1月13日(金)から、アゴラ政経塾「ポピュリズムの時代」がスタートする。あえてタイトルに「時代」とつけたのは、これが一時的な現象ではないことを示すためだ。といっても私がドナルド・トランプの政策に賛成しているわけではない(ほとんど反対だ)。彼のような独裁的な意思決定が、世界に広がる理由があるのだ。
これは企業経営では、1980年代から始まった。それまでは19世紀型のオーナー企業から、所有と経営を分離した「経営者資本主義」に移行するのが必然だといわれた。その手本が、資本家が弱く労使協調の「日本的経営」だった。
アメリカでは大企業の経営者がキャッシュフローを浪費するエージェンシー問題が深刻化し、ファンドが多角化した企業を買収して無駄な部門を売却する公開企業の民営化(privatization)が始まった。企業の民営化という日本語は変だが、これはLBOなどによって上場企業を「非公開企業」にすることで、意思決定が効率的になった。日本でソフトバンクやユニクロなど独裁的なオーナー企業が強いのも同じ理由だ。
そしてアメリカの独裁的経営者トランプが大統領になると、連邦政府を民営化するだろう。これはリベラルなエリートを「中抜き」して、合衆国のオーナーたる国民が独裁者に政治をゆだねる「直接民主制」である。
資本主義で国家は運営できるか
経済学では、こういうしくみはエージェンシー問題の解決策としてよく知られている。企業買収も初期には規模を拡大して多角化するものが多かったが、これはほとんどが失敗に終わった。80年代から多くなったのは、LBOによる事業再構築である。
公開企業もデモクラシーなので、株主は経営者の意思決定にただ乗りする。他方で経営者は、資本効率を無視して規模を拡大する「帝国建設」的な事業拡大に走りやすい。これを防ぐには所有と経営の分離を逆転させ、経営陣が自分の会社を所有することが望ましい。それがMBO(management buyout)だ。
派手に報道される敵対的買収は実際には少なく、有名なファンドKKRの買収も、ほとんどがMBOに資金提供するものだった。MBOで経営者は「独裁者」になり、資金は100%借金になるので、キャッシュフローを浪費すると金利が払えなくなる。これが株式と違う点で、資本はゼロになるまで浪費できるが、借金は返済できないと倒産する。
このように経営者のインセンティブが企業をコントロールする債権者と一致するのがMBOの長所で、経営者は(債権者に命令されなくても)収益率が金利より低いと借金が返せなくなるので、資本効率を上げる。買収ファンドは経営の細かいことを知らなくても、決算を見て赤字部門を売却すればいい。
公開企業の数(Fortune調べ)
このように株主の代わりに買収ファンドがチェックし、経営者がボトムラインだけで評価されるのが非公開企業の長所で、アメリカでは図のように1990年代から公開企業(上場企業)の数は減っている。この期間に企業全体の数は420万社から510万社に増えたので、公開企業の比率は0.17%から0.08%に半減した。
このようにデモクラシーによる意思決定の複雑化やただ乗りの問題を防ぐ方法として、企業の「民営化」は、経済学で30年前から提案されている。それで成功したトランプが、企業買収モデルを国家に持ち込もうとしているのは興味深い。企業買収の総額がGDPの3%程度と世界最低の日本も、こういう資本主義のダイナミズムに学ぶべき点がある。
経済学では、こういうしくみはエージェンシー問題の解決策としてよく知られている。企業買収も初期には規模を拡大して多角化するものが多かったが、これはほとんどが失敗に終わった。80年代から多くなったのは、LBOによる事業再構築である。
公開企業もデモクラシーなので、株主は経営者の意思決定にただ乗りする。他方で経営者は、資本効率を無視して規模を拡大する「帝国建設」的な事業拡大に走りやすい。これを防ぐには所有と経営の分離を逆転させ、経営陣が自分の会社を所有することが望ましい。それがMBO(management buyout)だ。
派手に報道される敵対的買収は実際には少なく、有名なファンドKKRの買収も、ほとんどがMBOに資金提供するものだった。MBOで経営者は「独裁者」になり、資金は100%借金になるので、キャッシュフローを浪費すると金利が払えなくなる。これが株式と違う点で、資本はゼロになるまで浪費できるが、借金は返済できないと倒産する。
このように経営者のインセンティブが企業をコントロールする債権者と一致するのがMBOの長所で、経営者は(債権者に命令されなくても)収益率が金利より低いと借金が返せなくなるので、資本効率を上げる。買収ファンドは経営の細かいことを知らなくても、決算を見て赤字部門を売却すればいい。
公開企業の数(Fortune調べ)
このように株主の代わりに買収ファンドがチェックし、経営者がボトムラインだけで評価されるのが非公開企業の長所で、アメリカでは図のように1990年代から公開企業(上場企業)の数は減っている。この期間に企業全体の数は420万社から510万社に増えたので、公開企業の比率は0.17%から0.08%に半減した。
このようにデモクラシーによる意思決定の複雑化やただ乗りの問題を防ぐ方法として、企業の「民営化」は、経済学で30年前から提案されている。それで成功したトランプが、企業買収モデルを国家に持ち込もうとしているのは興味深い。企業買収の総額がGDPの3%程度と世界最低の日本も、こういう資本主義のダイナミズムに学ぶべき点がある。