マーク・アンドリーセンのWSJインタビューが話題になっている。日本語版は有料なので、適当に(私見をまじえて)訳しておこう。
HPはPC事業を売却する意向を固めた。グーグルはモトローラを買収したが、この二つの事件は同じことを示している:ソフトウェアが世界を食っているということだ。価値の源泉はソフトウェアにあり、ハードウェア産業は新興国に移ってゆく。この動きにそってすぐれたソフトウェアの開発に特化した企業だけが生き残り、そしてハードウェア企業を飲み込むのだ。我田引水すると、こういう傾向は私が『過剰と破壊の経済学』で述べたことだ。ムーアの法則によって処理・記憶能力が過剰になる時代には、ハードウェアを浪費してソフトウェアで機能を実現することが合理的になる。必要なのは、そこから価値を創造するイノベーションである。
私の投資しているFacebook, Groupon, Skype, Twitter, Zynga, Foursquareなどは、株式市場で過大評価されているといわれるが、逆だ。そのポテンシャルはまだまだ大きく、市場はそれを過小評価している。アップルのPERは15.2で、市場の平均程度でしかない。
株価なんかどうでもいい。重要なのは、ソフトウェアが世界を変えていることだ。MPUの発明から40年たち、ウェブの登場から20年たって、こうした技術がようやく本当の価値を発揮し始めているのだ。こうした汎用技術によって、すべての情報処理はソフトウェアで実現できる。それはムーアの法則のおかげで、かつての数百分の一のコストで可能になった。
アマゾンは本を全面的にソフトウェアに変え、アップルは音楽をソフトウェアに変えた。ビデオはNetflix、ゲームはZyngaがソフトウェア産業に変え、もっとも急成長している通信企業は、ソフトウェアで通信するSkypeだ。伝統的なテレコムは没落し、スマートフォンによる無線通信が急成長している。
ウォルマートもフェデックスも、ソフトウェアで生産性を上げている。最大の広告会社も、今やグーグルだ。金融は昔からソフトウェア産業だが、投資銀行が規制で動きにくくなる一方、SquareやPayPalのようなウェブベースのサービスが成長している。伝統的な企業がソフトウェアで生産性を上げる一方、ソフトウェアだけで動く新しいタイプの企業がそれに挑戦している。
これは3つのチャレンジを生むだろう。第一は、企業の世代交代だ。ソフトウェア革命に適応できない企業は、情報産業のみならず多くの産業で退場するだろう。
第二は、労働や教育が大きく変わることだ。これから先進国では、コーディングができるかできないかで収入は桁違いに変わる。ソフトウェアの使えない労働者は、新興国の単純労働者と競争するしかない。教育も、つまらない教養科目を教えるより、早い時期からプログラミングを教えたほうがいい。
最後に、ソフトウェアの価値を実現する必要がある。すでにグーグルやフェイスブックは収益を実現したが、他のソフトウェア企業が資本主義の世界で既存の企業をしのぐ存在になるかどうかは今後の問題だ。そういうビジネスモデルを開発した者が次の時代の勝者になるだろう。