第1回 代替現実でいともたやすく現実は崩壊する

ここが魔法の部屋の入口だ。(写真クリックで拡大)

 奇妙な体験をした。

 白日夢と現実の境目を、行ったり来たりするかのような。

 その体験には演出者がいて、工学という魔法の杖で、ぼくに術をかけた。

 演出者である魔術師は、埼玉県和光市にある理化学研究所脳科学総合研究センターの適応知性研究チーム・藤井直敬チームリーダー。

 先端の脳科学研究室が並ぶ建物の中で、撮影スタジオ風の小部屋にぼくを導き、いわゆるHMD(ヘッドマウントディプレイ)とヘッドフォンからなる装置を差し出した。それを装着した後、ぼくの目に見えるものはディスプレイから、耳に聞こえてくるものはヘッドフォンから、それぞれ与えられることとなった。

見るものと聞くものはすべてヘッドマウントディスプレイから与えられる。首からコンパクトカメラをぶら下げている右の人物が「現実の魔術師」の藤井直敬さん。(写真クリックで拡大)