」が登場しました。
バトルルールの「7種目がベンチに行ったら敗北」があるデッキ構築は明らかに「発明」で、
オートバトルは賛否両論になりがちだし、座席の入れ替えも煩雑さがあるのですが、
やはり「発明」の魅力はとてつもなく強く、自分含めみんなチャレンジャーズに惚れてしまう魅力がありました。
チャレンジャーズをプレイして逆に理解できたのは、自分の作っていたオートチェスにはやはり「発明」が足らない。
そこを乗り越えられれば制作に前向きになれそうですが、発明はそうそう生まれるものでもない。
そうしてオートチェスのモックは引き続き棚の中にしまわれるのでした。。。
◆天啓! 「春待ち村」=「オートチェス」+「環境サバイバル」+「バックパックバトル」!?
ゲームマーケット2023秋にはチャック横丁として参加申請していたのですが、
今回のゲームマーケット2023秋まで1.5か月前くらいに開催される
10/28のテストプレイ会に持ち込むゲームが、無い。
最近のゲムマではビーチボールのガチ地球儀を使った「ワールドバケーション」や「アニマルビンゴ」などを
ゲムマの1~2か月前くらいに発案して、パッとゲームを作り上げてきたのですが今回はどうにもプランがない。
困った。。。と、テストプレイ会の週に柄にもなく公園を歩きながら考えていたら「天啓」が。
オートチェスのテーマを大規模に変更して、別のゲームに組み上げ直せば良いのでは!
オートチェスはプレイヤー同士の対戦なのでガチ戦闘が嫌いな人からは避けられやすい。
協力というか、直接対戦しない形での脱落ゲームは作れないか。。。作れそう!
厳しい自然環境というシステムとプレイヤーとの対決にすれば、全然違うテーマで脱落型対戦ゲームが作れるぞ
というわけで唐突に「オートチェスが極寒の雪山サバイバルに置き換えられる」という方向性が誕生。
脳内のイメージではフロストパンクとか、マインクラフトの雪山などが浮かんでいました。
次はゲームシステムです。
ちょうどPCゲーム(steam)でBackpack Battleという荷物整理対戦ゲームや、
同種のBackpack Heroが流行っており、自分もそこそこ楽しんでいました。
この「荷物を整理する」という要素を、昔から作ってみたかったジャンルである「タイル配置」に消化し、
『空中庭園』のようにタイルを重ねて配置してリソースを確保するのはどうだろうか。
重ねるタイルを「部屋の増設」に見立てて、外気が入らないように工夫して部屋を増やしていく…
ゲームプレイを想像してみると、悪くなさそうです。
ゲーム的な豊かさ(パラメータや考えどころ)は担保できそうでしょうか?
極寒との闘いということは、パラメータとして「暖かさ」を用意できそう。
もともとのオートチェスの対戦で負けたプレイヤーがダメージを受ける要素は「武装が低い人はオオカミに襲われる」として、
2種類のダメージ源を用意したら、プレイに振れ幅が作れそうです。
オートチェスでの「手札の購入/引き直し」などで使うお金の要素の活用として、お金を稼げるパラメータを用意。
これでまだ3要素。もう少しパラメータが必要そうです。
オートチェスで言う「場のユニット数の増加」にあたるような、お金でパラメータを増強する手段として「労働者」をつくり
この「労働者」が必要とする要素として「食料(のちに肉)」。
これで4要素。あとはゲーム的な拡張として「カードドロー枚数増加」と「ライフ増加(後になくなります)」で6要素。
これだけあれば、いくつかの要素を伸ばしていくタイル配置ゲームになりそうです。
◆仮のモックを用意して、プレイを空想する。
タイルは、これも自分がモックまで作って止まっている「ミニシビライゼーション+カタン」ゲームで採用している
