【5km以内に豚禁止?】1000兆円の巨大市場へ挑戦!日本企業がイスラムビジネスで成功するには

 近年、急速に注目を集めているイスラム圏のハラルビジネス。ハラルは、「合法的なもの」「許されたもの」という意味を持つアラビア語で、主にシャリア法に基づいて摂取することが許された食品、化粧品、医薬品などをいう。同法でナジス(不浄)とされる食材や原料は含まれてはならない。

 イスラム教徒は2030年には20億人を超え、ハラル市場は1000兆円に達すると言われている。その一方でハラルには世界基準がないことに加え、認証機関がそれぞれ厳しいルールを設けており、日本企業がハラル認証を受けるには、さまざまな障壁があるという。

 2020年のオリンピック招聘に向け、ヤクルトやキューピーなど、多くの日本企業が進出を狙うハラル市場。マレーシア、インドネシア、中東などのイスラム市場へ進出する日本企業をサポートしているハラルに特化したコンサルティング会社、MHC社にその実情を聞いた。

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MHC社代表取締役 アクマル・アブ・ハッサン氏

(プロフィール)マレーシアマラヤ大学を卒業後、国立群馬大学工学部に国費留学生として来日。1995年、東京三菱銀行(現・東京三菱UFJ銀行)に新卒入社後、1998年、同社を退職してマレーシア国際貿易産業省へ入省。2005年、マレーシア貿易開発公社大阪事務所所長補佐として再来日。日本とイスラムの架け橋になりたいとの思いにより、2010年MHC社を設立。アウトバウンドでは、日本の優れた製品をイスラム圏へ輸出、イスラム圏進出のサポート。インバウンドでは、イスラム観光客誘致のためのハラル環境整備を行う。

■豚、アルコールは禁止、製造・輸送・保管方法にもルール有

――ハラルのルールや禁止事項について、教えてください。

 イスラム教では、豚、アルコールなどが禁止されています。食品、化粧品、医薬品において、これらの禁止されているものを含まず、イスラム教徒が摂取しても安心・安全とされるものがハラルです。また、牛・羊・鶏などは禁止されていませんが、イスラム法に基づいて屠畜(とちく)したもののみがハラルとなり、それ以外のものはノンハラル、イスラム教の教えで「許されないもの」です。

 その制約は多く、たとえばアルコールが成分として入っている菓子や調味料、豚由来の成分を使用している薬用カプセル、ゼラチンなどが使われた製品はすべてノンハラル。毎日食べるパンであっても、成分表に大豆由来ではない乳化剤や獣脂を使用したショートニングと書いてあれば、食べられません。また、牛肉も、シャリア法に基づき、ハラルの認定を受けた屠畜場において敬謙なるイスラム教徒が屠畜した肉でなければ、ハラルとは認められません。屠畜場・食肉加工場工場の半径5キロメートル以内に豚がいては、ハラル屠畜場とは認められません。

 また、一度、イスラム法に基づいて製品化されたものでも、ハラルでないものと触れた瞬間から、たちまちノンハラルになってしまうので、製造から輸送、保管方法にも規制があります。これらのさまざまなルールをクリアしたもののみが「ハラル」と呼べるのです。

■マレーシアは国がハラル認証を行う唯一の国

――御社ではJAKIMの認証取得のサポートをしていらっしゃいますが、そもそもハラル認証とはどういったものなのでしょう。

 イスラム諸国では第三者機関が「ハラル」であることを認証する制度が導入されており、イスラム法に基づいて製品化するまでの工程を厳正に審査。合格品に対して「ハラルマーク」を発行します。多くの国は、認証団体を複数持っており、それぞれの国で認証されたハラルマークはその国でしか通用しない認証も数多くあります。

 一方、マレーシア連邦政府首相府イスラム開発局(JAKIM)は、世界で唯一政府が認証を行い、ハラルマークを発行している機関です。ASEAN諸国内でも安定的な経済成長を遂げるマレーシアでは、人口の6割がマレー人であり、イスラム教を信仰しています。マレーシアの規格は世界で2番目に厳しいと言われ(1番厳しいのはサウジアラビア)、世界中のイスラム教徒からそのハラル性が信頼されており、国際的に高く評価されています。

