キーパーソン・インタビュー
MetaMoJi浮川社長に7notes mini発売の狙いを聞く
7notes mini (J) for iPhoneのアイコン |
ジャストシステム創業者である浮川和宣氏、浮川初子氏が創業したMetaMoJiが、iPhone向けアプリケーション「7notes mini (J) for iPhone」を開発。2011年6月上旬から、App Storeを通じて販売されることになる。価格は700円。発売記念キャンペーンとして、約1カ月間を目処に、600円での販売を予定しているという。
iPad用の手書きプリケーションとして高い評価を得ている「7notes for iPad」をiPhone用に改良したもので、随所にiPhoneでの利用環境を想定した改良を施しているのも特徴だ。
「果たして、iPhoneの画面サイズで、ストレスがない手書き入力ができるのだろうか、といった疑問を持つ人たちも少なくないだろう。だが、その先入観を打開する操作性を実現できたと自負している。iPhoneを手書きメモとして利用できるようになるほか、手書きならではの楽しいコミュニケーションも図ることができる」と、MetaMoJiの浮川社長は語る。
MetaMoJiの浮川和宣社長 | 7notes mini (J) for iPhoneを操作しながら説明する浮川社長 |
MetaMoJiの浮川社長に、iPad用に今年2月から発売している「7notes for iPad」の開発の背景、そしてそれをもとに進化した今回のiPhone用アプリケーションである「7notes mini (J) for iPhone」に込めた狙いを聞いた。
■「これなら使える!」を目指した手書き入力システム
MetaMoJiが2011年2月からiPad用に発売してきた「7notes for iPad」は、手書き入力ができるアプリケーションとして、有料ビジネスアプリケーションの中でも常に上位にランクインしている人気ソフトウェアである。
日本語ワープロ「一太郎」を生んだ浮川夫妻が、2009年に設立した新会社をスタートして約半年を経過した頃、2人にとって大きな衝撃となったのがiPadの登場だった。そして、ここで直感的に感じたのが、手書きによる日本語入力環境の実現であった。
浮川夫妻は、ジャストシステム時代にも何度か手書き入力に挑戦してきた経緯はあったが、ハードウェアの制約もあり、快適なインターフェイスを実現するところにまでは至っていなかった。しかし、iPadの指によるユーザーインターフェイスならば手書き入力の実現に本格的に踏み出せると感じたのだ。
「手書きによるスムーズな入力を実現することで、忘れていた手書きの楽しさを感じてほしい」というのが、この製品に込めた浮川社長の思いだ。そうして生まれたのが「7notes for iPad」であった。
7notes for iPadでは、手書き入力用のマス目は用意されず、ライン上に自由に書き込めば、それを認識してすぐに変換候補が出てくる。これはMetaMoJiが開発した日本語入力システム「mazec(マゼック)」によるものだ。わからない漢字があれば、そのままひらがなで入力すればいい。カナや漢字を混ぜて手書き入力しても、そこから適切な漢字を候補に示し、テキスト化してくれるからだ。
これを同社では「交ぜ書き変換入力」とし、mazecの語源ともなっている。「PCを使いはじめてから漢字が書けなくなったという声をよく聞く。それは一太郎を世の中に送り出した私にも責任がある」と浮川社長は苦笑しながら、「その点で交ぜ書き変換入力機能は、手書き入力をストレスなく実現する上で、最も必要とされる機能のひとつだった」と語る。
手書きでもスムーズな入力環境を実現するためには、わからない漢字があればひらがなで入力しておけばいいというのが浮川社長の発想。また画数の多いものも、ひらがなに置き換えると入力時間を減らすことができる。浮川社長は「会議」という文字を「会ぎ」と書いて、変換するデモストレーションをよく行うが、まさにこうした使い方が、手書きでのスムーズな入力を支援するものとなっている。
「ATOKによる変換方法に、ファンクションキーや変換キーを使わず、スペースキーを使うようにしたのはスムーズな入力にこだわったため。これが思考を妨げない入力につながっている。mazecも同じことを目指した」というわけだ。
また、手書き入力によって、思わぬ効果も出ている。例えば、「土」とワープロソフトで入力した場合、「つち」で始まる言葉の変換候補しか出てこない。しかし、手書き入力であれば、「土地」、「土曜日」といったように「と」や「ど」で始まる言葉の候補まで出てくる。
「漢字から推測する候補を出してくれるため、類語なども候補に表示されやすい。たまに自分が考えていなかった適切な候補に出会うこともある。これまでのワープロソフトにはなかった機能のひとつ」と浮川社長は語る。
