企業情報システム開発プロジェクトは,プロジェクトマネジメント手法の普及と進化により成功率は上がった。とは言え,いまだにスケジュール遅延,コスト超過,品質不良が起きたり中止に追い込まれる失敗プロジェクトの割合は多い。筆者は,三十数年にわたって40件の危機プロジェクトを立て直してきた。ここでは,その経験から得たプロジェクトの危機発生原因と,出火時にプロジェクト・マネージャが取るべき基本的な対策を紹介していく。
あらゆるフェーズで混入する火種
図1に,筆者が支援した43件の危機プロジェクトのドミナント・アイテム(「危機の支配的要因」という意味の筆者独自の用語)の割合を示す。
プロジェクトには質・量ともに数限りない「火種」が混入する。筆者の経験では,プロジェクトで生じる火事の80%は,20%の火種から起こっている。この20%の火種でかつ大火事(プロジェクト危機)を引き起こす可能性のあるものが,ドミナント・アイテムである。
筆者が支援した危機プロジェクトで,危機を招く火種となったドミナント・アイテムの割合は,プロジェクトマネジメントに関するドミナント・アイテムが最も多く40%,要件定義/システム設計に関するドミナント・アイテムが29%,ステークホルダーに関するドミナント・アイテムが14%,プロジェクト規模に関するドミナント・アイテムが11%,オーナー(発注者)の企業変革に関するドミナント・アイテムが6%だった。プロジェクトマネジメントにかかわるドミナント・アイテムが最も多いわけだ。
では,火種はどの段階で混入するのだろうか。図2に,システム開発プロジェクトのV字開発モデルのどこで火種が混入するかを示した。図を見れば明らかなように,あらゆる段階で火種は混入する。
例えば,プレ・プロジェクト(プロジェクト・マネージャを決めるプロジェクト発足前の工程)ではオーナーのリーダーシップ不足,要件定義/システム設計段階では要件の変動,製造段階ではパッケージ利用や既存システムとの接続などシステムの“ブラックボックス化”によるテスト工数や品質管理工数見積もりの誤り,統合段階ではシステム統合テスト,テスト環境の作成,障害の切り分けなどの作業量見積もりの誤り,保守/運用段階ではエンドユーザー教育の不足といった火種が混入する可能性がある。
筆者の経験では,火事の原因となる火種の3分の1は,プロジェクト発足以前であるプレ・プロジェクト段階で混入している。またプロジェクトが始まった後で,最も危険なのは統合段階である。実際,多くの危機プロジェクトでは,製造したプログラムをシステムとして統合していくスキルを持った要員不足が火種となっている。
このほかの火種としては,要件のふくらみに伴うスケジュールの遅れや,ソフトウエアの構成管理手順などの作業品質不良,環境品質(パラメータ設定やテストケース,テストデータなど)の不良,オーナーの巻き込み不足などがある。これらが重なって,プロジェクトは大火事へと突き進んでいく。各段階で火種が混入していき,ある時一挙に発火するわけだ。このような構造が議論されず,かつトータルな品質管理,スケジュール管理が行われていないため,火種はプロジェクトの誰にも知られることなく潜伏することになる。