
東京の秋葉原に、オルタナティブ・ロック好きが質の高いバンドを求めて足しげく通うCLUB GOODMANというライヴ・ハウスがある。過去にはの吉田肇が、現在ではbossston cruizing maniaの鹿島エス尋がブッキング・マネージャーを務めているのだから、他とはひと味もふた味も違ったバンドが自然と集まってくる事が解るだろう。
その秋葉原CLUB GOODMANを中心に活動し、強烈な個性を放つというバンドがいる。音楽は「プログレに恋をしたユーミン」と評され、変拍子を多用しながらも、ボーカル佐々木能子の歌唱力とメロディ・センスがそれを感じさせないほどポップな楽曲に変えてしまう。2005年には吉田肇が主宰するheadache soundsのコンピ『headache sounds SAMPLER CD Vol.4』にデラシネやなどと共に参加している。筆者は彼らとは学生時代からの知り合いなのだが、約1年半の活動休止期間を終えて発売した約4年ぶりのニュー・アルバム『組曲「明日」』 は彼らにとって大きな飛躍となる事を確信した。だって、今作での楽曲は「誰もが歌える変拍子」という新たなステージへと進んだから。
インタビュー & 文 : 池田義文
→「悪いのは全部」のフリー・ダウンロードはこちら (期間 : 12/10〜12/17)
INTERVIEW

—今回4年ぶりにレコーディングをすることになったきっかけは?
金子厚武(以下 : 金子) : 2006年から2008年の頭まで活動を休止していて、去年の4月から今のドラマーでようやく落ち着いて、体制が整ったので音源を作ろうとなった感じかな。前作から3年半音源を作っていなかったから、今ある曲を残そうという気持ちがとても強かったですね。
相澤喜信(以下 : 相澤) : 4曲目の「美味しい日々」だけは、レコーディングをしながらギリギリに完成した楽曲なんですよ。
—レコーディングはどのように進めたのでしょうか?
金子 : 今までは、スタジオにMTRを持ち込んで録音していたんだけれども、今回は初めてレコーディング・スタジオで録りました。
相澤 : 8月の終わりから始めて、9月の半ばにはミックス、そしてマスタリングが終わったので、期間にして1ヶ月位ですね。
—速いですね。はスロー・スターターなイメージがあるんですが(笑)。
佐々木能子(以下 : 佐々木) : その通り。本当は今年の頭くらいには始める予定だったんです。
金子 : さっき言っていた4曲目の「美味しい日々」を入れる入れないでもめました。能子としてはライヴで演奏してから録音したいという気持ちがあったみたいだけれど、俺は出来る限り新鮮な状態で録ってしまおうと。
—アルバム・タイトルの『組曲「明日」』というのは、どういう意味が込められているのでしょうか?
佐々木 : 曲を作ってみたら、どの曲にも「明日」という言葉が入っていたんです。なので、この4曲でひとつのコンセプチュアルな作品、つまりは「組曲」にしたいという考えはレコーディング前からありました。とは言っても、曲によって「明日」の意味が変わってはいるんですけど・・・ 例えば2曲目の「明日を忘れた女」は学生時代に作った曲で、「明日を忘れるくらい飲んで酔いたい」という思いが基盤になっています。1曲目はもう歌詞の通りですね。ありふれたOLのありふれた嘆きソングです(笑)。

—活動休止を決めた時、バンドを解散しようという気持ちは全然なかった?
佐々木 : 全くなかった。いい意味で一度リセットしたいという気持ちはあったんですけど、戻ってきた時にはしっかり活動をしようと思っていました。それにメンバーを一から探す気力がなかったというのもあるし、気心の知れた仲間と音楽をやっていたいという気持ちが強かったです。私の中でバンドはストレス発散になっているから、本当にやめられないんですよね(笑)。
—僕は大学時代に何度かライヴを見ているのですが、その頃から、既に歌が前面に出ていましたね。
佐々木 : 結成は2000年で楽曲も今とは全然違うものだったけれど、歌を重視したい気持ちは最初からありました。当時は変拍子の曲はあまりなくて、もっとストレート。所属していた大学のサークルの先輩が面白い曲を作っていて、自分でも挑戦したいと思って、変拍子を取り入れ始めたら楽しくてここまで続いた感じかな。
—の特徴は歌と変拍子が見事に融合している所だと思うのですが、自分たちでも意識していますか?
金子 : 僕は学生時代にヨシュアと平行して他のバンドをしていて、そのバンドも変拍子を取り入れていた。それでも当時から能子の作る曲は色々なバンドの中でも特に変な曲でしたね(笑)。
—の強みはその強烈な個性、オリジナリティだと思うんですよね。
金子 : それが故にどこにも属せないという悩みもあるんですけど。
佐々木 : 自分たちの事を「コウモリ・バンド」と呼んでいるんです。鳥のようでホ乳類で、どっちつかずという。ギリシャ神話にはコウモリはどっちにもいい顔して、結局どっちにも嫌われるという話があるんです(笑)。でも変拍子の曲だけど歌メロがあって、変拍子に聞こえない楽曲を作りたいんです。初めて聞いた人がすんなりと聞けて、よく聞くと変拍子だと解るような曲。
—楽曲はどのように作るのですか?
相澤 : 曲を作るのは基本的に能子なんですけど、最初から全体像が出来上がっている訳ではなく、部分的に持ってきたコード進行をホワイト・ボードに書いて、何度もみんなに弾かせるんです。構成が全部できあがってほぼ完成の状態になってもまだ、能子の中で納得がいかず振り出しに戻ることもありますからね。