一方、7notesでは、手書き入力をそのまま保存できる「書き流し入力」機能も搭載している。手書き入力したものは「後から変換」機能を利用することで、いつでもテキスト文字に変換することができる。また手書き入力したものを、そのまま相手に送信しても、相手が7notesを利用して、テキスト変換するといった使い方もできるようにした。「記者が取材現場で書いた手書きの記事を送信すれば、編集側でテキスト変換して入稿するといった使い方もできる」(浮川社長)というわけだ。
浮川社長は、「これなら使える!といってもらえる手書き入力を目指した」と常々に説明するが、まさに使える手書き入力システムが登場したといっていい。
■利用環境にあわせて進化を遂げた7notes mini (J) for iPhone
手書き入力画面は半分ほどのスペースがある(画面はいずれも開発中のもの) |
iPhone向けの7notesの開発は、iPad用の開発当初からテーマに挙がっていた。課題は、iPadに比べて大幅に小さな画面で、いかにストレスフリーによる手書き入力を実現するかという点にあったといえよう。そこで、7notes mini (J) for iPhoneでは、iPhoneというデバイスの特徴を捉えた機能進化を遂げることで、こうした課題を解決した。
「mini」という名称は、iPad版に比べると機能を減らしたものというように感じるが、「実際には、従来のiPad版よりも機能は上。6月中には、iPad版もバージョンアップすることになる」と語る。
iPhone上での手書き入力を実現するために画面の約半分程度を入力スペースとし、ペン入力だけではなく、指で入力することにも強く配慮した。この環境の実現は、iPhoneを横位置で持っても、縦位置に持っても同様だ。
「iPadはペンで入力するという使い方が多いかもしれないが、iPhoneの利用環境を考えると、外出先でさっと取り出して指で操作するという使い方が中心。指での入力もストレスがない環境を実現した」とする。
横位置での入力は、縦位置での入力よりもスペースが広い | 縦位置では2段での入力も可能となっている |
今回の取材の際に、iPhone上で少し画数が多い漢字を指で書いてみた。「曜」という字だ。画面が小さい分、自分が書いている文字の指先すべてを見ながら書くということが難しい画数のものだが、浮川社長が「自分の指を信じて書いてみればいい」というアドバイスに従って書いてみると、その言葉通り正しく認識してくれた。mazecそのものの精度も進化しているという。
また、自分では2文字として書いたものが、画面が小さい分、文字同士がくっついてしまい、1文字として認識されてしまう場合もあるが、これも2文字に分離して変換した候補を出すようにした。「iPad版でも内部処理として2文字に分離して変換していたが、それを候補としては表示していなかった。iPhone版では、これを変換候補として表示している」という。
「よろしく」と書いた場合、「しく」を「K」と1文字に認識した場合にも、2文字での認識候補もあげる |
一方で、モバイル環境で利用することを考慮して、「割り切り」ともいえる考え方も導入している。7notes for iPadで用意されていたデジタルキャビネットには対応せず、すべてローカルで動作するものとし、さらに文書管理では、1ユニットと呼ばれる最小限単位での編集に止めた。
誤変換の際の修正候補は15個に限定した。候補は色分けされており直感的に文字の種類がわかる |
また、手書きで入力した変換文字が誤変換された場合に修正できる候補は、15個までに限定し、それ以上は表示しないという考え方も割り切りによるものだ。「15個表示されて該当したものが出てこない場合には、そこからさらに変換候補を探すよりも、もう一度入力してもらった方が正しい候補を出すには速い」というのがその理由だ。
しかも、変換候補の文字は色分けされ、「一(いち)」や「-(ハイフン)」といった区分けも直感的に区別できるようになっている。漢字はピンク、ひらがなはブルー、記号はグレーといった具合だ。こうした色分けは、随所に使われている。「画面が小さくて表示内容に制限がある分、直感的に理解できる色分けによって判断できるようにした」というわけだ。
iPhoneでの手書き入力に慣れてくると、より高速に入力したいという要求も出てくる。例えば、縦位置に持った場合には、2段の入力スペースを選択できるようにして、一度に多くの手書き文字を入力できるようにしたのもそのひとつだ。さらに、「書き流しの自動入力機能」を用意し、手書きで書いた文字を次々と入力してくれるという設定もできるようにした。これも少ない入力スペースで作業をするには適したものだ。
書き流しの自動入力機能はデフォルトではオフとなっており、オンにすると、手書き後0.6秒で入力される設定となっているが、これは0.2秒から2.0秒までの0.1秒単位での設定が可能。個人ごとの入力ペースにあわせて設定できる。
