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2013.02.06

時事問題の旬について(追記あり)

 たぶん、あさってには忘れられるニュースなんだけど、構造自体は数年以上にわたって連続的に起きていた結果だ、ということも多いんですよ。

 事実関係は、もうこのエントリーでほとんど言い尽くされているのです。あとは、より深いレイヤーの部分の問題だけ。

音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話
http://magamo.opal.ne.jp/blog/?p=545

 で、お題となったニュースは「音楽市場において、ライブやコンサートの売り上げがCD、DVDなどの円盤売り上げを超えました」という話。ぶっちゃけリンクなんかいちいち貼るまでもなく、そんなの当たり前だと思ってた。CDなんて、買わないでしょ音楽好きな人だって。

 ドリルを買う人は、ドリルが欲しいのではなくて穴を開けたいのだ、という理屈に近い。厳密にはもちろん違うけど。でも流通経路が変わり、割高な装置産業よりも簡便にダウンロードできれば欲しいものが手に入る状況になれば、装置にぶら下がっていた人がコストになるのは音楽業界だろうが出版業界、新聞業界もだいたい同じ。当たり前のことなんですけどね。

 とりわけ、音楽業界にとってつらいのは、音楽を音楽だけ楽しむというのは、よりリッチ化していく映像やゲームといった競合のコンテンツ産業に比べてアドオンできる余地が乏しいことにあります。映像はどんどん綺麗になっていき、ゲームはより容量を増やしていくけれど、音楽が数倍の容量になってクオリティがアップして市場を牽引するなんてことは基本的にない。好きな音楽を聴いて時間が潰れるだけ。付加価値は共有体験だったり話題だったり、ドリルの穴の部分にあるのだから、そこにアイドルグループに対する個人的な妄想や劣情を喚起させて割高に金を払わせたり、コンサートをきちんとやって同じ音楽が好きだという人たちとの間やアーティストとの共同体験を持たせて金を取る以外、成り立つ方法がないのは当然じゃないですか。

 そんな動きはかれこれ5年以上前からあった話で、やれ違法DLがいけないとか、音楽業界の体質が古いとか、みんな好き勝手なことを言って楽しんで、議論も尽きて、結果として音楽を実際に作るコストと価値、音楽を流通させるコストと価値とが全部において分離していった。単純に音楽を体験として楽しみたければボカロに流れても良いだろうし、本当に好きなアーティストがいるのであれば時間とカネをかけてコンサートにいって堪能しても良い。ただ、音楽を乗せて動かすだけのレコード産業に関してはビジネスのライフサイクルが終わるってことぐらいはみんな理解してたでしょう。

 そんで、順調に死にました。本来ならば数十円ぐらいしかアーティストに還元されない円盤を数千円で売ってて、それがネット時代になって成り立たなくなって、その間で暮らしていた人たちも業績が落ち込んで死にます。また、着メロだ着うただ既存の音楽パッケージの延長線上で電子配信していただけの人たちも死んでいって、最後はビジネスの根幹のところであるプロデュースと興行とアーティストというスケルトンだけが残った。

 おそらく映像業界もゲーム業界も出版業界も、同じようなことになっていくのは誰が見ても分かってる。売れるものを作れる才能を備えている人は限られている以上、市場の変化に応じて売り方が変わっていき、パッケージのありようも異なっていく。売り方が変わればモデルやプロモーションが変わり、利益率が変わって、その業界で食っていける人は上から何割かというのも変動する。その変化から漏れた人たちは激変だ不況だと騒ぐ。

 騒ぐのは自由なんだけど、クリエイティブで飯を食うという仕事の流れや根幹は変わらないんだよね。騒いでる人たちが、その市場の変化についていけなかったか、その人たちにお金を払ってくれる客がついてないので、将来が不安で騒いでいるだけの話。

 そういう食えなくて騒いでる人たちの話を聞いても、食えなくなっていく過程しか分からないんじゃないですかねえ。変化についていけなくて売り上げが下がっていってる人たちの話なんて、若者の何とか離れな感じの内容しか出てこないに決まってるじゃないですか。それに、音楽業界がアカン話なんて、ナップスターのころからあったと思うんですが。

 いまさらCD売り上げをライブやコンサートが抜いたとかって騒いでるのは、まあしょうがないんだろうけど昔読んだニュースを思い直すぐらいのことはしたほうがいいと思うんですよね。ちょっと思い出せばいろいろ出てくるだろうに。ネット時代になって健忘症の人が増えたんですかね。

(追記 17:11)

 なんか猛烈な反応を頂戴しておりまして…。極力自分なりに簡単に書いたつもりなんですけど、言いたいことはこれです。

 「音楽業界が苦しいだけであって、音楽が駄目になったわけじゃない」

 これだけ。音楽の楽しみ方や、音楽の入手の仕方が変わってきて、マスに売れる音楽というものがなくなってきただけです。

 音楽と音楽業界は、エビそのものと、エビの周辺についたてんぷらのコロモのようなもの。エビは小さいけど価値があり、そこにでっかいコロモがついててエビ天だった。エビ天をみんな疑問なく食べてたけど、エビの食べ方は人それぞれだし、エビの入手もいろんな方法あるんじゃね、となったら、エビにまとわりついてたコロモ産業やコロモ業界は大変だね。そういう話。

 元ネタはなんだ、ってメールで食いついてきた人もいたけど、自分でググれよ、と言うのもなんなんでURLだけでも。

1600億円 -音楽業界でまさかの「逆転現象」発生中
http://president.jp/articles/-/8497

 なお、別に間違ってはいないけど不思議に思う解説が宮上徳重さんの手によってつけられています。宮上さんは過去にも良い記事をたくさん書いているし、自分が同意しないからといって宮上さんを否定するつもりはありません。が、音楽業界のコンサート収入の伸びというのはライブシーン全体で市場が盛り上がっているわけではなく、特定のジャンルの特定のアーティストが占める割合が大きいです。おそらくですが、日本人全体のレジャー消費において、音楽関連支出は減少しており、CD市場を取り除いた金額のその一定割合は着メロ・着うたとカラオケで、さらにそれ以外がライブ・コンサートおよび関連グッズ等とすると二桁%の伸びなんて結論はなかなか出てこないように思います。

 ただ、これらライブ・コンサートなど興行・イベント業務も私らから見ますとコロモ業界なんですけどね。

 あと、マスの衰退とかCDコピーによる被害とか、状況の変化はあるけど、結論から言えばあんまり関係ねえんじゃないかなあ。コロモ業界が「俺たちは無能じゃない。悪いのは海賊だ」と言いたい気持ちは分かるんだけどさ。ただ、そういうコロモ業界の右往左往を見て「だからコロモ業界のトップは旧態依然としていてクソだ」と言っちゃう外野もゴミです。あるいは金髪津田野郎。まあそんな感じ。


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    やまもといちろう

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