—ヨシュアカムバックといえばお酒を飲んでライヴをやるイメージが強いのだけれど、それは結成当初からですか?
佐々木 : そうですね。すいません。今となってはコントロールできるようになったけれど、一時期は本当にひどかったですね。始まる前からお酒を飲んで、ライヴ前にワインのボトルを割ってライヴ・ハウスに謝ってからライヴをするということもありました。一時期それが問題になって・・・。実は私以外のメンバーはほとんどお酒が飲めないのに、お酒のイメージが強くなってしまって。なんで一人のイメージで酒のバンドみたいに言われるんだって(笑)。
—今でもワンカップ大関をステージ上で飲んでいますよね?
佐々木 : 今ではストレス発散とちょっとした義務感です(笑)。
金子 : ある程度節度をたもってお酒を飲めるようになったので、いいかなと思います。
相澤 : ワンカップを2本飲んで自分をコントロールできるのはすごいと思いますね。
—ヨシュアカムバックは色々なバンドにリスペクトされているし、つながりも多いですよね。
金子 : それこそ酒の利点なんじゃないかな(笑)。能子が飲み会が好きで色々と顔を出すうちに、つながりが出来たのは大きいと思います(笑)。でも客観的に見ても、能子はボーカリストとして実力があると思うし面白い曲を作るから、僕らは他にない音楽をやっているんだろうなとは思いますね。
—学生時代から付き合いのあるバンドは?
佐々木 : tacobondsとか真空メロウ、URCHIN FARM、the HANGOVERS。その中でもtacobondsと真空メロウの影響は非常に大きかっ たです。
金子 : 僕が学生の時にやっていたバンドとthe HANGOVERSはリズム隊が同じだったんだよね。サークルの中でバンドを掛け持って、お互いが影響を与え合っていた感じ。
—バンドを結成して来年で10年目になる訳だけれども、ここまで続いた理由と変化してきた部分を教えてください。
金子 : やっぱり周りのバンドや仲間がずっと応援してくれている事が大きいと思いますね。
相澤 : : 長いこと続けてきて、能子のステージ上での振る舞いは堂に入ってきた感じがするし、ライヴの内容、曲の完成度に関しては、ようやくやろうとしている事に実力が伴ってきた感じ。最近はお客さんの反応に手応えを感じられるライヴも多くなりましたね。
金子 : 昔はライヴの後に反省する事も多かったんだけれども、最近はそういう事が少なくなってきたかな。
PROFILE

2000年、音楽サークルの先輩・後輩で結成。“オルタナ〜プログレに恋をしたユーミン”とも言うべき風変わりな音楽性が一部の好事家から支持を受ける。05年、PANICSMILE吉田肇氏が主宰するheadache soundsのコンピ『headache sounds SAMPLER CD Vol.4』に参加。メンバー・チェンジ、活動休止を経て、3年ぶりの新音源『組曲「明日」』を発表。
LIVE SCHEDULE
- 12/13(日) ANOTHER FANCY@新宿URGA
- 2009/12/27(日) sl-cisco presents“SALON DE OOMPA LOOMPA vol.5 〜ウンパルンパサロン vol.5〜@天王町OrangeCountyBrothers
- 2009/12/31(木) GOOD VIBRATION COUNT DOWN 2009-2010 FINAL@秋葉原GOODMAN
FOOD : ふくろ新間カレー/エジプト食堂
組曲「明日」レコ発イベント
- 2010/3/21(日)@秋葉原GOODMAN
秋葉原CLUB GOODMAN周辺のバンド
冗談の王様 / ビイドロ
叙情的なメロディーと、絡み合うギター・サウンドはまさに本格派ギター・ロック・バンドの証。今が旬!!のUSインディ直系サウンドでありながらも、ビイドロ独特の和のテイストが所々に散りばめられたオリジナリティ溢れる大傑作。究極のニュー・アルバムがここに堂々完成!!
すばらしい日々 / いなかやろう
おとぎ話、前野健太らと交流も深い新たな「うたもの」バンドの旗手として、また、TOMOVSKY、知久寿焼(たま)、ワタナベイビー(ホフディラン)らから強く愛された「21世紀のユニコーン! 」あるいは「日本海のサザンオールスターズ」と噂が噂を呼ぶ『いなかやろう』、待望の2NDアルバム。 PANIC SMILE吉田肇のプロデュースで“21世紀のみんなの歌”を目指すハヤシライス・レコードからの発売。 07年60’S良質ポップス培養エキスに、ペイヴメント、ベル&セバスチャンなどの影響も感じさせる今じゃ珍しくなってしまったポップスとロックを併せ持った彼らのサウンドに今こそ注目されたい。
・ session#15 いなかやろう×有明け
・ session#14 fragment×いなかやろう
西の空、コキエ星降る/ 「ricca」
ユーミン、矢野顕子などのポップ・ソング職人に影響を受けた優しいメロディと、ポップ・バンドとは思えない展開を見せるアレンジ。どの曲も遊び心が満載で、それでいてポップ・ミュージックとして成立する表現力豊かな“歌の力”がある。5曲目の「ハノン 〜Nocturne for Gimme & Polo〜」の歌詞は情感に溢れていて、ありきたりな電車の中の風景が、物語みたいにすごく綺麗に見える程。
はいからさんのアロマ/ はいからさん
2006年春頃、都内を中心にライブ活動を始め、現在も月に1〜3本程度のペースのライブと曲作りを中心に活動中。古き良き60年代のロックンロールのスタイルをとりながら、めくるめくグルーヴと飄々とした詩世界で魅了するはいからさんのニュー・アルバム。