一方で、7notes for iPadでは課題とされていた起動時間についても、7notes mini (J) for iPhoneでは改善。「さっと取り出して、さっと使えるようになった」(浮川社長)という。
■手書き文字のまま、Facebookにもポストが可能
書き流しの自動入力の設定画面。7notes mini (J) for iPhoneで追加された新機能 |
手書き入力した文字も簡単な操作でFacebookなどにポストできる |
7notes mini (J) for iPhoneの最大のポイントは、モバイルでの利用環境にフォーカスした製品となっている点だ。その点が7notes for iPadとは異なる。
「書いたものを印刷したり、長い文章として構成するといった使い方ではなく、メモとして書き止めたり、短い文章を書いてそれをメールやTwitter、Facebookなどにポストするといった使い方を中心に考えている」(Metamoji事業企画部・岩田浩史ディレクター)。
さらに、テキストやPDFでのポストだけでなく、手書き文字ならではのイメージでもそのままポストすることが可能だ。もちろん、テキスト文字、手書き文字、簡単なイラストを混ぜた形でのポストも可能となる。
「手書き文字でポストされた内容をみると、テキスト文字に比べて、その想いが伝わることが多い。Facebookでの反応も、手書き文字の方がいい」と岩田ディレクターは笑う。
ポストする操作も簡単にできるようにしており、Twitter、Facebookのほか、DropboxやEvernoteへも、少ない操作数で利用できるようにしている。「思い立ったらすぐにiPhoneに手書きで入力して、それをメモとして保存したり、SNSへポストしたり、メールで送信できる。7notes mini (J) for iPhoneで、手書きの楽しさと、コミュニケーションの楽しさを広げてもらえるはず。普及台数でみれば、iPadよりも、iPhoneユーザーの数の方が多く、またユーザー層も幅広い。より多くの人に7notesを使ってもらいたい」と浮川社長は語る。
手書きの楽しさを広げ、これなら使えるという環境の実現という浮川社長の想いがさらに一歩進められた製品だといえる。
テキスト文字、手書き文字、簡単なイラストを混ぜた形でのポストも可能 | こちらの方が確かに「もやっ」としている雰囲気が伝わっきそうだ |
浮川社長が披露してくれた手書き文字の例。念のために断っておくと浮川社長宛に届いたものではない | Twitter、Facebookのほか、DropboxやEvernoteも、ワンタッチ操作で利用できる |
■まだまだ進化する7notesファミリー
今回の取材にあわせて、開発を担当する浮川初子専務から、今後の製品開発のスケジュールについても聞くことができた。
ひとつは、気が早いが7notes miniの進化だ。7notes mini (J) for iPhoneという名前からもわかるように、「J」という名称がついていれば、当然、「J」以外のバージョンの存在が気になるところである。
浮川専務は、「グローバルバージョンの開発を進めている。早いタイミングで出荷できると考えている」として、英語のほか、ドイツ語、フランス語、スペイン語などに対応した製品を投入する考えを示した。すでに、iPad版でのグローバル版の投入意向を示していたが、iPhone版の方が投入は早くなりそうだ。
もうひとつ気になるのがAndroid対応版だが、「ハードウェアごとに差があり、すべての機種でストレスのない手書き入力が可能になるわけではない。開発は進めているが、製品投入時期は今後の動向をみながら決めたい」とする。現時点では、Android版については、7notes miniとしてではなく、mazecとしての製品投入を予定しているという。
また、7notes for iPadも進化を遂げる。現在は、Ver.2.0となっているが、レスポンスの改良、ユーザーインターフェイスのシンプル化など使い勝手の向上を図ったVer.2.5を6月を目処に投入。さらに、年内にはVer.3.0を投入するという。
一方、企業に導入されたiPadでの手書き入力を支援する「mazec Web Client」を6月中旬からソリューションパートナー会社を対象に出荷する予定だ。「パートナーを通じて提供するWebクライアント型のソリューションビジネスとなるもの。mazec Web Clientを利用することで、営業マンが持ち運ぶiPadでの手書き入力のほか、店舗における接客端末やアンケート入力システムでの利用にも適している」(浮川専務)という。
「このビジネスは一気に広がる可能性がある。初年度に10万クライアントの利用を目指す」と浮川社長は意気込む。7notesファミリーは、急激な勢いで広がりを見せつつある。この勢いを見る限り、7notesおよびmazecと、iPad、iPhoneの組み合わせは、日本に手書き入力の文化を広げる起爆剤になりそうだ。
2011/5/24 18:02