猫撫ディストーション 総評
いつだって、世界が変わるのは星の降る夜だった。
あの時から、全てが曖昧な猫のように、確かな物なんて何もなくなってしまったけど。
また、生まれたんだ……。
新しい「世界」が。
シナリオ
他所のレビューが、よくわかんなかったけど面白かった(小並感)な感想か、量子論の解説からシナリオライターの持つ哲学にまで話を広げた大論文か、の二極化しているのが、このシナリオの特徴。
(ときどき琴子ルートのレビューが放棄されていたりする……!)
私はなるべく平面的に、シナリオ上から読み解けることのみでレビューしてみようと試みたのだけれど、それでもかなり厳しかった。
SFチックな量子論を深く知りたい!というわけじゃないなら、あまり掘り下げないようにするのが、このゲームの楽しみ方なのかもしれない。
シナリオライターも、細かい設定やギミックまで全員に理解してほしいとは思っていなさそうだし。
例えば電卓ハカセの実験についてとか、詳しく描写しようとするとあまりに専門的になりすぎ&文章量が多くなりすぎてしまいそう。
(とは言え、あまりに言葉足らずだった感もなくもない……)(科学的根拠の穴を隠すため……なのかもしれない)
それでも「意味わかんなくてつまんなかった」ではなく「意味わかんなかったけど面白かった」な感想の方が多く見られるのは、理論がわからなくても、結論がわかりやすいストーリーのおかげ。
原理がわからなくても電子レンジは使えるし、理屈がわからなくても永遠は手に入れられるのだ。
楽しくあらねばならないはずの日常シーンが普通に楽しいのも好印象。
「琴子のいない世界」の虚しさがきちんと伝わってきて、だから「琴子のいる世界」の瑞々しさも伝わってくる。
これは、ただダラダラと日常を垂れ流すのではなく、「猫さんの教育」「金欠問題」「騒ぎ立てる柚」などといった骨格を作り、そこに肉付けをしたものを「日常シーン」としているからだろう。
おかげで、柚には申し訳ないけれど、私もこの家族がずっと続いてほしいと思ってしまったからね!
残念なのは、ヒロインとのイチャイチャとか、ラブラブなエッチシーンなどといった、一般的なギャルゲーに求められている部分が弱いところ。
ヒロインの大半が家族なのに、背徳感はゼロ。
(まぁお母さんとの禁断の愛を壮大に描かれても、私は困っちゃったでしょうけど……)
(とは言え、それを描ききるのも、ギャルゲーとしての一つの正しいカタチなハズ)
オススメ攻略順:(結衣 or 式子) → (柚 or ギズモ) → 琴子
世界観がフシギすぎたせいで、思わず常識人な柚から攻略してしまったけれど、柚ルートは後回しにしたほうが、柚の想いがさらにグッときて良かったかなぁと反省。
ギズモルートは、量子力学的SFに自信ニキは先に攻略してしまっても良いけれど、一般人のあなたは他のヒロインルートで世界観に慣れておいたほうが、ビックリせずに済むと思われます。
結衣ルートと式子ルートは2つで1セットなので、どちらが先でもOK。
琴子ルートは最後に固定されています。
シナリオ別評価: 結衣 ≧ ギズモ > 琴子 = 柚 > 式子
やはり結衣ルートの完成度が頭一つ抜けている感じがある。
「物理的に証明可能な永遠を手に入れるヒロイン」は、私のギャルゲー史に残る稀有な存在でした。
面白いというよりも、とても興味深いといった感じ。
一方の式子ルートも、シナリオとしては特異ではあるのだけれど、もう一つのテーマになっている愛とか悲しみとかそういった感情的な部分がいまいちついていけなかったので、この評価。
あと、お母さんを攻略するのは、私には早すぎた説。
ギズモルートは、(ネコミミアイドルとのエピローグが私の考察通りなのだとしたら)このゲーム唯一の正統派ギャルゲーシナリオということになる。
それが、普通のラブラブ恋人エンドなんか目じゃない、世界を変えてしまうほどのギズモの熱い告白がエンディングになっているということで、この評価。
(5本もストーリーがあって、ギャルゲーなのが1本だけっていうのもどうかと思わないでもないけれど……!)
琴子ルートは、妹属性持ちの私に言わせれば、妹ルートとしては物足りない。
というか、琴子を攻略するんじゃなくて、琴子(と電卓)に攻略されるルートでした。
しかし、この作品のトリを飾るシナリオとしての完成度は申し分なし。
欠点は、非常に難解なところ。(私のシナリオ考察もやたらと長くなってしまったし!)
