かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「アメリカでは図書館員は専門職に準ずる地位を得ている」とも言うけどさ。


関連リンク:


卒研を進めているうちにちょっと思ったこと。
今まで図書館員の専門性とかに関わる話について、日本と比較する形でアメリカの図書館員の専門性の話とか出したことがあったけど。
日本とアメリカの比較、っつーことなら雇用慣行の根本的な違いとか、人材育成の考え方についても理解して話を進めないと、単にアメリカのいいところだけあげて「アメリカすげぇーっ!」ってのもちょっち不平等かな、とか思った。


ので、今回は日本と比べた場合のアメリカの図書館員雇用の差異、あるいは厳しさについて。
もちろんmin2-flyは実際にアメリカの図書館行ったことも勤務したこともないのでまた聞き程度の話であり、実態とはかけ離れたところもあるかも知れないんだけど、まあ一般論として、っつーことで。


まず第一。
合衆国の図書館員、基本的に昇進しません。
テニュアトラック*1なんかがある場合を除くと、あるポジションに就いた人は自分から動かなければ基本的にそのポジション。
給料もポジションに基づいて計算されるものであるので、ベースアップ以外基本的に昇給なし。
よって、より上の職に就いたりより高い給料を得たければ、上のリンク先であげた江上さんのエントリで紹介されているように、学内外問わず出されているより上級の職の公募に応ずるっきゃない、ってことになる。
こつこつ真面目に働いていれば誰かに認めて貰えて昇進するだとか、長年勤めていればそこそこ昇給する、って世界じゃないのですよ。
自分から動けない奴は一生、初任給時とさして変わらない待遇のまま、ってこと。


第二。
合衆国の図書館、基本的に「組織の中で人を育てよう」なんてことは考えません。
これも江上さんのところで再三言われているように、あるポジションに求められる専門性はそのポジションに就いた時からすでに身についているもの、とされる*2。
それは技術的な意味での専門性に限らず、マネジメント能力なども込みでいわゆる「人材育成」を組織内で行うものである、という考え方が合衆国にはあまりない。
日本みたいに色々な部署を異動させていくうちに組織のことを学んで・・・なんてこともさせない。
基本、あるポジションに着いたらそのポジションに求められる業務をこなすことだけを要求される。
「後々、その組織を率いる人材になるための経験を積ませる」なんてことはしてくれない。
「その組織を率いる」ポジションは別にあって、それにふさわしい人は公募でどっか(もちろん学内のこともある)からとってくるから。
じゃあ人材育成はどうやってするかと言えば、基本は各個人が自分で外部プログラムやら大学院やらに参加して新たな能力を身につけてくることになる*3。
組織は人を育ててはくれず、自分で育つことのできない人は、これもやっぱりいつまでも放っておかれることになる。


で、特に第二の点については図書館固有の慣行ってわけではなく、アメリカの一般的な雇用慣行の枠組みがだいたいこんな感じらしい*4。
第一の点についてもここまで徹底してるかは知らないが、まあ余所から人を持ってきたり余所へ行ったりすることがキャリアアップの手段である、って点では図書館外でも一緒だろう。
対して、日本で似たような雇用慣行を敷いているところっていうと・・・しいて言えば大学教員とかかな・・・?


なんにせよ、確かにアメリカの図書館は進んでいるし、図書館員の専門性についても日本から見れば目を見張る部分があると思うんだけど。
安易に取り入れるには根本的な雇用慣行があまりに違いすぎる、とも思うんだよね。
真似しようって言って真似できるもんじゃねーぞこれは、って感じ。
ある日いきなりこんな制度を導入しよう、って言って出来るレベルじゃないし、無理してやればそれこそ館内から暴動起こるだろう。
っていうか、そもそもこういう制度を敷こうと思うと日本全体・・・とまでは言わなくても、少なくとも一定数以上の図書館で同時にやってくれないと「公募」する先もなければ専門性を身につける外部教育の場もない、ってことで絶対うまくはいかないわけだし。
図書館員の「意識」の部分では見習うべき点が非常に多いのだが、制度自体は一部見習う点があるにしても、それらも踏まえてより日本の現状に見合ったものに変えていかないとそのままじゃ使いものにならないだろう、と。


それにいったんアメリカと日本の図書館の現状から目を離して組織の在り方として考えた場合、アメリカ型と日本型(組織内での人材育成と育成した人材の運用を前提とする)を比較した場合の優劣ってけっこう難しいものがあるんじゃないかとも思うし。
実際、企業組織について考えると、日本が景気よくてアメリカが不況のときはアメリカで「日本を見習え」って言われて、逆のときは日本で「アメリカを見習え」って言われたりするわけで、要は一長一短なんだろうなあ、と。


結局は「今、アメリカが進んでるからってただ真似すりゃいいってもんじゃねーぞ」ってだけの話なんだが。
実際に図書館員の専門性のレベルではそうとう水あけられてるわけだし、対策はいるとは思うが・・・アメリカを真似するってんじゃなくて、同じかもっと高いレベルを日本にあった方法で目指す方法がいいんだろうな、とかなんとか。


・・・つくづく個人の意識の問題は別だけどね。
アメリカの図書館みたいな厳しい世界でも生き抜けるだけの気概がある人にこそ図書館員目指してほしい、とかは思ったり思わなかったり・・・向こうさんの図書館の専門職の扱いって「研究(論文執筆)しなくていい研究者」なわけだが、日本で図書館員目指す人って向こうで言うと良くてテクニカルスタッフ、悪くて一般事務職の仕事がしたい人が多かったりするわけで・・・まあ、でもさらに考えると日本の図書館で「研究(論文執筆)しなくていい研究者」に相当する仕事なんかあるのかよ、という話でもあるんだが・・・

*1:これもなんかややこしくてちょっと調べただけじゃわかりづらい制度なんだが・・・

*2:もちろんある大学にユニークな事柄についての研修は必要だしされるけど

*3:もちろん業務内での経験による成長もあるわけだが、それは結果としての成長であって「成長させるために」業務をさせることはない

*4:参照:「組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)」