1タイル4マスでモックで作ることにしました。MTGのカードのスリーブに四角い紙片を入れてタイル替わりにします。
※こんなやつ。
試しにタイルを配置しようと思うと、最初にどこに置くべきか。とっかかりがありません。
なので9マス(3x3)の基礎ボード(のちに屋敷ボードとなる)を用意してそこから拡張していく形にしました。
タイルには金額を記載して、その額を払って配置する形に。
引いたタイルが嫌ならお金を払ってタイルの引き直しができるように。
そして、お金が余っていたら利息をもらえるように。
ここらへんの要素は「オートチェス」でやりたかったシステムを採用しています。
次はプレイヤーを脅かす雪山の脅威をどうやって発生させるか。
緩すぎたらサバイバルにならず、厳しすぎても対抗できません。
ちょうどサイコロが手元にあり、モックとして準備しやすかったこともあり、
大自然の理不尽さの表現として、完全にランダムなランダマイザであるサイコロをまず採用してみることにしました。
サイコロを振って出た数値の寒さ(吹雪)が襲い掛かり、同数の暖かさが無いとダメージを受ける。あり得そうです。
とはいえ、1~6のランダムというのは振れ幅が大きすぎ、最大6倍の数値をコントロールしなければいけません。
そこでサイコロの1と2は「オオカミ襲来」として、3~6を「吹雪」としました。これなら吹雪の揺れ幅は2倍で済みます。
(後にオオカミはサイコロ1と6に変更になります)
ここまではモックを、ルールも適当に置いたりなんだりしながら検証、検討しています。
ざっと全体のルールは不整合なく整った感じがします。ではモックプレイしてみましょう。
◆モックを作って1人で4人プレイを繰り返す…
次の段階ではモックを作って1人で4人分をプレイして検証していきます。
やはりプレイしてみるとルールが緩すぎたり、煩雑なところがすぐわかってプレイが止まります。
初回のゲーム終了に行く前に、いろんな調整が発見されます。
・手札5枚は煩雑すぎる。3枚でよさそう。
・タイルのパラメータ(アイコン)がガンガン増えるので配置制限が必要。⇒連結最大だけを見る形に変更
・労働者の使い道が難しい、わからない ⇒ 最大連結ルールにすることで、労働者は「オールマイティー」にして対応。
・「暖かさ」が十分に溜まると脅威がなくなる ⇒ ゲーム進行に合わせて吹雪の増強が必要。サイコロ振る回数が増えていく仕組みを追加
・タイルに「壁」が少ないタイルが使い道がない ⇒ タイルの壁の総量を増やす(この対応は以降も何度も繰り返すことなる)
ガンガンとゲームを調整ながら1人で4人プレイを続けていくと、なんとなく整いました。
あ、ゲーム名を決めていない。とりあえず「雪山サバイバル」として…
これで、明日のテストプレイに挑みましょう。
◆テストプレイでの感触とランダマイザの扱い方
テストししてくれるプレイヤーはそれぞれ自分のサークルでゲームを作っているような猛者ぞろいなのですが、
結論から言えば、かなりの良感触でした。
ゲーム全体のプレイ感覚、雪山サバイバルというフレーバー、両方ともスッと受け入れられました。
ルールの不整合の指摘や、細かいルールの不整備によってわかりづらい点などの指摘も貰い、その場で調整していきます。
この時点のルールでは労働者が非常に強く、労働者が多いとデメリットになる部分が必要になりそうでした。
モックのタイルがMTGのカードに四角い紙片なのでとても遊びずらく、次は四角いカードを用意する必要がありました。
幸い(?)我が家には厚紙とシールプリント用紙と裁断機があります。シールプリントに印刷して厚紙に貼ってカット!
