「社会を変える」――。そんな言葉を聞いたとき、あなたは何を思うだろうか。意識が高いと揶揄することもあれば、リベラルな主義主張を連想し、そっと距離を置くこともあるかもしれない。
しかし、先の参議院選挙では国の根幹をなす憲法の改正やアベノミクスの是非を問われ、一方では「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログが話題になって国会で取り上げられるなど、私たち一人ひとりの生活に関わる、過去に例を見ない社会問題の数々が急速に持ち上がってきているのは確かだ。
私たちはいま、「社会を変える」岐路に立たされている。そして、それはもはや他人ごとで済まされるものではなくなっている——そう考えるのが自然なほどに、社会が変化してきているのではないだろうか。
今回、ブロガー議員として舛添元都知事を追及した都議会議員のおときた駿さんと、長年待機児童問題に取り組むNPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが登壇した7月20日のイベント「結局、社会って変えられるんですか」から、一人ひとりが「社会を変える」ためには何が必要なのか、追求していく。
おときたさんは『ギャル男でもわかる政治の話』を、駒崎さんは『社会をちょっと変えてみた――ふつうの人が政治を動かした七つの物語』をそれぞれ近作として発表しており、書籍中でも身近な社会変革を提唱する二人の話からは、私たち一人ひとりの行動によっていかに社会を変えうるか、多くのヒントが見えてくる。
目の前の問題だけではなく、構造にも対峙する必要性
望月:それでは、さっそく始めたいと思います。僕は司会の望月優大です。スマートニュースというニュースアプリの会社でNPO支援をしていて、そのご縁で司会を担当することになりました。
今回は「結局社会って変えられるんですか?」がテーマです。登壇者は政治家のおときた駿さんとNPO代表者の駒崎弘樹さん、まずはお二人にとって「社会を変える」というのはどういうことなのか、おときたさんから説明していただけますか?
おときた:僕は政治家なので、「社会を変える」というのは制度や条例を作ること、わかりやすく言えばルールを変えることですね。
とはいえもちろん、このような正面からのアプローチだけじゃなくて、世論を巻き込んだり現場の後押しを受けたりしながら「流れを変えていく」ことも、政治家の使命ではないかと思います。
望月:駒崎さんはどうでしょう。たぶん、おときたさんとはちょっと違う視点なのかな、と。
駒崎:そうですね。僕の場合は、基本的には目の前に困っている人がいて、その人たちに何ができるかを考えます。そのためにNPOを起業して、サービスを立ち上げて、その人たちを実際に助けていく仕事です。ただし、目の前の困っている人を助けるだけではダメで……。
望月:なぜでしょうか?
駒崎:「溺れる赤ん坊のメタファー」という寓話があります。
まず、旅人が歩いていると川に突き当たります。するとそこには溺れている赤ん坊がいる。旅人はビックリして、服を脱いで飛び込んで、その赤ん坊を助ける。で、岸に連れていって、ひと安心してふと川を見ると、また赤ん坊が溺れている。旅人は「これは大変だ」と言って、また助けに飛び込む。
旅人はそれを繰り返すのですが、その旅人には上流で赤ん坊を川に投げ捨て続けている男の姿が見えていないんですね。
これが何を表しているのか。
まず、目の前で困っている人を助けるというのは非常に大事です。しかし一方で、その困っている人を生み出す構造が存在している。それに気づかないままだと、本当に問題を解決したことにはならない、ということですね。
構造というのは、例えば社会保障の法律だったり、あるいは不十分な財源であったりする。困っている人をなくしたいんだったら、その構造も変えていかなきゃいけないんですよね。
おときた:目の前の赤ん坊を助けながらも、上流で赤ん坊を投げ捨てている男を何とかしなきゃいけない。
駒崎:この両方ができないと、「世の中を変える」というのはなかなか難しいでしょうね。僕が事業をやりながら草の根的にロビイングもやっているのは、上流で赤ん坊を投げ捨てている男を何とかするためです。事業は溺れる赤ん坊のため、そしてロビイングは上流の男を止めるためですね。
望月:最近はどちらの比率が大きいですか?
駒崎:上流が増えています。当初は事業家としてスタートしましたが、途中からやっぱり構造を変えなきゃと思うようになって。
望月:なるほど。こうして整理してみると、おときたさんはルールを変える立場から問題解決に向き合い、駒崎さんは現場で直接問題解決に取り組みつつ、構造そのものにも働きかけているという印象です。このあたりは、やはり人によってアプローチが違いそうですね。
「社会を変える」きっかけは何だっていい
望月:おときたさんはなぜ、他でもない政治家の道を若くして選ばれたのですか?
おときた:僕が政治家になろうと思ったきっかけは、女の子にモテたかったからです。
駒崎:今日は高校生にもたくさん来てもらっているので、いいですよね。どうしようもない出発点でも政治家になれる、というのは(笑)。
おときた:はい(笑)。僕は男子校出身なんですけど、男子校出身者っていうのは、こじらせてしまうわけです。ギターに手を出すとか、いろいろやってみたのですがうまく行かず、僕がモテないのはどうも社会が悪いんじゃないかと思うようになった(笑)。その社会を変えるには、政治家になるというのがわかりやすかったんですね。
僕は、社会を変えるきっかけなんて何だっていいと思っています。だいたい、こういうときにフィーチャーされるのって、例えば母子家庭で育ったとか、起業したけど倒産したとか、そういうストーリーじゃないですか。でも本当に大事なのって、実際に何かを変えたというアウトプットのはず。特別な人間じゃないといけない、なんてことはないはずです。
望月:でも、ブログで情報発信を継続なさっているのは、やっぱり並大抵のことではないですよね。ブログを始めてどれくらいになりますか?
おときた:もう10年以上ですね、大学生の頃からなので。
駒崎:おときたさんがすごいのは、これまでの政治家像を打破したことですよね。本来、地方議員って野党が弱いはずなのに、ネットというツールを上手く使って情報を発信することによって、議会じゃない場所で影響力を持ち、その影響力を議会に逆輸入して事態を打破するという、新しい勝ちパターンを見出した。
おときた:それは理由があって。みなさん「政治家は人の話なんて聞かない」とか思っているでしょうけど、むしろすごく聞くんですよ。でも、それは票になる話限定で。票になるなら飛んで来るのが政治家なんです。だから票になるということを示せばいい。
最近は「保育園落ちた日本死ね」(匿名の母親による記事が大きな話題になった)に代表されるように、ネットの声はリアルでも無視できなくなっています。それを利用すれば、政治家を動かすことができるので、ネットの風向きを読むのは、これからの政治家にとって大事なスキルかもしれないですね。
駒崎:「保育園落ちた日本死ね」から始まった動きによって、最終的には保育士の給与が2%アップ、ベテランは4万円アップする制度に変わりましたよね。あれ、話題になったのが2月で、緊急対策が発表されたのが4月なんですよ。僕らが審議会で3年ぐらい訴え続けてきたことが、あの記事のおかげでたった2ヵ月でまとまった。
おときた:変えられないように見えるルールでも、本気で変えようとすれば変えられる、ということですよね。
駒崎:はい、基本的に財源はあって、問題なのは優先順位なんですよ。やっぱり国民が怒らないと、政治家が本気になりません。昔はその「怒り」の役割を新聞やテレビが担っていたけれども、最近は個人がインターネットで発するようになってきた。これは時代の後押しですよね。
望月:お二人とも、活動の中でネットを非常に有効に活用している印象があります。マンメディア化、個人がメディアになっていく時代には、ネットの優位性を活用した手法が重要になりそうです。