旅立ちの朝
誰だって初めの一歩は怖い
だけど、踏み出せば案外何て事無い
何だ、こんなもんなんだ。
そう、そんなもんなんだよ
旅立ちの朝
旅立ちの朝ってのは不思議な感情だ。これが遠足や旅行の出発直前なら何も問題は無い。心を躍らせてドアを開けるだけだ。しかし今日はどうもそんな気分になれない。不安、期待、心配、恐怖、失望、欲望、羨望、様々な感情が入り混じって、玄関へと向かう足を躊躇させる。自分はきちんとやっていけるのか?変なヘマをしたりしないだろうか?期待というよりも不安の方が大きくなってくる。行くの止めようかな…そんな弱音が心の奥底で発生しようとしていた。
「大丈夫よ」
後ろを振り向くと君が優しい顔で微笑んでいた。ゆっくりとした口ぶりで励ましてくれる。
「誰だって、初めの一歩は怖いもの。でもね、忘れないでよ。あなたがこうして一歩を踏み出してくれたからさ、あたし達一緒にいられるんでしょ?」
思い出が脳裏に浮かぶ。それは君に向かって一歩踏み出した記憶であり、君もその一歩を受けとめてくれたシーンだった。
忘れ物よ、そう言ってハンカチを手渡してくれる。キチッとアイロン掛けされて、奇麗に折りたたまれたハンカチは、君からのメッセージにも見えた。声援が心に届く、頑張れ、頑張れ。まいったな、こんなに奇麗なハンカチ使えないよ。お守り代わりに取っとこう。その言葉は口にせずそっとポケットに入れる。
「後、もう一つ」
君はそう言って立ち上がった。そして、自分が一歩踏み出すのと同じように、君もこちらに向かって一歩を踏み出した。その後とある行為――それは昔からありふれた行為であり、玄関先での定番となっている行為をしてくれた。
行ってらっしゃいのキス。
ありがと、そう返事をしてドアを開ける。不安は無い。マイナスの感情が無いと言えば嘘になるが、それ以上にプラスの気持が大きかった。そしてドアを閉める。もちろんあの言葉は忘れない。
行ってきます。