これ以降のモックは厚みのある紙製タイル状で行っていきます。
テストプレイ参加者に必ず聞きたかった点は「サイコロ」についての感想
このゲームはラウンド最後に「サイコロ運」に任せる部分があり、いわゆる「最後に運試しが発生するゲームはクソゲー」的な
ゲームデザインの教科書だったら「避けるべき」と書かれるシステムを搭載しています。
例えば「テーベ」で袋から遺物を引くか。砂を引くか。等に近い「結果ランダム」です。
春待ち村では、プレイヤーの意思で先に「部屋を配置」して、サイコロの目に備える事ができるので、
結論として「サイコロ運ゲー」というよりも、「不確定な脅威」として認識して貰えているようでした。
この部分は今回襲ってくる大自然の脅威を先に明示すれば緩和できるとわかっていました。
・先にサイコロを振ってから、タイル配置を行う
・サイコロの代わりに脅威デッキを作り、先に公開してからタイル配置する
等ですが、この場合は「予定調和的に脅威が先に見えて」いるのでタイル配置の計画は立てやすくなる一方で
理不尽な脅威が襲ってきた。という感触はなくなってしまいます。
テストプレイ参加者全員が「理不尽だけど、酷い運ゲーという感触はない」という感想で、
サイコロを振って一喜一憂。という瞬間的な楽しさを納得できる形で実装できたかな。という瞬間でした。
◆テストプレイは続く続く続く
初回のテストプレイの好評も受け、自分1人で4人や3人のテストプレイを延々と繰り返してバランスの調整。
時には家族3人でプレイしたり、開催されるテストプレイ会にまた参加させていただいてプレイ。
そのたびに調整を繰り返していきます。
テストプレイが進むにつれて「使われない部屋タイル」が分かってきて、
特に「配置難度は高いけど恩恵が高い」と想定して作ったタイルが使われずにゲームが終了しているとわかりました。
シンプルに考えると、こういう特殊でちょっと使いずらいタイルをすべて排除して簡素なタイルのみにすれば良いのですが、
プレイから揺れ幅や驚きを奪ってしまう側面もあり、ごく一部だけ残す形で調整していきます。
テストプレイ会では1人用のルールもあるとよいのでは?という提案も貰い、ルールを追加して
1人でソロプレイをするテストプレイも繰り返していきます。
1人で複数のソロプレイ卓を立てて同時にプレイするのは初体験で、謎に笑いがこみあげてきました。
テストプレイを重ねて見えてきた問題として、ゲームの最初のラウンドの資源が弱すぎて過酷すぎる点がありました。
最初からきつ過ぎて、盛り上がり少なく死んでしまう。あまり望ましいプレイ体験ではありません。
可能な限り「最初はちょっと緩いけどどんどん厳しくなる」という体験がベストです。
最初の9x9マスは当初空欄でしたが、ゲームの第1ラウンドでのタイル配置の指標が足らないことに気づき
角の4マスに資源を配置する形へ調整しました。この変更で食料(肉)の初期値を持たせられたので、
最初に1体「労働者」を無料で置けるようにし、「労働者」のチュートリアルとしながらも
初期資源を豊富にすることで初期難易度の問題が解決できました。
労働者が強すぎた点については「オオカミ襲来時に段階的に食料(肉)が減る」要素を追加することで
調整ができるようになり、強いけど状況次第でリスクにもなりえるというバランスへ調整ができました。
この他にもこまごまといろんなルールが統廃合されていきます。
サイコロ複数回振った時の挙動や、タイル配置ルールなどなどなどなど。
短期間ながら毎日、何なら1日に複数回モックを作り直してテストを繰り返します。
◆そして帳合へ
ゲームバランスも問題ないだろうという所まで調整し、
制作者が全員辛いというマニュアルライティング。(チェックして下さった皆様ありがとうございます!!!)
タイルは名刺印刷の変形で正方形のカードを大量に印刷。9x9のボードはハガキ印刷で。
同梱物として、労働者コマが16個、ライフ管理用のハートコマが12個、他にもサイコロや木製クリップ。
やたら多いコンポーネントを詰め込み、カードを帳合して。箱詰めという名のチャック袋詰め。
なんとかゲームマーケット前に発送することができました。
デベロップ(ゲーム開発)期間は実質一か月くらい。これは誇るべき所ではなくてもっと時間をかけて良い部分です。
元々あったオートチェスは「発明」が生まれれば形になるかもしれませんが、
同じ種から全く別種の「春待ち村」を誕生させることができました。
ボードゲームの印刷所さんを使ったり、アート制作にじっくり時間をかけるのであれば
当然もっと前から準備をするべきところですが、今回はなんとか全てが間に合った。というところで。
◆ゲーム情報です。
そんなわけで、「春待ち村」は ゲームマーケット2023秋 12/9(土) チャック横丁 10 にて 2000円で頒布いたします。
取り置き予約も下記URLで行っておりますので、お気軽にお申込みください(待っています!!)
