シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

いざ、友の待つ戦場へ。――ダライアスバーストACと“ゲーセンという場”

 

シューティングゲームサイドVol.1 (GAMESIDE BOOKS)

シューティングゲームサイドVol.1 (GAMESIDE BOOKS)

 
 大型専用筐体でリリースされたシューティングゲーム『ダライアスバーストAC』がやめられない。
 
 このゲームには「オリジナルモード」と「クロニクルモード」の二つのモードがあり、普通にゲームを遊ぶだけならオリジナルモードを選択することになる。はじめて遊ぶ人は、オリジナルモードのEasyを選んでおけば無難だろう。
 
 対してクロニクルモードは、全1300以上のステージからなる膨大な戦域を、各ゲーセン単位で制圧していくという気の長いシステムになっている。すべての戦域を制圧するためには、1プレイに100円と考えても13万円以上を費やさなければならない。しかも、幾つかのステージは「二人共同プレイ」「四人共同プレイ」という縛りまでついている。つまり、このクロニクルモードは一人ではまず攻略しきれない。ゲーセンのシューターが結集して、力を合わせて戦わなければならないのである!
 
 やってみると、胸が熱くなって熱くてしようがない。
ホームグラウンドの常連シューターが力を合わせて攻略するっ!!!!!!――日曜日の午前中は俺が攻略、お昼は共同プレイ、夕方はお前に任せた!そんなノリで、地元のシューターが一緒に戦っていく一体感は、かつてないものがある。普段は別々のゲームを孤独に遊びがちなシューターという人種が、こうやって力を合わせてひとつの盤面を共有するというスタイルは、なかなか新鮮だ*1。
 
 こうしたノリをよく分かっているのか、タイトーの公式ページにはクロニクルモードの攻略率のランキングが存在する。全国の他店舗と比べて、自分達のホームグラウンドの攻略率がどれぐらいか比較できるというのが、攻略熱に油を注ぐ格好となっている。2011年1月現在、三重県のゲーセンが早くも攻略率100%一番乗りを達成しているが、よほど地元のシューターが力を合わせたのだろう。凄いとしか言いようがない。
 
 しかも、公式ページにはそれぞれのゲーセンの攻略状況がリアルタイムで報告されるので、地元の仲間がクロニクルモードを攻略している様子をログを見て気付くことだって出来る。仲間がいるのを知ってゲーセンに駆けつけるのも良し、風邪をひいてゲーセンに行けない時も仲間の勇戦を頼もしく思うのも良し。ともあれ、いつだって自分独りではない!
 
 

“ゲーセンという場”を蘇らせる『ダライアスバーストAC』

  
 アーケードゲームが現在よりも盛り上がっていた1990年代、ゲーセンごとの帰属意識や、ゲーセンごとの遠征文化というものが華やかだった頃があった。インターネットの無かった当時、スコアラー達は、情報収集や武者修行のために、強豪のいるゲーセンへの遠征に余念が無く、そんななかから長田仙人氏や内藤氏といったトップスコアラーも現れ、濃密なコミュニケーションが繁く行われていた。
 
 ところが2000年以後、ゲーセンというフィールド自体が縮小し、さらにインターネットや家庭用ゲーム機を介したゲーマー同士のコミュニケーションが容易になった結果、こうした“ゲーセン風土”と呼ぶべきものは希薄になったきらいがある。その代わり、ICカードによる個人戦績管理や、インターネット越しの情報交換や、ケイブ祭りのようなイベント類などが存在感を示すようになってきたわけだが。
  
 こうした現状を踏まえてだろう、『シューティングゲームサイドvol.01』のインタビューのなかで、制作担当の國澤仁さんは以下のように答えている。

國澤「昔のゲームセンターにはローカルなコミュニティがあったと思うんです。コミュニケーションノートがあったり、最先端のゲームができたり、行けば何かしらワクワクする要素があった。ですが、今のライフスタイルの中では、ゲームセンター自体が特に必要な場所じゃないって人が増えたと思うんですよ。だからゲームセンターで起こっていることに意識を持ってもらいたいんです。自分がクリアできなかったステージも、ほかの誰かがクリアしている…ということが起こっているかもしれない。ICカードを使って誰かの記録と競うのではなく、筐体の前でほかの誰かの動きを見るということで「あの筐体は今どうなっているんだろう?」ということを感じて欲しいと思っています。」
 
――では、ICカードという選択肢は最初からなかった?
 
國澤「なかったですね。カードだと今のゲームセンターに来ているお客さんには受け入れられますが今までとかわらない。それでは新しいお客さんを呼び込むとか、ゲームセンターを意識してもらうということにはならないんです。筐体の前で「あそこが抜けられないんだよな、手伝ってくれない?」的な会話があったとすれば、それは狙っていたことなのですごく嬉しいですね。」
 『シューティングゲームサイドvol.01』P16より

 
 現況を見るに、この制作陣の思惑はかなりのところまで実現し、ダライアス筐体は“ゲーセンという場”を復活させるのに一役買っているようにみえる。少なくとも常連シューターのいるゲーセンに関しては、ゲーセンごとの帰属意識やホームグラウンド意識といったものに貢献している。単にプレイヤーに100円玉を落とさせるためだけのゲームではなく、“ゲーセンという場”をプレイヤーに意識させ、プレイヤーをホームグラウンドに繋ぎ止めるように機能しているあたりは、このジャンルとしては新しい。
 
 シューティングゲームと“ゲーセンという場”の新しい在り方について、色々考えさせられる状況を突きつけている『ダライアスアーケードAC』。タイトーの看板ゲームに恥じない、強烈な引力を発生させていると思う。

*1:シューティングゲーム以外なら、こういう局面は結構あったと思う。例えば『D&Dシャドーオーバーミスタラ』などは、そのゲーセンのゲーマーが集結して戦うことの多いゲームだった。