「放射能で死ぬ」の類の話はすべてデマなので無視してもいいが、「東京にもマグニチュード9の地震が来る」というデマがFTで流されているので、簡単に訂正しておく。

この記事のようにプレート境界型直下型を混同する人が多いが、両者はメカニズムのまったく違う地震である。今回の地震も関東大震災も前者だが、これはエネルギーが大きい代わりにめったに起こらない。1923年の関東地震(M7.9)は相模トラフを震源とするプレート境界型の南関東地震で、これと同じタイプは1703年の元禄地震しかなく、ほぼ200年周期と考えられている。したがって次の南関東地震は22世紀初頭、早くても今世紀末だろう。

東京で恐いのは、直下型である。これは平均23年ごとに起こっており、1987年以来、起こっていないので、2010年以降はいつ起こっても不思議ではない。直下型のエネルギーはM7前後と小さいが、阪神大震災のように震源が浅いと被害は大きくなる。これについてはくわしくわかっており、被害想定も出ている。

1988年に国土庁が出した被害想定では首都圏で15万人が死ぬという結果が出て「部外秘」になったが、池上彰さんと私で国土庁を説得して、記者発表と同時にNHK特集「シミュレーション東京大地震」を放送した(これは番組の半分以上が3次元CGで作られた日本初の大型番組)。このシミュレーションでも、関東大震災と同じように死者のほとんどは火災だった。

しかしその後、耐火建物が増え、阪神大震災でも倒壊による死者のほうが多かったことなどを踏まえて被害想定は修正され、2005年の中央防災会議のシミュレーションでは、M7.3の場合で死者11000人、建物の倒壊が85万棟となっている。ほぼ阪神大震災と同じような地震が東京で起こると想像すればいい。

もちろんこれでも大災害だが、地震のエネルギーは今回の数百分の一なので、関東大震災のように14万人が死ぬ大惨事にはならない。防災というのは地味なテーマで、ふだんは真剣に考えないので、今のように危機感のあるときに東京の防災対策を強化したほうがいい。