★「春待ち村」取り置き予約※内容物一覧
◆振り返って、まとめ
近年は仕事や私生活の忙さなどにも負けて、切れの良い小作品を短期間で作る。という方向になっています。
そういう方向でのノウハウであったり、経験値もだいぶ溜まってきたかな。という印象です。
特に今回の「春待ち村」をまとめられたのはスキルアップを感じたりしています。
この制作ノートを書くことでも、また客観的に振り返ることができて経験値が稼げてる感がありますが、
「春待ち村」を通して、自分の制作ステップを振り返ってみます。
◆制作ステップ
①コンセプトを明確にする。
今回ならオートチェス型のゲームの変奏としての「大自然サバイバル」というコンセプトを立てる
⇒コンセプトが弱い、または不十分だと以降のステップのどこかで詰まる/辞めたくなるので大事。
②アイデアを形にするためのパラメータ、ゲームプレイを妄想する
どんなゲームプレイをするゲームなのか。そのプレイを実現させるだけのパラメータ種別が担保できそうか。これは制作の経験値必要かも。
⇒BackPackBattleのイメージを引用したり、「空中庭園」のタイル配置に近いルールを想像したり。ルールのキメラ化がここら辺で規定されてます
③未完全なモックを作って妄想を具現化していく
ルール未整備のままカードを並べて、カード配置を悩ませたいとか、ここでジレンマを持たせたい。という体験をどういうルールで具現化するか検討
⇒ここでゲームを遊んだら「どんな気持ち」を「どのタイミング」で発生させたいのか検討しておくのが大事。いわゆる体験設計の妄想具現ステップなのか?
④モックを一人でプレイ。納得がいくまで直す
モックになるまで具現化が進んだら、ゲームとしてちゃんとプレイしてまず自分がゲームを体感します。不明瞭な部分が無くなるまで、遊べるものになるまで詰める。
⇒ここからはゲームルールの整備に近い印象。モックにすると不自然/不可解なルールを整備しなきゃいけいないので必要なステップ
⑤外部テストプレイと内部テストプレイのキャッチボール
自分以外の人に遊んでもらうことで、多視点からの検証。プレイヤーがドヤ顔したり、あー!と言ってしまうシーンが生まれているか。
⇒主に確認ステップかも。ここで違和感が明確になる事も多いです。基本的な矛盾の見逃しやルールエラーがある場合もあり、比較的時間をかけたい所。
⑥マニュアルとか、梱包物の手配とかマジ大変な事務的だけど手を抜けない対応
十全なマニュアルが無いと遊ぶこともできないので、ここはもう必死。梱包は結構楽しかったりする。
⇒大変だけど、もっと大変なのは広報とか設営用の準備諸々なので並行してそちらも大変
なるほど。こんな風に作ってるんだな。自分。
「春待ち村」はとても順調に作れましたが、どのステップでも自分が違和感を覚えたら、前述のオートチェスゲームのように製作は途中で止まってしまいます。(すみません)
完成度が高いものだけ製品化している。とも言えますが、完成度というよりも作者の主観での納得度。な気もします。
「アニマルビンゴ」「ワールドバケーション」もかなり順調なパターンでしたが、これらはコンセプトの時点で完成品のイメージがかなりできていたとも言えます。
コンセプトの段階で遊んだ時にどんな気持ちになる場面を、どのように発生させるか。まで明確になっていると途中で頓挫しにくい印象ありますね。
次回作の案出しに生かそうと思います。
では、みなさんのゲーム制作に何かのお役に立てることを祈って。