写真: 「Internet Week 2008」で開催されたパネル討論「IPv4アドレス在庫枯渇を乗り越えて」の様子
写真: 「Internet Week 2008」で開催されたパネル討論「IPv4アドレス在庫枯渇を乗り越えて」の様子
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 2008年11月28日,インターネットの技術者・運用者向けのイベント「Internet Week 2008」の最後のセッションとして,「IP Meeting 2008 IPv4アドレス在庫枯渇を乗り越えて」と題したパネル討論が開催された。インターネットで使われているIPv4アドレスは,2010~2011年に在庫がなくなると見られている。パネル討論では,IPv4アドレス枯渇対策の現状と,今後この問題にどのように立ち向かえばいいのかが議論された。

 パネル討論のモデレータは,日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の後藤滋樹理事長。パネリストは,東京大学・大学院情報理工学系研究科教授でIPv4アドレス枯渇対応タスクフォース代表である江崎浩氏,ソフトバンクBBの牧園啓市技術統括ネットワーク本部長,楽天の安武弘晃取締役常務執行役員,日本ケーブルラボの山下良蔵部会担当部長,NTTデータの馬場達也ネットワークソリューションビジネスユニット課長,JPNICの前村昌紀IP事業部長――の6人。インターネット業界におけるさまざまな立場のメンバーが集まった。

 ソフトバンクBBの牧園氏は,通信事業者の立場として意見を述べた。同社では,Yahoo!BBユーザー向けに用意している各種付加サービスの申し込み率を発表。新規契約ユーザーに比べて既存ユーザーは,付加サービスの申し込み率が格段に低いという結果を示した。「そのため,既存ユーザー向けに付加サービスとしてIPv6接続サービスを提供するのは難しい」という見解を示し,「現在は,IPv6接続をデフォルトで組み込んだサービスを検討中」であることを公表した。

 楽天の安武氏は,インターネット上での仮想店舗運営をはじめとする各種サービスを提供する「サービス事業者」として登壇。「現在,仮想店舗を運用する人たちのIPv6の接続ニーズはほとんどない」という現状を述べた。「とはいえ,将来に渡って自社の顧客に安定的にストレス無くサービスを提供する責任がある。IPv4アドレス枯渇が本格的に見えてきたこの今の時期が,IPv6への投資を株主や顧客に説明できるいいタイミングかもしれない」と述べた。

 ケーブルテレビ事業者が扱う機器の調査・研究をする団体である日本ケーブルラボの山下氏は,ケーブルテレビ事業者363社に向けて実施したアンケート調査結果を発表。「事業者の86%がIPv4アドレス枯渇問題を把握していた一方,具体的な対策計画を策定していない事業者が82%に上っていた」という事実を示した。今後は,IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースと連携してIPv6用ネットワークのテスト環境(テストベッド)を構築し,ケーブルテレビ業界全体で枯渇問題に取り組めるようにする方針を示した。

 NTTデータの馬場氏は,システム・インテグレータの立場として検証結果を発表。現時点でIPv4とIPv6を併用したネットワークの構築は可能だが,IPv6対応をうたっていても冗長化機能が対応していなかったり,IPv6パケットをハードウエア処理できないためにパフォーマンスが低下する機器があることを指摘した。また,「最大の問題は,ソフトウエア開発部門に危機意識があまりないこと。今後のシステム開発では,IPv6プログラミングが可能な協力会社との連携なども考慮する必要がある」と述べた。

 以上の発言を踏まえてJPNICの前村氏は,「一つの業界だけではこの問題に立ち向かうことはできない。何にも増して情報共有が大事なとき」と発言して,業界を超えた情報共有の必要性を訴えた。

 これに対してIPアドレス枯渇対策タスクフォース代表の江崎氏は,「IPv4アドレス枯渇対策のトップランナー(成功事例)が出るはず。こうした成功事例をタスクフォースで積極的に収集し,業界を超えて情報共有していきたい」と発言。最後にモデレータの後藤氏は,「今後出てきた成功事例を蓄え,それを海外のコミュニティとも共有すれば,インターネット全体の幸せにつながる。それが望ましい形」と締めくくった。