あまり馴染みのない地名だとは思いますが、最近ですと、2010年に開館したパリのポンピドゥー・センターの分館にあたるポンピドゥー・センター・メス(Centre Pompidou Metz)の設計を坂茂さんが手掛けたことで「メス」という街の名前を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
メス駅
ルクセンブルクからはTERに乗って、上の歴史を感じさせるメス駅に降り立ちました。
メスの場所は地図でいうと以下の位置になります。
大きな地図で見る
ルクセンブルクとは距離にして55km、TERに乗った時間でいえば約40分くらいの位置にあり、逆にパリからは320km離れた場所にあるのがメスという都市です。
メス(Metz)の街
メスという街は、中世にはヨーロッパ経済の中心地として栄えた都市だそうです。1552年にフランス王アンリ2世が占領、1648年に正式にフランス領になった土地ですが、その後、普仏戦争でナポレオン3世の敗北によってプロイセン領になるなど、何度かフランスとドイツのあいだを行き来しています。
そのせいもあって街はフランス的なところとドイツ的なところが混合した状態で、話に聞くところでは、老人などはドイツ語も話せる方が多い土地なのだそうです。
ページの最初に紹介したメスの駅の建物も、第二次大戦前のドイツ占領時代に作られた建物で、それゆえゲルマン的な荘厳なつくりとなっています。
メスの街の風景(メス駅付近)
ロレーヌ地域圏の首府でもあり、東西ではパリ-メス-ストラスブール-ザールブリュッケン-ドイツの大都市圏をつなぐ軸であり、南北ではブリュッセル-ルクセンブルク-メス-ナンシーを通過する軸でもあるため、街も多くの人の賑わいがありました。
メスの街の風景(中心部)
時間のあるかぎり、街を歩いてみると、街の中心部に向かう途中、サン・マルタン教会という小さな教会を見つけて入ってみました。
サン・マルタン教会
この甘いはちみつのような独特な色の壁面、メスの街の建物ではよく見かけました。
このあと紹介するサン・テティエンヌ大聖堂も同じ色の石でつくられていました。
サン・テティエンヌ大聖堂
メスの中心部にそびえるゴシック建築の大聖堂がサン・テティエンヌ大聖堂です。サン・テティエンヌ大聖堂
実は、このサン・テティエンヌ大聖堂もたまたま歩いて見つけたのですが、このサン・テティエンヌ大聖堂は世界で最も背の高い中世建築のひとつ、身廊(入口から主祭壇に向かう中央通路のうちの翼廊に至るまでの部分)の高さは42メートルもあるそうです。そんな高さもあってす写真におさまりきれません。
建設には1220年~1520年までの300年間を費やしたとされ、壁面の独特なはちみつのような色をした壁面は、先にも書いたように、メスのほかの多くの建築物に見られますが、これはジョーモン石を使ったものだそうです。
圧巻だったのは聖堂内部の総面積6500㎡に及ぶといわれるステンドグラスでした。
13~20世紀までの長きに渡って、多くの巨匠によって徐々に形作られてきたもので、ランスのノートルダムと同様にシャガールが手がけたステンドグラスもありました。
身廊部分が高いので他のカテドラルより内部が開けてみえ、その分、ステンドグラスの存在感も増していました。
パリやランスのノートルダムとはまた雰囲気の違う巨大なカテドラルでした。
ポンピドゥー・センター・メス(Centre Pompidou Metz)
そして、駆け足のメス訪問で、最後に訪れたのが坂茂さん設計のポンピドゥー・センター・メス(Centre Pompidou Metz)です。サン・テティエンヌ大聖堂などがあるメスの街の中心部とは駅をはさんで反対側にあります。
ポンピドゥー・センター・メス(Centre Pompidou Metz)
写真でご覧のとおり、木組みによって白い曲面を描いた屋根が印象的な美術館です。
ポンピドゥー・センター・メスの入口付近
僕が行ったときはちょうど、ソル・ルウィット(Sol LeWitt)の回顧展"Sol LeWitt. Dessins muraux de 1968 à 2007"が開催されていました。
ソル・ルウィット展の展示風景
ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの作家として知られるソル・ルウィットの作品が上の写真のような形で壁に描き直される形で展示されていました。
たまたまやっていたので観たのですが、なかなか面白い展示でした。
展示室の外の踊り場のような空間にでてみると、こんな幻想的な空間も広がっていました。
格子状になった木の梁が、下の鏡状の床に映って幻想的
格子状になった木の梁が、下の鏡状の床に映っているのですが、こうした幻想的な空間がつくれるのも下の配置図にもみられるように、フロアごと展示室の空間が45度ずつ回転させた形で重なっているからで、その45度のズレを上の階から下の展示室の天井部を覗き込むような形でみることができ、そこに鏡状の素材を敷き詰めてあるからこそ、こうした幻想空間が生まれているのです。
ポンピドゥー・センター・メスの配置図(「TOTO COM-ET:淵上正幸のアーキテクト訪問記:坂茂氏を旅する」より)
こうした空間の視覚的遊びはほかのところにもみられ、展示室の短辺にあたる両端は大きな開口部(窓)となっているのですが、これも各フロア45度ずつふられているので、階によって見える景色が異なります。
ソル・ルウィットの回顧展は2階と3階のフロアで開催されていたのですが、上のフロアの窓からは、下の写真のように先に訪れたサン・テティエンヌ大聖堂など、メスの街が遠くに見えて、ある意味、展示されている作品以上に魅せられてしまいました。
遠くにサン・テティエンヌ大聖堂など、メスの街がみえます
今回、駆け足で回ってしまったので、あまり見て回ることができませんでしたが、帰ってきて調べてみると、ほかにも面白い場所がたくさんありそうなのがメスという街だとわかりました。
もしもう一度訪れる機会があれば、今度はもうすこし時間をかけてゆっくりと街を楽しみたいなと思いました。
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