JBpressの記事のおまけ。安倍政権の本質は、財政・金融政策で日本経済を自由にコントロールできると考える国家資本主義であり、その司令塔は今井尚哉政策秘書官を中心とする経産省グループだ。これが日本経済の長期停滞の原因である。
投資不足の日本経済で、民間に代わって官が投資し、短期的な採算性に左右されないで長期的な投資をする、という官民ファンドの目的は結構だが、実績は全敗に近い。その原因は、冨山和彦氏のいうように、株式会社は公益を考えてはいけないからだ。これを簡単なゲームでみてみよう(*)。
投資不足の日本経済で、民間に代わって官が投資し、短期的な採算性に左右されないで長期的な投資をする、という官民ファンドの目的は結構だが、実績は全敗に近い。その原因は、冨山和彦氏のいうように、株式会社は公益を考えてはいけないからだ。これを簡単なゲームでみてみよう(*)。
たとえばクール・ジャパン機構が一風堂に100億円投資して、海外進出を支援したとしよう。そのプロジェクトの株主価値をR、債務者の利益をBとすると、成功してRg>100になれば何の問題もない。
問題は、プロジェクトが失敗したときだ。投資はすべてサンクコストになって清算価値が0になるとすると、普通の資本主義だと投資を続けるのは継続価値(Rp-100)が清算価値より大きい、すなわち
Rp≧100
のときに限られ、これを満たさない場合はプロジェクトは清算される。しかし社会的価値や雇用などの公益Bpを加えると、制約条件が
Rp+Bp≧100
となり、予算制約がBpだけ甘くなる。ラーメン屋の価値が70億円になっても、「クール・ジャパン」を売り込む公益が30億円以上あると言い訳できると、税金をつぎ込んで不採算プロジェクトが延命され、税金が浪費されるのだ。
これはソフトな予算制約(SBC)と呼ばれる普遍的な現象で、社会主義国の滅亡した大きな原因だが、事後的にはパレート効率的になることが多い。上の例のように、債務者を救済することが両者の利益になりやすいからだ。
しかし事前のインセンティブを考えると、SBCによって債務者が失敗したプロジェクトにしがみつき、これを切ることができない確率が十分大きいと予想すると、債権者は投資しない。銀行のような集権的金融は、SBCを生み出しやすい。これが日本で投資が低迷している原因だ。
官民ファンドは、この問題を解決するどころか悪化させる。銀行なら融資しない案件も、公益を加えれば投資できる(最終的に失敗する)からだ。日本の中小企業が投資しないで貯蓄しているのも、その継続価値が清算価値より低い(買収して清算したらもうかる)ことを知っているからだろう。
これが経産省の国家資本主義が失敗した根本原因である。それは成功する確率が高い重化学工業などでは成功した(今の中国でも成功している)が、情報産業やサービス業のようなリスクの大きいプロジェクトには適していない。
だから日本経済の病である投資不足を解決するには、「輪転機ぐるぐる」は役に立たない。必要なのは途上国型の集権的金融を卒業して資本市場のような分権的金融に転換することだが、岸信介の末裔には不可能である。
(*)これはBerglof-Rolandのモデルを大幅に単純化したもの。
問題は、プロジェクトが失敗したときだ。投資はすべてサンクコストになって清算価値が0になるとすると、普通の資本主義だと投資を続けるのは継続価値(Rp-100)が清算価値より大きい、すなわち
Rp≧100
のときに限られ、これを満たさない場合はプロジェクトは清算される。しかし社会的価値や雇用などの公益Bpを加えると、制約条件が
Rp+Bp≧100
となり、予算制約がBpだけ甘くなる。ラーメン屋の価値が70億円になっても、「クール・ジャパン」を売り込む公益が30億円以上あると言い訳できると、税金をつぎ込んで不採算プロジェクトが延命され、税金が浪費されるのだ。
これはソフトな予算制約(SBC)と呼ばれる普遍的な現象で、社会主義国の滅亡した大きな原因だが、事後的にはパレート効率的になることが多い。上の例のように、債務者を救済することが両者の利益になりやすいからだ。
しかし事前のインセンティブを考えると、SBCによって債務者が失敗したプロジェクトにしがみつき、これを切ることができない確率が十分大きいと予想すると、債権者は投資しない。銀行のような集権的金融は、SBCを生み出しやすい。これが日本で投資が低迷している原因だ。
官民ファンドは、この問題を解決するどころか悪化させる。銀行なら融資しない案件も、公益を加えれば投資できる(最終的に失敗する)からだ。日本の中小企業が投資しないで貯蓄しているのも、その継続価値が清算価値より低い(買収して清算したらもうかる)ことを知っているからだろう。
これが経産省の国家資本主義が失敗した根本原因である。それは成功する確率が高い重化学工業などでは成功した(今の中国でも成功している)が、情報産業やサービス業のようなリスクの大きいプロジェクトには適していない。
だから日本経済の病である投資不足を解決するには、「輪転機ぐるぐる」は役に立たない。必要なのは途上国型の集権的金融を卒業して資本市場のような分権的金融に転換することだが、岸信介の末裔には不可能である。
(*)これはBerglof-Rolandのモデルを大幅に単純化したもの。