柚は、どこに出しても恥ずかしくないハイスペック・幼馴染なのだけれど、柚ルート以外での扱いのせいで好感度が稼ぎにくそうなあたり、とても残念な子。
そんな彼女のシナリオは、いつも不憫な扱いを受ける彼女が幸せになれるお話ということで、なんだか優しい気持ちになれる。
個人的には、「言いづらいこともハッキリ言ってくれる幼馴染」は、(ぼくてんの奈木崎奈留子と並んで)柚が一つの完成形だと思っています!
テキスト
文章そのものは読みやすく、誤字脱字もほとんどナシ。
一つの意味を複数の言葉に割り当てることで、テキストが冗長になることを回避しようとしていると思うのだけれど、この手法は好き嫌いがありそう。
ちょっと煙に巻かれている感じがあるし。
全体のボリュームとしては、かなり少なめ。
プレイするだけなら、全20時間程度でいけるのでは。
(その後、???となって考え込む時間が山ほど必要です!)
(よかったら私の考察を参考にしてくださいね!)
キャラクター・グラフィック
キャラデザにはややクセがあるものの、クオリティは上々。
(令和なイマから見れば、古臭さを感じないでもないが)
ただ、一枚絵にときどき違和感があることも。
クセと言ってしまえばそれまでかもしれないけど、今どきな萌え絵に慣れていると、少し戸惑うかもしれない。
私のお気に入りは、琴子。
みやま零の描く女の子は、もう一度「彼女たちの流儀」をやりたくなるほど魅力的。
知的で冷静、それでいて自然にデレてくれる琴子は、妹ランキングの上位入賞間違いなし!
しかし(当時は)フルプライスの作品だったにしては、一枚絵の数が少ない。
ヒロイン5人だったら100枚が目安だと思うのだけれど、この作品は全71枚と、かなりコンパクト。
そのしわ寄せはHシーンに来ていて、各ヒロイン3~4枚しか割り当てられていない。ご褒美少なすぎ問題……。
BGM・ムービー
ピアノをメインに、インストで統一されたBGMは、良曲揃い。
さすが、ギャルゲー批評空間で付けられたタグの数が「考察ゲー」の次に「BGMのいいゲーム」が多いだけのことはある。
そして、OPムービーこそがこのゲームの最も優れたポイント。
私はこのOPムービーとOP曲が好きすぎてプレイしたと言っても過言ではない。
基本は立ち絵と一枚絵を素材にしたスライドショー形式のムービーなのだけれど、そこに作中のセリフを散りばめて興味を煽ってくる演出が、この作品にはドハマリしている。
(少なくとも、これはシナリオゲーだぞ!というメーカーの意気込みが伝わってくるでしょう?)
加えて、KOTOKOの歌うパンクな歌詞とアップテンポなロックナンバーは、かなり私好み。
この曲がニコニコの「テンションの上がるエロゲソングメドレー」に収録されていないのが、平成最大の謎である。
システム
ホワイトソフトは、パープルソフトウェアの姉妹ブランド(だった)らしい。
大手メーカーの傘下ということで、システムは必要十分なものが用意されている。
たしかに、吹き出し状にセリフを表示するカタチは、昔からパープルがよくやっている手法な気がします。
総評:★4・佳作入選
ジャンル:揺らがないADV。
この年代では「素晴らしき日々」と双璧を成す、哲学系ギャルゲー。
今となっては使い古された感のある「シュレディンガーの猫」から始まる量子力学をマジメに突き詰めて、「家族」というものの可能性を探ろうとするお話になる。
(「揺るがない」ではなく「揺らがない」なのも、物語が量子的「揺らぎ」をテーマにしているからである)
とは言え、「人を選ぶゲームとは聞いていたが、まさか私が選ばれないとは思っていなかった」というコメントを見つけて、思わず「いいね」してしまいたくなるほど、人を選ぶゲームでもある。
かなり尖った作品であり、発売から10年が経とうとしている今プレイしても、斬新に感じるポイントがいくつもある。
特に、式子ルートと結衣ルートで結実する「永遠」のカタチは、他では類を見ないもの。
式子ルートの本質は未だに私には理解しきれていない部分があるけれど、結衣ルートでの「永遠」の作り方は惚れ惚れするほどの完成度。
また、ヒロインとエッチすることが運命づけられているエロゲーで、「身体なんて存在しない、あるのは心だけ」と結論してしまうシナリオライターの哲学には、さすがに戸惑いを隠せない……!
私の評価は、この作品のトガり具合を評価して、ちょっとオマケの★4・佳作認定。
シナリオの難解さを指して「シナリオライターのオナニー作品」と評すレビューもあるようだけれど、別にいいじゃない、オナニーだって!
世間に迎合せずに意思を貫き通すことのできる強さは、それだけで信仰の対象になりうるのだ。
この作品単体では良作レベルだけれど、こういうブッ飛んだゲームがもっと世に出てきてほしい!という応援の気持ちも込めて、批評空間ベースでは80点をつけます。
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