ヒトが認識する距離感

昨日、三連休に熊野に行ってきた話を書きましたが、今回、旅行に行って感じたのは、人間の距離感覚ってテキトーなんだなっていうことです。

時間で距離感を計る傾向

まず下の地図を見てください。



今回、東京から名古屋を経て、緑の矢印部分の熊野まで行ったんですが、東京から名古屋までは新幹線で1時間40分ほどなのに対して、名古屋~熊野間は行きは3時間、帰りにいたっては4時間かかりました。東京~名古屋はそれほど遠く感じませんでしたが、その先の熊野までは異常に遠く感じました。
地図でみればわかるとおり、実際の距離は東京~名古屋間のほうが、名古屋~熊野間より長いわけです。
それだけでなく、新宮から熊野本宮までがまた2時間もかかる。東京から名古屋までより遠いわけです。

でもって、今日は出張で静岡県の磐田まで行ってきたんですが、これまた名古屋までより近いはずなのに、移動時間は2時間半。とにかく人間って実際の距離よりどれだけ時間がかかったかで距離感を感じるようです。

これってWebサイトに感じる距離感でも同じじゃないでしょうか?
頻繁に更新情報をRSSで伝えてくれるWebのほうが、めったに情報更新がされないものよりはるかに親密に感じたりすることってありますよね。Webまでの距離なんて実際は検索すればすぐにたどり着けるわけだから本来距離感は同じはずなのに、更新頻度が高いと身近に感じられるっていうのは、人間のもつ元々の距離感覚というのに関係しているんじゃないのかな?って思います。

これはWebブランディングなんてことを考える際にも重要なことですよね。より親近感、身近さを感じてもらうことがブランド価値を高めることにつながることは多いと思いますから。

人との距離感

これって人との距離感でも似たようなことがあると思います。話が早い人となかなか話が通じない人では、どちらに親近感を感じやすいかといえば、やっぱり前者のほうだと思います。
Webサイトの話と同じで、こまめに連絡してくれる人のほうが身近に感じられたり、どんなに近くにいる同僚よりも、話があうただのブログつながりの人のほうが近くに感じられたり。

そう考えると、言葉や交通手段などの人間が生み出したツールって、ヒトが本来持っていた距離感覚に微妙なズレを生み出すものなのかもしれません。「私的インフォメーション・アーキテクチャ考:番外編:サバンナに合うように設計されたヒトの意識」では、ヒトの認知をつかさどる脳のデザインが大昔のサバンナに適応するよう設計されたまま、あまり進化していないことに触れましたが、こういう距離感覚1つとってみても、本当にそうなんだろうなと感じます。

ヒトの進化、人間の進歩

ヒトはいろんなツールを生み出して進歩したつもりなのかもしれませんが、実際は単に異なる環境とそれに適応した異なる暮らしを生み出しているだけなのかもしれません。

実際、今回、熊野を訪れて感じたこともそのことでした。
記紀の時代より前の時代からの歴史をもつ(実際は記紀に歴史と描かれているので、これはちょっと日本語としてはヘンですね)熊野という土地には、その記紀の時代より前の感覚、それから平安時代から上皇らが熊野詣でを行った時代の感覚、江戸時代のお伊勢参りと時を同じくした民衆の熊野詣での時代の感覚、そして、もちろん、現在の熊野の感覚が、景色の上でレイヤーを成して残っています。
しかし、そこで感じる感覚としての景色は決して古い時代から現在への進歩のレイヤーとしてではなく、単に異なる時代環境とそれぞれに適応した暮らしの形を単に違うものとして積み上げているように感じられました。ちょうどリチャード・ドーキンスが進化を「それは決して未完成なのではない。あるいは別の意味ではつねに未完成なのである。そして、おそらく私たちもまた未完成なのである」と捉えるような見方に似ているのかもしれません。

ヒトという種は言葉も持たずにサバンナで暮らしていた当時からやはりそれほど進化していないのでしょう。その名残が距離感の捉え方などにも現れているのであって、ヒトはそのズレの中でサバンナを生きるのと同様に、都会の中で、そして、ネットの中で暮らしているのでしょう。
ブランディングや、ユーザビリティやIAなどのWebデザインの問題なども、そうしたヒトの認知の歴史的な考察も含めた上で行っていく必要があるのでしょう

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