タイのメコン川で調査をしている科学者が「巨大な」発見をした。淡水魚の世界記録レベルの巨大淡水エイが捕獲されたのだ。場所はバンコクから1時間ほどにあるアンパワーという地区の水深20メートル地点である。
計量を手伝ったチュラロンコーン大学の教授で獣医師のナンタリカ・チャンスー氏によれば、そのエイ(学名:Himantura polylepis または H. chaophraya)は、幅2.4メートル、体長4.3メートル、体重は318キロから363キロと推定された。体重が推定値なのは「あまりに大きく、そして、扱いにくかったため、傷つけずに計量できなかった」せいだとナショナル ジオグラフィックのフェローでネバダ大学教授のゼブ・ホーガン氏はいう。「どこをどう見ても巨大でした。ほかの巨大淡水エイと比べても、間違いなくトップランクです」
実は、ホーガン氏は以前にもこのエイと出会っていた。2009年、ナンタリカ氏との共同プロジェクトでいちど捕まえ、タグ(標識)を打って放流していたのだ。
ナンタリカ氏が超音波検査を行ったところ、彼女は2匹の胎児を身ごもっていた(エイの多くは卵胎生)。2009年にも彼女はやはり妊娠していた。「つまり、ここは生育場のようです」とホーガン氏。
2009年のとき、彼女は幅2メートル、長さは4メートル58センチだった。「何かのアクシデントで尾が短くなったのかもしれません」とナンタリカ氏。オスにつけられたような噛み跡もあった。
2度の捕獲により、科学者は巨大エイの成長速度のデータを手に入れたことになる。ほかのほとんどの魚と同じように、十分なエサがあればエイは生きている限り成長を続ける。寿命がどのぐらいかはわからないものの、その大きさからこのエイは35から40歳だろうと見られている。
世界記録の可能性
世界最大の淡水魚を調べる自身のプロジェクトで、ホーガン氏は淡水魚の世界記録をずっと追いかけている。本種の記録はこれまで314キロとされていた。非公式には500から600キロという話もある。
ギネスブックではメコンオオナマズが最大と認定されている。メコンオオナマズもタイに生息し、およそ300キロにもなる「世界最大の淡水魚」とこれまで言われてきた。ギネス世界記録北米オフィスのアンソニー・ヨディス氏は、今回のエイが新記録になるかどうかについては、正式に申請されない限りコメントしないという。
ホーガン氏とナンタリカ氏が成長と移動を追えるように、エイにはタグとマイクロチップがつけられ、リリースされた。その間、魚体を傷めず、また、ストレスも極力減らすために、特別なネットが用いられた。おかげでエイはおおむね大人しかったようだ。
巨大淡水エイにはエイのなかでも35センチを超える最大のトゲを持ち、猛毒がある。敵から身を守るためにトゲを使い、しばしば致命傷を与えるが、人を傷つけることは極めて稀だ。
絶滅の恐れも
ホーガン氏とナンタリカ氏の尽力もあり、巨大淡水エイは国際自然保護連合(IUCN)で絶滅危惧種に指定されている。「保護する法律がないので、彼らは急速に減っています」とナンタリカ氏はいう。
メコンオオナマズを含む同じ地区の巨大魚がおかれた状況はもっと悪い。あっさり漁獲されてしまうからだ。一方、淡水エイはとても巨大で強く、専用ではない漁具はたやすく壊してしまう。そして、食材としてあまり人気がないので、漁業からのプレッシャーは高くはない。
しかしながら、汚染、油の流出、生息地を分断するダムなどがエイを脅かしている。
ホーガン氏いわく、「この生きものがキャッチ・アンド・リリースしても生き延びることが証明されましたし、何より妊娠していたのはグッドニュースです」