ただし、最初に言っておきますが、Webの話じゃないのであしからず。
ユーザーインターフェイスのサイズと情報の構造化
情報設計を行う際には、情報をその内容に応じて、階層構造化します。この情報の構造化が意味をもつのは「生きていることの科学/郡司ペギオ-幸夫」でも書いたように、情報量(コンテンツ量/機能の種類など)とユーザーインターフェイスの物理的なサイズとの関係から「部分情報問題」が起こりえるからです。
このように問題を定義するならば、これからのインタフェースは「部分情報問題」になるといわざるをえない。なぜならば、インタフェースにかかわる情報はより複雑化して増大する傾向にあり、ユーザーがこれらの多くの知識を個々の機械に対して把握することは容易ではないからである。また、それをユーザーに強要することも不可能であり、それを期待するような設計を、もはや行うべきではない。土屋雅人「6章 インタフェースデザイン」
『デザインと感性』
すべての情報を画面上あるいはハードの物理的なボタンとして明示できるのであれば、完全情報問題であり、可視化された情報からどう必要なものを探し当てられるかというだけの問題です。
しかし、画面サイズやハード自体の大きさの問題から、すべての情報を明示できない場合には、適切な形で情報の階層構造化を行い、情報探索の作業をドリルダウンのような形で行えるよう設計する必要が出てきます。
「iPhone/iPod touchと自転車のデザインの違い」で書いたように、携帯電話やiPhone/iPod touch、カーナビをはじめ、液晶画面を搭載した多くの製品は、搭載されたさまざまな機能を使う操作がすべて記号化されています。その場合、この記号化された操作の文脈そのものを適切な情報設計によりユーザーに理解してもらうことが必要になってきます。
そのため、情報の階層構造化が適切に-つまり、ユーザーに理解できるように-行われていないと、一部の情報しか明示されていない状態でユーザーが自分の必要とする情報を見つけるという情報探索の作業が著しく困難になることがあります。
ですので、この構造化の問題はナビゲーションシステムの設計とも密接な関係にあるわけです。
ナビゲーションシステムと情報の構造化
以前、Webサイトにおける階層構造化とナビゲーションの関係については、「Webサイトのツリー構造とコンテンツのメタ情報、そして、ナビゲーション」というエントリーで紹介していますので、詳しくはそちらを参照していただくとして、ここでは簡潔にナビゲーションシステムと情報の構造化の関係について考えてみたいと思います。先にも書いたように、情報(コンテンツ/機能)をきちんと内容別にカテゴライズして、ナビゲーション・機能メニューをつくるということが、よくわかっていないと適切なユーザビリティを確保できない場合があります。
- グローバルメニューに何をどのような順番で置くか。各カテゴリーのローカルメニューには何を含み、どのようにそれを配置するのか。
- コンテキストメニューは使うのか、使う場合にはどうやってそれがコンテキストによって表示される内容が異なるコンテキストメニューであることをユーザーに認識させるのか。
- デフォルト(初期画面)に戻る以外に、あらゆる画面からアクセス可能な機能はあるのか。その際にリモートナビゲーションを使えるようにするのか。それはどのようにして利用できるのか。
こうしたナビゲーションのデザインも、ユーザーの利用行動やそれが行われるユーザーの心理的世界の構造をきちんと反映した形で、情報の組織化・構造化を行ったうえでなければ、適切な(つまり使える)ナビゲーションシステムを設計することはむずかしいでしょう。
それはナビゲーションのしくみとしてのユーザーインターフェイスに、ハードボタンを使う場合でもモニター内のアイコンを用いる場合でもおなじことです。
アイコン、ラベリング
また、適切な階層構造化が行った場合でも、それぞれの情報分類内容を示すラベルやアイコンがユーザーの正確な認知につながらない場合は、おなじくナビゲーションとしての機能が効果をなさずユーザーの情報探索作業に支障がでます。ただし、どのようなラベルが適切かを決めるのはなかなかむずかしい問題ですし、限られた画面サイズやハードのサイズを考えると説明的な長い言葉を使うこともできません。
情報構造化をどのように行うかを考えるためのユーザー中心設計の手法として、カードソート法というのがありますが、この手法を使ってラベルやアイコンをどうするかを考えることもできるでしょう。
カードソート法のオープンソート法を使って、まず実際のユーザーに情報を分類したあと、なぜそのように分類したかを聞いたり、その分類に名前をつけるとするとどうなるかを聞くことでラベル名のヒントが得られることもあるからです。
また、ラベルやアイコンをデザインする際には、再認や再生なども考慮すべき重要な要素です。
一度使ったアイコンまたはラベルのなかにどんなものが含まれているかわかるか。一度使ったある機能を使いたいときにそれがどのカテゴリーに含まれていたかをすぐに思い出せるか。ということがあるからです。
ユーザーの世界にあわせる
大事なことは、ユーザーが実際に生きている意味世界に、情報構造やラベルやアイコンの形をどれだけ合わせられるかということでしょう。そのためには、まずユーザーの認知構造やユーザーの生きている世界の文化それにともなうユーザーの行動を理解しておく必要もあります。ユーザー調査を行ったあと、「ユーザー行動を構造的に分析するための5つのワークモデル」で紹介したワークモデルを使ってユーザー行動を分析することが、適切な情報誠意を行うための第1歩となるのではないかと思います。
ピーター・モービルが『アンビエント・ファインダビリティ』のなかでこんなことを言っています。
ファインダビリティは、そのようなプル型の情報検索だけに関わるものではない。それは情報やモノの方がどうやってユーザーを見つけるのかにも関わってくる。
そうなんですよね。ユーザーに探してもらうだけでなく、情報やモノのほうからもユーザーの行動の文脈を読み取りつつ、ユーザーの探しているものを見つけてあげることもこれからは必要になってくるのだと思います。
それには、やはりまず何よりもユーザーの生活のなかの行動そのものを把握すること、そのためにはどのような作業がデザインを行ううえで必要になるのかをもっと考えていく必要があるのではないかと思っています。
製品のデザインにこそ、きちんとした情報設計が必要
そこでさっき書いた「「とりあえず感覚」のデザイン」での<生活行動を記録し生活をリデザインする>という話ともつながってきます。ユーザーの認知的世界の情報構造と、外部にデザインする情報の構造をどうリンクできるかは、ユーザーの生活そのものの理解にかかっていると思うのです。もはや「とりあえず」デザインするという感覚では、使えるものをつくることはむずかしいでしょう。
使う側も「とりあえず」のものにはとっくに幻滅しているでしょうし。
記号化された操作を強いる製品は今後もますます多くなってくるでしょうから、むしろこれからはWebのデザイン以上に、製品のデザインにおいてこそ、情報設計ということをきちんと考えていかなくてはいけないのだろうと思います。
関連エントリー
- Webサイトのツリー構造とコンテンツのメタ情報、そして、ナビゲーション
- 生きていることの科学/郡司ペギオ-幸夫
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- デザインと感性/井上勝雄 編著
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