 ハラル認証機関はハラルマークの相互認証を行っているため、認証を取得した国以外でも有効です。現在、JAKIMが認証したり、相互認証しているハラル製品は世界57ヵ国で受け入れられており、マレーシアの国益を支える大きな貿易ビジネスとして発展しています。例えば、インドネシアのハラルマークはインドネシアだけでなく、マレーシアやタイなど相互認証されている国でも認められ、輸出も可能。イスラム市場への進出には、どのハラル認証を取得するのかが大きな鍵となります。

f:id:w_yuko:20141028133249j:plain▲MHC社が発行するハラルマーク。アラビア語で中央に“ハラル”と書かれている

■ヤクルト、美白化粧品、カプリチョーザ…大人気の日本発ハラル

――日本でハラルが注目されるようになったのは、ここ2、3年の印象がありますが、そのきっかけは何だったのでしょう。

 日本政府が打ち出したクール・ジャパン戦略の影響が大きいです。クール・ジャパン戦略は、日本の特色ある商品・サービスを発掘・創造し、日本の経済成長につなげることを目的としており、日本食が改めて見直されるきっかけとなりました。みりんや日本酒などは使用できませんが、魚介類はすべて食べられ、相性がよいのです。

 また、イスラム圏の人々を観光誘致する取組みも活発化しています。タイ・マレーシア・インドネシア国民に対してビザの大幅な緩和が行われ、東南アジアの人々もLCCを利用して、気軽に日本へ来ることが可能になりました。

 弊社は2010年に設立したのですが、その当時はハラルを知らない方がほとんどでした。しかし、クールジャパン戦略でイスラム観光客が増加した辺りから、問い合わせは増え続け、東京オリンピックの誘致が決まった昨年の認証の伸び率は対前年比5倍となっています。

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――マレーシアで人気のある日本製品にはどのようなものがありますか。

 世界31カ国で親しまれているヤクルトを始め、キューピーマヨネーズ、お菓子のポッキーなどです。ハラル認証を受けた和牛にも注目が集まっています。また、レストランでいえば、カプリチョーザが人気です。ライスコロッケやパスタなどがメニューに載っていますが、アルコール類や豚を使用するメニューはすべて省かれています。

 食品以外では、美白化粧品がブームとなっています。今後、需要が望まれるものとしては、ベビー用の粉ミルク、離乳食、低糖、低脂肪、グルテンフリーの健康食品、シャンプーや歯磨き粉などのアメニティグッズです。

――JAKIMによる通常の認証と、相互認証は何が違うのでしょうか?

 JAKIMの認証を得るには、マレーシアに工場がなければなりません。日本の企業が正式なJAKIMのハラル認証を得る場合は、マレーシアに工場を設立するか、またはマレーシアの工場で製造するOEM生産(委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカーのこと)を行わなければなりません。その場合、メイド・バイ・ジャパンであっても、メイド・イン・ジャパンではなくなります。また、会社のメンバーにイスラム教徒が含まれていることが必須条件です。

 一方で、JAKIMの相互認証を得る場合は、JAKIMが認めた海外の機関がハラル認証を行うため、成分検査や製造工程などすべての生産ラインにおいてJAKIMと同じ基準による厳正な審査を通したうえで、工場にハラル認証が付与されます。そして、その工場で製造された製品こそが、メイド・イン・ジャパン・ハラル製品となります。

■違う宗教観を受け入れ、理解することがハラルビジネス成功への道

――ハラルビジネスを成功させるために、留意しなければならない点は?

 まず心がけておきたいのは、ハラル認証はパスポートに過ぎず、売れるか、売れないかの問題は別であるということ。また、自分たちとは異なる宗教観や文化を受け入れ、理解する気持ちは大事です。例えば、イスラム圏では、女性は長袖の服を着て、婚姻者以外には肌も髪も見せてはならないというルールがありますが、その根幹にはイスラムの概念があり、シュブハ(ハラールとハラムの中間に疑わしいもの)はできるだけ避けるものと定義づけられているからです。アルコールについても同様で、自分を見失う可能性のあるものは少量であっても疑わしいとされ、摂取してはなりません。

 一言にハラルといっても、国によって認証機関も違えば、そのルールも違い、ある国で通用するハラルマークが、別の国では通用しないということは多々あります。そのため、事前のリサーチやマーケティングを十分に行っておく必要があるでしょう。

取材・文:山葵夕子

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